屋根裏のエアコン1台で家全体が涼しいという不思議

30度を超す真夏日。照りつける太陽の下、「吹き抜けのある家」のドアを開け、玄関ホールに入る。その瞬間、思わず声が出る。「おお、涼しい」。室内の温度設定は24度ほどだろうか。玄関ホールだけではなく、室内は廊下やトイレなど、普通の一戸建てではなかなか冷暖房が及ばない場所も含め、どこもかしこも同じように涼しい。

しかも、この家の1階は土間とLDK、水回りに分かれてはいるものの、トイレ、洗面室以外には壁、ドアはなく、広いワンルーム状態。全体で見れば30畳ほどもの広さがあり、そこに吹き抜けがある。天井の高さは5mほど。壁で仕切ってその部屋だけを冷やすなら簡単だ。だが、全体で100m2をゆうに超すような大きな空間をまんべんなく冷やすためにはそれなりの冷暖房システムが必要だろうが、それにしては音はなく、風を感じることもない。

不思議に思いながら、2階に上がり、さらに促されて屋根裏へ。そこに設置されたエアコンが家全体を冷やしているというのだ。見るとごく普通の量販店で買えるような、容量としたら4.0KWタイプ、一般には14畳向けとされる程度のエアコンである。

「え、これ、1台ですか?」

疑問の声に東北芸術工科大学の竹内昌義教授は当然と頷く。「壊れたらどこかの大型店に買いに行けばすぐに交換可能。これ1台で家全体を冷暖房できるものの、冷えるまで、暖まるまでに多少時間がかかるので、念のため、すぐに冷やしたいなどの用途を想定して、リビングにももう1台、2.8KWタイプ(主に6~8畳向け)も設置はしてありますが、まあ、あまり必要ないでしょう」

最初に通された吹き抜けのある家。リビングに吹抜けがある開放的な作りで、普通ならエアコン1台ではとても無理と思うが、ごく普通の市販のエアコンが家中を冷やしていた。その状況を壁面のパネルでチェック。撮影/Isao Negishi最初に通された吹き抜けのある家。リビングに吹抜けがある開放的な作りで、普通ならエアコン1台ではとても無理と思うが、ごく普通の市販のエアコンが家中を冷やしていた。その状況を壁面のパネルでチェック。撮影/Isao Negishi

住宅の性能が高くなると間取りが、暮らしが自由になる

山形県山形市で建設が進む全19戸の建売住宅地「山形エコタウン前明石」は地元の工務店・株式会社荒正、アウトドア用品メーカー・株式会社スノーピーク、そして東北芸術工科大学が連携して取り組むプロジェクトである。高気密・高断熱のエコハウスの建設が進んでおり、2019年6月からは、すでに完成した3タイプの間取りの3棟を中心に街びらきイベントが開催されるようになっている。

特徴は大きく3点。ひとつは前述したような高性能のエコハウスであること。住宅内の室温、湿度が一定に保たれるため、家の中の急激な温度差に起因するヒートショックが防げるだけでなく、高齢者や子どもの喘息やアレルギーなどの改善効果も期待できるとも。健康に良いことに加え、冷暖房にかかる電気代が節約できるという具体的なメリットもある。

さらに実際の住宅を訪れて感じたのは、住宅内が快適であれば暮らしが、間取りが自由になるということ。冒頭に「吹き抜けのある家」の間取りを説明したが、この家の2階、廊下には吹き抜けに面して家族が机を並べて使えるスタディルームが作られている。廊下が寒くなければこんな使い方ができるのだ。

あるいは「土間のある家」では、玄関部分に5.9畳の土間があり、自転車やバイク、アウトドア用品、あるいは子どもの遊び場などと多様に使える空間になっている。普通だったら汚れるからと戸外でやるような作業が室内で快適に行えるのだ。

もうひとつの「デッキテラスのある家」は2階LDKの天井が4mと実に開放的。リビングに続く18畳のルーフバルコニーを合わせて考えると倍以上に感じられるが、この広がりを可能にするのもむらのない室温があってのこと。そう考えると、自分に合わせた暮らしの実現は住宅の性能が握っているといえるかもしれない。

左側の上下2点はデッキテラスのある家、右は土間のある家。一般的な建売住宅にはない開放的な間取りである。撮影/Isao Negishi左側の上下2点はデッキテラスのある家、右は土間のある家。一般的な建売住宅にはない開放的な間取りである。撮影/Isao Negishi

アウトドアを意識した開放的な作りに実践的な工夫も多数

アウトドアで使うグッズを想定、あらかじめフックなどが用意されている。グッズ類もコーディネートアウトドアで使うグッズを想定、あらかじめフックなどが用意されている。グッズ類もコーディネート

2つ目の特徴はアウトドアとの繋がり。一般にエコハウスは高気密、高断熱を実現するためか、窓が小さく、閉鎖的な印象を受けることがあるが、ここでは北側にも掃き出し窓があるなど開放的。「デッキテラスのある家」で書いたように、外との繋がりが意識されており、庭や敷地全体も含めて我が家と感じられるように作られているのである。

