3次産業ばっかりの社会
産業の変革は、思った以上の影響力を持っている。
もちろん住宅の業界でも同じである。
国の1次産業である農林水産業は、就業者数も減り衰退の一途のように言われている。悪評のカロリーベースによる食料自給率だが、その低さは日本の1次産業の衰退を物語っているようだ。
高度成長を支えた2次産業の製造業も、バブル崩壊以降は空洞化が危ぶまれ、日本の製造業の栄華はすっかり影をひそめ、世界の工場である中国の勢いに飲まれている。
現実に自分の身の回りを見渡すと、誰も彼もが3次産業的な職業についている人たちばかり。ニュースでは3次産業とも呼べない個人投資家が、パソコンを前にして金を回し、ヒーローになっている。
なにも現代の社会制度を嘆いているわけではない。これが普通の先進国が経験する産業の変革であると受け止めるしかない。しかし、環境の時代、グローバル化の時代、そしてTPPの時代は、また違う変革が訪れているように思う。
世界的な食糧危機を心配する時代に、減反をする国策が本当に正しいのだろうか。実は日本の農業生産高は世界屈指であり、本当は農業は日本の強みになるはずだ。アメリカも国内製造業の強化を中心施策として打ち出している。結局、国が豊かになるためには、1次産業・2次産業が強くならなければならない。
もちろん住宅の業界も、同じ産業の中にある。
さて、では住宅の業界は何次産業であろうか。1次産業ではない。単純に言えば、製造業なのか、それともサービス業なのか。
景気短観からの答え
住宅業界をものづくりとして考えれば、製造業と同じ2次産業というのが、最初の答えである。生産している場所が工場の中ではなく建設地ということだ。そして住宅建設に関わる、職人の気質も製造業的に見える。
製造業に求められることは、製品の品質とコストと保証に尽きる。そして多くの製造業では、日本は世界に誇る生産技術を編み出し、高い品質と安いコストと緻密な保証で日本ブランドを築き上げた。何度も書くが、製造業は国力の肝である。そして住宅だって同じだ。
そんなことを考えていたら、景気短観のニュースが流れてきた。各業界の中で、住宅業界はサービス業の景気状況として報道されていた。実は行政上は、工員を従業員として抱えて生産しているのが製造業であり、外部の下請けの職人を使っている建設業はサービス業とされる。このことをベースにすれば、住宅産業は他社の生産する建材を仕入れて、施工職人の手配をするというサービス業なのだ。
確かに、建設業から脱却して、生活産業になると自分も微力を注いできた記憶がある。
結局、昔の大工や棟梁に頼んでいた時代から比べれば、今の住宅業界は製造業からサービス業に転換されたということだ。
だから高くなる、長くなる、分からなくなる。
どうして住宅業界が、製造業なのかそれともサービス業なのかこだわって話しをしようとしているのか。 それは住宅の資産価値に大きく関わっていると考えるからだ。住宅業界がサービス業に変わったことで、三段論法のようでもあるが、おおよそ次のような業界になった。
・住宅価格が世界に比べて高くなった。
・住宅取得促進が景気支援策になった。
・住宅の本当の価格が分からなくなった。
・住宅は差別化で語られるようになった。
・住宅の資産価値が分からなくなった。
習わしでは建設業の粗利は20%ほどであったが、サービス業に転じた住宅業界の利益率は上がらなければ成り立たない。一部の大手では、粗利が半分の50%に達していると言われている。しかし残念ながら、それはコストダウンで得られた企業努力の利益ではない。世界の住宅価格と比べても3割ほど高いと言われているのは、まさにサービス業化した分が高いのだ。
住宅価格が高くなった分は、ローン期間が伸ばされることでごまかされた。20年のローンが30年、35年となれば30%高くても買えるようになる。冷静に考えれば、これは消費者への支援ではなく、サービス業としての住宅業界への支援だ。でも、さらにローン減税が推進される。結局儲かるのは、サービス業化の住宅メーカーと銀行だ。国民の要望ではなく、業界の要望の方が受け入れられるのも常のことである。
そして消費者はいなくなる・・・
また、粗利のアップ分をサービスに対する経費として記載するわけにもいかない。建材である物の価格でさえも、見積もる企業によって違い、住宅の本当の価格が分からなくなった。単純に考えれば、多くの住宅を建てている企業ほど、材料費も施工費も安くなるはずであるが、なぜかむしろ逆になる。
ただ全く同じモノが価格が高くなるのはさすがにおかしい。少しだけ仕様を変えてオリジナル商品を生み出すことで、価格の違いの理由とする。その違いを正当化するためには、他社との差別化が必要となる。
一方、労務費を抑えるために、下請けへの発注は厳しくなる。やがて昔からの職人の技は廃れ、価格の見えない新建材ばかりが使われるようになるが、歴史のない建材の多くは長期耐用に問題がある可能性がある。もともと価格が分からないこともあって、住宅の資産価値など認められようもない。かくしてローン期間よりも早く、住宅の価値は低下することとなる。
それに加えて、住宅のサービス業化は、逆に消費者の権利を奪っているように思える。サービスがバンドル化された住宅商品は、結果的に消費者の選ぶ権利を奪っているのではないだろうか。安くて良い建材を選ぶ権利は、あくまでも消費者にあるはずだ。そして大差のない技術を、まるで自社しかできないかのように思わせる広告は、消費者の知る権利を阻害している。
住宅業界は製造業をめざそう
そこで、最初の話しに戻ろう。
国は1次産業と2次産業が強くなることが求められている。それを考えると、改めて住宅業界は製造業的であるべきではないだろうか。建材まで製造している建設会社はまずない。建材メーカーの製品であれば基本的に品質は同じはずだ。
サービス業的な住宅産業ではなく、製造業的に高い品質と安いコストと保証を第一に考えた業界になる必要がある。
そもそも内需が原点である住宅建設には、TPPも国際経済もあまり関係がない。ましてや地元の建設企業は、海外に施工拠点を移すことはまったく考えられない。ただ、円安になれば結果的には材料費が上がるだけだ。小売店舗や飲食サービス業のように、海外に挑戦することもできない。
かくいう自分も間違いなく住宅の3次産業の中にいる。それでも、どうやら原点である2次産業化への契機が来ていると思う。
東日本大震災と東京五輪の影響で、職人不足が深刻化してきた。国も海外の労働力を受け入れる方針だ。行政で定義しているように、施工者を社員として抱え、昔の職人のように大切にする企業が製造業への転換が図れる企業だ。
そんな住宅会社が、これからの日本に役立つ企業になるのではないだろうか。
2014年 02月28日 12時59分