車社会は、21世紀東京の街づくりにふさわしいか?

自動車の通行にこれほどの便宜を図る一方、歩行者は道の片隅に追いやられてすれ違いに気を遣う。歩行者が道路を横断するときは、わざわざ階段を上り下りして、狭隘な歩道橋を不安げに渡らなければならない自動車の通行にこれほどの便宜を図る一方、歩行者は道の片隅に追いやられてすれ違いに気を遣う。歩行者が道路を横断するときは、わざわざ階段を上り下りして、狭隘な歩道橋を不安げに渡らなければならない

賑わいの絶えない渋谷駅周辺、片側4車線、幅員40mもの車道が駅と桜丘方面とに街のにぎわいを分断して通る。
広々とした路面は、商業利用したらどれほどの土地代に相当するのだろうか。日中のある瞬間をとるとこの道路には車は数台しか通過していない。その上には高速道路の高架が覆い被さる。巨大で陰鬱な施設は都市景観を醜悪にして、街の日差しを奪う。
自動車の通行にこれほどの便宜を図る一方、歩行者は道の片隅に追いやられてすれ違いに気を遣う。歩行者が道路を横断するときは、わざわざ階段を上り下りして、狭隘な歩道橋を不安げに渡らなければならない。

このような車社会は、21世紀東京の街づくりにふさわしいものだろうか?
都市内交通における自動車交通の効率性から検証してみたい。

都市における自動車交通の利用効率と移動効率

まず、都市空間の利用効率を車について調べ、ある瞬間をとって東京(区部)の道路上で走行している自動車の台数を求めた。
道路交通センサス(国土交通省「平成22年度 全国道路・街路交通情勢調査(道路交通センサス)一般交通量調査 集計表」)によれば、都区部の12時間の交通量は、30,932千台キロ。混雑時の平均速度は、16.8km/時。12時間の交通量を1時間当りに換算して時速で割ってみると、153,432台。日中は平均して都区部の路上には15万台強が走っていることが分かる。路上台数が分かれば、走行中の一台当りの道路占有面積が求められる。
東京都の統計(東京都「東京都における道路状況(平成22年4月1日現在)」)によると区部の道路面積は、101.29km2である。従って、自動車1台当りでは道路上の660m2を占めていることになる。土地としては当然に道路付きもいいので、坪200万円だと仮定すれば、ちょうど4億円分の土地に相当する。社会的割引率に従って土地の年間賃料を地代の4%とおくと、日中に路上を走る車は一時間3,600円超を負担しなければならない計算である。区部の宅地面積は358.97km2(東京都「東京の土地利用 平成18年東京都区部」)、区部人口は8,950千人だから40.1m2/人、走行中の車は居住者の15倍以上も土地を使っている。

次に移動効率を調べる。移動手段別に一人当たりの占有面積と平均速度を比べてみる。
まず歩行。歩行者密度1.5人/m2を境に歩行速度が落ちる調査結果*4を踏まえると、0.66m2/人、速度は4.2km/時になる。
次は自転車。自転車自体は、幅43cm・全長160cmで、車間距離はドリフト効果の効く1m、幅は車体の倍とるという前提で、2.2m2/人。速度はツール出場クラスならこの密度で軽く40km/時、普通でも20km/時でラクに走行できる。東京の都区部は半径15km以内にすっぽり収まるから、十分に自転車移動圏内である。そしてLRT(次世代型路面電車)。富山ライトレールで試算すると、定員80名(最大160名)、所要時間25分でラッシュ時は10分間隔だから軌道上には2.5編成だから、大体200名が路上にいる計算だ。総延長7.6km(鉄道区間6.5km)で幅4m(車両幅2.4m)と仮定すると152m2/人。平均速度は15.6km/時と計算できる。

