ご先祖様に申し訳ないという思い、ひと筋縄ではいかない墓問題

加速する高齢化や世帯数の減少に伴い、最近では住宅問題だけでなく墓問題もクローズアップされるようになってきた。遠い故郷にある墓の管理はどうすれば良いのか、移動しても良いものなのか、墓のことで子世代に面倒を掛けたくない、子どもを持たない世帯は自分の墓をどうしたら良いのか、永代供養とはいつまでやってくれるものなのかと言ったような悩みをあちこちで聞く。

住宅の場合は、売るなり貸すなり処分の方法が思いつくが、墓となると先祖代々が眠る神聖な場所という畏れや、罰があたりそうといったような複雑な思いがよぎり、そう簡単には解決できないと感じる人が少なくないようだ。

文化庁の宗教関連統計に関する資料集によると、ご先祖様を尊ぶと答えた人は66%で、1年に1回以上墓参りに行く人は72%、あの世を信じるかについては「信じる」が40%で、「信じない」の33%を上回っている。ちなみに「どちらとも決めかねる」と「わからない」のニュートラル派が25%いるので、完全否定の約2倍の人が、なんとなく「あの世」に何かしらの思いを抱いているということになろうか。

そこで今回は、現代の墓事情と日本の埋葬文化の関係性を紐解きつつ、墓の移動方法や後継者がいなくなった墓はどうなるのか、永代供養とはどんなシステムなのか、最近人気の散骨についてなど、現代の墓問題について探ってみたいと思う。

あなたは先祖を尊びますか?のアンケート結果。文化庁が公開している「宗教関係統計に関する資料集」よりあなたは先祖を尊びますか?のアンケート結果。文化庁が公開している「宗教関係統計に関する資料集」より

死亡者数はこの50年ほどで約2倍に増え、墓地と火葬場は減少している

まずは現在の墓事情の一端を窺い知ることができる関連データをいくつか紹介しよう。厚生労働省から発表された平成29年人口動態統計の年間推移によると、昨年1年間の死亡者数は約134万人であった。ちなみに昭和30年代から60年代までの平均死亡数は約70万人で、この50年ほどで約2倍に増えている。更に2040年には166万人になるという予測も出ているなど、高齢化に伴ってこの先更に多くの人が「死」を迎える時代がやってくる。

このように死亡者数は年々増加しているが、反して墓地の数は減っているというデータがある。厚労省から発表された衛生行政報告によると、大正時代には100万箇所ほどあった全国の墓地の数は現在では86万ほどに減少、更に文化庁のデータでは平成に入っても2万ほど減っているという。反面、納骨堂の数は増加していて、昭和30年当時は4,000箇所ほどだったものが、現在では12,000箇所と3倍に増えている。

また昨今、問題になっているのが火葬場の減少で、文化庁の宗教関連統計に関する資料集によると、埋葬法の施行後の初統計である昭和31年には約27,000箇所あったものが、現在は4,500箇所ほどまでに減り、都市部での火葬は非常に混み合っていて数日待たされたというケースも聞く。

墓地が減っていることに関して言えば、昭和の時代までは火葬の増加と墓地の減少がリンクしていて、それまでは土葬が普通に行われていたために墓1基に1人の埋葬が原則であったが、昭和になり火葬が定着するとコンパクトな骨壺に収めて埋葬するため、墓1基に家族全員を収容できるようになったことがあるだろう。

しかし平成以降も墓地は減少し続けている。数字だけ見れば墓地が足りない状況にありそうだが、現在のところ、墓不足という声を聞くこともあれば、いや墓は余っているという声もあり、どうもはっきりしない。このあたりは正確な統計が無く、地域性や墓地の人気の格差によって状況が大きく異なると推察される。また納骨堂の増加が示すように、巨大マンションを区分所有する様な埋葬法が現れたことも、その一因と考えられる。

最近では、納骨堂などの日本の埋葬ビジネスに、海外資本も積極的に参入最近では、納骨堂などの日本の埋葬ビジネスに、海外資本も積極的に参入

墓じまいをして改葬、故郷の墓を移動する「迷い」は死生観の変遷によって醸成

さて昨今筆者の周囲でよく聞くのが、遠い故郷にある先祖代々の墓を「墓じまい」し、現在生活基盤がある都市の近くに新たに墓を購入、そこへお骨を移動させたというものである。このように一度埋葬した遺骨を他へ移すことを「改葬」と言う。その際には市区町村より発行された改葬許可証が必要となる。墓じまいとは、お骨を引き上げて墓石を撤去、整地して寺や墓地の管理者に土地を返還することを言う。

都市部に人口が集中し、地方の過疎化が進む現在、故郷にはもう墓を守る者がいない、遠すぎて管理がしにくいという悩みは少なくない。そこで住居の近くに新たに墓を購入し、そこで見守ることができれば管理も楽で、ご先祖様にもご無沙汰しないで済むというわけだ。

しかしながら、何となくご先祖様に顔向けできないと言ったような「迷い」が生じる人もいる。先祖代々守り伝えてきた家名、家屋敷、墳墓、土地という地縁結縁のしがらみに囚われる感覚である。このような感覚は、日本の死生観の変遷によって醸成されてきた。

古代においては、生とは肉体に霊が宿ることで、死とは霊が肉体を離れることを意味し、寝ることも死の一種であった。生の主体はあくまでも霊にあり、死者供養の中心的課題は遺体の処置ではなく、肉体に戻れなくなった霊の無害化、浄化が主目的とされた。ゆえに鳥風葬が行われ、霊の自然界への回帰が優先された。

