2015年、ますます注目のDIY

もし住宅市場に流行語大賞なるものがあれば、「DIY」は間違いなく昨年2014年を代表するキーワードの1つだったはずだ。

かつてDIYといえば、犬小屋やウッドデッキを作ったりするようなお父さんの日曜大工というイメージだった。しかし、いまやDIYシーンの主役はDIY女子と言われる20代〜30代の若い女性達である。インターネットで探せば、DIY女子部と名乗る若い女性のグループやサークルが、ワークショップを開いたりノウハウを交換したり自分の作品を披露したりする姿を多数見つけることが出来る。
やっている内容も、壁紙の張替え・壁の塗装・収納の造作・家具のリメイクなどインテリアのデコレーションレベルから、それこそ古い家一軒・マンション一戸をまるごとリノベーションするような本格的なものまで様々だ。

あくまで個人的な体感値としてだが、マスメディア・ネットメディア・SNSと、多層なメディアでの露出が年の後半にかけて高まっていることから、2015年もDIYはますます存在感を強めるだろうと確信している。

「DIY女子」でのGoogle画像検索結果画面「DIY女子」でのGoogle画像検索結果画面

DIYブームの背景

住宅市場において、若い女性が牽引する新しいDIYがブームとまで呼べるような今日の状況を用意した背景としては、いくつかの要因が考えられる。

①技術科を学んだ少女たち
1989年から中学校での技術科の共修が始まり、女子も「技術とものづくり」のカリュキュラムを受けることになった。本格的な技術を修得するためにはそこに割かれる時間数は十分とは言えないだろうが、それでも1977年生まれ(今年38歳)より下の世代の女子が、それまで女子には縁がなかった木材加工や金属加工に触れる機会を持つようになった。逆に男子は家庭科が必修になり、技術科の授業数は大幅に減少している。
社会に出る頃からずっと不況で「失われた20年」を生きてきたこの世代は、しかし豊かな時代に生まれ育ったゆえ、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさや自分らしさを重視する傾向が知られる。ユニクロやしまむらで買った服に自分で刺繍したりワッペンをつけたり、携帯電話やスマートフォンをビーズで飾るなど、いわゆる「デコ」(デコレーション)を得意とする世代である。主婦になった層では、趣味が高じてクラフト作家になり手工芸作品をネットやバザーで売る人も増えている。

②カスタマイズ可能な賃貸住宅
空室率に悩む賃貸住宅市場では、2011年くらいから「カスタマイズ」が注目を集めている。壁紙が選べる程度から始まった賃貸カスタマイズの流れが急速に進化し、今では入居者によるDIYを原状回復義務なしで受け入れる賃貸物件が登場するに至っている。
例えばUR都市機構では、先に導入した建築家によるリノベーションに続き、「DIY住宅」「カスタマイズUR」など入居者のDIYによるカスタマイズ可能物件を積極的に押し出している。SUUMOでは「賃貸カスタマイズ」という特設ページを開設、「DIYP」や「カスタマイズ賃貸」など、DIY可能な物件に特化した不動産ポータルサイトも登場している。国土交通省も個人住宅の賃貸化促進策として入居者によるDIYに期待を寄せ、2014年3月には「借主負担DIY型」の賃貸借契約ガイドラインを発表した。

賃貸住宅カスタマイズは、2000年前後から始まった中古住宅のリノベーションの文脈から発生した新しいニーズである。俯瞰的視点で見ればいまのDIYブームは、「フローからストックへ」と言われる新築至上主義から中古活用へ軸足を移しつつあるわが国の住宅市場の転換と同一の軌道にある。

③新しい感性のサプライヤー
DIYブームを後押ししているのが、若い世代の感覚に合ったDIY用のパーツやツールのサプライヤーの登場である。
東京R不動産は2010年に「R不動産toolbox」というECサイトを立ち上げ、量販店で売っているような大量生産品ではないそれぞれ個性的なストーリーを持つリノベーション向きの建材やパーツの販売を始め、この分野にまず先鞭をつけた。
それ以降、貼っても剥がせる輸入壁紙で壁に対する新しいニーズを開拓した「WALPA」、間伐材の活用策として、既存の床の上に並べるだけで無垢材のフローリングが作れる「ユカハリ・タイル」を開発した岡山県の西粟倉村の「ニシアワー」、一見カフェか雑貨屋さんと思うようなおしゃれな空間で工具の販売やワークショップを開く「DIY FACTORY OSAKA」など、小さいながらも個性の光るサプライヤーが台頭する。大企業のプレイヤーでは、賃貸住宅の石膏ボードの壁に簡単に取り付けられる無印良品の棚類、組み合わせで使えるIKEAの商品構成などなど。
これまでの郊外の巨大ホームセンターとは感性の違う供給者達が、若いDIYユーザーの心を踊らせている。

住まいに手を入れたいユーザー・手を入れることが必要なハコ・手を入れるための道具。これらの要素が揃ったことが、現在のDIYブームの背景にある。

「自分の空間を編集するための道具箱」というコンセプトでDIYブームに先鞭をつけたR不動産toolbox。
「自分の空間を編集するための道具箱」というコンセプトでDIYブームに先鞭をつけたR不動産toolbox。

