生ごみを堆肥にするダンボールコンポスト

気持ちよく晴れ渡った平日の昼間。福岡市の新しい住宅地・照葉(てりは)地区に行くと、オシャレな自転車に乗って、各家庭の玄関先にあるダンボールを持ち出し、何やら作業して回る人たちがいた。

彼らは「NPO法人循環生活研究所」、通称・循生研(じゅんなま研)のスタッフ。じゅんなま研は福岡を拠点に約20年にわたり、生ごみや落ち葉、雑草などを活用して堆肥を作る「ダンボールコンポスト」を研究・普及している団体だ。コンポストとは、有機物を微生物の働きで分解させて、その栄養を植物が吸収しやすいように堆肥にする処理方法のこと。ダンボールを使うスタイルをダンボールコンポストと呼ぶ。ダンボールの中に基材という土のようなもの(ココナッツピート、もみ殻、炭など)が入っており、家庭で出る生ごみや落ち葉などを入れておくと、目に見えない微生物が分解してくれて堆肥になる。1日1回かき混ぜて、ごみを入れるだけでOK。捨てられていたごみを肥料として資源化し、おいしい野菜を育てるために活用する循環生活を、じゅんなま研は国内外で推進してきた。

右上:じゅんなま研が改良を重ねてきたオリジナルのダンボールコンポスト。カバーもセットで2,370円で販売している/左上・下:住宅街を回るコンポストクルー。自転車をこいでみると、意外に軽くて小回りがきく右上:じゅんなま研が改良を重ねてきたオリジナルのダンボールコンポスト。カバーもセットで2,370円で販売している/左上・下:住宅街を回るコンポストクルー。自転車をこいでみると、意外に軽くて小回りがきく

日本初の試み!地域で必要なものを循環させる

上:照葉地区にある、じゅんなま研のローカルフードサイクリングの拠点。住宅街の中に、広々とした気持ちのいい空間が広がっている。貸し区画があり、スタッフのサポートを受けながら、住民が自分で野菜を育てることもできる/左下・右下:各家庭から出た栄養満点の堆肥を集めて、土に還し、野菜を育てている上:照葉地区にある、じゅんなま研のローカルフードサイクリングの拠点。住宅街の中に、広々とした気持ちのいい空間が広がっている。貸し区画があり、スタッフのサポートを受けながら、住民が自分で野菜を育てることもできる/左下・右下:各家庭から出た栄養満点の堆肥を集めて、土に還し、野菜を育てている

昨年からは、照葉地区で日本初の「ローカルフードサイクリング」事業を展開している。ダンボールコンポストに取り組む家庭を地域で募り、現在は100世帯ほどが参加。参加世帯は、日々の食事で出る生ごみを家庭のダンボールコンポストに入れて堆肥にする。スタッフが週2回このエリアを回っており、玄関先にダンボールを置いておけば、中身を回収して、かわりに新しい基材を入れてくれる。
各家庭から集めた堆肥は、近くの農地に還すことで栄養満点の土地になり、元気な有機野菜や花が育つ。参加世帯は堆肥を1回提供するごとにスタンプが1個たまり、スタンプの数に応じて、堆肥で育てた野菜をもらえるという仕組みになっている。家庭にとっては、コンポストのおかげでごみがなくなり、安心安全な野菜が食べられて、手軽に循環を実感できるというわけだ。社会的にもごみが減り、ごみ回収や焼却の手間が省けるなど、いいこと尽くしといえる。

「私たちが提案してきた、地域で生活に必要なものが循環する“楽しい循環生活”が、ここでひとつのカタチになりました。持続可能な栄養サイクルができて、地域のつながりや楽しさが生まれ、安心安全な食べ物が身近に手に入る…とても素敵なことだと思いませんか?」と、じゅんなま研理事長のたいら由以子さんはうれしそうに語る。

