道路が期間限定で使えるようになった

2020年6月5日に発表された「新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の取扱いについて」国土交通省発表資料より<br>https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001324.html2020年6月5日に発表された「新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の取扱いについて」国土交通省発表資料より
https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001324.html

このところ、公園、水辺、道路と公共の土地の活用が進んでいる。そのうちではもっとも遅れてきたように思われるのが道路だが、2020年に入り、6月3日に改正都市再生特別措置法(ウォーカブル推進法)が成立(施行は9月上旬から)。折からのコロナ禍でその2日後には11月末までの期間限定で道路占用許可基準の緩和措置が出された。時間をかけて検討が重ねられてきた法令と、ここへきて急ぎ、道路を使おうという緩和が同時に出現したわけで、まちづくりに関心のある人たちの中では道路を使う気運が一気に盛り上がっている。

そんな中、8月4日に公共R不動産の主催で「『ウォーカブルなまちづくり』の本質に迫る」と題した連続オンラインイベントが開かれた。今回が3回目となる同イベントでは緩和措置以前に社会実験として道路にテラス席を設けた「SAGAナイトテラスチャレンジ」を実施した佐賀県の担当者などが参加、あっという間に実施に漕ぎつけた舞台裏なども明かされた。

そのイベントの様子をご紹介する前に、そもそも今回の道路占用許可基準の緩和措置とは何か、どういう意味を持つかを簡単にご説明したい。これは3密を防ごうと席間を開けると店内だけではこれまで通りの客数を入れられなくなる、主に飲食業界などの要望を受けたもの。原則として幅2m以上(通行量が多い場合は幅3.5m以上)の歩行空間を確保する、施設付近の清掃に協力するなど一定の要件を満たした場合には路上にテーブル、椅子などで仮設施設を設置しての営業が認められるようになったのである。飲食業以外の業種、合意が得られれば2階以上や地下、沿道以外の店舗も対象になる。歩道のない車道でも交通規制などで安全な歩行空間が確保できるなら可能。清掃などに協力すれば占用料は免除される。

佐賀県知事が発案、約2週間で実施

佐賀県庁職員「さがデザイン」所属の江島宏氏。行政の組織の考え方は、成果を左右する要素ではないかと考えさせられた佐賀県庁職員「さがデザイン」所属の江島宏氏。行政の組織の考え方は、成果を左右する要素ではないかと考えさせられた

これだけを聞くと飲食を始めとした各種事業者の救済のための措置と思われるかもしれないが、それだけではない。飲食店その他の店舗が事業を続けられなくなると通りから人の姿が無くなるだけではなく、空室が増え、家賃が下落。それによって地価が下がれば税収が減ることになる。影響はそのまちに住んでいる人全体に及ぶのである。しかも、道路は公園や水辺よりもまちの中で大きな面積を占めている。道路をどう使うかは、これからのまちの賑わい、稼ぐ力を考える上で大きな課題なのである。

イベント前半では、そうした危機意識がスピーディーな実施に結び付いた「SAGAナイトテラスチャレンジ」について、後半でこれからの道路活用についてが語られた。前半、最初の登壇者は佐賀県庁職員の江島宏氏。

江島氏によるとSAGAナイトテラスチャレンジの発案者は知事。佐賀県ではゴールデンウィーク中、感染者はゼロだったものの中心市街地には人通りが少なく、ゴーストタウンに近い様相を呈していたのだとか。それを危惧したのであろう、「ゴールデンウィークが開けた6日に知事が歩道を活用したテラス席の検討を指示。7日には内部の協議、県警、保健所との調整をスタート、8日には佐賀の中心地でまちづくりの実践をしている建築家の西村浩さんに相談することになりました」

その後、雨の中、チラシを持って店を一軒一軒口説きに回り、14日には地元の自治会、商店街組合の説明に行き、19日には県警に使用許可の申請を出して、その日に許可を受け、社会実験が始まったのは22日。動き出してから約2週間で実施にまで至っており、そのスピードはこれまでにないもの。なにしろ、これまでの道路を使う幾多の社会実験は半年、1年の準備期間を経てようやく実施できていたのである。

官民双方のやる気がなければ実現はできない

佐賀県でも活躍する建築家の西村氏。江島氏に個別ではなく、通り全体での申請をすることなどをアドバイスしたそうだ佐賀県でも活躍する建築家の西村氏。江島氏に個別ではなく、通り全体での申請をすることなどをアドバイスしたそうだ

開催初日に「外で騒いでいる人がいる」と通報があり、パトカーが出動。江島氏は即日終了も覚悟したというが、大きな問題にはならず、無事、6月6日までの16日間の営業を終えた。その間に出された国交省道路局発表の緩和措置のリリースには佐賀の写真が使われており、緩和措置に当たっては国交省から意見を聞かれもしたという。

通常であれば半年、1年かかる事業がなぜ、2週間で実現したのか。イベント登壇者の西村浩氏、主催者の公共R不動産の馬場正尊氏も交え、さまざまな意見が出た。コロナ禍でまちの活力が失われるとの危機感が大きかったのはもちろんだが、安全面から道路使用を歓迎したがらない警察に県と市が安全を指導することを伝えた点も大きかったようだ。

