江戸幕府が開かれ、多摩の木は江戸の街づくりにも使われた

その昔は自然林が広がっていたという多摩の森だが、今はそのほとんどがスギの木で覆われているその昔は自然林が広がっていたという多摩の森だが、今はそのほとんどがスギの木で覆われている

東京都の多摩地域西部で産出される地域材「多摩産材」をフォーカスしたレポート記事の後編である。後編では、多摩産材を育む、多摩の林業を中心にレポートしたい。ちなみに多摩地域西部にはあきる野市、青梅市、八王子市、奥多摩町、日の出町、檜原村の6市町村がある。

「多摩の森でとれる木材はほとんどがスギとヒノキで、その約7割がスギの木です」と、一般社団法人TOKYO WOOD普及協会事務局の高井毅さんは話す。

現在はスギの木が大半を占めている多摩の森なのだが、はるか昔はナラやカシなどの広葉樹と、アカマツやモミなどの針葉樹で構成された自然林が広がっていたという。そんな森の姿が変わったのは、江戸時代。徳川家康が1603年(慶長8年)に江戸に幕府を開いて以降、江戸は急速に都市として発展していった。江戸城をはじめ、大名の屋敷、武家屋敷などの建設が相次ぎ、それに伴い、木材の需要が急激に増えていった。こうした木材の需要は、江戸時代初期にとどまらず、その後も江戸の市街地づくりと、幾度も起きた大火による再建築で途絶えることはなかったという。

このような江戸の大量の木材需要に対し、供給源となったのは関東や東海地方などの山林で、多摩地域の自然林の木も利用された。そうして自然林の木が大量伐採され、使い尽くされたのち、建築材としてスギの植林が始まったのだった。


戦後の復興で木材需要が急増し、スギやヒノキの植林が行なわれた

こうして江戸時代に始まった、多摩地域西部の林業。時代を経て、木材の需要が急激に増えたのは、第2次世界大戦後のこと。戦後の復興で大量の木材が必要になったが、戦時中に軍需用資材などで乱伐されて森が荒廃していたため、供給が十分に追いつかなかったという。そのため政府がすすめたのは拡大造林政策。そうして、1960年から1970年代にかけて、スギ、ヒノキがどんどん植林されたのだった。こうした拡大造林は、東京の多摩地域の森に限った話ではなく、全国の森林でも同じような状況にあった。

ここで全国の林業に視点を移してみる。日本全国でスギ、ヒノキの拡大造林が進められていた時期とほぼ同じころ、木材の需要の一端を賄う目的などで始まったのが木材輸入の自由化だった。外国産の木材は国産材に比べて価格が安く、安定的に大量供給できたのでニーズが高まり、外国産木材の輸入は増えていった。前編のレポート記事冒頭でも記述したように、1960年には国産材の木材自給率は86.7%だったのだが、2000年には自給率は18.2%まで落ち込んでしまう。2013年に28.6%までに木材自給率はのびてはきているが、まだまだ外国産木材の比率が圧倒的に高い。

外国産木材の使用が増え、なにより深刻な打撃を受けたのは林業を営む人たちだった。価格の安い外国産木材に影響を受けて国産材の価格も下がってしまい、拡大造林政策でスギやヒノキを大量に植えたにもかかわらず、林業経営が立ちいかなくなってしまったという。その結果、林業の生産活動は停滞し、働く人たちの数も激減してしまった。総務省の国勢調査では、1960年の林業従事者は約26万人だったのが、2010年には約5万人と激減している。

東京都のスギ花粉症発生源対策事業でスギの伐採が進行中

このように日本の林業はきびしい道のりをたどってきている。東京の多摩地域西部の林業も例外ではない。東京都で行なわれた造林事業は1960年に年間でおよそ1500ヘクタールの規模だったが、2003年には6ヘクタールにまで減少と、林業の生産活動は停滞してしまった。都内の林業従事者も1960年には2000人を超えていたのが2005年に205人まで減ってしまった。その後造林面積は2012年に73ヘクタールに、林業従事者は2010年に380人に増えてはいるが、かつての数字には及ばない。

つまり、木をたくさん植えたのに手入れをする林業家がいなくなってしまったのだ。スギやヒノキなどは植えてから50年以上たたないと、家を建てるのに使えるような木には育たない。育つまでには、下草刈りや間伐(※1)といった手入れが必要になるのだが、そうした手入れがされず、放置された森が増えてしまっているのが東京の森、ひいては多摩の森の現実なのである。また、林齢をみても、植えてから41年以上の高齢の木が約9割を占める一方で、20年以下の若い木は1割にも満たないという偏りがあり、木を植える、手入れをしながら育てる、伐採するというサイクルがうまくいっていないことがわかる。

そうなると、さまざまな問題が起きてくる。まず、自然災害が起こりやすくなることが挙げられる。幹から伸びた枝を刈ることもなく放置しておくと、木々が密集してきて、地面に日光が当たらなくなる。下草が生えず、むきだしになった土は雨水と一緒に流されやすくなり、土砂崩れがおこりやすくなる。そして、環境保全の問題がある。森には空気中の二酸化炭素を吸収する働きがあるのだが、高齢の木の多い森は二酸化炭素吸収能力が低下するのだという。そして、多摩の森の場合、前述のように約7割がスギの木であることから引き起こされたのが、スギ花粉飛散量の増大である。スギは植えてから30年以上たつと多くの花粉を発生するといわれ、スギ花粉症に悩む人が増え、社会問題にもなっている。

そうしたなかで東京都が取り組んでいるのがスギ花粉発生源対策事業。新聞などでも盛んに報道されているので、ご存知の読者の方も少なくないかもしれない。2006年から10年間の計画で多摩地域の森からのスギ花粉の飛散を削減するためにスギの伐採と、花粉の少ないスギなどへの植え替えを進めている。

東京都のスギ花粉発生源対策事業の主伐現場(東京都青梅市)
ⒸSMALL WOOD TOKYO
東京都のスギ花粉発生源対策事業の主伐現場(東京都青梅市) ⒸSMALL WOOD TOKYO

農産物や水産物のように、木材の地産地消を!