父親の病気をきっかけにNPOを設立

上:じゅんなま研の事務所。玄関の棚には新鮮な農作物や加工品が並んでいた/下:理事長のたいらさん。とれたてのニンジンは味が濃くてとても甘かった上:じゅんなま研の事務所。玄関の棚には新鮮な農作物や加工品が並んでいた/下:理事長のたいらさん。とれたてのニンジンは味が濃くてとても甘かった

同研究所の原点は、1962年にさかのぼる。たいらさんの母親・波多野信子さんが、自宅のやせた土地で野菜を育てるとき、生ごみを活用できると知り、試行錯誤でコンポストを取り入れ始めた。その経験をかわれて、1997年から福岡市の「コンポストの上手な使い方教室」で講師を務めるように。さらに改良を進める中でダンボールに着目し、ダンボールコンポストとして2000年から普及活動をスタート。ベランダで手軽にできることから、急速に広まったという。

そんな母親のもとで育ったたいらさんは、証券会社に就職して大阪で結婚生活を送っていた。しかし、父親が癌を患い、28歳のとき看病のため一家で帰福。大学で取得した栄養士の知識を生かして食事療法を取り入れようとしたが、「現代は食材そのものの質がかなり悪くなっていて、無農薬野菜も安全な水も見つからないことに愕然とした」という。母親がやっていたコンポストの意義を改めて実感し、任意団体として数年活動した後、2004年に「地域で生活に必要なものが楽しく循環するためのくらし」というコンセプトを掲げ、じゅんなま研を立ち上げた。

国や地域、年代を超えて広がるコンポストの輪

じゅんなま研の活動は、福岡だけにとどまらない。2005年から内閣府の事業として、ダンボールコンポストアドバイザー養成・支援講座を開始。現在は200人を超えるアドバイザーやトレーナーが国内に点在し、それぞれの地域で活動している。国連と連携して、アジアにもノウハウを移転している。また、半農都会人講座では、都会で暮らしながら農業を営む方法を伝えている。

有機物の堆肥化としては、まちの落ち葉を集めて花を咲かせる活動につなげたり、博多湾の海藻アオサや松葉の堆肥化にも取り組んでいる。

もう一つ力を入れている活動は、子ども向けの教育だ。子どもが循環生活を体験するイベント「子どもくるくる村」には、これまで18年間で4万4,000人が参加。また、さまざまな高校や大学と提携して、授業で堆肥や野菜を作ったり、6次産業化としてマーケティングをもとに自分たちで育てた野菜をドレッシングやソースなどの加工品にして販売するなど、多様な活動を行っている。「不登校や引きこもりだった子どもたちが、土に触れながら人と関わることで、いきいきと活動できるようになったケースがたくさんあります」とたいらさんは明かす。

このような取り組みは各方面から高く評価され、ふくおか地域づくり活動賞・グランプリ、経済産業省ソーシャルビジネス55選など、様々な賞を受賞してきた。とはいえ、たいらさんが当初思い描いたように活動が広まらず、もどかしく感じたり、ひどく落ち込んだりした時期もあるという。それでも「持続可能な循環生活は社会のためになるし、何よりも楽しい」という信念に突き動かされ、たくさんの仲間に支えられて、一歩ずつ進んできた。今は大学生の娘さんも活動に参加している。
「これからも地域や企業、行政、学校などと連携しながら、コンポストを起点とした資源循環の輪をつなげていきたい」。3世代にわたる挑戦は、これからも続いていく。

左上:子どもたちも楽しく参加している/右上:ここでとれた農作物や加工品をマルシェで販売。地域のつながりが生まれる/左下:博多湾で大量に発生し生態系を壊してしまう海藻アオサと、松林に放置された松葉も、堆肥化して活用/右下:元気な野菜が育っている左上:子どもたちも楽しく参加している/右上:ここでとれた農作物や加工品をマルシェで販売。地域のつながりが生まれる/左下:博多湾で大量に発生し生態系を壊してしまう海藻アオサと、松林に放置された松葉も、堆肥化して活用/右下:元気な野菜が育っている

2018年 06月30日 11時00分