一方、自動車では、平均乗車人数は1.3人/台として、50m2/人、混雑時の平均速度16.8km/時になる。結局、同じ速度に均して土地利用効率を比較すると、自動車に対してLRTは3.1倍(満員なら6.2倍)、歩行は190倍、自転車になると275倍という結果になる。東京都区部で応分の負担もなく道路を自動車に割くのは、まるで都心で牧場を経営するぐらいに土地利用効率は低い。
環境や健康への影響を外しても、これらの数字を素直に眺めれば、道路は自動車から自転車、歩行者、そしてLRTに譲った方がはるかに効率良い。

道路整備の根拠と公共負担

自動車交通はこれほど非効率であるにも関わらず、東京の道路整備は続く。道路整備のためには、渋滞解消、地球温暖化対策、防災といろいろ理由を用意する。
三環状道路や副都心線の建設は、「都心の慢性的な渋滞緩和」が目的である。国土交通省関東地方整備局のホームページによると、「慢性的な渋滞に伴う経済損失は年間4兆円」「都心に用のないクルマが都心環状線に集中(通過交通が62%)し、慢性的な渋滞が発生」「"3環状道路"が整備されれば、その通過するだけのクルマがバイパスされて渋滞解消」と、説明されている。

道路整備は地球温暖化対策にもなるという。仮に、平成11年時点で首都圏の三環状道路が完成しているとした場合、1都4県で約200~300万t-CO2/年のCO2排出量が削減されると推計(5~7%削減)する。この約200~300万t-CO2/年は、東京23区(約62,100ha)の約3~4倍の植林に相当すると試算だ。
防災も、道路整備の根拠とされる。東京都防災都市づくり推進計画(2010年)では、「市街地の延焼を遮断し、かつ、避難や救援活動の空間ともなる延焼遮断帯34の整備を進めるとともに、緊急輸送道路35沿道の建築物の耐震化を促進し、震災時の輸送路等としての機能を確保していきます。」として、合計638kmもの道路整備を目標に掲げている。

車のための道路整備、その工事費総額はどれほどだろうか?
国会質疑(参院予算委2008年2月2日)では、今後10年の道路中期計画の予算59兆円の中で、こうした環状道路の内訳は約24兆円と明かされた。さらに一部公表された区間単価から、総延長をかけて総工事費を試算してみる。すると中央環状新宿線では1,000億円/km、総延長47kmなので総工事費は約4.7兆円。東京外環自動車道では練馬-世田谷間は1,000億円/km、総延長85kmなので総工事費は約8.5兆円。圏央道では青梅-八王子間は2,126億円/km、総延長約300kmだから総工事費は約63.8兆円。これらの工事費合計だけで推定約77兆円にのぼる。しかもこの金額には工事費以外は含まれていない。

2015年度東京都の予算でも、延焼遮断帯を形成する特定整備路線の整備等を柱とする木造密集地域の不燃化に581億円、緊急輸送道路の機能確保に572億円が計上される。この財政支出は、整備率100%を目指して2020年までに続くだろう。総額2兆円を超える。

