不動産業におけるBCP(事業継続計画)について考える

感染症対策用のマニュアルや事業再開に向けてのチェックリスト感染症対策用のマニュアルや事業再開に向けてのチェックリスト

新型コロナウイルスの影響を受けて不動産業者も対策を講じる必要がでてきた。

株式会社イチイの荻野社長は、4月の政府の緊急事態宣言を受けて、大手企業が時差出勤の励行やリモートワーク、対面での会議の禁止などの対策を発表し始めていた頃から、中小不動産業者も「自社が感染症に対してどのように考えているのかについて、まず経営者が決断して取り組み、それを社内外に情報発信することからすべての対策は始まると考え、その基本方針を策定」したという。
荻野社長は福島県いわき市出身で、東日本大震災を経験し「やはり事が起こってから対応するのではなく、事が起こる前に準備しておく必要があると痛感した」ことから、特に東京ではいずれ直下型の地震が発生するといわれていたので、危機管理マニュアルを作り始めていた。
そこで“感染症対応賃貸不動産管理業マニュアル”を作成。さらに、緊急事態宣言が解除され事業が再開されるにあたり「感染の危険性を払拭するための対策なしにはお客様と従業員の安全を守ることはできない」ということから、事業と職場再開にあたってのチェックリスト(BCP)や店頭ポスターを作成し、社内で徹底するとともに、会社が加盟しているシャーメゾンショップや全宅連にそのノウハウを提供した。

外国人向け賃貸住宅斡旋の先駆者として

外国人向け賃貸マニュアル他著作も多数外国人向け賃貸マニュアル他著作も多数

同社は1980年の創業時から、外国人向け賃貸住宅の斡旋に取り組んできた。その背景を社長に聞くと、学生時代にアメリカ大陸をバスで横断し、ホームステイをしたりコルピングハウスという多様な人たちを受け入れてくれる安宿に泊まったり、イギリスに渡り長期滞在する日本人のために宿泊施設やアルバイト先の紹介などの情報センターを立ち上げようと情報収集をしていたそうだ。

帰国後、最初のお客さんは国際交流基金が招待し、東大に客員教授として来ていたスリランカ人だった。当時の外国人問題としてあったのは国籍による差別だったとのこと。

「外国人向けにビジネスをしている会社は、外国人といえば家賃が50万円以上の部屋で、大使館や商社などに勤める白人のことだと話していました。しかし、困っているのは中近東や東南アジアの人で、国際交流基金の招待で来た優秀な方でも、彼らが単独で部屋を探しに行くと外国人だからと言って断られてしまい、国として恥ずかしいなと思いました」

そのため、通訳として一緒に不動産会社に行って管理会社や大家さんの理解を得たり、「私が責任を持って対応します」ということで信用してもらうことを通じて、国際交流基金の研究者や日本語学校に通う留学生の賃貸住宅の斡旋を行ってきた。

今でも入居後のサポートはすべて自社で行い、「J&Fハウス」という日本人と外国人のコミュニティ型シェアハウスを約600室、マンスリー賃貸マンションを約700室、さらに横浜国大の留学生会館の運営も受託し、全部合わせて年間約1,500人程度の外国人の入居斡旋を、20名のスタッフが4か国語対応で行っている。
さらに自社で培ったノウハウを業界や行政にも提供し、①日管協の留学生のためのインターシップ制度の創設②国交省発行の「外国人の民間賃貸住宅における居住安定のためのガイドライン」「 8カ国語の部屋探しのガイドブック』『外国人住まい方ガイド-DVD」などの作成に大きな貢献をした。

高齢者問題への取り組み‐分散型サ高住構想‐

高齢者のための住宅仲介の仕組み高齢者のための住宅仲介の仕組み

現在、最も力を入れているのが高齢者への住宅の提供だ。
通所介護事業所「デイステーションあさがお」を運営する一方で、2007年から高齢者向け住宅の仲介事業を開始し、元気な高齢者のためにサ高住や大手ハウスメーカーが供給する自立型の高齢者向け住宅の斡旋を積極的に行っている。
さらに荻野社長がその先に見据えているのが、“分散型サ高住”という構想。それは「サ高住のように一つの建物の中で高齢者向けのサービスを完結するのではなく、地域に分散している既存のアパートやマンションの中の1室を束ねてサービスを外付けで提供するという考え方」で、「高齢になれば1階の方がいいはずなので、1階の部屋が空いたら、セーフティネット住宅の助成金を活用してバリアフリーの工事をして住環境を整えた上で上層階から移ってもらい、それに見守りサービスをつける」という内容だ。
そして「半径500メートル以内に1人の管理者を置き、分散型サ高住というよりも、“エリアマネージャー”として不動産会社が地域の安心や安全を担保する担い手となり、地域コミュニティづくりに寄与する役割を果たすことができるのではないか」と考えている。

地域の不動産会社の出番がやってきた

多様性を認め合う社会を実現したいという思いを込めた『+Life』多様性を認め合う社会を実現したいという思いを込めた『+Life』

同社は『+Life』という新たなブランディングを始めた。そこに“「人は一人ひとり違う」、そんな多様性を認め合う社会を実現したい”という理念を込めたという。
その沿革を振り返ると、外国人と日本人の共生住宅の提供、高齢者、障がい者、子育て世帯への住宅の斡旋、また賃貸市場ではマイノリティとされ入居が難しかったペット愛好家のために、ペット可賃貸住宅専門の会社を立ち上げ、動物たちとの共生もはかってきた。そして「そのような賃貸住宅の居住者が地域の一員として地域コミュニティに参加できるような仕組みづくりを担っていきたい」と荻野社長は語る。

「新しく引っ越してきた人がいきなり地域コミュニティに参加し地域に溶け込むのは、間に入る人がいないと難しいと思います。一方で災害が増えていく状況の中で、そのような人たちを孤立させたままにすることは社会にとっても負のコストになります。そこで地域コミュニティへの紹介者の役割を不動産会社が果たせると思うし、不動産会社の出番がやってきたと思います。“サザエさん”に出てくる花沢不動産のような、何かあればあそこに聞けばいいという、お世話好きでまちの情報屋さんのような存在が地域には必要です。私は建物の管理をするだけではなく、大家さんや入居者に地域の住民を含めたコミュニティを管理する会社になりたいと思っています。日本人の中にある、思いやりやお互いさまといった助け合いのコミュニティがあることが住まいを選ぶ時の基準になれば、素晴らしいことだと思います」という。

コロナ禍という困難な状況の中、地域の不動産会社の役割はさらに重要になっていくだろう。

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サービスや商品別に専門性を高めている
株式会社イチイのホームページ
https://ichii-re.co.jp/

外国人対応の賃貸仲介を営み、シェアハウスを運営する
株式会社ジャフプラザ
http://www.jafplaza.com/index.html

全国の老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・シニア向け賃貸住宅の情報サイト
グッドライフシニア
https://goodlifesenior.com/

ペット共生賃貸物件の運営を行っている
株式会社アドバンスネット
https://www.advance-real.co.jp/about/

2020年 09月11日 11時05分