オルタナティブ・カルチャーとしてのDIY的ライフスタイル

DIYがブームだと言うと、すぐに廃れてしまう一時的な流行のような印象を受けるかもしれない。またそれよりも、消費税増税や不景気、非正規雇用・貧困などと安直に結びつけて節約術と理解する向きもあるかもしれない。そう言えば、セレブタレントの森泉が意外なDIY術を披露するテレビ番組のタイトルは「幸せ!ボンビーガール」(日本テレビ)だったか。

しかしそれらの見方はいずれも誤りである。ネットや様々なメディアに登場するDIY女子はごく普通の若いOLや主婦たちだ。同番組の視聴者も必ずしも貧困層というわけでは無論ない。もちろんお金の節約はDIYの動機になり得るが、お金だけに気を取られているとDIYが垣間見せているコトの本質を見落としてしまう。
番組が掲げる「お金がなくても幸せに暮らそう!」というコンセプトには、「お金をかければ幸せになれるというわけではない」という新しい消費価値観の提案がある。

このような新しい消費価値観の出現は、日本だけの傾向ではない。正確に言えば、アメリカ発で世界の先進国に広がりつつある、「ニュー・ノーマル」とか「スペンド・シフト」などの言葉で表される新しい消費スタイルである。特にリーマンショック前後くらいから注目を集めるようになった。
衣食住について例をあげると、大手のチェーン店のコーヒーではなく、トレーサビリティにこだわった豆を自家焙煎して一杯一杯丁寧にドリップして提供するサードウェーブコーヒーを愛し、ファーストフードではなく地産地消・オーガニックにこだわるレストラン・カフェを支持し、ファーマーズマーケットで野菜や果物を仕入れ自家製ピクルスやジャムを作る。洋服はファストファッションではなく古着やインディペンデントのブランドを好み、家はリサイクルショップで味のある古い建材や設備、時にはストリートに捨てられた廃品を調達して、DIYで古い一戸建てやロフトをリノベーションする。クルマは持たず徒歩と自転車で暮らせるまちに住む等。

複数の研究者が指摘しているところをまとめると、このような傾向は単に日常の消費行動だけに収まる概念ではないことが分かる。根底にあるのは、1960〜70年代のヒッピーのカウンターカルチャーの流れを汲んだ、拝金主義や環境破壊型の大量生産・大量消費に対して一定の距離を取るライフスタイルと価値観である。リベラル・クリエイティブ・エシカル・エココンシャス・ローカル・ダイバーシティ・コミュニティ・シェアなどが特徴的なキーワードとしてあげられる。

そのようなライフスタイルの人々を惹きつける、ブルックリンやポートランドのようなアメリカの人気都市のカルチャーは、“ヒップ(hip)”という言葉で形容される。
それらの都市のヒップカルチャーを牽引する“ヒップスター”たちの生態を紹介した佐久間裕美子著『ヒップな生活革命』(朝日出版社)によれば、ヒップとは「音楽、アート、政治、社会、食や自然に対する考え方、スタイルといった多くの分野を横断するある種の『姿勢』を示すだけでなく、もうちょっと感覚的な『センス』をも含み」と、クールで先端的な暮らし方の様を指す。

今のヒップな文化がヒッピー文化の末裔にあると言っても、両者の具体的な暮らし方は大きく異なるということには注意が必要である。
「Love & Peace」や「Back to Nature」のスローガンで知られるヒッピー文化は、近代文明や国家を否定し、社会に背を向けたコミューンを作り自給自足的な生活を志向するようなラディカルなムーブメントだった。それに対して現代のヒップは、自然志向やLGBTなどのリベラルな思想を踏襲しつつも、消費社会の主流とも共存している。大量消費を追求した産業やテクノロジーの恩恵を受けつつ、それでも生活のすべてを消費(=産業)に明け渡すわけではないという、ハイブリッド型の新しい暮らし方である。
前者がカウンター(対抗)・カルチャーだとすれば、後者はオルタナティブ(代替)・カルチャーと言えるだろう。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の授業が元になったファブラボ・プロジェクトが世界に広げたパーソナル・ファブリケーションという考え方は、ものづくり革命とも呼ばれ、ヒップなDIY的カルチャーを象徴的に先導している。
ファブラボ・プロジェクトとは、「個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化を醸成すること」(ファブラボHPより)をビジョンに掲げる活動である。3Dプリンターやレーザーカッターなど多様な工作機械を備えた市民工房(ファブラボ)は、今では世界20国以上・50か所以上に拡がっている。ちなみに「ファブ」には、「Fabrication」(ものづくり)と「Fabulous」(素晴らしい・楽しい)の2つの意味がかけられているのだそうだ。

今のDIY人気が一過性のブームでないというのは、先進国に共通して台頭している先鋭的なヒップカルチャーと通底し、ファブラボに象徴されるDIY的とでも呼ぶべきスピリットを体現しているからである。

ストリートで拾った廃品なども活用して、住民が友達とDIYで仕上げたブルックリンのロフト。ストリートで拾った廃品なども活用して、住民が友達とDIYで仕上げたブルックリンのロフト。

