郊外住宅地に忍び寄る衰退の危機

東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部 事業計画部 次世代郊外まちづくり担当 岡本洋子氏東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部 事業計画部 次世代郊外まちづくり担当 岡本洋子氏

日本では、1960年代の高度経済成長に合わせ、都市へ集中する労働人口の受け皿として郊外住宅地が開発されてきた。しかし、ここにきて人口の減少、高齢化社会の到来により、郊外住宅地でも住民の高齢化、建物の老朽化が進み、まちの衰退が危惧されるようになっている。

こうした問題に真剣に取り組もうと、横浜市と東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)では、既存のまちの暮らしやコミュニティを重視しつつも、これからの時代に即した郊外住宅地への再生を目指す「次世代郊外まちづくり」プロジェクトを進めている。

このプロジェクトは、たまプラーザ駅北側地区(横浜市青葉区美しが丘1・2・3丁目)をモデル地区に、産・学・官・民が協働で進めるもの。2012年から始まったこのプロジェクトでは、まちづくりのビジョンとなる「次世代郊外まちづくり基本構想」がまとめられたほか、地域住民が主導となる様々な取り組みも行われているという。

どのような取り組みが実践されているのか? 次世代郊外まちづくりの企画運営を担当する東急電鉄 岡本洋子氏にお話をうかがってきた。

住民参加型のボトムアップ形式で、基本構想を策定

2012年から始まった「次世代郊外まちづくり」の取り組みだが、まず、2013年には、基本構想がまとめられている。基本構想の策定といっても、行政や専門家の話し合いの結果をトップダウンでおろすものではない。住民参加型のボトムアップ形式で構想が練られている。1年の歳月をかけて策定された基本構想だが、以下の3つの活動を中心にまとめられたという。

●次世代郊外まちづくりワークショップ
たまプラーザ駅北側地区(横浜市青葉区美しが丘1・2・3丁目)のモデル地区の住民に参加を呼びかけ、全5回のワークショップを開催。毎回、幅広い年齢層の住民100名ほどが参加をし、まちの現状把握から魅力的なまちづくりのアイデア収集、テーマ策定や住民・企業・行政のコラボレーションなどが行われた。

●たまプラ大学
まちづくり活動のヒントとなるテーマや事例を学習できる講座として、専門家を講師に迎え全8回を開講。東京大学高齢社会総合研究機構特任教授 辻哲夫氏による「超高齢社会のまちづくり」の講座をはじめ、保育、スマートコミュニティ、環境、イベント創発など様々な事例を学習した。

●暮らしのインフラ検討部会
専門家や大学、学識経験者、民間企業による部会を立ち上げ、暮らしのインフラづくりを検討。「医療・介護連携の地域包括ケアシステム推進」「スマートコミュニティ推進」などが話し合われた。

「ワークショップでは、20代から80代まで、老若男女多くの住民の方が興味をもって参加してくれました。毎回100名前後の方に集まっていただけたのは、嬉しい想定外の出来事。行政や企業に要望するのではなく、自らできることは何か?と白熱した議論が展開されました」(岡本氏)

これらの活動をもとに策定された、「次世代郊外まちづくり基本構想2013」では、「豊かさ」「暮らし」「住まい」「土台」「仕組み」の5つの基本方針と10の取り組みを提示。さらに基本構想を実現するための「リーティング・プロジェクト」が実際に動いている。

「次世代郊外まちづくり」では、基本構想を2013年にまとめると同時に、目指すまちの将来像「WISE CITY(ワイズシティ)」を掲げている。WISEという言葉には「賢い、懸命な」という意味もあり、「賢いまちづくり」を目指すという思いも込められている
※出展:次世代郊外まちづくり基本構想2013「次世代郊外まちづくり」では、基本構想を2013年にまとめると同時に、目指すまちの将来像「WISE CITY(ワイズシティ)」を掲げている。WISEという言葉には「賢い、懸命な」という意味もあり、「賢いまちづくり」を目指すという思いも込められている ※出展:次世代郊外まちづくり基本構想2013

住民の自発的な声から実現した「住民創発プロジェクト」

構想を立てても実際に行動に移していくのは難しいものだが、たまプラーザでは、産・学・官・民が連携しながら積極的な活動をしている。実行計画である「リーディング・プロジェクト」は、毎年ブラッシュアップさせながら2013年、2014年、2015年と取り組まれているが、具体的にどのような取り組みがされているのだろうか。

