大工にかける若者の思いとは

家づくりの現場で実際に手を動かし、住まい手の理想を形にしてくれる大工職人。しかし、現在では盛んに、職人の人手不足が取り沙汰されている。若い世代の成り手が減少し、高齢化が進むのが業界の現状だ。

これに歯止めをかけようと、次世代の大工職人を育成しているのが「大工育成塾」。ここでは、若い世代が懸命に家づくりの技術を学び、知識を身につけている。

どんな夢を持ち、そして何を感じながら、日々住まいづくりに取り組んでいるのか。

「大工育成塾」取材の第二弾、今回は、塾生の方にお話しを伺い、私たちが知らずにいる職人の世界と、家づくりにかける思いを聞いてみた。

ものづくりが好きで大工の世界へ

大工育成塾 11期生「楢組」の伊藤啄人さん。幼い頃からものづくりが大好きで、大工を目指し、都内の工業高校を経て入塾する。現在は、東京・武蔵野市の工務店「株式会社カツマタ」で指導棟梁のもと実技研修を行っている大工育成塾 11期生「楢組」の伊藤啄人さん。幼い頃からものづくりが大好きで、大工を目指し、都内の工業高校を経て入塾する。現在は、東京・武蔵野市の工務店「株式会社カツマタ」で指導棟梁のもと実技研修を行っている

今回お話を伺ったのは、大工育成塾11期生として同塾に学ぶ伊藤啄人さん。現在、2年生の塾生だ。東京在住で都内の工業高校の建築科を卒業し、2013年に大工育成塾に入塾した。

「祖父は生涯大工、父も一時期大工をしていたため、小さな頃からものづくりに興味があり、小学生の頃には、大きな丸太を使って木馬をつくったりしていました。工業高校の建築科を卒業しましたが、それだけでは技術も知識も足りない。もう少し学ぶ期間が欲しくて、ここへの入塾を決めました」

初めのうちは宮大工を目指していたという伊藤さんだが、入塾後、その考えは変わったという。

「日本の家づくりの伝統技術は、世界に誇るべきもの。宮大工であれば大工の中でもトップクラスの技術を身につけられると思っていました。ですが、ここで実際に学んでみて分かったのは、宮大工に限らず一般の住宅を作る大工であっても、高い技術と知識が必要だということ。それならば、視野を広げて一般住宅にその技術を生かしていきたいと考えるようになりました」

そんな伊藤さんは現在、東京・武蔵野市にある工務店「株式会社カツマタ」で、指導棟梁について現場での実技研修に励んでいる。

惜しみなく知識や技術を伝えてくれる、指導棟梁に感謝

工務店での現場修業の様子工務店での現場修業の様子

1年半の実技研修で経験した現場は4軒。もちろん最初の1、2軒は見て学ぶことが中心だったという。しかし、徐々に作業を任されるようになり、4軒目の今では外部まわりの作業を任せてもらっているそうだ。

「大工の仕事は、土台を組むことから、家具を加工するまで、多岐にわたる作業をします。それだけに、見ているだけでも学ぶことが数多くあります。最初は砥石を研ぐことぐらいしかできませんでしたが、懸命に見て学ぶ内に、毎日があっという間に過ぎてしまいます」

3軒目からは金物作業やドア付け、ボードのビス打ちなど少しずつ作業をさせてもらえるようになった伊藤さん。しかし、ビス一つ打つのも、棟梁との技術の差を見せつけられる。今はプレカットの現場が多いそうだが、それでも指導棟梁の技術の高さと造詣の深さには、毎日驚かされるばかりだという。

「木材のちょっとした加工でも、自分は丸くしか削れないのに、棟梁がやるとビシッとまっすぐになる。棟梁の知識は幅広いです。先日も講義で習ったことについて聞いてみると、次から次へと話が止まらなくなりました。用語も難しくその場では理解できないこともありますが、家に帰って調べて次の日に棟梁に確認する。知識がどんどん増えていくようで、楽しい学びです。現場に行く道すがらも棟梁は『これ、なんの木か分かるか? 松だよ、こっちはヨモギだよ』と色々なことを教えてくれます。木という生き物を扱うのが大工ですから、一見関係がないような植物に関する知識も、家づくりには役立ちます。豊富な知識を棟梁は全て伝えようとしてくれる。本当にありがたいです」

