「第二の姉歯事件」になる可能性を指摘する声も

横浜市都筑区で発生したマンション傾斜問題は社会問題としても大きく取り上げられている(写真はイメージ)横浜市都筑区で発生したマンション傾斜問題は社会問題としても大きく取り上げられている(写真はイメージ)

連日大きく報道されている、横浜市都筑区で発生したマンション傾斜問題。

問題がどのように進展し、解決するかは今後の調査の進捗を見守る必要があるが、現状では施工を請け負った三井住友建設が杭の未到達が判明した場所の支持層までの深さが16mであるのに対し、杭の設計段階で14mと見込んで発注していたことが既に判明しており、状況は単に当該業務の担当者のずさんな作業に起因するとされる説明のレベルを超えた域に達し始めている。

原因が特定されない以上、この物件に特有の事象によってこのような事態になったのか、他にも同様の事案があるのか(既に横浜市の公共施設と中学校、釧路市の道営住宅でデータ流用が判明)についても、どこまで広がるのか現時点では不明な点も多く、そのことが余計に「不安」を呼ぶことになって、消費者の住宅購入意欲を大きく減退させてしまうことになりかねない。事態の収拾を図るためにも一刻も早く原因究明することが求められる。

仮に、今後の調査によって当該物件以外にも杭の施工不良(※)が見つかる事態となれば「第二の姉歯事件」として影響が拡大する可能性が指摘されている。姉歯事件では、当時の分譲主であったヒューザーの件を中心に206件が調査対象となり、そのうち43件で耐震計算書の偽装が発見されたが、今回は旭化成建材が関わった約3040件の建物(マンションだけでなく多くの公共施設などが含まれている)が対象となることから、その影響は姉歯事件の規模ではないことが明らかだ。そのうち、データを改ざんしたとされる旭化成建材の担当者が関わった41件と、病院や学校など公共施設の調査を最優先するという意向が公表されているが、既に担当者が異なる物件でもデータ流用が判明していることから、可及的速やかに全物件の調査を進める必要がある。
※ データを流用すること自体由々しき事実だが、それをもって直ちに施工不良とは断じられない点に留意されたい

これまでの経緯

2014年11月:当該物件のウエストコート(西棟)で傾斜に気付いた住民が売主に相談。
「東日本大震災による歪みの可能性」との説明。
2015年6月:住民の依頼で西棟周辺のボーリング調査実施。
2015年9月:横浜市および住民に対して、杭の一部が支持層に届いていない旨の報告。
2015年10月:杭の施工記録にデータの転用、改ざんがあった旨の報告。
2015年10月9日:住民説明会で「補修」を前提とした説明および提案。
2015年10月15日:住民説明会で「全棟建て替え」を視野に入れた説明および提案。
2015年10月16日:杭の先端に使用するセメント量データの偽装が判明。
2015年10月20日:杭打ちを担当した旭化成建材と親会社の旭化成が謝罪会見。
2015年10月25日:三井住友建設が杭の長さを誤って発注していたことが判明、ミスを認める。
2015年10月28日:三井住友建設が傾斜した棟で新たな施工不良が見つかっていない旨の報告。
2015年10月29日:旭化成建材が手掛けた物件で杭打ちデータの改ざんが疑われる物件が、
全国で少なくとも数十件規模に上ることが判明。
(※2015年10月29日までに公表された報告・報道などをもとに時系列表記)

事態の動きを見る限り、調査に時間がかかり、解決に向けての動きにも大きな進展がないことがわかる。現時点では全棟建て替えおよび市場で最も高い時期の価格で買い取るとの提案が分譲主から為されているが、交渉は端緒にもついておらず、事態の長期化が懸念される状況にある。
また10月29日時点で、旭化成建材が手掛けた物件のうち、全国で数十件のデータ改ざんが疑われており、少なくとも横浜の物件を含めて4件でデータの改ざん(担当者も異なる)が判明している。

最も大きな問題は、長期化してマンションに対する漠然とした不安感が増大すること

当該物件の傾斜が大きな問題となる1年ほど前、同じ横浜市でマンションが傾くという事態が発生している。こちらの物件(複数棟で構成されている)では傾いた物件から既に居住者全員が退去しているが、建て替えや買取などの話し合いは現在も継続しており、協議は完全な決着を見ていない(全戸を対象として購入金額で買い取るとの提案は分譲主から為されている)。傾斜が認められない他の棟は補修を実施する予定だという。

この例でも明らかなとおり、問題が公表されてから実際に解決策が提示され、交渉~合意のプロセスを経て自宅を取り戻すまでには相当の時間が必要になる。特に総戸数が多いマンションともなれば、居住者の事情も千差万別で、簡単に退去~買取もしくは建て替え~再入居もしくは再分譲という訳にはいかず、3~4年程度の「仮住まい」を余儀なくされる可能性がある。これは居住者にとって大きなストレスになるし、その数年間で個人の事情が変われば再入居できなくなることもあるだろう。つまり元通り=居住者全員を以前の生活に戻すことは極めて困難で、解決までの時間が長くなればなるほど住宅購入に対する不安が増大し、明日は我が身と考える人が増えれば新築・中古に関わらず住宅取得意欲が低下することになりかねない。