2014年には、7つのリーディング・プロジェクトが行われたが、中でもおもしろいのが「住民創発プロジェクト―シビックプライド・プロジェクト」だ。これは、地域住民やNPOの活動団体などから“自分のまちに愛着と誇りをもって行動する企画”を広く募集し、支援金の交付や専門家のアドバイス、住民と民間業者のマッチングなどを促すもの。実際に15の企画が実行された。

「基本構想をまとめる際のワークショップで住民のみなさんから意見の吸い上げを行ったのですが、それに留まらず“実際に自分達で行動をしたい”という声が大きかったのです。そこで、この住民創発プロジェクトを企画しました」(岡本氏)

15の企画の中身を見てみると、たまプラーザテラスで「フラッシュモブ」を実施し積極的に地域活動に関わる人材育成を目指すイベントから、コミュニティ創出や、子育て支援などを目指した「カフェづくり」。地域での雇用創出や健康づくり、まちの見守り機能を目指したウォーキングしながらの「ポスティング事業」など、住民のアイデアが生かされた様々な企画が実現していった。なかには、“まちの人とまちの本をつくる”ことを目指し、クラウドファンディングによる資金調達を実現した取り組みもある。

「本当に住民のみなさんがとても積極的で、素晴らしいアイデアが形になりました。我々はそれを様々な形でサポートしたわけですが、注力したのは支援期間を終えても活動が継続できることでした。そのためには、やみくもに支援するのではなく、企画内容について何度も議論することもありました。結果として現在も多くの企画が継続できています」(岡本氏)

2015年から本格化する「コミュニティ・リビング」への取り組み

このほか、2014年のリーディング・プロジェクトでは、7つのプロジェクトが実施された。どんなものがあるかというと、例えば、延べ2,725世帯が参加をした家庭の省エネプロジェクトにより、累計約122t(杉の木換算8700本分)のCO2削減を実現した「地域エネルギーマネジメントに向けた仕組みづくり」が挙げられる。また、情報端末をつかった患者情報を一元管理など地域の医療・介護関係者が連携して高齢者を支える「地域包括ケアシステム『あおばモデル』パイロット・プロジェクト」などもある。こうしたものから着々と基本構想の実現に取り組んでいる。

2015年には、これまでのプロジェクトを踏まえ、6つのプロジェクトが継続または拡充されて進められている。岡本氏によれば、今年から本格化するのが『コミュニティ・リビング』への取り組みだという。

コミュニティ・リビングとは、歩いて暮らせる範囲に必要な機能がコンパクトに集積することを目指したもの。住まいと住民の交流、医療、介護、保育や子育て支援、教育からエネルギー、防災、就労といった様々な街の機能のネットワーク化が目指される。そのステップとしてモデル地区内にある企業社宅跡地の活用が計画されているそうだ。

「モデル地区となる青葉区美しが丘1・2・3丁目は、1丁目は主に団地、2丁目が社宅や一般マンション、3丁目は戸建が多いなど、まちの多様な要素から成り立っています。住民の高齢化や建物の老朽化といった問題もあり、様々な課題があると同時にその解決策を提示できれば、多くの郊外住宅地のモデルケースとして役立てられると思っています」(岡本氏)

「コミュニティ・リビング・モデル」のイメージ図。大規模なものは、暮らしの基盤となる住民の交流、医療、介護、保育や子育て支援、教育、環境、エネルギー、交通・移動、防災さらには就労といったまちの機能を密接に結合させていく

出展:次世代郊外まちづくり基本構想2013「コミュニティ・リビング・モデル」のイメージ図。大規模なものは、暮らしの基盤となる住民の交流、医療、介護、保育や子育て支援、教育、環境、エネルギー、交通・移動、防災さらには就労といったまちの機能を密接に結合させていく 出展:次世代郊外まちづくり基本構想2013

次世代につなげたい、街への想い

「行政や企業、街の有識者だけではなく、住民のみなさんと一緒になってまちづくりを考え、そして次世代につなげていきたい」という岡本氏。その言葉通りに「たまプラーザ」では、住民の意思を大切にし、それをうまく行政や企業がバックアップする体制がとられているように思う。

次世代につなげるという点では、今回紹介したプロジェクトの中では、モデル地区内の公立学校と連携した取り組みにも力を入れている。

次回は、「次世代郊外まちづくり」の中で、特に地域の公立中学校と連携した取り組みを具体的に紹介したい。

2015年 08月20日 11時11分