30年で大きく変化した葬儀のスタイルと常識
東京都多摩消費生活センター主催により行われてきた「暮らしの連続講座」。最終回のテーマは「葬儀と墓」。講師のシニア生活文化研究所の所長、小谷みどり氏によると、30年ほど前のバブル時代までは、葬儀は、家族などの残された者が考えるもので、自分の葬儀について考える人はほとんどいなかった。また、葬儀の形式にも大きな違いはなかった。ところが今は、伝統的な仏教式から無宗教のものまで、葬儀のスタイルが多様化しているうえに、葬儀は行うものという常識も崩れてきている。東京では、葬儀をされない人が約30%に達しているそうだ。こうした変化の背景にあるのは、やはり高齢化がある。
「自分の葬儀に家族葬を望む人が増えていますが、高齢で亡くなる人が増え、会葬者も高齢化して減っているので、家族葬にならざるを得ないという面もあります」と小谷氏。データによると、今や亡くなる女性の40%近くが90歳以上で、会葬者は20年ほどの間に4分の1に減っている。小谷氏は「死は誰にも平等にやって来ますが、やって来るのは1回限りで、やり直すことができません」と話し、いわば「一発勝負」なので、本当に家族葬で見送ってほしいのなら、早くから備えることが必要と訴えている。
まず用意したい「連絡リスト」と「葬儀用の写真」
葬儀の準備として、まず取りかかってほしいと小谷氏が挙げるのが、「連絡リスト」と「葬儀用の写真」だ。連絡リストは4種類に分けて作成する。1番目が亡くなる前に知らせる人。親戚や親友などが該当する。2番目が亡くなったらすぐに連絡する人。葬儀に出席してもらいたい人になる。3番目が、葬儀や仏葬でいう四十九日を終えた後で、家族葬で見送ったことなどをハガキで知らせる人。最後が年賀状の欠礼の挨拶で知らせる人だ。「人間関係の濃淡は、基本的には本人にしかわかりません。夫婦の間でも難しく、夫の友人の連絡先を知っている妻は少ないでしょう」と言う小谷氏。連絡リストがあれば、葬儀の準備をスムーズに進めることができ、残された者は助かることになる。ただし、リスト作りはけっして楽しい作業とはいえないので、年賀状のリストを作成する際にでも、一緒に作ることを小谷氏は勧めている。
「葬儀用の写真」については、「葬儀の後も家族の家などに残すものですから、元気な頃の自然な笑顔のものを用意したいですね」と小谷氏は話し、「写真館などのプロに、葬儀用に使いたいと話して依頼すると、きれいに仕上げてくれます」とアドバイスする。しかし、早くから写真を準備すると、亡くなったときとのギャップが気になるが、小谷氏は「50歳代で亡くなったときに、20歳の写真を使うとさすがにギャップを感じるかもしれませんが、80歳なら、60歳前後に撮影したものより、シワや白髪が多少は増えているでしょうが、あまり違和感はないはずです」と言い、早めに撮影しても大丈夫と断言するのだった。
意味を持たなくなった葬儀の平均的な費用や相場
葬儀の費用も、残された家族にとっては気になるものだが、平均的な費用や相場といったものが、今はあまり意味を持たなくなっている。葬儀のスタイルが多様化しているので、それに合わせて、葬儀費用でもっとも大きなウエイトを占める祭壇の費用や、お通夜の飲食接待費などが変わるからだ。そこで必要になってくるのが、葬儀社から見積もりをとることだ。
「どのような葬儀にしたいか、会葬者はどの程度になるかといったことを具体的に決めて見積もりをとってください」と小谷氏は説明し、複数の見積もりをとることで、信頼できる葬儀社の見極めもでき、残された家族の安心にもつながるとしている。
戒名に関する誤解がもとで僧侶とのトラブルに
日本の葬儀の約80%は仏教式で行われている。宗派によって多少の違いはあるが、戒名や法名をつけて、僧侶が通夜や告別式でお経をあげるというスタイルだ。ところが、戒名はいらないが、お経はあげてもらいたいという人が増えていて、僧侶との間でトラブルになることもあるという。
「戒名は本来、仏教徒になった証としてもらうもので、亡くなった人に与える名前ではありません。ですから、戒名はいらないというのは、仏教徒になるつもりがないということになり、それでいてお坊さんには来てほしいというのは、お坊さんに失礼といえますね」と小谷氏は説明し、「もちろん引き受けてくれるお坊さんもいますが、断るのも当然のことなのです」と理解を示している。僧侶のお布施について小谷氏は、「お坊さんに通夜と告別式に来てもらう場合、葬儀社に依頼すると、東京では20万円程度というのが一般的です」と話している。
ちなみに僧侶の手配は通信販売でも可能で、法事のお布施は5万円からとなっているそうだ。また、棺も通信販売で購入できる。「棺は送料込みで2万数千円からあり、折り畳み式になっているので、押し入れで保管できますよ」と、話す小谷氏。
正しい情報をもとに自由に考えたい「葬儀と墓」
葬儀と同様、墓も従来の慣習が変化する中で、新たな問題が生じている。そのひとつが無縁墓の増加だ。「無縁墓として集められた墓石で、墓石の墓場ができている墓地もありますよ」とこぼす小谷氏は、生まれ育った場所で亡くなる人が少なくなったことが、無縁墓の増えた原因としている。「お墓が遠方にあり、なかなかお墓参りに行けないうちに、お墓を継承できなくなって無縁墓になるというケースが多いようです」
最近では、無縁墓になるくらいなら、血縁とは無関係な人が集まって、ひとつの墓に入るという動きもあるという。「老人ホームなどの中には、共同の墓を用意しているところもあります。これなら無縁墓になるおそれも少ないでしょうし、親しかった人といつまでも一緒にいることができます」と小谷氏は評価している。東京都にも合同墓があって、都民なら誰でも入ることができる。
さらには手元供養や散骨で、墓に入らないという選択肢もある。「法律では、焼骨は墓地以外に埋めてはならないとなっていますが、撒いてはだめとはなっていません。だから散骨が可能なんです」と小谷氏。ただし、自治体によっては散骨を規制しているところもあるので、よく調べてからにしてほしいと注意を促している。
葬儀と墓は誰もが直面する問題であり、故人の偲び方は人それぞれだから、正しい情報をもとに自由に考えてほしいと語り、セミナーを締めくくった小谷氏。葬儀と墓は暗くなりがちなテーマだが、小谷氏の巧みな話術で、笑い声の多い会場だった。
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