木材の地産地消で、輸送距離のウッドマイレージの負担を抑えることも可能に木材の地産地消で、輸送距離のウッドマイレージの負担を抑えることも可能に

スギ花粉発生源対策事業により、収穫期を迎えながらも人手などの問題で伐採されずにいたスギの木が伐採され、新しいスギが植えられた。これは大きな成果だろう。多摩産材の供給量も増加している。この事業によって伐採された多摩産材は、2007年には7116立方メートルだったのが、事業開始7年目の2012年には1万2992立方メートルが原木市場(多摩木材センター)に出荷された。しかし、新しく植えたスギが住宅の建材になるよう、約50年かけて育てていくことが肝心で、その担い手はまだまだ不足している。

「多摩地域で林業に従事する人の大半が50歳以上と高齢化しています。どうしたら若い人たちにもっと林業に興味をもってもらえるか、考えていく必要があると思います。そんななかで私どもができることは、地元の木をたくさん使うことです。林業は木を植えて育て、そこから収入を得るという仕事です。育った木が木材として多く使用されれば、林業経営を支えることにつながります。それはつまり、林業という東京・多摩地域西部の地場産業を守ることでもあるんです」(高井さん)

林業で働く人が増えれば、森林に適切な手入れがされ、環境保全にとっても重要な意義があるだろう。多くの人を悩ませる花粉の量も少なくなるかもしれない。

そのほか、木材の地産地消を実践することで着目したいのは、ウッドマイレージを少なくすることができるということ。
「ウッドマイレージとは、木材の産地と消費地までの輸送にかかるエネルギーを二酸化炭素の量で表した数値です。輸送距離が短ければ短いほど、輸送に伴って排出される二酸化炭素の量が少なくなるので、東京に住む方が地元である多摩産材を使うことは、地球環境を守ることになります」(高井さん)

地元の木材で家を建てると、補助金などを受けられる制度がある

TOKYO WOOD普及協会事務局のある小嶋工務店本社のショールーム。多摩産材のよさをアピールするスペースでもあるTOKYO WOOD普及協会事務局のある小嶋工務店本社のショールーム。多摩産材のよさをアピールするスペースでもある

木材の地産地消がどういう意義をもつことなのか、具体的にわかってきたところで、このレポート記事の最後は、地元の木を使って家の新築・改築をする人を対象にした補助金などの制度があることをお伝えして締めくくりたい。

まず自治体が行なう制度がある。自治体により要件が異なるが、補助金や助成金の支給や、金融機関による住宅ローンの金利優遇などの制度がある。また、国土交通省の「地域型住宅ブランド化事業」に採択されたグループに参加する工務店や設計事務所などに依頼するのも一案。地域材を活用し、規定のルールにもとづいて木造の長期優良住宅を建てる場合、国から補助金として住宅1棟あたり最大100万円が助成される(※2)。

多摩産材のケースでは、東京都檜原村に地場産材利用促進事業がある。村内で生産された木材を使用して住宅の新築、増築、改築を行なう人を対象にした制度で、木材の使用量など要件を満たせば最大50万円まで補助金が交付される。

東京都産業労働局と都市整備局に事務局を置く任意団体「東京の木・いえづくり協議会」にも、都民など消費者への優遇制度がある。協議会会員の工務店や製材所などが建築に関わり、住宅建設に使用する木材の50%以上を多摩産材とするという条件にあえば、住宅ローンの金利について、指定の実施金融機関(7つ)で金利の優遇を受けることができる。
ちなみにTOKYO WOOD普及協会は、多摩産材を使った家づくりに取り組むグループとして、「地域型住宅ブランド化事業」に採択されている。

農産物や水産物の地産地消にこだわるように、木材の地産地消にこだわる人が増えていくことを期待したい。

(※1)
間伐:
森林の中を明るく保ち、スギやヒノキなどをまっすぐに育てるために必要な作業。混みあった森林から、曲がったり弱ってしまっている木を取り除く。

(※2)
平成24年度に実施していた「地域型住宅ブランド化事業」は最大で120万円の補助金が
助成された。林野庁の木材利用ポイントが実施されている間は上限が100万円の設定。

<参考資料>
●秋川木材協同組合ホームページ
http://www.akigawamokuzai.or.jp
●林野庁「木材需給表」(平成25年)
●東京都産業労働局農林水産部森林課「東京の森林・林業」(平成25年版)
●東京都産業労働局農林水産部森林課「森づくり推進プラン」(平成26年3月改定)

<取材協力>
●一般社団法人TOKYO WOOD普及協会
http://tokyowood.net
●株式会社小嶋工務店
http://www.k-kojima.co.jp
●有限会社沖倉製材所
http://www.okikura.co.jp

<写真協力>
SMALL WOOD TOKYO
http://www.smallwood.jp

2014年 08月29日 11時18分