古代から現代まで、全時代100プロジェクトで日本建築の特質を語る展示

六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」のポスター六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」のポスター

現在、東京・六本木の森美術館で、六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」が開催されている(2018年9月17日まで)。

まず話題にせざるをえないのは、その壮大なタイトルだ。「人類の文化で建築といえば、筆頭は日本」と高らかに宣言するかのよう。英語タイトルは「JAPAN IN ARCHITECTURE」。「建築に見る日本文化」という読み方も可能か。展示を見た感想では、そのどちらの解釈も許されていると思う。

日本建築を扱った大規模な展覧会といえば、金沢21世紀美術館の「ジャパン・アーキテクツ1945–2010」(2014年11月1日〜2015年3月15日)と、東京国立近代美術館の「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」(2017年7月19日〜10月29日)が思い浮かぶ。いずれも、タイトルに見るとおり、1945年以降、つまり戦後の建築を扱っていた。

翻って「建築の日本展」は、古代から現代までの全時代の、あらゆる種類の建築を対象としている。出展プロジェクトはちょうど100。たったこれだけで、日本の長大な歴史を、建築の特質を語ろうとは、なんと大胆な企画だろうか。

展示は時系列でもジャンル別でもない。日本建築のエッセンスをすくい取る、9つのテーマによって分類されている。それぞれ、歴史的な建築と、近現代の建築家の実作を対比させているのが特徴だ。後者は、21世紀に入ってからの新しい作品が多い(まだ建設中の作品もある)。日本の文化に脈々と引き継がれてきた「遺伝子」が、建築の最先端を切り拓くさまを描き出す。

展示は実物大を含む大型の模型や映像を多用しており、分かりやすく飽きさせない。個性の強いプロジェクトが多いので、小難しい理屈は抜きに「こんな建物があったのか!」と見ていくだけでも十分楽しめる。

さて、前置きはこのぐらいにして、実際の展示を覗いてみよう(以下、敬称略)。

伝統木造の高度な技術に驚く、第1セクション「可能性としての木造」

入館後、まず来場者を迎えるのは、高さ5.3mに及ぶ巨大な木組の壁。北川原温による「ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ」の再現だ。第1セクションのテーマは「可能性としての木造」。

ここでは、古代出雲大社本殿の復元が見ものだ。

今ある出雲大社本殿は延享元年(1744年)に造営されたもので、高さは24m。それでも十分な威容だが、古い文献には、かつての本殿は48mもの高さだったという驚くべき記述がある。そして近年、その伝承を裏付ける巨大な柱根が発掘された。展示では50分の1の木製模型と復元CGで、古代本殿の姿を甦らせる。

ほか、“大仏様”と呼ばれる中国伝来の様式でつくられた「東大寺南大門」(鎌倉時代)や、二重のらせん構造で知られる「会津さざえ堂」(江戸時代)などの精緻な模型も間近に見られる。昔の木造技術のすごさに、改めて感じ入ってしまう。

現代の菊竹清訓「ホテル東光園」(1964年)や日建設計「東京スカイツリー」(2012年)は木造ではないけれども、それぞれ、嚴島神社大鳥居の組柱、東照宮五重塔の心柱といった木造の技術を踏まえている。

さらに、200m級の木造超高層建築「ティンバライズ200」の計画案(東京大学生産技術研究所腰原幹雄研究室+ティンバライズ、2018年)が、木造の未来への期待を膨らませてくれる。

「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」第1セクションの展示風景。手前に古代出雲大社の再現模型が見える。 撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」第1セクションの展示風景。手前に古代出雲大社の再現模型が見える。 撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)

日本建築の高い精神性を示す第2セクション、「超越する美学」

第2セクションは「超越する美学」。「もののあはれ」や「無常」、「陰影礼賛」といった、日本独自の美意識が生み出した建築とは? 

下の写真は、石川県金沢市にある谷口吉生「鈴木大拙館」(2011年)。仏教哲学者・鈴木大拙の足跡をたどり、来館者にも自ら思索を深めてもらおうという施設だ。水鏡の上に浮かぶ「思索空間棟」は、建築の構成要素を極限まで削ぎ落とし、ぴんと張り詰めたような緊張感を放つ。建物というよりミニマル・アートのようだ。

このセクションの展示は、5つのプロジェクトに絞られている。

伊勢神宮、大名茶人・小堀遠州が建立した江戸時代の茶室、樂焼の十五代目が創案した茶室を含む「佐川美術館樂吉左右衛門館」。こうした、もともと宗教性・精神性の強い施設に混じって、住宅がひとつだけ選ばれている。前田圭介の「アトリエ・ビスクドール」(2009年)。宙に浮く白い帯状の壁の間から庭の植物が見え隠れし、前衛的な盆栽のようにも見える。

