受賞作品から分かる、リノベーションって何?
最大「いいね!」賞を受賞した「ヘリンボーンで貼ることで床がリズムを刻み…」(9株式会社)。世の中にリノベーションを知らしめていくためにはアピールする力も重要と、SNSで評価が高かった作品にも賞が用意された
2013年11月3日、原宿で初めての開催となるリノベーション・オブ・ザ・イヤーの授賞式が行われた。ここ2~3年で言葉としては一般的になってはきたものの、何をもってリノベーションというのか、リフォームとはどう違うのかについては、なんだか、よく分からないという人も少なくないというのが現状だろう。その隙を突いて、単に原状回復を行っただけの物件をリノベーション済と称する、なんちゃってリノベ的な例も増えている。
だが、本来のリノベーションは「経年で生じたマイナス部分を元に戻すだけではなく、そこに新しい価値を付け加えるもの」(一般社団法人リノベーション住宅推進協議会 内山博文会長)だという。実際、ノミネート作品を見てみると、なんちゃってリノベとの違いは明確。見た目がきれいに、新しくなるだけではなく、これまでになかった価値が生まれていることがよく分かる。
今回のエントリーは151件。コンテストはそれを5種類の価格帯別(300万円未満、500万円未満、800万円未満、800万円以上、無差別級)にインターネット上に掲出、フェイスブックやツィッターなどのSNSでの評価をもとに各分野10件ずつをノミネート作品とし、最終選考には6人の選考委員が当たるという方法で行われた。上記5部門に加え、特別賞などもあるため、残念ながら全てを紹介するわけにはいかないが、以下、参考になりそうな例をピックアップしてみた。
一点豪華主義、DIY型、分割施工……、300万円未満でリノベするあの手この手
300万円未満という、決して潤沢とは言えない予算で、どこまで満足いくリノベーションを行うか。300万円未満部門の最優秀作品賞は一度に全部を作ってしまうのではなく、分けて作るという発想でその問題をクリアした例である。
具体的には最初に住戸全体のリノベーションを行い、2年後に子ども部屋だけを作るという2段階方式。前回の時点で、あらかじめ壁の下地、電気の配線を用意してあったため、施工はスムーズに進み、かかった費用は95万円。一度にずべてをやろうと考えると予算も時間もかかるが、ちょっとずつやれば良いと考えると、もっと気軽にリノベーションしてみようという気になれそうだ。
ちなみに、今回のエントリー作品に見られた予算の制約を乗り越える方法としては、自分たちが最優先する場所にのみ予算を集中させる1点豪華主義、自分たちで一部施工をするDIY型、設備機器などを施主が用意する施主支給法などがあった。受賞例でも壁は家族で塗り、ドアノブは施主が買ってきたものだそうだ。
解体から床貼りまで。セルフリノベーションで予算削減、満足度アップ
自分たちでできるところは自分たちでという方式で、予算を大幅に削減、満足度の高い家作りに成功したのが500万円未満部門の最優秀作品。都心の、細長い2Kをワンルームに作り替えたもので、施主のご夫婦は解体、珪藻土塗り、古材の棚板取付けなど内装の半分ほどを自分たちで行っている。
キッチン、バスルームなどの水回りは施工に費用がかかるため、通常、500万円未満の予算で両方に手を入れるのは難しい。だが、この例では施主がセルフリノベーションで浮かした費用をつぎ込むことで、それが可能になった。また、写真からも分かる通り、キッチンの造作などにはほとんど予算をかけておらず、そうした割り切りも予算削減に大きく寄与している。
この例は施主のご夫婦が20代半ばと若いことも、審査員の話題に上った。家を買う、自分でいじるのを楽しいと思う人が若い人を中心に増えてくれれば、日本の住宅市場も変わるのでは? 期待も込めての受賞というわけだ。
限られた空間をより広く見せる工夫、個性を出す色使いにも注目
800万円以上部門の最優秀作品であり、グランプリともなった作品は空間を広く見せる点に工夫があった。限られた空間を広く見せるためには、部屋を仕切らないようにするのがよくある手だが、この例ではそれに加え、家具、テーブル、キッチンなどの高さをすべて揃えることで、水平の広さを強調している。モノの高さを揃えるだけで、これだけすっきり、広く見える空間が生まれる。驚きである。
また、今回の作品にはそれぞれタイトルコピーが添付されているのだが、この作品のそれは「FURNITURE半身浴」。一体、どんな内容だろうと興味を唆られるものであり、そのあたりのアピール度もグランプリにふさわしい。
室内の鮮やかな色使いにも注目したい。この作品に限らず、他の作品でも青や緑、黄色などと一般的な新築分譲物件には見られないような色使いが見られたが、色が変わるだけで住まいの印象はがらりと変わる。お手軽に我が家らしさを出そうとするなら、壁やドアなどの色を変えてみるのが手というわけだ。
その土地らしさをリノベーションで生かし、使い続ける
最後に紹介したいのは京都にある会社のリノベーション例。ご存じのように京都には町家と呼ばれる、部屋が一列に長く続く昔ながらの住宅が多く残されている。この会社ではそうした町家の再生を手がけており、今回は大正時代の京町家をシェアハウスにした例、洛中の町家を一棟貸し宿泊施設にした例が無差別級部門最優秀作品賞、クール・ジャパン賞を受賞した。
ここまでご紹介した例はリノベーションによって住む人にとっての価値を創造したものだが、京都での2例は空家問題を現実的な手段で解決しており、社会的な意味もある。現在、日本全国には歴史のある、しかし使われなくなってしまった建物が数多く存在する。リノベーションはそうした建物を今の暮らしに合わせて再生し、使い続けるための有効な手段のひとつ。その土地の歴史を生かし、風土に合わせた住まいがリノベーションで生まれてくれば、住む側にとっても面白いと思う。
ところで、このイベントでは受賞作品の発表の後、審査員によるトークセッションも行われ、2013年のトレンド、今後の課題など様々な観点での意見が出た。その中でひとつ、一般の人にも参考になると思われるのが、今後、実家リノベが増えるのではという予測である。リノベーションは中古を買った場合だけのものではなく、実家を相続、あるいは親と同居する場合にも使える手。実家の思い出を残しながら、自分たちらしく暮らす方法として覚えておくと良いと思う。
※リノベーション・オブ・ザ・イヤー2013:一般社団法人リノベーション住宅推進協議会
http://www.renovation.or.jp/
【関連リンク】
リノベーション・オブ・ザ・イヤー2013
http://www.renovation.or.jp/expo2013/oftheyear/
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