セルフリノベーションを超える魔改造という選択
魔改造という言葉を聞いた事があるだろうか。「通常の改造と異なり、対象について本来考えられないような無茶苦茶な改造をすること(ピクシブ百科事典より)」という意味の俗語である。フィギア、プラモデル等が対象となる場合が多そうだが、一戸建て住宅で「魔改造」を行っている人がいるという事で見学に行ってみた。
場所は富山県砺波市。わくわく法人rea東海北陸不動産鑑定・建築スタジオ株式会社の事務所として使用されている一戸建てだ。ここで足掛け2年に渡り「魔改造」を行っているのは同社代表の中山 聡氏。東京大学医学部卒業後信託銀行に就職、不動産鑑定士・一級建築士の資格を保有する希有な経歴の持ち主である。
東京、大阪等で勤務した後、数年前に地元富山に帰り、「実家を改装して事務所にしたかったが父に反対された(中山氏)」ので仕方なく一戸建てを探す事にし、現在の一戸建てを手に入れた。界隈の不動産は首都圏、関西圏とは異なり価格が相当安い。とはいえ新築や状態の良い中古住宅は1000万円程度もしくはそれ以上の価格。予算をなるべく抑えたかったので、程度の良くない物件も視野に入れた。独立開業した事で時間はたっぷりあったので、足りない部分や不都合な部分は自分でやってしまおうと考えたからだ。探し始めて○ヶ月、手に入れた物件は築35年の中古一戸建て、「自宅よりも自家用車の方が高い程度」であった。
基礎と柱と梁がしっかりしていれば、素材としてはOK!
物件は、そのまま使用するには無理があった。雨漏りがあり、床下には雑草が生え、屋根裏には雀が巣を作っていた。
床下は、本来湿気があってはならない場所であり、植物が生える場所ではない。しかし、通気口から入ったであろう種子が湿気を吸ってグングン育ち、光を求めて通気口に向かって伸びている状態であった。屋根裏の雀の巣は、大人が両手でも抱えられない程の大きさにまでなっていた。その状態をみると、とても住めるイメージはわかない。素人目には解体して建て直すしかないように映る。
しかし、プロの目にはそうは映らない。「基礎と柱と梁がしっかりしていれば問題ありません」という中山氏は十分利用可能と判断、できるところは全て自分で工事をしてしまおうと決めた。魔改造の始まりだ。
天井や床も自分で好きなように手を入れろ!
中山氏が、手を付けた箇所は複数に及ぶ。床フローリングの張り替え、天井の張り替え、壁のやりかえ、床の間と玄関部分の間仕切りの取り壊し、トイレの取り替え、キッチンの取り替え。元々あった壁や床、水回りの設備を撤去し、新しい部材を購入して設置していく。
床フローリングの張り替えは、その一部を二重床とし電源を確保した。壁のやりかえでは寒さ対策として壁の下地に断熱材を入れた。トイレは取り替えたが、一人で使うぶんには当面不要なので壁と扉は取っ払ったまま付けなかった。「便器っぽく見えないように」とマスキングテープで装飾されてはいるが、壁や建具に隠されることなく便器が見えている光景は、なかなか見る事のない風景だ。
これらの「魔改造」、本当に思うがママに手を入れている。自分の持ち物なので、こうしなければいけないといった制約は何もない。本当に自由に手をつけている。出来上がっている箇所もあれば途中で終わっている箇所もある。カーポートと屋根上デッキにいたっては取りかかり始めたところだ。魔改造をはじめて約2年、外観を除き購入当時の様子はほぼ無くなっているとの事。新しく手を入れる箇所もあれば、補修が必要な箇所もあり、全体はいつ出来上がるのかわからない。サグラダファミリア状態だ。
できないところのみプロに頼む
ここまで読んで多くの方は「自分は施工の経験が無いからできない」「所有者は一級建築士だからできるんだ」と言った意見もあろうかと思うが、それは違う。今でこそ経験を積み腕を上げ、「フローリング張りのワークショップ」なども行える腕前になっているが、魔改造を始めるまではリフォーム工事等の施工経験は無かった。一級建築士の免許を持っていたからといっても工事道具の扱いがうまいわけでもない。