ヒップカルチャーと日本文化

鈴木大拙『ZEN AND JAPANEASE CULUTURE』鈴木大拙『ZEN AND JAPANEASE CULUTURE』

ここで一点強調しておかなければならないことがある。それは、アメリカで注目されているDIY的なヒップカルチャーは、元を辿れば日本文化の影響を受けているという事実である。

いまや全米で若者が住みたい街の1位にもランキングされるポートランド市はヒッピー文化が色濃く残る都市だが、1960〜70年代のサンフランシスコを震源地とするアメリカのヒッピー文化に、禅と日本文化が大きな影響を与えたことはよく知られている。50年代後期にコロンビア大学に籍を置いていた仏教学者の鈴木大拙が英語で著した書籍は、当時のヒッピー達の必読書だったそうである。ちなみに、ヒップと言われる人たちの間で絶大な人気を誇るApple製品の生みの親スティーブ・ジョブズも、70年代に禅に傾倒していた1人である。

前述の佐久間氏は、日本文化に影響を受けた北カリフォルニアの人々が食のアルティザン文化を生み出し、それがポートランドを経由してブルックリンで開花し、全米の食やクラフトのルネッサンスにつながった、とアメリカの最前線カルチャーにおける日本文化の位置づけを分析している。
余談ながら、私がポートランドで取材したあるコーヒーロースターの経営者は、日本の燕三条で買ったという金物工具を誇らしげに見せながら、日本の職人の技を絶賛してくれた。

このように、今日本の住宅市場で台頭してきたDIYムーブメントは、先進国の感性豊かな若い世代に拡がっているヒップなライフスタイルとしてだけでなく、根底で日本文化とも親和性が高い事象と理解すべきなのである。

戦後日本の住宅市場の歴史は、住まいの商品化の歴史だったと言ってもいい。特に高度経済成長期の後、分譲住宅のシェアが高まり、賃貸住宅はプレハブアパートとワンルームマンションが市場を席巻し、注文住宅市場でも規格化・工業化による商品化が進んできた。
その過程で住宅産業は、まるで自動車や家電製品など耐久消費財を手に入れるかのような感覚の住まい手を増やしてきた。新築住宅の傷ひとつない完璧さに神経質なまでにこだわる消費者は、手入れを必要としない永遠の新しさ(という幻想)を求め、住み始めた後は不具合が出るまで家に手をかけることはない。そのあげくその家は愛着を持たれることがなく30年そこらで取り壊されてしまう。家と住まい手のかように歪な関係性が、商品化した住宅と消費者化した住まい手が行き着いた場所だ。

しかし、それは日本人の住まいに対する態度の本来の姿ではない。私の記憶によれば、1960〜70年代の初めごろにはまだどこの家庭でも簡単な大工道具を常備していて、木建具の不具合は父親たちがカンナがけをして直していたし、障子や襖は定期的に母親達によって張り替えられていた。古い時代の農村の茅葺屋根を持ち出すまでもなく、つい40年くらい前までは日本でもDIY的な住まい方は普通だったのだ。

日本の家と住まい手の関係性を修復するDIY

アメリカで革命と称されるほどのライフスタイルの変化が、豊かな時代に生まれ育った若い日本人の感性と共鳴している。彼らは、親の世代が追い求めたアメリカ型大量消費社会の夢から覚めようとしているのだと思う。あるいは、否応なく商品化されてしまう生活空間とうまく折り合いをつけようとしているという表現が適当かもしれない。DIYブームは、成熟した日本に興りつつある新しい暮らし方の潮流の波頭なのだ。

お金では手に入れることが出来ない何かを自分の手で創りだせる。空間の消費者に過ぎなかった自分が本当の意味で住まい手になれる。DIYについてこのような見立ては十分に成立するだろう。
それと同時に、DIYの動機はもっとシンプルに直感的であるようにも思う。パーティで乾杯するように電動工具を高く掲げるDIY女子の笑顔は、小さな子供が上手に積み木を積み上げた瞬間に見せる得意満面の破顔に似ている。それは、ものづくりの身体性と創造性に対するプリミティブな悦楽だ。きわめて個人的な小さな経験だが、初めて自転車に乗れるようになった子供が新しい風景と速度を獲得するように、住空間に対する見方や接し方を変える大きな経験だ。

2015年、様々なメディアでDIYの話題に接する機会はますます増えるはずだ。しかし、DIYが住宅市場の隅々まで浸透するとまでは言わない。単純に金額換算してしまえば、建設業界をひっくり返すような市場規模にはならないことは確かだろう。だがこの小さくて大きな生活革命が、商品化/消費者化によって抉らせてしまった日本人と住まいの関係性を解きほぐし、もう一度結びなおしてしていくことを私は期待している。

熊本の築100年前後の町屋をDIYでリノベーションしていく様子。</br>(写真は、ベルリンから来た友人と西粟倉の檜材を貼っているところ)熊本の築100年前後の町屋をDIYでリノベーションしていく様子。
(写真は、ベルリンから来た友人と西粟倉の檜材を貼っているところ)

2015年 01月16日 11時08分