延焼遮断帯の形成状況延焼遮断帯の形成状況

渋滞緩和?地球温暖化対策?延焼遮断帯?
東京における道路整備の正当性への疑念

渋滞の原因は、通過交通ではない。計画当時の道路交通センサス(平成6年 国土交通省)によると、区部の自動車交通量総合計660万台のうち、通過交通35万台、内外交通165万台、内々交通460万台である。つまり区部の通過交通は5%に過ぎない。「通過交通62%」は都心環状線の場合で、分母が違う。一般街路ではラッシュ時でも、交通需要は交通容量の3~5%を超過する程度である。渋滞の本当の原因は、路上駐車である。東京23区で渋滞原因となる交差点193箇所のうち、路上駐車が主たる原因となった地点は152箇所と約80%だった。(※1)実証研究でも、都内の片側2車線道路で交差点上流に路上駐車があると、平均20%、下流部でも10%も飽和交通流量を悪化させることが分かっていた。(※2)
さらに誘発需要を考慮しなければならない。道路が整備されれば、その分、自動車を利用する人が増えて、結局、交通量つまり渋滞は減らない。イギリスではこの誘発需要を踏まえ、1998年には自動車需要予測に合わせて道路インフラを供給するという従来の考え方を180度改め、既に供給されている道路インフラを最有効利用し、それに合わせて需要を抑制する方向へ転換し、ロードプライシングやカープ―リングを本格化している。
地球温暖化に、道路整備が貢献するとは考えにくい。熱帯雨林の伐採をいまの50%に遅らせるための費用が年間170億〜300億ドル*9。これで毎年20億トンを超えるCO2を吸収できる。厳しめに試算しても、年1兆円を熱帯雨林保全に投じれば、毎年8.3億tの二酸化炭素排出量を抑えられる。
そもそも車のいらない社会になれば、家庭からの二酸化炭素排出量4,852kgCO2/世帯のうち、27%が削減される。
延焼遮断帯は、すでに十分に整備されている。そして延焼遮断帯は街区の周縁部を不燃化するだけで、街区内部に密集する木造家屋の不燃化には寄与しない。こうした木造密集地域の街区内で火災が起これば、一気に大規模な延焼に拡大する。
延焼遮断帯は耐火造のビルと幅員のある道路で形成されるのだが、中高層ビルによって循環流、都市計画道路によって側流が生じるために、火災旋風が発生する条件が揃う。いったん火災旋風が発生すれば、関東大震災のときには河川も横断したように、延焼遮断帯は効力を失う。

このように検討を進めると、車に道を譲る意義は見出すのは難しい。

車の道から人の道へ

車中心ではなく、人中心の都市空間は、老若男女を問わず好まれている。住みたい街ランキング上位は、吉祥寺、下北沢が常連である。いずれも自動車の入らない道の両側に商店街が発達し、裏にはディープなお店や施設が続く。車中心ではなく、人中心の都市空間は、老若男女を問わず好まれている。住みたい街ランキング上位は、吉祥寺、下北沢が常連である。いずれも自動車の入らない道の両側に商店街が発達し、裏にはディープなお店や施設が続く。

道を取り戻す考え方は、すでに良く知られている。
ブラジルのクリチバ市などは繁華街から車を追い出し、自転車道を170km整備した。フランクフルトでも中心街から車を排除して、歩いて楽しめる街を生み出した。路上は高齢者がゆっくり歩いて市場を覗き、のんびり座って休める空間になった。ドイツのこうした主要都市では、「国家自転車10カ年計画(2002)」において、自転車の交通分担率をオランダ並み(27%)にすることを目指し、自転車レーンの整備を進めて成果を上げている。ロンドンでは、徒歩・自転車の交通分担率を60%に移行させようと自転車スーパーハイウェイ構想など野心的な取り組みを進めている。もとは自動車の割合が25%、鉄道が65%である。ロンドンなどに比べ、東京はすでに鉄道網が充実し、交通移動手段の86%が鉄道・地下鉄を占める。自動車は11%に過ぎない。それだけ道を人に取り戻しやすい条件に恵まれている。

実現方法は難しくない。
交通手段の市街地は歩行者ゾーンとして、商品搬入等の車以外の乗用車の乗り入れを禁止する。ライジング・ボラートを利用すれば、商品搬入車に限定した乗り入れ規制もしやすい。路上では朝市を開くこともできる。道路拡幅を中止して、アンガー形式で街かど広場を整備する方法もある。主要道路には必ず自転車専用に右側一車線をとる。左折車に巻き込まれない措置である。そのための車線がとれない道路幅員であれば、片側一方通行にする。このように、自動車の乗り入れを規制する、いまの車線を自転車に割り当てる、といった方法であれば、たいして投資はいらない。

