暑くて寒い。日本の気候は想像以上に過酷

現地は角地にある5区画で住戸間には塀はなく、緩やかに一体となっている現地は角地にある5区画で住戸間には塀はなく、緩やかに一体となっている

日本の自然はしばしば”豊かな”と表現されるが、見ようによっては非常に苛酷ともいえる。東京を例にとると夏は熱帯の香港やマニラ、ジャカルタ並みに暑く、冬は東京よりはるかに緯度の高いパリ並み。暑いだけでも、寒いだけでもなく、暑くて寒い。それが日本の自然なのである。

しかも、日本ではその暑さ、寒さが人の命を左右する。夏の暑さが高齢者を中心に熱中症を引きおこし、少なからぬ人が亡くなっているのは周知の事実。あまりニュースにはならないが、独立行政法人東京都健康長寿医療センターのデータによると、冬の室内の温度差に起因するヒートショックで亡くなる方もやはり高齢者を中心に年間1万7,000人。これは交通事故による死亡者数4,611人の3倍近くにも及んでおり、日本では自動車よりも温度差が人の命を奪っている。世界的に見ても冬に亡くなる人は多いのだが、欧米のそれと比べ、日本の冬の死亡者数はあきらかに多い。これは日本の家の性能に問題があるためである。

その問題を解決する手段として、このところ、耳にするようになったのがゼロエネハウス(ZEH)である。これは非常に簡単に言ってしまうと、使うエネルギーと作るエネルギーの収支がゼロになる家のこと。エネルギー消費を抑えることで環境に負荷を与えず、室内に温度差を生み出さないことで住む人にも優しいという家を意味する。暮らす人にとってより良い住環境を提供すると同時に全世界的に課題になっている低炭素社会実現の、一石二鳥を狙うものと言い換えても良い。

具体的な実現のためには住宅自体の性能を上げ、少ないエネルギーで暖かく、涼しく、温度差がない状態にすること、かつエネルギーを生んだり、少しのエネルギーで効率的に冷暖房を可能にする設備を設置することで、使うエネルギ―を減らすことの2つの組み合わせが必要になる。それを実現した戸建て分譲住宅が世田谷区深沢、都立園芸高校に隣接した土地に誕生した。全体で5棟からなる「リストガーデン オーレリアン深沢」である。監修にあたった建築家・竹内昌義氏にこの住宅のポイントについて聞いた。

住宅の断熱性能を上げると、部屋はいつまでも暖かい

太陽光発電は設置されているが、蓄電池は無し。それよりも躯体の性能の高い住宅を目指した太陽光発電は設置されているが、蓄電池は無し。それよりも躯体の性能の高い住宅を目指した

この住宅最大の特徴は断熱・気密性能が高いこと。住宅の性能そのものを良くすることにこだわっているのである。「最近、よく目にする『スマートハウス』は本来両輪であるべき住宅自体の性能と設備のうち、設備にのみ注力、蓄電池を備えることが前提のように思われていますが、大事なことは住宅の性能そのものを上げること。そうすれば、エネルギーの使用量もおのずと減らせ、今後、性能の良い蓄電池が登場してくれば使用する電力を自家発電で賄う、オフグリッドも視野に入ってきます。この家では現状、非常に高価な蓄電池は設置せず、住宅の性能そのものを可能な限り、高めることを意識、実現したものです」。

実際、住宅の性能値のうち、年間暖房負荷を見てみると、政府が2022年実現に目指す次世代省エネルギー基準でトップランクの4等級に当たる100~120kWh/m2・年の半分以下、40~50弱kWh/m2・年となっており、性能の高さが数字からも理解できる。

「この数値が30になっている山形エコハウスでは、エネルギーの消費量はかなり少ない。東日本大震災時には2日間停電しましたが、室内は18度以下にはなりませんでした」。

考えてみれば、マンションで南向き、日当たりの良い部屋なら、冬でも暖房不要の暮らしはさほど珍しくない。せっかくの床暖房を全く使わない例もよく耳にする。一戸建てでも建物が同じような性能を備えていれば、そもそも、そんなに暖房を使わずに済むはずである。

