住宅ローン減税など40年以上優遇されてきた住宅関連の税制
住宅は多くの人にとって人生でもっとも高額な買い物だ。また引越しやインテリア、家電など関連する業界も幅広く、その市場の状況は日本経済に大きく影響を与える。そのため住宅ローン減税や贈与税の非課税措置、登録免許税の軽減など以前から購入時の税負担の軽減策が講じられてきた。
なかでも住宅ローン減税の歴史は古く、1972年に導入された住宅取得控除までさかのぼる。これは住宅購入後3年間は取得金額1%分の税金を控除するというものだった。その後1978年に住宅ローンが控除対象となり、景気が悪化した1999年には最大控除額587万5000円となった。だが、2008年に国の財源不足などで最大控除額は160万円まで下がる。
来年(2014年)4月には消費税が増税される予定だ。前述のように住宅市場は日本経済を大きく左右する。国としては増税から住宅関連市況の悪化、そして景気全体の落ち込みという連鎖は避けたい。その対策として実施予定なのが住宅ローン減税の最大控除額拡充と新たな施策であるすまい給付金制度だ。
消費税が増税されれば住宅ローン減税が拡充され、すまい給付金制度がスタートする
住宅ローン減税とは、住宅ローンの金利負担を軽減するため、年末のローン残高の1%を所得税から控除する制度だ。
10年間継続して控除が受けられ、所得税額がローン残高の1%に満たない場合は13万6500円を上限として翌年の住民税からも控除できる(図A)。今年(2013年)の住宅ローン減税の最大控除額は200万円(一部300万円)だが、消費税の増税後は400万円となる(一部500万円)。つまりローン残高と所得税によっては増税後の方が200万円多く税金が戻ってくるわけだ。
一方ですまい給付金とは、消費税増税後に自らが居住する住宅を購入すれば国から給付金が支払われる制度。
新築住宅、中古住宅のいずれも対象となる。ただし指定の検査を受けるなどで住宅の品質や耐久性が確認できることが条件だ。給付金額は住む世帯の収入によって異なり、10万円から50万円となっている(図B)。
住宅ローン減税とすまい給付金は、どちらか一方だけ使えるという訳ではない。
すまい給付金は条件はあるものの、状況によって賢く2つを使いたいものだ。
どちらの制度もくわしくは「すまい給付金の公式ホームページ」で確認してほしい。
http://sumai-kyufu.jp/
控除額と給付金額は年収や家族構成によって大きく左右される
さて、この2つの制度によって国は増税後の住宅購入時の負担を軽減するとしている。しかしそれは本当なのか? もし損や得をするなら具体的にいくらなのか? 現在(2013年9月13日時点)まだ消費税率は決定していないが、8%となった場合をシミュレーションしてみた。
住宅ローン減税の控除額とすまい給付金の給付額は年収や家族構成によって大きく左右される。そこで以下をモデルケースとした。
●モデルケース●
夫婦(夫はサラリーマン、妻は収入なし)と中学生以下の子ども2人の4人家族
<Aパターン>
年収400万円と年収700万円でそれぞれ2000万円の土地と2000万円の建物を購入し、2000万円の住宅ローンを組む
<Bパターン>
年収400万円と年収700万円でそれぞれ2000万円の土地と4000万円の建物を購入し、4000万円の住宅ローンを組む
年収400万円の場合の所得税は4万円、住民税は2.5万円、年収700万円の場合の所得税は22万円、住民税は14万円とした。
なお、土地に関しての消費税は非課税となっている。
年収400万円と700万円で負担額をシミュレーション
<Aパターン>(2000万円の住宅ローンを組む)
●消費税増税額
2000万円×8%-2000万円×5%=60万円
消費税増によって60万円の負担増。
○住宅ローン控除額
年収400万円の控除額合計:65万円
年収700万円の控除額合計:180万円
いずれも増税前の最大控除額200万円を超えていない。そのため増税対策である住宅ローン控除拡充の恩恵はなし。
○すまい給付金の給付額
年収400万円の場合の給付金額:30万円
年収700万円の場合の給付金額:0円(消費税率8%の場合・図B参照)
●結果●
年収400万円の場合:住宅ローン減税拡充0円+すまい給付金30万円-消費税増税分60万円=30万円の負担増
年収700万円の場合:住宅ローン減税拡充0円+すまい給付金0万円-消費税増税分60万円=60万円の負担増
↓年収400万円の場合は所得税額に住民税額を足しても控除率1%の20万円に届かない
控除額 | ||
年収 400万円 | 年収 700万円 | |
年数 | ||
1年目 | 6.5万円 | 20万円 |
2年目 | 6.5万円 | 19万円 |
3年目 | 6.5万円 | 19万円 |
4年目 | 6.5万円 | 19万円 |
5年目 | 6.5万円 | 18万円 |
6年目 | 6.5万円 | 18万円 |
7年目 | 6.5万円 | 17.5万円 |
8年目 | 6.5万円 | 17万円 |
9年目 | 6.5万円 | 16.5万円 |
10年目 | 6.5万円 | 16万円 |
控除額合計 | 65万円 | 180万円 |
消費税増税後でも年収やローン金額によっては得をする
<Bパターン>(4000万円の住宅ローンを組む)
●消費税増税額
4000万円×8%-4000万円×5%=120万円
消費税増によって120万円の負担増。
○住宅ローン控除額
年収400万円の控除額合計:65万円
年収700万円の控除額合計:約350万円
年収700万円の場合のみ最大控除額が200万円から400万円に拡充されたことで約150万円の恩恵を受けることができる。
○すまい給付金の給付額
年収400万円の場合の給付金額:30万円
年収700万円の場合の給付金額:0円(消費税率8%の場合・図B参照)
●結果●
年収400万円の場合:住宅ローン減税拡充0円+すまい給付金30万円-消費税増税分60万円=30万円の負担増
年収700万円の場合:住宅ローン減税拡充150万円+すまい給付金0万円-消費税増税分60万円=90万円の負担減
どうやら消費税増税後でもある程度年収が高く、多めの住宅ローンを組む人ならばお得なるのは事実のようだ。
だたし、所得税や住民税の納税額は家族構成や生命・損害保険の加入の有無などによって千差万別。「年収いくら以上ならお得になる」とは言い切れない。
より自分に合った金額で算出したい場合は、勤務先から交付される「給与所得の源泉徴収票」を確認してほしい。
↓年収700万円の場合は年末のローン残高が減ることによって控除額も減っていく
控除額 | ||
年収 400万円 | 年収 700万円 | |
年数 | ||
1年目 | 6.5万円 | 35.65万円 |
2年目 | 6.5万円 | 35.65万円 |
3年目 | 6.5万円 | 35.65万円 |
4年目 | 6.5万円 | 35.65万円 |
5年目 | 6.5万円 | 35.65万円 |
6年目 | 6.5万円 | 35.65万円 |
7年目 | 6.5万円 | 35万円 |
8年目 | 6.5万円 | 34万円 |
9年目 | 6.5万円 | 33万円 |
10年目 | 6.5万円 | 32万円 |
控除額合計 | 65万円 | 347.9万円 |
2013年 09月19日 12時52分