軽量化を追求。下敷きになっても「死なない家具」を目指して

拓殖大学工学部デザイン学科の阿部眞理准教授拓殖大学工学部デザイン学科の阿部眞理准教授

阪神淡路大震災では、多くの人が家具の下敷きとなって命を失った。重いタンスやピアノ、キャビネットや食器棚などが倒壊し、凶器となって住む人の命を奪ったのである。

「従来は、よい材料を使っている、丈夫な構造を持つ、デザインが美しい、といったことが、上質な家具の条件とされてきました。よい材料とは、ヨーロッパの家具に見られるような、マホガニーやチークなどの硬く木目の美しい広葉樹材など。これらを使った家具は重厚で、何百年にもわたって使い続けられるものです。
しかし、災害が多く、高齢化が進む日本でも果たしてそうだといえるのか。むしろ、転倒してもダメージが少ない“死なない家具”こそが、日本の家に合った家具といえるのではないでしょうか」
そう語るのは、拓殖大学工学部デザイン学科准教授・阿部眞理氏。阿部氏は“室内の防災”という観点から、同僚の白石照美准教授とともに、家具を軽量化する研究に取り組んできた。

これまで、軽量家具に使われてきたフラッシュパネルなどの木質材料は、圧縮強度に欠け、見た目の美しさにも欠けるきらいがあった。
そこで、阿部氏は、軽さと強さを兼ね備えた「波形」の構造に注目。これを応用して、軽量家具の材料を新たに開発しようと考えた。そんな中、2010年に筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授・小幡谷英一氏との共同研究がスタート。こうして生まれたのが、軽量家具の材料となる「波形単板コアパネル」である。

波型の構造を採用し、「軽くて強い」板材を実現

波形単板コアパネル。L字型の補助材で接合する波形単板コアパネル。L字型の補助材で接合する

「合板のようにコア材が積層したものだと、どうしても重くなってしまう。そこで思いついたのが、コア材に波形の構造体を使うことでした。波形の構造体の特長は、強度と軽さを兼ね備えている点にある。この性質を利用し、ヒノキを0.2~0.3mmにスライスして波形に成形。これをコア材として使うことで、強度を保ちながら軽量になるよう工夫したのです」

だが、波形単板コアパネルを使って家具を作るにあたっては、さまざまな困難に直面した。特に問題となったのが、「板材と板材をどう接合するか」という点だった。
一般に家具は、ダボやホゾなどの方法で接合するが、波形単板パネルは空洞が多いので、こうした方法は使えない。L字金具を入れて接合する方法もあるが、それでは見た目の美しさが損なわれる。そこで、研究チームは、波形の部分をL字型の補助材に挟み込んで接合する方法を考案。機能とデザイン性の両方を兼ね備えた家具を作ることに成功した。

「金物に頼らず、見た目の美しさを追求した結果、この接合方法にたどり着きました。L字の補助材に着色すれば、カラフルな色合いも楽しめます。どんなに機能や強度が優れていても、デザインがよくないようでは、デザイン学科で作る意味がありませんから」と、阿部氏は語る。

見た目の美しさにこだわらなければ、軽量家具は普及しない

試作品第1号のネスティング式ブロックシェルフ試作品第1号のネスティング式ブロックシェルフ

このコアパネルを使い、研究チームは家具の試作に着手。サイズ違いのブロック同士をマグネットで接着する、ネスティング式ブロックシェルフを制作した。無垢材や合板で作れば約5kgの重さになるブロックも、波形単板コアパネルなら、わずか約1.6kgで作ることができる。高齢者でも楽に持ち運びできるような軽さを実現することができた。

次に、波形単板コアパネルを使ったいすを制作。波形のコア材に着色して座面をカラフルにし、より一層デザイン性の高いいすを作ることができた。
「今後は、波形単板コアパネルの応用をさらに進めつつ、波形以外の軽量材の研究にも取り組みたい。世の中に軽量家具を広める意味でも、いずれは商品化につなげていきたいですね」と、阿部氏は語る。

とはいうものの、軽量家具の普及にあたっては課題も多い。その1つに、デザイン性の問題がある。
「軽量家具は、どうしても安っぽい印象になりがちです。どんなに安全で使い勝手がよくても、見た目が今ひとつでは、生活や気持ちは豊かにならない。デザイン性に優れた軽量家具を作ることで、世の中に貢献したいですね」
そう語る阿部氏。今後も同大デザイン学科では、家具固定と軽量家具との2本柱で、室内の防災について取り組んでいきたい、と抱負を語ってくれた。

地震大国にふさわしい、これからの家具選びとは

軽量家具の試作品第2号のいす軽量家具の試作品第2号のいす

阿部氏の話を聞きながら、わが家にあるささやかな英国製アンティーク家具のことが頭をよぎった。「もし、その下敷きになったら」と想像して、軽い戦慄を覚えたのである。
インテリアといえば趣味やイメージが先行しがちだが、地震が少ないヨーロッパと災害大国の日本とでは、家具選びの基準もちがって当然なのかもしれない。日本の風土に合った家具とは、「地震が起こっても死ぬ危険のない家具」――そんな阿部氏らの提言は、インテリアの世界に新たな視点を与えてくれる。

2014年 01月07日 10時05分