基礎下断熱、オリジナル断熱壁、樹脂窓で快適を作る

最新の樹脂窓を利用することで窓の断熱性能を高めた最新の樹脂窓を利用することで窓の断熱性能を高めた

その実現のため、この物件では3つの工夫を施している。ひとつは基礎下断熱。湿度の高さを考慮、日本では多くの住宅は基礎の下に通気層を作る。その場合、床下を断熱しても玄関の土間、浴室では断熱が切れてしまい、そこから熱が逃げてしまう。それを防ぐため、この住宅では床の下、基礎下を断熱、家全体を断熱している。ここで気になるのは、床下の湿気はどうなるかという問題だが、それは床にスリットを設け、室内に放出することで対処している。

壁にはオリジナルの断熱壁を施工している。断面図によると外側から、厚さ14mmの窯業系サイディング、胴縁を挟んで厚さ15mmの防水シート、厚さ25mmの外張り断熱材、厚さ9mmの構造用パーチクルボード、厚さ130mm以上の吹付断熱材、気密性向上のための気密シート、そして厚さ12.5mmの石膏ボードとなっており、目を惹くのは断熱材の厚さ。2×4工法よりも部材が長い2×6工法で作られているため、壁が厚く、そのため、2×4では89mmの断熱材までしか使えないところが、130mm以上となっているのである。ちなみに2×6工法では構造的にも2×4より強いとも言われている。

もうひとつの工夫が樹脂サッシの採用。窓は熱の出入りがもっとも多い場所であり、窓の性能は室内の環境を左右する。そこで、この物件では周縁にアルミではなく、樹脂を使用、かつ複層ガラスを使った窓を使い、窓から逃げる熱の量を減らしているのである。

窓の多さ、まとまり感のある植栽も印象的

高い位置にあったり、ごく小さなものであったりもするが、室内の複数の壁に窓が設置されており、風も、光も入る高い位置にあったり、ごく小さなものであったりもするが、室内の複数の壁に窓が設置されており、風も、光も入る

さて、実際に物件を見学してみて最初に感じたのは窓が多いこと。数だけではなく、高さが異なる窓が室内の異なる二面に設置されているなど、通風への配慮が感じられるのである。隣り合う2軒の場合には視線が合わないような位置に配されてもいる。

「高気密、高断熱を追求しているからと言って窓は小さくすべきではありません。湿気が籠らないよう、でも、窓から大量の熱が入ってこないよう、太陽の位置なども考えながら、窓をシミュレーションすることが大事です」。

空気という点では熱交換型換気システムが採用されている点にも触れておこう。これは排気の際に汚れた空気と一緒に排出されてしまう熱を吸気時に回収して室内に戻す仕組みになっている換気システムで、冷気、暖気を逃さないのが特徴。冷暖房効果を妨げないのである。同時に湿度のコントロールも行うそうである。

もうひとつ、室内では室内環境の確認、エアコン操作がスマホで行える「おへや+」なるサービスが目をひいた。これはインターネットサービスプロバイダのニフティが開発したサービスでリビングに置かれた環境センサーが室内の温度、湿度を感知し、部屋が暑くなりすぎたらスマホでエアコンを操作するなど、遠隔で室内の環境をコントロールできるというもの。子どもや高齢者、ペットだけが在宅している時や帰宅前に室内を快適にしておくためなどに便利そうだ。

個人的には塀のない、各戸ではなく、全体でまとまり感のある植栽が印象的だった。隣接する園芸高校、近隣にある呑川緑道など、物件が所在する世田谷区深沢は緑の多いエリアである。そこで家を買うなら、周囲にマッチしたものが良いと思うが、今回の物件は今後深沢エリアにうまく溶け込めそうだと期待が持てる。時間が経って緑が育てば、良い雰囲気になるだろう。

2015年 10月30日 11時07分