できるかできないかわからない、やった事も無い、そんな状況で魔改造を始めたわけだが不安はなかったのか?中山氏に聞いてみたところ、答えはシンプルだった。「大丈夫ですよ。できないところは(プロに)頼みますから。」
床や壁の施工。一面が大きくてかつ整形であるため比較的作業はしやすい。むりなく座ったり立ったりした状態で施工ができる。天井周りとなるとそうもいかない。上を向いての作業となるため同じ事をするにしても作業しにくいうえに、勾配のついた部分があるため作業面が不整形。「ここも自分でやったのですか?」との質問には「大工さんに頼みました」。
この力の抜き具合がポイントだ。施工会社に頼むか、自分でやるか。二択で考えるから敷居が高くなる。やりたい部分をやりたいように魔改造し、できない部分はプロに頼む。頼んだ作業を見せてもらって自分にフィードバックし、できそうなら次は自分でやってみる。そんなサイクルがいいのだと思う。
ただ、なかにはいくら器用であっても自分でできない部分もある。給水設備の増設や電気配線工事は資格がないとしてはいけない。実際にこの魔改造でも給水の増設はプロの業者に頼んだそうだ。電気配線については一部自分で魔改造したとの事。違法ではないのか?ご心配なく。中山氏はこのために電気工事士の資格を取得されたとの事。これでまた魔改造を手掛ける範囲が広がったわけだ。
ちなみにこの「魔改造住宅」、たいへん低燃費な住宅にも仕上がってきている。「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」いわゆる省エネ法の基準を悠々クリア、さらにマイナス10%の一次エネルギー消費量となる「低炭素建築物」の基準に近い数値をたたき出している。「低炭素建築物」とは、新築であれば通常の「フラット35」よりもさらに金利のより低い「フラット35S」が利用できるという優れた基準だ。
プロに頼み、プロの技を盗み、プロ並みの成果物に仕上げていく。魔改造を行う中山氏。完全にゲーム感覚である。
古家を買って自分でやっちゃう選択肢
今回の話しを伺って感じたのは、安価な家をかって「遊ぶ」のもありなんだ!という事。都心部の新築マンションを中心に現在不動産価格は上昇基調。とはいえバブル時のように何でもかんでも値上がりしているわけではなく、利便性に劣る立地の住宅は反対に下落気味ですらある。マンションに比べ流動性の低い一戸建てについてはその傾向はさらに顕著である。空き家となって長く住み手のついていない物件の多くは、値交渉がきく場合も多い。素材を選ぶには困らないはずだ。
そのような物件を手当てしリフォーム会社にたのむのも良いが、物件取得を安価で住ませたのなら、その後も安価にすませてみてはどうか。自分で工事をすれば、住宅の隅から隅まで自分で見る事ができる。プロがリフォームしたからといって「見えない部分がきれいになっている」とは限らない。「臭いものには蓋」で見ないようにするのではなく、勇気を持って自分でみてみて、そのうえコストまで安くなる。
このような魔改造、信頼おける建築士やリフォーム会社を相談相手として持っておく事をお勧めする。今回取材した中山氏は一級建築士であり建物についての知識を十分に持ち合わせていたからいきなり魔改造ができたが、資格や経験のない人がいきなり魔改造は難しい。プロに相談して、何をどこ迄プロに任せるか、自分はどこを行うかをはっきりしておいた方がよい。実際にリノベーション住宅では「壁のペンキ塗り」等の簡易な部分を「セルフリノベーション」する事例も増えている。
今後はこの「魔改造」、来そうな雰囲気だ。
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