市場は五輪を控えた再開発やインバウンド効果への期待などから地価が回復し、ゼネコンの人手不足などもあってマンション価格が上昇、都心など市街地中心部にあっては急騰とも言える状況にあるが、今回の事態は、安心して購入できないという点で根が深く、それ故に住宅購入に対する意欲を相当期間減退させかねない。安心・安全が人為的に脅かされる事態から可及的速やかに脱する必要がある。

この物件に限った問題の解決策は3つ

居住者が安心して住み続けることができる「住まい」を売主が再度提供することでしか、事態の収拾は図れない(写真はイメージ)居住者が安心して住み続けることができる「住まい」を売主が再度提供することでしか、事態の収拾は図れない(写真はイメージ)

この状況で最も優先しなければならないのは、居住者への保証を含めた「安全な家を取り戻す」という作業であることは疑いの余地がない。そこに暮らしていた居住者が安心して住み続けることができる「住まい」を売主が再度提供することでしか、事態の収拾は図れないのである。

もちろん1つは買取という手段もあるが、単にお金で解決すれば良いとなれば、個人的には事態の根本的な解決と今後の対策が後手に回ってしまうということ以上に、「住まい」の作り手としての責任が全うできないという感覚が拭えない。
「住まい」を売る、提供するということは、そこに暮らす人の幸せを生み出すことだと考えれば、再び安心して暮らすことができる「住まい」を提供することこそ、デベロッパーとしての社会的責任を果たすことに他ならないからだ。現実的な手段としては、分譲主が全棟建て替えという思い切った提案を行ったことでもあり、これを実施することを前提として、希望者には買取という対応も行うということになろう。

もう1つ、杭を補修・補強するという方法もあるにはあるが、マンションという巨大な建造物をジャッキアップして工事を行うのは技術的には可能でも、コストなどを考慮すると事実上困難である。また、2~3階まで柱・梁・構造壁だけを残して他を解体し、作業スペースを確保して杭を打ち直すことも手法としてはあるが、こちらも現実的とは言えない。何より、このような手法で補修された物件の将来の資産性を考えれば、建て替えという選択肢の蓋然性が高まるものと推察される。

構造的な課題を解決しなければ、同様の事態が繰り返される可能性

物件の居住者に関する解決の手段は上記のように想定されるが、もう一つ、再びこのような事態が発生しないようにするために、何が必要かという視点での解決策=抜本的な対策が必要であることは衆目の一致するところだろう。

具体的には国土交通省が制度上の瑕疵を塞いで、故意でも過失でも今後同様の事態が発生することのないよう規制を強化することが予想されるが、現場に複数名を配置してダブルチェック、トリプルチェックを実施したとしても、書面で対応するだけでは根本的な解決にはならないというのが大方の見方だ。つまりマニュアル的な規制強化策だけでは、このような事態を招くことになった建設業界が抱える構造的な課題を解決できないのである。

建設業界の構造的な課題とは、ゼネコンの元請け、下請け、さらにその下に存在する孫請けという「受け皿」の問題に帰結する。作業が細分化されればされるほど各々の専業受け手に丸ごと移管され、その業務自体を「受け皿」全体で把握し管理し、チェックすることが難しくなる。工期やコスト、資材管理など、守らなければならないハードルが増えれば、それだけ現場のプレッシャーは高まり、それを逃れようとする事態が発生する可能性も相応に高くなる。元請けから下請けへ、下請けから孫請けへとなれば、立場の強いものがリスクごと受け渡すこともあり得べしと考えなければならない。特にマンションの場合は購入した世帯の生活に直接影響するため、工期厳守という前提がある。もちろん「納品時期」を理解した上で実際の作業にかかるのだが、もともと現実的ではない短期工事の指示があっても、それを守らなければというプレッシャーは現場にのしかかる。

このような状況を打開するためには、住宅という大多数の人にとって人生最大の買物の「商品」としての「品質」が疎かにならないよう、また疎かにされないよう、まず適正な工期に基づく適正なコスト計算が為される仕組みが求められる。競争原理の中で現在の仕組みが出来上がったという歴史的な経緯もあるし、これ以上コストを上げては住宅が買えなくなってしまうという懸念が高まることも予想されるが、ひとたび住宅の品質を維持出来ない事態が発生すれば(今回がまさにその事態である)、その社会的・経済的損失は信頼という無形の資産も含めて、建築にかかるコストの比ではないことは誰の目にも明らかである。
誰もが安全に、安心して生活し利用できるよう、社会資本としての住宅・建物を建設する業界の構造にメスを入れる時が迫っている。

建設業界の構造的な課題とは、ゼネコンの元請け、下請け、さらにその下に存在する孫請けという「受け皿」の問題に帰結する</br>(写真はイメージ)建設業界の構造的な課題とは、ゼネコンの元請け、下請け、さらにその下に存在する孫請けという「受け皿」の問題に帰結する
(写真はイメージ)

2015年 10月30日 12時30分