国内初の全住戸ZEH分譲マンション誕生

快適で省エネ性能もあって環境への配慮もされていて、資産価値への期待も膨らむ―。
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のメリットが注目されはじめ、一戸建てでは徐々に普及が進んでいるが、2019年春、国内初の全住戸ZEHを実現した分譲マンションが誕生した。

名古屋市千種区の閑静な住宅街に建つ「グランドメゾン覚王山菊坂町」は、積水ハウス株式会社が手掛けた全住戸ZEHの分譲マンション。地上3階、地下1階建て12戸の邸宅型マンションで、2017年の11月から販売を開始、初月で6戸が契約、2018年8月には完売となった注目の物件だ。

住宅メーカーのトップランナーとしていち早くZEHに取り組んできた積水ハウス。同社では2013年から新築一戸建てでZEHを展開し、新築契約のZEH比率は7割を超え、これまでに3万5,000棟と日本最多のZEH住宅を建築してきた実績がある(2018年3月時点)。このノウハウをマンションに詰め込んだかたちだ。

実際の物件を見せていただくとともに、全住戸ZEHの快適さと実現するまでの経緯について、取材させていただいた。

名古屋市内でも人気の高い千種区エリアに建つ「グランドメゾン覚王山菊坂町」(写真提供:積水ハウス)名古屋市内でも人気の高い千種区エリアに建つ「グランドメゾン覚王山菊坂町」(写真提供:積水ハウス)

断熱性能を上げ省エネ・創エネ設備を導入することでZEH条件をクリア

ZEHとは、家庭で消費するエネルギーを太陽光発電などで創り出したエネルギーによって相殺し、エネルギー収支ゼロを目指す住宅のこと。
消費エネルギーをできるだけ抑えたうえで、削減できなかった分を再生可能エネルギーで賄うという考えに基づけば、消費エネルギーをどこまで減らせるのかが、大きなポイントとなる。

マンションでの全住戸ZEH化は一戸建てに比べて難易度が高い。その理由はのちほど記すとして、数々の条件をクリアするために施された工夫を先に紹介しよう。

まずは断熱。
外気と接する面すべてに断熱材を入れ、外壁面には厚み80mm以上、一般の倍近くの断熱材が使用されている。断熱性能を上げるうえで弱点となる窓には、アルミ・樹脂複合サッシ+アルゴンガス封入複層ガラスを採用し、開口部の断熱性能を従来比の約2倍に高めることで、住戸単位の断熱性能は約1.4~1.5倍にまで高まったという。
実際に窓際に立ってみても寒さは感じられないし、室内の温度ムラがなく部屋のどこにいても快適だ。

「ただ、断熱性能だけでは得られる省エネ効果はほんの数%です。断熱だけでなく冷暖房、換気、照明、給湯といった生活のあらゆる面でまんべんなく省エネすることがZEHを実現する方法なんです」
と教えてくださったのは同社環境推進部 温暖化防止推進室長の近田智也さん。

高いレベルの断熱仕様に加え、LED照明、手をかざすだけのタッチレス水栓、手元止水機能付きシャワーヘッドや断熱浴槽など省エネ機器を取り入れて徹底的に省エネすることで、ZEHの基準をクリアすることに成功した。

さらに、ランニングコストが高いと言われている床暖房にも工夫が。
「一般的な床暖房だと一部の熱が床下に逃げているんです。この熱を室内側に流れるように工夫を施しています。また、床暖房はエネファームで作った温水を使用し、エネルギー消費を抑えながら効率よく部屋を暖めることができる仕様となっています」(近田さん)

同社の計算によると(※)、床暖房を使ったとしても一般的なマンションと比べ、月1万円の光熱費削減になるというから、経済的でもある。


※シミュレーション条件
建設地:名古屋。延べ床面積約86m2、3LDK、3人家族、エネファーム床暖房。節湯水栓、高断熱浴槽、LED照明、太陽光3.64kW搭載、中部電力・東邦ガスの料金、余剰電力売電単価24円/kWh

【写真右】外壁断面模型。厚み80mm以上の発泡ウレタン断熱材で高い断熱性を実現<br>【写真左】マンション用に作られたアルミ・樹脂複合サッシ+アルゴンガス封入複層ガラスの模型【写真右】外壁断面模型。厚み80mm以上の発泡ウレタン断熱材で高い断熱性を実現
【写真左】マンション用に作られたアルミ・樹脂複合サッシ+アルゴンガス封入複層ガラスの模型

