2013年は“アベノミクス”で始まった

アベノミクスでどう不動産市場は変わっていくか?アベノミクスでどう不動産市場は変わっていくか?

2012年末に安倍政権が誕生して丸9ヵ月。10月1日には昨年の衆議院解散~総選挙の直接のきっかけとなった消費増税に対する見解が示され、減税措置とパッケージにして予定通り2014年4月から8%にすることも公表された。
東京オリンピック招致も(結果的に)引き当てるなど、安倍首相は“持っている”人なのかも知れないが、それは巷間“アベノミクス”と言われる金融と財政と今後の経済成長にかかわる戦略的な政策構想が(首相周辺から)打ち出され、それが広く国内外に知られるようになったことが要因なのではないかと考えている。
ポピュリズムとは言わないまでも、政権運営においてわかりやすさはやはり重要な要素であることを実感する。

ご存じの通り、アベノミクスは
①大胆な金融緩和 ②機動的な財政出動 ③民間投資を再び喚起するための成長戦略 
の“3本の矢”を効果的に放つことによって、株価や為替相場などストック価格に劇的な効果をもたらしている。
安倍政権が発足した昨年12月26日の円/ドル相場は1ドル=85.35円前後だったのに対して、この原稿を執筆している10月3日は1ドル=97.65円前後と14.4%円高が是正され、日経平均株価も昨年12月26日の10,230.36円から10月3日時点で14,157.25円へと38.4%も上昇している(日経平均株価はいずれも終値)。

筆者は、不動産市場について様々な場面で市況を説明する機会や取材を受ける機会があるが、特に頻繁に聞かれるのは「アベノミクスで不動産価格はどうなるか」および「消費増税前後で不動産を購入するのはどちらが得か」、「東京オリンピックは都心不動産価格にどのような影響を与えるか」などである。
このうち、オリンピック関連については開催が2020年ということもあり、不確定要素しかないのだが、先の2点についてはアベノミクスが契機となった市場変化に対する質問で、その意味では、今後の市場動向はアベノミクスの成否次第とも言える。

“アベノミクス”は不動産市況にプラスに働き始めている?

今年の春以降、新聞や雑誌でアベノミクスの6文字を見かけない日はほぼないが、“第1の矢”である「大胆な金融緩和」は、日銀の正副総裁人事とその後の国債大量購入を骨子とする金融政策の実施によって、方針が一気に具体化されたことは記憶に新しい。
“第2・第3の矢”である「機動的な財政出動」および「成長戦略」については、今のところ明確かつ具体的な成果は示されていないが、年末の税制改正大綱に盛り込まれるとされる法人税の減税や設備投資減税、給与を引き上げた法人への減税など、一定の効果がありそうなメニューが用意されていることから、期待も含めて今後の成果および成果が反映された統計データの公表が待たれる。

もちろん一般給与所得者の収入全般が上昇しないことには、不動産価格のみ上昇することで実需の腰折れを招くことは想像に難くないが、国債の大量発行による財政規律の緩みや、実際に給与所得者の収入が増大するのかについての懸念が依然として取り沙汰されているものの、現段階では“第1の矢”である金融緩和によっても長期金利が0.6%台と低位を維持していること(4月4日の黒田バズーカ発射直後は大きく動いて短期的なリスクとなったが)などを好感して、経済環境は改善しつつあるとの認識が不動産市場のコンセンサスとなっており、この期を逃すまいとの動きも見え始めている。

つまり東京オリンピック招致に成功した安倍首相の“引きの強さ”への期待込みで、不動産市場はアベノミクスによる景気の上振れ(に伴う不動産価格の先高観)を財布の紐を緩ませる絶好の機会と捉えているようだ。

“アベノミクス後”こそが重要

さて、先に頻繁に聞かれると記した「アベノミクスで不動産価格はどうなるか」と、「消費増税前後で不動産を購入するのはどちらが得か」との質問に対する回答だが、不動産価格の今後については、地価が自律的に回復する基調で推移していて不動産価格にもDIレベルでの先高観があり、それこそアベノミクスによる株価上昇によって不動産に徐々にお金が入り始めていることは事実である。
都心や市街地中心部で高額取引される不動産も活性化(相続税対策である側面も大きい)しており、価格が上がること=デフレ脱却に向けて好感できること、と一義的に考えるのであれば、市況は改善する方向に進んでいると言えるだろう。
また、消費増税前後の不動産購入については、そもそも購入価格や頭金相当額の準備状況う、ローン元本などが異なるため、消費増税分が住宅ローン減税分を上回るか否かで判断すべきことである。
具体的には、普及価格帯もしくは億ションを購入する場合には消費増税前の購入が効果的であるケースがあり、5000万円以上1億円以下の価格帯のマンションを購入する場合は住宅ローンの元金が10年間4000万円を下回らない前提で、住宅ローン減税の恩恵を受けたほうが良いケースが増えるという回答になる。

実は、これらの回答の前提となる最大の懸案事項は“アベノミクス後”だと筆者は考えている。
消費増税が2段階で実施されることが予定されているため、経過措置の実施を考慮すると2015年春までの約1年半は不動産購入に対する意欲・関心が高まり、需要が強含む蓋然性があっても、市場の連続性を考慮すれば2015年10月以降も如何にして継続的かつ安定的に市場の拡大を目指すか、という命題について現段階で対策を検討している先は決して多くはないのではないだろうか。
2段階の消費増税後も、オリンピック景気が東京と周辺エリアの不動産市況を下支えしてくれるだろうことは予測の範囲内としても、市場全般が消費増税の反動を受けないということはあり得ない。また消費税が10%に引き上げられれば重税感は当然強くなるため、高額消費である不動産購入についてはネガティブなイメージ=需要を先食いした分だけ売れにくくなる、という状況は避けられないだろう。

不動産業界にとってアベノミクスよりも重視しなければならないこと、それは“アベノミクス後”を見据えて、景況感に左右されにくい不動産市場を構築することである。
そんなことできるのかと言われそうだが、木密地域の解消を目的とした再開発や、交通インフラの整備・拡充に合わせて交通利便性の高いエリアに資産価値の高い住まいを提供し続けること、人口集積だけでなく事業集積を目指した「職・住・遊」のバランスに優れた再開発を手掛けること、事実上“教育特区”“医療特区”になっている都心周辺のエリアについてそのニーズに特化した住宅を提供することなど、将来に向けてのデベロップメント事業は多岐に、かつ複層的に行われなければならない。
これらのニーズに対応するために、金融機関もリバースモーゲージや住宅についてノンリコースローンを開発・実施することが求められると考える。

経済合理性だけでは語れない住宅の安全と安心、快適や寛ぎといった「生活を守り、育てるための器」という住宅としての要素を提供できるかどうかが“アベノミクス後”の開発事業に課せられた使命であることを意識する必要があるだろう。

2013年 10月07日 10時37分