車中心ではなく、人中心の都市空間は、老若男女を問わず好まれている。
住みたい街ランキング上位は、吉祥寺、下北沢が常連である。いずれも自動車の入らない道の両側に商店街が発達し、裏にはディープなお店や施設が続く。一人暮らしには高円寺が人気だが、ここも狭い道筋に沿って14ほどの商店街で賑わう。古着屋、カフェ、レコード店、各国料理などユニークなお店が多く、近くのアパートからサンダル履きで人々が集う。シニア世代には谷中銀座が人気だが、全長170mもの通りに約70店舗が連なり、揚げ物、菓子、雑貨、食料品などを目当てに、金曜に約7千人、土曜には約1万4千人の方が訪れる。
千駄木駅周辺地区まちづくりアンケート調査(平成20年度)の結果でも、取り組む必要性の高いものは、「下町情緒を活かしたまち並みの保存や整備」の約40%に次いで「歩行者の安全を優先した道路の整備」の約37%、「千駄木駅周辺や商店街の整備と魅力の向上」の約34%、と続く。

このようにして道を人々が取り戻すことで、街が道によって分断されず、車の通行や騒音・排気ガス等に煩わされなくなる。そうなると道と町と家が緩やかに連続した、暮らしやすい都市空間が発達する可能性が大きい。実は、先人たちがつくりあげた江戸の町人地が、こうした道・町・家一体の都市空間の先例である。
まず街道、水路・広小路への道筋、寺社の参道などに、人々が気軽に往来して賑わう。集まってきた人々を相手にした買い物や取引、娯楽、宿泊のために、表通りの道の両側に大きめの店舗が並ぶ。宿場町、市場町、職人町、馬場町、門前町、花街といった街である。
こうした公道をはさんで、間口60間×奥行20間の長方形の地所が向かい合って両側町として構成されるのが江戸の町の基本だった。1間は人が両手を広げた長さ(約1.8m)であり、人間の身体にもとづいて街の寸法が決まっている。町にも大中小があり、大はこの間口60間、中は40間、小は20間とされる。また公道の幅は、その町の機能や由緒に応じていろいろな寸法が許されていた。
典型的な町家はこの長さ(60間・40間・20間)の表通りに面して、間口5m(3間弱)、奥行27m(15間)といった寸法でつくられ、裏は同じ形状で対称になっている。町屋の空間構成は、表通りから片側は土間・通り庭に台所・蔵と続き、もう片側は店・玄関間・奥座敷・縁・裏庭と続く。二階は居室。こうして街と町家は緩やかにつながり、職住および公私で段階的に使い分けられる。表通りから横丁が入ると、そこは家賃も安いので風変りな店も並び、さらに奥で曲がると路地に面して庶民の暮らす裏長屋が続く。都市空間における位置に応じて、建築類型が使い分けられる。
道を挟む町が自治単位であった。町の出入口には木戸が設けられ、その脇に木戸番が常駐する番小屋があった。木戸は午前6時から午後6時まで開けられ、夜は顔馴染みの人だけを通す。昼間の番小屋は、雑貨や駄菓子、郵便などを扱い、さながら現代のコンビニエンスストアであった。こうした道路管理も町の自治によって担われ、治安も保たれる。お店を繁盛させるために、道の清掃や補修も町の人々が行う。このように町の自治であれば、いまのように舗装、ガードレール、街灯、信号、電柱、歩道橋などが無造作に設置されることもないだろう。

人の道が、人の街をつくる。
21世紀の東京、先人たちの築いた都市空間や市民文化に学んで、車社会から方向転換して、歩いて楽しめる街・市民社会を育む街を目指すときではないだろうか。

■参考文献
※1:越正毅・赤羽弘和・桑原雅夫:渋滞のメカニズムと対策,生産研究. 41(10), 1989.10.1, pp. 753-760
※2:田中伸治・桐山孝晴・濱谷健太:路上駐車が交通流に与える影響の分析,交通工学 41(6), 34-39, 2006

2015年 04月22日 11時06分