関西でのリノベーション事業の革命児!?

9株式会社でのリノベーション事例9株式会社でのリノベーション事例

中古物件よりも新築の住宅を好む傾向にある日本人。先進国でありながら伝統や文化を継承する国として、外国からも高く評価されている日本だが、住宅についてはやや疑問が残る。リノベーションやDIYなど住まいへの関心が高まりつつあるが、実際に行動に移している人はどれぐらいいるだろうか。やってみたいという興味があっても、その方法や依頼先がわからずそのままになっている人も多いのではないだろうか。

リノベーションという言葉がまだ知られていなかった15年ほど前、中古マンションを購入し1年かけて住戸内を自分でリノベーションした人物がいる。一般社団法人リノベーション住宅推進協議会が主催するリノベーション・オブ・ザ・イヤー2014で、部門別最優秀賞「無差別級」と「インパクト賞」を受賞した「9(ナイン)株式会社」の代表取締役 久田カズオ氏だ。次の引越し先でも、やはり自分で住戸内をリノベーションしている。その久田氏が自らの経験を基に、事業へと発展させたのがこのデザイン事務所だ。

久田氏は、ファッションの世界から建築業界へと転向した異色な経歴をもち、住宅や店舗など施主様の意向を踏まえつつも、住まいの歴史に着目したクリエイティブな発想で、デザイン・施工を行っているという。この業界に携わる他の人とは、少し趣の違う人物像とその取り組みに興味が湧いてくる。さて、どのような話しが聞けるのか。

独学で体得した、建築技術のいろは

DIYリノベーションに励む久田氏の現場作業風景DIYリノベーションに励む久田氏の現場作業風景

リノベーションという言葉が認知されていなかった時代、どのようにして自宅をリノベーションするに至ったのか。まずは、久田氏の経歴を伺った。
「大阪モード学園を卒業後、ファッション業界で働いていました。この業界は、売れる商品を前もって大量に作らないといけない世界で、売れ残ると全部在庫になるんです。常に売れる物を作り出さないといけない厳しい世界なんです」と当時のことを振り返る。「ファッションの仕事だけでは食べていけないので、建築現場のアルバイトをするようになりました」と建築業界に関わり始めたキッカケを話してくれた。「その時、阪神・淡路大震災が起こり、仕事で仮設住宅を組み立てることになりました。半年程でその仕事は終わったのですが、今からファッション業界に戻っても仕事はないだろうな・・・と。その時、大工仕事を3年程やっていた友人がいて、一緒に戸建て建築の下請業務をやろう!ってなったんです。震災で大工さんが不足しているし、僕たちでも出来るんじゃないかというのもありましたね」と、ファッションの世界から建築業界に転向した経緯を語ってくれた。

「友人と二人で、ハウスメーカーや工務店に営業にいって、下請けの仕事を受注し戸建てをたくさん建てました。僕自身、師匠とか先輩と呼べる人がいなかったので、戸建ての建築方法を誰かに教えてもらったことがないんです」と、まるで冗談のような話しが飛び出した。
では、どうやって建築技術を覚えたのか?と聞くと「例えば、階段をかけるとなったら、本屋に行って階段のかけ方という本と道具を買って翌日、現場で本を見ながら作業をしていました」という回答だった。久田氏は、建築技術や工程を『たたきあげ』ともいうべき現場の実務経験と独学で体得していたのだ。

初めてのリノベーションは、自宅だった

戸建て建築の下請業務をやりながら、建物の工法や技術を身に付けた久田氏。住まいのリノベーションに向けてホームセンターの特売品や建築現場であまった建築資材を、自宅のベランダにストックしていたという。初めてのリノベーションは自宅。今から約15年前に築30年・66m2の須磨海岸が一望できる中古マンションを購入し、梁や柱といった構造の躯体部分だけを残し、キッチンや浴室といった設備や仕様、間仕切り壁などすべて撤去するスケルトン状態に戻すという方法でリノベーションに取りかかった。

家具もドアも自分たちで造ったが住みながら夫婦二人で、コツコツとリノベーション作業をしていたこともあり、完成まで1年かかったという。「当時は、スケルトンでリノベーションをやっている所は、ほとんどなかったと思います」と久田氏は言う。確かに、住戸内をリフォームする業者はあったが、室内すべてを解体し最初から新しく作り直すことは少なかったかもしれない。リノベーションをしたことで、自分たちのライフスタイルにあった間取りが設計でき、新たな価値を生み出すこともできたと久田氏は言う。

実際に、その住まいを訪れた友人から「もし将来、このマンションを手放すことがあれば、自分に売って欲しい」と言われたそうだ。5年程、住んだ後そのマンションはその友人に売却したという。売却時には築35年になっていた中古マンション、その売却金額は、1,780万円。久田氏が購入した費用は、1,280万円、リノベーション材料費は、約300万円、合計1,580万円。リノベーションし、かつ5年の築年数が加わっているにもかかわらず、売却時には200万円の利益が出たという。

