生活に根ざした“大正生まれの商店街”
大阪市住吉区と住之江区にまたがる「粉浜(こはま)商店街」。南海電鉄の粉浜駅から住吉大社駅に続く350mの商店街は、「住吉まいり」のおみやげ処としてだけでなく、古くから庶民の暮らしを支えるまちとして愛されている。
商店街を歩いてみると、肉屋のコロッケ、いちご大福、お惣菜、天ぷら、呉服、履き物、色とりどりの生花などに目が留まり、歩くだけでもおもしろい。特徴は、すべての店が地元の個店でコンビニエンスストアがひとつも見当たらないこと。逆にここから、ドラックストアとして全国展開する「コクミン」や、近畿圏で有名な持ち帰り寿司の「スシマス」などのチェーン店が生まれている。昭和10年創業の「コクミン」は、80年たった今も粉浜商店街に1号店として店を構える。
商店街の歴史は長いものの、新しいものを受け入れ発展につなげる風土があるようだ。
そこで、ここ一年ぐらいの間に粉浜商店街で創業した若手にその魅力を聞いてみることにした。
「粉浜で創業できてよかった!」という若夫婦
「もともと大阪のキタやミナミといった繁華街でなく、ローカルなところで飲食店をしたいと考えていました」と話してくれたのは、吉田邦良さん(35歳)と由布子さん(30歳)ご夫婦。
居抜きの店舗を探していたところ、不動産会社から紹介されたのが現在の物件だったという。
創業の決め手は何だったのだろうか?
「ここはチンチン電車がゆっくり走るまち。もともと粉浜という地名すら知らなかったけど、駅前に緑豊かな住吉公園があって…歩くだけでも癒されます。粉浜商店街は老舗の店が多いし、路地裏に入ると戦前の古い家屋があちらこちらに残っていてどこか懐かしい。初めて来たのに、落ち着くところだなぁと、いっぺんに好きになりました。」(邦良さん)
「私は島根の出雲出身で、主人は京都の生まれなんです。ここは住吉大社の門前町とあって、祭事に合わせたイベントを大切にしているところに親近感がわきました。ここなら大丈夫!と直感でピンときました(笑)」(由布子さん)
ここでなら腰を据えた商いができると考えた二人は、昨年の11月に粉浜商店街の2番街に『咖喱(カレー)喫茶 ちゃくら』をオープンした。
粉浜は人情味あふれるまち
縁もゆかりもないところで、いきなり飲食店をオープンした若夫婦。近隣の人がすぐに店を訪れてくれるようになり、言葉を交わす機会が増えていったという。
「土地勘のない私たちに、皆さんは粉浜のあれこれをとても親切に教えてくれました。粉浜を盛り上げるまちづくりのボランティアである『粉浜サポーター』を募集していることも、店を訪れるお客さんがいち早く教えてくださったんですよ」と、ちゃくら店主の邦良さん。そして、夫婦そろって「粉浜サポーター」のメンバーに加わる。
「粉浜の人たちは、店主やお客さん共々、人情味があってあったかい。起業したての私たちを受け入れ、ずっと応援してくださっています」と、二人は微笑む。
同サポートメンバーであるYUI企画の山田重昭さんは、「粉浜サポーターの盛り上がりは、粉浜商店街を活動の拠点としつつも、周辺エリアを巻き込みながら輪を広げています。世代や職業、住まう年数に関わらず、みんな“粉浜が好き”でつながっているんです」と話す。こういった層の厚さと懐の深さも魅力なのだろう。
地域活動を通して、まちの名所を得意のイラストで描くようになった由布子さん。出来上がった「まち歩き」のマップを通して観光案内をすることもあり、初めて訪れたお客さんとの会話もはずむのだという。
同世代の創業者がお互いに応援できる仕掛けを

粉浜商店街は、創業の浅い若手の店主がいきいきと活躍している。
ちゃくらの店主・吉田邦良さんは「若手の創業者がお互いの店を紹介できる仕組みができないか?」と働きかけ、若手創業者の「らすく屋」「たこ焼き やなぎ」「咖喱喫茶 ちゃくら」3店舗と老舗の「井川豆腐店」によるスタンプラリーを企画。3店舗を制覇すると、豆腐店4代目がつくる『すくい豆腐』がもらえる企画が好評を集めた。同世代の店主同士が顔を合わせ、互いの店のいいところをお客さんに紹介することで相乗効果が生まれているのだという。
「粉浜商店街には、飲食店の店主も信頼を寄せる食材の専門店が豊富にそろっています。ちゃくらの仕入れも、肉屋、魚屋、八百屋、豆腐屋とこの商店街のものなんですよ」というように、若手の店主らも、商店街のいちファンなのだ。
「商店街という枠にこだわらず、粉浜のこれからを盛り上げていきたいという志のある若手創業者と共に手を携えていきたい。これからの目標は、お店もお客さんも共に楽しめるイベントをつくりあげることです」(吉田邦良さん)
次回は、粉浜商店街を超えて、住吉大社の北側に店を構える「縁起焼」の若手創業者を新たに交えたスタンプラリーを企画中なのだという。
新しい創業者が生まれ続けている粉浜商店街。その背景には、長い歴史と新しいものを受け入れる豊かな風土、そして、絶えず動き続けて賑わいを創り出そうとする姿勢があった。そうした姿勢が活気を生み、商店街のにぎわいを保つ一助となっている。これからも訪れる人をあたたかく迎え、楽しませてくれるのだろう。
2015年 11月16日 11時05分