ソーシャルディスタンスを保って1人ずつ寝泊まりできる空間

LIFULLのグループ会社・LIFULL ArchiTechは、どこにでもすぐに建てられて、快適に住まえる新プロダクト「インスタントシェルター」を開発、2020年7月15日から販売を開始した(※)。これに合わせて8月3日にオンラインイベントを開催。開発者である名古屋工業大学大学院工学研究科教授の北川啓介さんと、LIFULL ArchiTechの代表・小池克典さんが、商品開発の背景や今後の活用可能性について語った。

インスタントシェルターは、2020年5月に発売した「インスタントハウス」を応用した商品だ。新型コロナウイルスの感染拡大をにらみ、4月から急きょ開発に取りかかったという。コロナ禍の最中に災害が起きたとき、ソーシャルディスタンスを保って1人ずつ寝泊まりできる避難所を、速やかに提供できるようにする狙いだ。感染者の隔離施設としても利用できる。

インスタントシェルター。大きさは縦3.8m×横1.4m×高さ2.5m</br>(以下、写真はすべてLIFULL ArchiTech提供)インスタントシェルター。大きさは縦3.8m×横1.4m×高さ2.5m
(以下、写真はすべてLIFULL ArchiTech提供)

数人でも数時間で建てられ、空調なしでも快適な温度・湿度を保つ

インスタントハウスは、短時間で容易に組み立てられる、堅牢でコンパクトな住空間だ。平らな地面やデッキがあれば設置できるので、これまでリゾート地のグランピング施設に利用されてきた。

その仕組みはこうだ。テント生地に空気を吹き込んで膨らませ、内側からウレタン材を吹き付けて固定させる。しばらく置いて乾かせば、生地と吹き付け材が一体化し、頑丈なテント状の構築物ができあがる。広さ7m2ほどのインスタントシェルターの場合、3人いれば所要時間は4時間ほどで済む。

もうひとつの特長は、その居住性能の高さだ。断熱材であるウレタンを厚く吹き付けて仕上げるため、室内は外気温の影響を受けにくく、夏涼しくて冬暖かい。「地面からの輻射熱の影響も受けず、室温も湿度も良好に保てます。初めて体験する人は、空調が効いているのかと勘違いするほど」と開発者の北川さん。遮音性も高く、外の騒音に煩わされる心配もない。

グランピングに用いられる「インスタントハウス」。写真は波戸岬キャンプ場グランピングに用いられる「インスタントハウス」。写真は波戸岬キャンプ場

平時から防災備蓄倉庫などに使って“予備防災”に役立てる

インスタントハウス開発の背景には、そもそも、災害時に、被災者に快適な避難生活を送ってほしいという願いがあった。

北川さんは東日本大震災の発災後、被災地の石巻市で避難所の調査に回った経験がある。
「被災者が多いため、体育館や会議室、和室、図書館などさまざまな場所が避難所に用いられており、その特徴の違いから、長所短所が分かりました。快適な温熱環境や音環境の担保、非日常の避難生活をいかに日常に近付けるかが重要だと痛感しました」と北川さん。「生きるための避難所を、住まうための避難所に近付けたいと考えるようになった」という。避難所となった小学校を案内してくれた小学生の言葉も耳に残った。「仮設住宅ができるまで何ヶ月もかかるんだって。この冷え込む体育館で、そんなに長く過ごさなくちゃならないなんて」

インスタントシェルターの開発にあたっては、インスタントハウス本来の施工性、居住性能に加え、大きさと運びやすさが課題になった。
「通常、避難所に想定されている床面積は1人当たり畳1畳分です。これは禅の修行に等しい広さ。住まうための避難所としては3〜3.5畳は欲しいところです」
一方で、完成したシェルターを運べるようにする必要もあった。
「必要な場所に速やかに移動できるようにしたい。インスタントシェルターは完成した状態のまま2tロングトラックで搬送できます。軽量なので、積み下ろしも容易です」

完成状態で持ち運びできれば、平時には別の用途に使ったり、被災地外から被災地に移送したりできる。

「断熱性の高いインスタントシェルターは、非常食の備蓄にも向いています。小学校や公共施設の空地にインスタントシェルターを建てて防災備蓄倉庫として使い、日頃から避難訓練に活用してはどうでしょう。いざ災害が起きたときには、インスタントシェルターが避難所の目印になります」と北川さん。

また、日頃は、キャンプや遊び場に使って親しんでもらってもいい。丸みのある外観は愛らしく、内部空間は“かまくら”を連想させる。代表の小池さんは「全国で災害が頻発する今、発災後の対応だけでなく、“予備防災”が重要です。平時も使えるシェルターを目指しました」と語る。

インスタントシェルター内部。1人用で、3〜3.5畳程度の広さインスタントシェルター内部。1人用で、3〜3.5畳程度の広さ

世界に類のない全く新しい工法。土に還る素材の使用に向けて開発中

価格は材料費・施工費込みで89万円。小池さんは「コストダウンに工夫した上での価格設定」と語る。「プレハブの仮設住宅の場合、30m2程度の2〜3人世帯用で1棟あたり400〜500万円かかると聞いています。インスタントシェルターの場合、イニシャルコストもさることながら、発災後速やかに建てられるメリットが大きい。断熱性が高く、空調に頼らずに温熱環境が保てることも重要だと考えています」

北川さんによれば「膨らませて固める」という工法は「世界的にも前例がない」という。もちろん日本にも類例がないため、法律上は建築物に位置付けられず、テントやトレーラーハウスと同じ扱いになるそうだ。「けれども、建築物と同等の性能を目指しています。難燃材を使っているので火にも強く、表面に不燃材を吹き付ければ不燃仕様にもなります。丸みのある外形は風を受け流すので、実は四角い建物よりも強風に強いんです」

現在は、廃棄時の環境負荷を抑えるため、テント生地や吹き付け材を土に還る生分解性素材にする開発を進めているという。

災害に見舞われたとき、せめて快適な避難生活が送れる社会であってほしいもの。そのためにも、インスタントシェルターの普及に期待したい。


※2020年8月現在、インスタントシェルターの販売は自治体または法人が対象。個人への販売は行っていない。

インスタントシェルター https://lifull.com/news/17883/
インスタントハウス特設サイト https://instantproducts.lifull.net/house/

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