谷口吉生《鈴木大拙館》2011年 金沢 撮影:北嶋俊治谷口吉生《鈴木大拙館》2011年 金沢 撮影:北嶋俊治

日本建築を象徴する「安らかなる屋根」に焦点を当てる第3セクション

石やレンガを積み重ねてつくるヨーロッパ古来の建築は、“壁”がなければ始まらない。対して日本の建築は、柱を立てて“屋根”を架けることに始まる。余談だけれど日本の法律では、“建築物”とは“屋根および柱もしくは壁を有するもの”と定義されていて、何よりもまず屋根、壁はなくてもかまわない。

第3セクション「安らかなる屋根」は、その日本建築を象徴する“屋根”を、古墳時代から中世、近代、そして最新の話題作まで、バラエティ豊かな展示で見せてくれる。

古墳時代の家屋の姿は、家の形を模した埴輪や、「家屋文」を刻んだ鏡に残されている。中世から近世の建築を知る手がかりには、戦国時代から江戸時代にかけて流行した屏風絵「洛中洛外図」がある。京都の市中や郊外の風景を俯瞰するように描いたものだ。本展では「屋根の変遷」に焦点を当てて、スライドショーに仕立てている。

屋根は雨や雪を防ぎ、日差しを調節するためのものだから、ひとは土地の気候に合わせて最適なかたちを模索してきた。分かりやすい例でいえば、飛騨白川郷の合掌造りの急勾配の屋根は、雪が滑りやすく積もりにくい。そんなことをイメージしながら、建築史家・伊藤ていじと建築写真家・二川幸夫による「日本の民家」シリーズ(1957〜1959年)の展示を見るのもおもしろいだろう。

1964年の東京五輪を機に建てられた、九段下の日本武道館(山田守)や代々木の国立競技場(丹下健三)の印象的な屋根はすぐに思い浮かぶはず。いずれも巨大なひとつの屋根で空間を覆うのに対し、近年の妹島和世「京都の集合住宅(NISHINOYAMA HOUSE)」(2013年)、SANAA「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」(2017年)の屋根は複雑に分割されている。そもそも屋根下の用途が違うのだが、時代の精神も反映されているのでは。なぜこんな形になったのか、妹島自身がビデオで語ってくれている。

第3セクションの展示風景。手前左が妹島和世「京都の集合住宅(NISHINOYAMA HOUSE)」、右が、SANAA「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」の模型。屋根の全体像を俯瞰できるのは模型ならではだ。 撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)第3セクションの展示風景。手前左が妹島和世「京都の集合住宅(NISHINOYAMA HOUSE)」、右が、SANAA「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」の模型。屋根の全体像を俯瞰できるのは模型ならではだ。 撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)

第4セクション「建築としての工芸」では千利休の国宝茶室を原寸大で再現

第4セクションは「建築としての工芸」。

日本において、“建築”という概念は、明治以降に海外から輸入したものだ。それまでは“建築家”が全体を統括して建物をつくるという発想はなかった。日本の建物は、大工や左官、建具師といった匠の技をあつめた「工芸の集積」と見ることもできる。その象徴が、日本独自の建築「茶室」。

このセクション最大のみどころは、千利休がつくったと伝えられる国宝茶室「待庵」の実物大の模型だ。京都・大山崎に現存する茶室だけれど、見学には事前の申し込みが必要で、中に入ることはできない。

巨大な窓から自然光が射し込む、森美術館ならではの展示室に設えられた模型は内覧可能。比較的空いているタイミングなら、1人で中に入ることができる(最長2分間、一度に3人まで)。利休と秀吉が対座したという、たった二畳の空間を体感してみよう。

このセクションには、𠮷田五十八や村野藤吾による華麗なインテリアに加え、黒川紀章「日本万国博覧会 東芝IHI館」(1970年)や、今も建設中の異色のセルフビルド、岡啓輔「蟻鱒鳶ル(ありますとんびる)」が並ぶ。これらがなぜ「建築としての工芸」なのかは、ぜひ会場で確かめてほしい。

ここまでで42プロジェクト。第5セクション以降は後編でレポートする。


森美術館「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」HP
http://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/japaninarchitecture/index.html

伝千利休《待庵》 1581年頃(安土桃山時代)/2018年(原寸再現) 制作:ものつくり大学 
撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)
伝千利休《待庵》 1581年頃(安土桃山時代)/2018年(原寸再現) 制作:ものつくり大学  撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)

2018年 06月27日 11時05分