「各店舗には事故があったらその店が責任を取ることは伝えてあり、リスクを承知のうえで店を出すかどうかを聞いていますが、そうした個別の話とは別に県と市で安全を下支えするという役割分担がご理解いただけたと思います」

実はこの点は今後、緩和措置を利用、道路を活用できるかのポイントのひとつでもある。今回の緩和措置は個店が申請して利用できるものではなく、道路管理者である自治体が緊急措置を導入し、それに参加する占有主体としてのまちづくり団体や商店街などといった民間団体があって可能になる。自治体と商店街など、官と民それぞれにやる気がなければできないわけで、佐賀の場合は初回ということもあり、官がリードしたが、今後は民が主体になっていくようにしていきたいとも。緩和措置を利用できるかどうかはまち次第というわけである。

佐賀県独自の部署の存在にも意義

もうひとつ、大きかったとされたのは江島氏が所属する「さがデザイン」という、他の自治体ではあまり聞かない部署の存在。公共R不動産がホームページ内の記事で説明するところを非常に簡単にまとめると、この部署は役所の縦割り組織に横串を差すものであり、かつ役所から片足を外に出し、民間の人と手を繋ぐような役割を担っているらしい。その部署が産業課、道路課と連携、実質3人という少人数で一気に動いたそうである。

道路に限らず、まちの中で何かやろうとすると関わる人間、部署は多岐にわたる。道路課などその場所を管理する部署に警察、飲食が絡めば保健所、店舗が絡めば産業振興の部署、観光に寄与するなら観光部門も必要だし、まちの中では商店街、個店、場合によっては鉄道やバス事業者などとの協議も必要になるかもしれない。個別の部署が動くよりも、どこかがハブとなってそうした多数の部署との調整を行うほうが効率的だが、意外に役所にはそうした部署がない。馬場氏の言葉ではないが、「全国の自治体は参考にしてほしい」ものである。それ以外にもいくつか成功に繋がったとされるポイントがあったようだが、詳細は公共R不動産のレポートを参考にしていただきたい。

イベント後半で気になった論点のひとつがこうした路上活用事例の評価方法である。今回の緩和措置はあらかじめ11月末までと決められている。すでにそれまでの間にやってみようと多くの自治体が動き始めており、国土交通省によれば8月11日の時点で47都道府県と20政令指定都市で実施されており、それ以外でもさまざまな動きがある。当然、できることならそれ以降も道路を活用したいと思うはず。となれば、期間までの事例を将来に繋げるためにはどうすればよいか。

人の移動を考えた都市計画を

まちを静的ではなく、動的に捉えるともっと面白いことが考えらえるのではないか、そんな視点を与えてくれた公共R不動産の馬場氏まちを静的ではなく、動的に捉えるともっと面白いことが考えらえるのではないか、そんな視点を与えてくれた公共R不動産の馬場氏

さまざまな意見が出た。コロナ禍下にあってはテラス席を設けても売り上げが元に戻る、さらにはそれ以上になることはほぼ期待できない。地価に反映されるまでには何年もかかり、現実的ではない。としたら、道路の活用を社会的な動きにしていくためには何が必要か。

ひとつはなんといっても事故を起こさないことと西村氏。「定着するためには時間がかかる、だから続ける必要があり、とりあえずは11月末まで無事故を続け、暫定措置期間が終了しても延長しましょうというのが現実的。また、現在はまちづくりの側だけが動いていますが、経済界も巻き込んで、11月末以降も使いたいという声が必要ではないでしょうか」

「道路や公園などの公共空間の活用では居心地、賑わいといったぼんやりした言葉が使われがちだが、もう少し具体的なロジックが必要なのでは」とは馬場氏。単に公園がきれいになって嬉しい、道路が使えて楽しいではなく、それが私たちのまちの未来にどう繋がっているか、そこをきちんと伝えるべきということだろうか。その点に関してはぜひ、もっと具体的に聞きたいところである。

もうひとつ、後半で出た「これからの都市計画は建物、用途の配置だけではなく、そこに道路、人の移動を入れて考えるべきではないか」という馬場氏の言葉が響いた。すべては道路を介して繋がっている。そう思うと都市は静的なものではなく、動くもの。その意識からまちを考えると作り方もおのずと変わってくるはず。道路そのものも作り方も変わるだろう。

また、そう考えると「道路もブランディング、マーケティングの場となり、インセンティブとしても使えるのでは」と西村氏。長らく、車や通行のためだけのものだった道路が歩行者やすべての人のものになるとしたら、都市も生活も変わりそうである。とりあえずは11月末までの成果を将来もにらんで注視したいところである。

新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための取扱いについて(国土交通省道路局)
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/senyo/senyo.html

社会実験「SAGAナイトテラスチャレンジ」の結果について(佐賀県)
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00375224/index.html

庁舎を地域のサードプレイスへ。「開かれた県庁」が醸成する、佐賀県のクリエイティブマインド(公共R不動産)
https://www.realpublicestate.jp/post/saga-office


「ウォーカブルなまちづくり」の本質に迫る!vol.1 国土交通省都市局担当者が語る政策の意図とは(公共R不動産)
前編
https://www.realpublicestate.jp/post/walkable02-01
後編
https://www.realpublicestate.jp/post/walkable02-02

2020年 09月18日 11時05分