これをプロデュースしたのがスノーピークだ。同社は「人間性の回復」を社会使命としているが、その具体化のためにキャンプをしない人達のためのアーバンアウトドア事業を展開しており、そのひとつに住宅がある。すでに2019年7月から入居が始まっている「パークタワー晴海」ではアウトドアリビングを監修し、共有部にキャンプサイトを設置するといった提案が行われており、分譲開始時に話題になった。

「2018年には新潟で一戸建て住宅地の企画に携わっており、今回は第2弾。街びらき後も山形市内にあるスノーピーク取扱い店舗を通じてこの住宅地での暮らし方に関わっていきます」(スノーピーク営業本部東日本事業創造部シニアマネージャー・吉野真紀夫氏)

住宅と外部との繋がりなどといった大きなところから、タープを設置するためのフックや外壁のアウトドアシェルフとテーブル、椅子の高さその他の細かいバランスまで使い勝手を熟考して作られているそうで、アウトドア好きの人ならその良さが分かるだろうとも。ちなみに、住宅には60万円相当の同社製品がコーディネートパッケージされており、これを機にアウトドアライフを始めてみたい人にもお勧めだ。

緩やかな繋がりを意識した敷地計画も魅力のひとつ

植栽が入っていないため、イメージしにくいが、いずれは緑に覆われるようになるはず。住戸間の小道は秘密の小道っぽくもある植栽が入っていないため、イメージしにくいが、いずれは緑に覆われるようになるはず。住戸間の小道は秘密の小道っぽくもある

3つ目の特徴が共用の遊歩道を配し、地元・蔵王山麓にあるような植物をちりばめる予定という敷地計画だ。建物はいずれも6m幅の道路に面しているのだが、建物の背後に入居者が専用で使うための石を敷いた遊歩道が作られ、それが各自の敷地の緩やかな境界にもなるという。

「フェンスではっきり仕切るのではなく、植栽や遊歩道で緩やかに繋がりつつ分けるというような形を考えています。いずれ緑が育っていくと木立の中に家があるように見え、電柱も植栽に交じって目だたない。そんな風景を目指し、また、冬でも少し緑が見えるように白樫などをまぜ、四季の変化が感じられるように計画しました」(東北芸術工科大学・渡部桂准教授)

敷地の一部には井戸、ベンチなども用意されており、遊歩道を行きかううちに、あるいはベンチでのんびりするうちに自然に居住者間の会話が始まることも意図されている。お互いの生活を借景に、緩やかに人間関係が生まれるまちというわけだ。

そもそも、アウトドアを謳っていることから同じような趣味嗜好を持つ人が集まることが想定され、価値観が共有されやすいのではないかという見方もある。「チラシを配るなど一般的な販売方法を取らず、ホームページ、パンフレット、スノーピーク店頭と限られた方法で、どんなまちかを明確にした情報を発信しています。全戸数19戸ですから、コンセプトに共感してもらえる人に選ばれればいいからです」(株式会社エネルギーまちづくり社・内山章氏)

住宅地は分譲してからがスタート

広々とした敷地に19戸。敷地自体も開放的で、窓から山々が見える住戸などもあった。イベントには子ども連れファミリーが多数広々とした敷地に19戸。敷地自体も開放的で、窓から山々が見える住戸などもあった。イベントには子ども連れファミリーが多数

6月の週末に開かれた街びらきイベントには1日100人ほどの、主に30代の子連れファミリーが集まり、中にはその親世代も。スノーピークの計画発表時に3棟に声がかかり、1回目のイベントで3棟の販売が確定。さらに検討中の人たちも数組と売れ行きは好調だが、計画スタート時は「これで大丈夫か」という不安もあったと荒正・須田和雄氏。

「ファミリー向けなら3LDK+和室がこれまでの常識。2階にいずれ仕切って2室にできるような可変性のある部屋を配した間取りにも社内で驚きの声が上がりました。でも実際の住宅を見て、その性能を実感し、なるほどと。市内の住宅展示場で行われているようにキッチンや水回り設備の性能、色、値段など差別化しにくいもので競うのではなく、住宅そのものの性能を明示し、この家で実現するライフスタイルも含めた提案を行う、そんな住宅の作り方があることを実感しました」

価格的に大手ハウスメーカーの住宅の3.3m2あたり70万円ほどよりも手頃で、地元メーカーの40~50万円よりは高め、そして、どちらにもない性能、間取り、デザインなど複数の違いがあったというあたりも人気の要因。あらゆる面でこの地にこれまでになかった家が作られたのである。

個人的にはスノーピークだけでなく、分譲主である荒正も「住宅地は建物ができてからがスタートライン」と考えている点に強く共感した。「年に1回は住民祭りもいいね」「新潟にあるスノーピークのキャンプ場に来てもらうのはどうだろう」などいろいろなアイディアが飛び交ったが、「分譲して終わり」ではなく、「分譲してからがスタート」という住宅地はまだまだ少ない。このまちがそのひとつになるとしたら、それはそれだけでひとつ大きな魅力ではないかと思う。

2019年 09月03日 11時05分