阪神淡路大震災では、犠牲者の9割が「住宅の倒壊」で死亡

ナショナル・レジリエンス懇談会で広報戦略を担当する金谷年展教授ナショナル・レジリエンス懇談会で広報戦略を担当する金谷年展教授

12月4日、「国土強靱化基本法」が成立した。この法案は、ハード・ソフト両面から国民生活のあらゆる分野を強靭化し、災害に強い国づくりを進めるためのベースとなるものだ。

「この国土強靭化基本法が成立すれば、安倍晋三首相を本部長とする国土強靭化推進本部が発足し、全閣僚が本部員として参加することになります。国のリスクマネジメントとして、来るべき災害にどう対応するか――この重要課題にオールジャパンで取り組む体制が、初めてできあがるのです」
そう語るのは、東京工業大学ソリューション研究機構特任教授の金谷年展氏。古屋国土強靭化担当相の私的諮問委員会である「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」の広報戦略担当メンバーとして、政策大綱作りを担ってきた。

「今後の住宅防災を考える上で重要なことは、阪神淡路大震災の教訓をいかに生かすかということです。阪神淡路大震災では、犠牲者の9割が、地震発生直後の数分間に自宅で亡くなりました。住宅の倒壊で、家そのものが“凶器”と化し、住む人を死なせてしまった。要は“倒壊しない家”に住むということが、災害対策の大前提なのです。ところが恐ろしいことに、1981年の建築基準法改正以前の旧耐震基準で建てられた住宅が、全国にはまだ1000万戸以上もあり、3000万人の方々が住んでいます。この状況を、まずはなんとかしなければならない。それが、住宅防災における最大の課題といえます」

旧耐震基準の家をゼロにする。それが国土強靭化の最優先課題

金谷氏の著書。地震大国日本における家づくりの現状に警鐘を鳴らし、その処方箋を提示している金谷氏の著書。地震大国日本における家づくりの現状に警鐘を鳴らし、その処方箋を提示している

日本では大地震が起こるたびに、住宅の耐震基準が見直されてきた。1978年の宮城県沖地震への反省から、1981年に建築基準法が改正され、新耐震基準が導入された。その後、1995年に阪神淡路大震災が起こると、2000年に再び耐震基準が改められた。
「阪神淡路大震災で倒壊した住宅の多くは、1981年以前に、旧耐震基準によって建てられた建物です。つまり、築32年以上の住宅(2013年現在)は“既存不適格住宅”であり、大地震が起これば、人の命を奪う“凶器”となる可能性が高い。この旧耐震の家をまずはゼロにすることが、国土強靭化のための最優先の課題といえます」

一方、不動産市場に目を転じると、築30年以上の中古住宅の人気は年々高まっている。価格の安さと物件数の多さに惹かれて、築年数の古い中古住宅を買い求める人が増えているのだ。
「鉄筋コンクリート造のマンションは、耐震補強工事を行えば、安心して住むことができます。ただし、一戸建て住宅については注意が必要です。旧耐震の一戸建ては、断熱性や気密性がよくないので、土台や柱が結露で腐っている可能性がある。また、1981年から2000年の間に建てられた新耐震基準の一戸建ても、何度も地震を経験するうちに、耐震性能がどんどん弱まっていくことがわかっています。このため、旧耐震の住宅については建て替えを促進し、新耐震の住宅でも、耐久性が弱くなったものについてはリフォームを促進していく必要がある。こうした取り組みが、今後は重要になってくると思います」

建て替えを進めるためには、中古住宅の”価値革命”が必要

日本では、住宅資産額は住宅投資累計額をはるかに下回っている。(資料:国民経済計算<内閣府>)日本では、住宅資産額は住宅投資累計額をはるかに下回っている。(資料:国民経済計算<内閣府>)

とはいうものの、道のりは険しい。現在、旧耐震基準の住宅に住む人の多くは、現役を引退した高齢者。家を建て替えようにも住宅ローンを組むことはできず、いつ来るかわからない地震のために、数千万円の建て替え費用を捻出できる人は、ごく限られている。防災意識が高い一部の地域を除けば、住宅の耐震リフォームは遅々として進んでいないのが現状だ。

「最大の問題は、日本では住宅にどんなに投資しても、資産価値は減る一方だということです。古くなっても資産価値があまり下がらない欧米の住宅と比べると、日本の住宅は使い捨てのようなもの。築20年も経てば、減価償却で資産価値はゼロになってしまいます。経済成長のために住宅のスクラップ・アンド・ビルドを繰り返した結果、ほとんど資産価値のない家が国中にあふれてしまった。しかも、資産価値がゼロの家は担保にならないので、銀行から住宅ローンを借りることもできない。これでは、住宅の建て替え促進などできるはずもありません」

こうした問題を解決するためには、中古住宅の“価値革命”を起こさなくてはならない、と金谷氏は力説する。
「これからは、住宅の“車検制度”のようなものを作り、定期的に検査をして、その結果を資産評価に反映させていく必要があります。現在、国交省でも、リフォームや耐震補強によって住宅の性能が向上した場合は、住宅の価格に反映する方向で検討が進められています。耐震性能だけでなく、省エネ・創エネ、耐久性などさまざまな観点から、住宅の資産価値を見直す動きが始まっているのです」

2020年の東京オリンピックまでに、住宅の耐震化を徹底

アメリカでは住宅資産額が住宅投資累計額を上回っている。(資料:FRB、米国商務省資料)アメリカでは住宅資産額が住宅投資累計額を上回っている。(資料:FRB、米国商務省資料)

この住宅版“車検制度”がスタートすれば、優良な中古住宅には一定の資産価値が認められ、「築30年の物件を1500万円で転売する」ことも夢ではなくなるという。
「この仕組みが日本社会に定着すれば、たとえば60歳になっても、家を担保にしてローンが組めるようになります。仮にローンが返済できなくなったとしても、家に一定の資産価値があるわけですから、家と土地を売って返済すればいいのです。これが、危険な住宅の建て替えを後押しする、有効な手段となることは間違いありません」

一方で、ネックとなるのが固定資産税の問題だ。今の税法では、家の資産価値が上がれば固定資産税も増えるので、所有者の負担が増えてしまう。このため、旧耐震の住宅を建て替える場合は固定資産税を据え置くなど、長期優遇政策をとることも必要だ、と金谷氏は語る。
「こうした一連の施策が動き出せば、旧耐震基準で建てられた住宅の建て替えが一気に進むでしょう。そうなれば、阪神・淡路大震災で犠牲者の9割が命を落とす原因となった、住宅の倒壊を防ぐことができる。2020年の東京オリンピックまでに、“旧耐震ゼロ”に近づけるような施策が必要でしょう」

建て替え促進で空き家問題を解消。地震火災の被害を最小限に

中古住宅の建て替えやリフォームの促進は、住宅倒壊による被害を減らすだけではない。これには、地震にともなう火災の拡大を防ぐ効果もある。
現在、全国で空き家の増加が深刻化しているが、放置された空き家は、いわば火にくべる薪のようなもの。ひとたび地震火災が起これば、空き家によって火勢が拡大し、犠牲者数が膨れ上がる恐れがある。
しかし、今後、国土強靭化によって中古住宅の建て替えやリフォームが進めば、空き家の増加に歯止めがかかり、地震の二次災害を予防することにもなる。その意味でも、老朽化住宅に対する取り組みは、まさに火急の課題といえそうだ。

2013年 12月24日 09時57分