講義で学んだことを実践で生かす、効果的な学びのサイクル

大工育成塾の講義の様子。この日は、腕の建つ大工職人を講師に迎え、森林再生について学んでいた。家を建てる直接的な技術や知識ばかりでなく、森林環境など幅広い知識を吸収できるのが大工育成塾の醍醐味だ大工育成塾の講義の様子。この日は、腕の建つ大工職人を講師に迎え、森林再生について学んでいた。家を建てる直接的な技術や知識ばかりでなく、森林環境など幅広い知識を吸収できるのが大工育成塾の醍醐味だ

こうした現場での学びと並行し、月に2日講義を受けられることも、大工としての成長には欠かせない。

「講義では、その現場ではできないことも学ぶことができます。そこでは使わない道具や木材の扱い方を知ることもできます。地震で倒れない木の組み方など、伝統構法についてもしっかり学べます。そういったものは一般住宅の中でも生かせるはずです。まだ現場では手を出せない作業も、講義では先取りすることもできます。先日は屋根の一部となる木材の加工法を学びましたが、実践的で勉強になりました」

もちろん、講義で学んだ知識は、きちんと現場で生かすことができる。

「木は生き物ですから、適材適所に木材を使わなければなりません。木の根元の部分は土台に近い柱に使いますし、木の南側の部材ならやはり家の南側に配置します。先日も親方に『この木材はどの部分か分かるか』と聞かれたのですが、講義で学んでいたので答えることができました。親方からも『おう、ちゃんと勉強してるんだな』と言ってもらえて嬉しかったです」

また、大工育成塾の座学では、直接的な大工技術や知識のほかに、礼儀作法や茶道・華道といった幅広い講義が用意されている。この点も魅力だと伊藤さんは言う。

「礼儀作法の講義は現場でもすぐに役立ちました。挨拶を大きな声でするとか、お辞儀の仕方とか、ちょっとしたことです。でもある現場では施主さんが現場の隣に住んでいて、毎日見に来ていたんです。そこで、自然に大きな声で挨拶ができて、お茶を出していただいた時にも丁寧に頭が下げられた。それだけでも、お客さんに喜ばれましたし、棟梁からも『いいね~、元気な挨拶』と声をかけてもらえました。技術や知識はもちろんのこと講義の内容は様々な場面で生きてきます」

仲間と学べることが大きな励みに

東京、名古屋、大阪、福岡に「大工志の会」がある。写真は「名古屋大工志の会」の様子。写真中央が松田妙子塾長東京、名古屋、大阪、福岡に「大工志の会」がある。写真は「名古屋大工志の会」の様子。写真中央が松田妙子塾長

「大工の仕事は、楽しいけれど、楽なわけじゃない」という伊藤さん。普段現場を共にするわけではないが、月に2日、教室を同じくして学ぶ仲間がいることも大きな励みになっているそうだ。

「棟梁はとても優しい方で、なんでも教えてくれようとしてくれます。ですが、もちろん人様の家のつくっているわけですから、厳しく指導するときはします。そんな時、教室で仲間と話ができると落ち込んでいた気持ちもリセットできます。仲間と情報交換ができるのも現場の作業に役立ちます。“ボードの貼り方はどうしたら早く、きれいにできるのか”といった個々の作業内容はもちろん、新築だったり、リフォームだったり経験する現場が違うので、様々な現場の状況を話しあっています」

大工育成塾の修了生には「大工志」という称号が与えられるが、3年間で培った仲間とのネットワークは、「大工志の会」としても生かされる。この会は、東京・名古屋・大阪・福岡を拠点に、住宅の勉強会や木造住宅の構造実験、伝統木造建築を広めるための法的規制の緩和を求める活動などを行っている。大工は人手が足りなければ、現場同士で人員の貸し借りをするのが古くからの習わしだ。通常の企業や組織よりもネットワークが重要になる。そのため、在塾中から自然と仲間づくりができるのもこの塾の魅力だという。

「入塾してから1年半。懸命に学んでいるうちにあっという間に過ぎました。学ぶことはまだまだあります。残りの1年半もあっという間に過ぎていくはずです。技術と知識はもちろんのこと、人としても温かく懐の広い棟梁に少しでも近づいていきたい。自分の理想の大工像が目の前にいてくれることは幸せです。
夢は、伝統構法を生かした家づくりができる大工になることです。数寄屋造りの家も、必ず一度は挑戦してみたいと思っています」

大工は楽ではないが、楽しいと言い切る伊藤さん。技術や知識はもちろんのこと、感性を磨きながら一番大切な人間性を育んでいる。ここでは技術だけではなく、日本の心を宿した“日本人”を育てているのだと思う。

伊藤さんがつくる家とは、どういう家なのだろうか。数年先が待ち遠しくなる取材だった。

2014年 07月13日 09時52分