次に垂水区塩屋の公団のマンションを500万円で購入。最初のリノベーションは「あれもこれもやりたい」と、やりすぎたこともあり、今度の築40年・60m2の室内は「白い画用紙のように」というシンプルさをテーマに、600万円の費用をかけてスケルトン・リノベーションしている。

久田氏が最初に、DIYリノベーションを手がけた自宅「須磨の家」久田氏が最初に、DIYリノベーションを手がけた自宅「須磨の家」

新築住宅から、中古物件のリノベーションへ移行した理由とは

自らリノベーションした2軒目の自宅「白い画用紙の家」。自らリノベーションした2軒目の自宅「白い画用紙の家」。

ファッション業界からの転身も、自宅をリノベーションしたことも分かったが、なぜ「新築住宅」から「リノベーション」業界に移行したのか?
それについて質問すると「戸建て建築の下請けを始めてから5年程経つと、ある程度のことが出来るようになりました」と話し、続けて「請け負っていたハウスメーカーや工務店では、仕様や設備がほとんど決まっているので平面図1枚あれば、家が建てられるんです。いつも同じようなフローリングと似たような壁紙を貼り、建具の仕様も間取りも代わり映えしなくて、似たり寄ったりでした。私たち造る側も、つまらないし楽しくなかった。住む人もこんな画一的でイミテーションばかりを使った建材でいいのだろうか、と。こんなものを日本の住宅と言っていいのだろうかと、本当に思ったんです」と経験の中で感じた業界のあり方や疑問を口にした。

「ファッション業界では、何百人という人に買ってもらわないと成り立たないが、住宅は1人の人に買ってもらえればいい。不特定多数を対象にしたデザインより、その人だけのオリジナル性の高いインテリアでクリエイティブな住宅を提供したい!そう思ったんです」と、リノベーションを手掛ける理由を教えてくれた。

「誰でもそうなんですが自分の家を持つ時には、アレやコレやと色々やり過ぎてしまう傾向にあります。ファッションは流行もあるので飽きれば着替えられますが、住宅はそうはいかない。家具は、ファッションでいうアクセサリーや小物と同じなので、その時々の好きなものを置けばいい。でも変更ができない躯体部分については、シンプルにする方が長く住めるんじゃないかと思っています」と、そのこだわりについても話されていた。

久田氏は、独学で建築技術を身に付けたこともあり、建築に関する固定概念がほとんどない。住宅業界への革命のように、新しい視点と発想で住宅などをリノベーションできることは大きな特長なのかもしれない。

「DIYリノベーションスクール」への参画で見えた、新たな目標と試み

以前、紹介したことのある「DIYリノベーションスクール」(紹介記事はコチラ→http://www.homes.co.jp/cont/press/reform/reform_00135/)。そのスクールに、9株式会社も参画し久田氏も講師として、参加者への指導を行っている。DIYリノベーションのワークショップを通じた参加者との交流で、久田氏は何を感じているのだろうか。

「何が一番驚いたかというと最初、生徒は集まらないんじゃないかと思っていたのに、あっという間に満席になったことです」とその表情からも予想以上の反応だったことが分かる。久田氏いわく、参加者がいるとしても建築に関係する学生ばかりだろうと考えていた。でも、蓋を開けると学生よりも一般の方の方が多く、これにもまた驚いたという。良いのか悪いのか広告用に「DIYリノベーションスクール」のハガキを1万枚刷ったが、配布する間もなく満席になったので大量にあまることとなった。

一般的なワークショップは、だいたい2時間程度で完成させて終了となるが、このスクールは全21回とも朝10時〜夕方5時までビッシリ現場作業を行う。1回目の参加で懲りて、2回目以降は続かないだろう、毎回新しい方ばかりになるのではと思っていたという。でも実際は、単発で参加する新しい方は極わずかで、毎回同じ顔ぶれが揃うという状況なのだ。この様子をみて久田氏は「DIYをやりたいと思っている人が、こんなにたくさんいるんだ」と再び驚いたという。

この状況から、大阪・なんばに店舗を構えるDIYショップの「DIY FACTORY OSAKA」と、9株式会社がDIYやリノベーションに関するスクールを開校しようと前向きに検討を始めたという。現在、実施している「DIYリノベーションスクール」では、技術をメインに指導しているが、今度はそれに加えて設計図がひけるように教えていきたいという。早ければ2015年4月には、生徒の募集をかけたいとの考えだ。

リノベーション住宅推進協議会に加盟している同社は、毎月行われる会合でスクール開催のことを伝えたという。だが、そこでの意見は「私たちの仕事が減るので、やめて欲しい」というものだったそうだ。これに対し久田氏は「世の中に、料理学校はたくさんあるが、それでレストランや飲食店が潰れただろうか。それと同じ話しだと思うし、それで潰れるなら存在意義がなかっただけのことです」と返答したという。

これから、このDIYリノベーション業界がどのように変化していくのか、今後の動向に注目したい。

次回は、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2014」の受賞作品についての紹介です。

取材協力:9株式会社
http://www.ninedesign.jp/

久田氏が作業説明を行っている「DIYリノベショーンスクール」の作業風景。久田氏が作業説明を行っている「DIYリノベショーンスクール」の作業風景。

2015年 02月03日 11時09分