中世になると、仏教の浄土思想が浸透し、浄土への往生という観念が肥大化、自然界に帰すだけだった死霊を、確実に彼岸世界へ送り届ける事が、死者供養の究極の目的と考えるようになった。肉体は自然に還すという意味だけで処理されていた。

近世になると、他界浄土の観念は一転して縮小に向かい、彼岸世界よりも現世の比重が高まる。戦乱は終焉を迎え、平和で安定した日常が子々孫々まで約束された社会において、幸せは他界ではなく現世にあるべきものへと変化した。死者はもはや遠く他界にある浄土へと旅立たなくなり、永続してゆく「イエ」(何々家という家系の概念)と骨と墓標を依代に、永久にこの世にとどまることとなったのである。つまり石塔墓とそこに眠る遺骨は、この地に永続的にご先祖様が留まっているという象徴であった。

しかし死者が永続的にとどまってしまっては、この世が死者で埋め尽くされてしまう。そこで、死者と契約を結び、墓から出ない代わりに法事をとり行い供養するというシステムが生まれた。日常的に読経の聞こえる寺院の境内に墓を建立したのは、死者を隔離するためであった。

このような死生観の変化によって、ご先祖様達は狭い墓の中に閉じこめられ、子孫の我々は供養と言うタスキを代々受け継いできた。しかしイエ制度が崩壊した現代社会において、家柄や家系といった概念は形骸化し、墓に霊を縛り付けることの根拠も希薄になりつつある。故郷のお墓をどうしようかという問題は、このような前近代的な社会構造から生まれた概念と、現代社会に生きる中での現実的な問題の狭間で生まれた悩みなのである。

あの世を信じる日本人は40%存在しており、昭和30年代から比べると倍に増えている。前出文化庁データよりあの世を信じる日本人は40%存在しており、昭和30年代から比べると倍に増えている。前出文化庁データより

放置された故郷の墓はどうなる?永代供養は33回忌まで、本山納骨で供養する手も

では継承者が居なくなり、放置された故郷の墓はどうなるのだろうか。寺院墓地、公営墓地、民営墓地、共同墓地など若干の形態の違いはあるが、一般的には、墓地管理費が支払われなくなり、一定期間関係者と連絡が取れなくなった時点で無縁仏と見なされ、墓石は撤去、更地にされて再販される。遺骨は撤去時に処理されるケースや、無縁塚に合祀されるなど様々だ。

遠く管理は難しいけれども、供養だけは終わらせておきたいという場合は、永代供養と言うシステムもあり、所定の料金を払って墓の管理や供養を代行してもらうことができる。ただし永代と言っても33回忌で供養が終了すれば合祀墓へというのが一般的である。その際の墓石の撤去処分費用などは、永代供養料に含まれているケースが多い。また永代供養墓と言って、はじめから墓じまいをし、合祀墓へ改葬するケースもある。

本山納骨という方法も古くから存在する。多くは合祀型で、遺骨の一部を分骨という形で、入信している宗派の本山に収めて供養をしてもらうというものである。最近では遺骨の全部を収める人も増えているそうで、その場合は墓石の撤去や整地という、いわゆる墓じまいが必要になるが、この方法なら檀那寺との軋轢が少なく済みそうである。誰も継ぐものが居なくなり取り残されてしまった実家の墓も、このように様々な供養の方法がある。

墓じまいを済ませて先祖の遺骨を収蔵する合祀墓タイプの永代供養墓墓じまいを済ませて先祖の遺骨を収蔵する合祀墓タイプの永代供養墓

自分のお墓はどうする?散骨、手元供養、墓に入らない直葬という方法も

ところで自分の墓はどうするか。厚生労働省が2013年に行なった墓地埋葬等に関する住民の意識調査によると、自分自身が希望する埋葬方法は、1位:先祖代々のお墓(29.5%)2位:散骨(16.6%)3位:新しく建てた墓(12.4%)4位:永代供養墓(10.7%)と言う結果であった。散骨の中でも海洋散骨は山や森林に比べて許可が取り易く、費用面でもリーズナブルということで人気になっている。最近では、飛行機からの上空散骨も登場して耳目を集めた。

散骨が2位にランクインしたのは意外ではあったが、前出の文化庁のデータによると、葬儀に関しても自分の場合は「近親者だけで質素にして欲しい」と思っている人が約70%と大勢を占めるなど、死後にあまり面倒を掛けたくないと考えている人が多いようだ。

現在、日本の葬儀は散骨の他にも、墓石の代わりに樹木を墓標とする樹木葬、遺骨の一部を身近なオブジェやアクセサリーに埋め込んだりする手元供養など、様々に営まれるようになっている。これらの新しい葬送儀式は「散骨は埋葬法に反してはいない」という最高裁判所の見解を受けて市民権を得た感がある。もちろん埋葬法においては、許可なく勝手に遺体や遺骨を埋めることを原則的には許していない。

最近では直葬といって、会葬者が集まって直接焼き場に運んで火葬にし、そのまま遺骨を処分してもらって引き取らない葬送法もある。墓に入りたければ入ればいいし、入りたくなければ入らなくても一向に構わないという考え方が社会に受容されていることをみると、八百万の神々を信仰する大らかな日本人が持つメンタルの多様性が発揮される葬送文化に行き着いたと言えるのかもしれない。

故人が好きだった場所に遺骨を撒いて供養する自然葬は年々人気になっているというデータもある故人が好きだった場所に遺骨を撒いて供養する自然葬は年々人気になっているというデータもある

2018年 03月25日 11時00分