屋根面積の少ないマンションでは、いかにエネルギーを創り出すかがカギとなる

【写真上】屋上に設置された太陽光パネル。一年間の太陽高度を踏まえて発電量を計算。少ない面積で12戸分の電力を賄うため、あえて傾斜をつけずに設置されている。ちなみにパネルは各戸の専有とし、12戸それぞれに計算され割り当てられているそう<br>【写真下】各戸のバルコニーに設置された燃料電池「エネファーム」(写真提供:積水ハウス)【写真上】屋上に設置された太陽光パネル。一年間の太陽高度を踏まえて発電量を計算。少ない面積で12戸分の電力を賄うため、あえて傾斜をつけずに設置されている。ちなみにパネルは各戸の専有とし、12戸それぞれに計算され割り当てられているそう
【写真下】各戸のバルコニーに設置された燃料電池「エネファーム」(写真提供:積水ハウス)

さて、集合住宅でのZEH化が難しい理由について話を移そう。

一戸建てよりも集合住宅のZEH化が遅れていたのは創エネが大きなネックとなっていたからだという。

「マンションなどの集合住宅の場合、太陽光パネルの設置面積の確保が難しいんです。一戸建ての場合ですと1戸に対して十分な屋根面積がありますが、層で住戸が重なる集合住宅の場合、住戸数に対して屋根面積が足りなくなってしまい、1戸あたりに必要な太陽光パネルの設置容量が不足してしまうんです。一戸建てよりもずっとハードルが高い。けれども、できないわけではないと2014年くらいから研究と検討を重ねてきました」(近田さん)

発電効率の高いヘテロ式のパネルを採用。隙間なくほぼフラットな状態で設置することで全体で約50kW、各戸あたり平均約4kWを確保。さらに各戸に搭載した燃料電池「エネファーム」と合わせたW発電で、家庭で使うエネルギーを100%賄うことを目指すZEHが実現した。「エネファーム」は、太陽光発電が見込めない夜や雨の日でも電気を創ることができるため、停電時には停電時専用コンセントから電気を使うことができるのも大きなメリットとなる。

集合住宅でもZEHの快適性を享受できる時代に

積水ハウス環境推進部 温暖化防止推進室長の近田さん積水ハウス環境推進部 温暖化防止推進室長の近田さん

近田さんによると、「今回の全住戸ZEH分譲マンションの仕様が10年後に標準化できるかどうかというと、まだちょっと難しい」という段階なのだそう。それだけ実現の難しい仕様だということうかがえる。

特にマンションを購入した場合、後になって断熱性能を良くしたいと思っても難しい場合が多い。マンションの管理規約には細かい制約があり、バルコニーや窓についても共用部とみなされるため、勝手に手を入れることができないからだ。マンションの購入を考えるのなら先を見据えた検討が必要となる。

積水ハウスではすでに今回の分譲マンションに先駆けて、石川県では全住戸ZEHを満たす賃貸住宅を2018年1月に建築済み。一戸建てほどスムーズな普及は見込めないかもしれないが、集合住宅においても少しずつ、ZEHの快適性を享受できる時代になってきているようだ。

常に”入居者ファースト”。ZEHの快適性を一戸建て以外にも広げる

そもそも日本がZEHに注力しているのは、地球温暖化対策を踏まえた2015年のパリ協定における約束があるからだ。
約束を遵守するためには、日本は家庭部門におけるCO2排出量を2030年までに約40%削減しなくてはならない。先行している一戸建てでのZEH普及の加速だけでなく、家庭部門のCO2排出量の約3割を占めている集合住宅のZEH化も推進する必要があるが、エコのために快適性を犠牲にしてしまっては本末転倒だ。

「省エネ、脱炭素をひたすら追い求めるなら、大げさに言えば断熱性が劣る窓を小さくしてしまえばいいわけです。でもそれでは住まいの快適性は得られません。大前提は住む人の快適な暮らし。私たちは住宅メーカーですので、常に”入居者ファースト”で住まいを考えています」(近田さん)

ZEHに注目されがちだが、自生樹を植栽する「5本の樹」計画や、年を経るごとに風情を増す天然石を使用した外構、防災倉庫への備蓄などの防災対策、居住階以外では乗り降りできないフロア制御のエレベーターなどの防犯対策も施されている。まちとの調和、住む人の安心感、そういったものも含めた暮らしの快適性に積水ハウスの"入居者ファースト"が息づいている。

2018年には集合住宅のZEH基準の定義も示され、補助金制度も始まった。完全ZEHとはいかずともNearly ZEH(75%以上達成)、ZEH Ready(50%以上達成)などを含め、集合住宅を選ぶ人たちもZEHの快適性を享受できる時代が見えてきた。普及に期待が高まるとともに、選ぶ側の私たちも慧眼を持つ必要があると感じた。


【取材協力】積水ハウス
https://www.sekisuihouse.co.jp/

外観と統一したボーダータイルを使用した品格あふれるエントランス。時が経つほどに味わいを増す住まいづくりの工夫がされている外観と統一したボーダータイルを使用した品格あふれるエントランス。時が経つほどに味わいを増す住まいづくりの工夫がされている

2019年 05月10日 11時05分