世界初。南相馬市で完全自律制御ドローンでの長距離荷物配送に成功

テレビやマスメディアによる空撮での活用に留まらず、宅配や農業など、幅広い産業でドローンの活用が期待されている。2015年11月5日、安倍総理は「第2回未来投資に向けた官民対話」において、「早ければ3年以内に、ドローンを使った荷物配送を可能とすることを目指す」と発言。物流分野でのドローンの活用を推進するため、国家戦略特区では実証実験が進められている。

そんな中、福島県南相馬市で2017年1月12日、世界初となる完全自律制御ドローンでの長距離荷物配送に成功した。実験は完全自律制御のドローンが南相馬市小高区村上城跡を出発し、温かいスープをサーフィンのメッカである南相馬市の北泉海水浴場にいるサーファーに届けるというもの。海岸沿いは風の影響を受けやすいが、手動ではなくプログラムにより飛行する「完全自律制御飛行」の回転翼ドローンが無事に12km走行するというのは世界初であった。

実験が行われた福島県南相馬市は、いわき市と仙台市の中間にあたる福島県浜通り地方の中核都市である。なぜ今回、この地で実験が行われたのだろうか。福島県で進められている「イノベーション・コースト構想」について、南相馬市役所の経済部商工労政課 ロボット産業推進室の室長寺島政博さんと、主査の吉田正憲さんにお話しを伺った。

2017年1月12日に実施されたドローン実験の様子。ドローンを活用した物流システムの性能評価手法を開発するためのNEDOプロジェクトの一環として、株式会社自律制御システム研究所が主体となり実施された。利用されたドローンは、楽天のドローン配送サービス「そら楽」の専用機である「天空」のベースとなる「ACSL-PF1」。写真提供:南相馬市役所2017年1月12日に実施されたドローン実験の様子。ドローンを活用した物流システムの性能評価手法を開発するためのNEDOプロジェクトの一環として、株式会社自律制御システム研究所が主体となり実施された。利用されたドローンは、楽天のドローン配送サービス「そら楽」の専用機である「天空」のベースとなる「ACSL-PF1」。写真提供:南相馬市役所

「イノベーション・コースト構想」とは?

福島県庁 ふくしま復興ステーションHPの、「イノベーション・コースト(福島・国際研究産業都市)構想について」を参照福島県庁 ふくしま復興ステーションHPの、「イノベーション・コースト(福島・国際研究産業都市)構想について」を参照

東日本大震災から3年後の2014年1月、福島県が廃炉やロボット技術等に関連する研究開発を行う集積地となることを目指す、福島・国際研究産業都市構想(イノベーション・コースト構想)研究会が発足。同年6月に研究会において最終報告が決定し、11月には検討会が設置された。

イノベーション・コースト構想は、主に、「ロボット産業」、「エネルギー産業」、「農林水産業」、「リサイクル関連産業」の4つの産業を推進し、福島の復興・創生を目指すものだ。2020年のオリンピック・パラリンピック開催までに浜通りに先端的な産業を集積することを当面の目標としており、実際に動き出しているプロジェクトも多くある。

2016年4月には、楢葉町に原子炉格納容器の調査や補修用ロボットなどの開発・実証実験を行う「楢葉遠隔技術開発センター」が全面運用開始されている。2017年4月には国内外の大学や研究機関、企業等が廃炉研究と人材育成を行う「廃炉国際共同研究センター国際共同研究棟」が富岡町に開所、2017年内に「放射性物質分析・研究施設 大熊分析・研究センター」が大熊町に一部開所予定である。

平成30年に南相馬市にロボットテストフィールドが開所予定

さまざまに動き出している事業のなかで、大きな軸となるのがロボット産業である。前述したドローンの実証実験が実施された南相馬市では、福島県により「ロボットテストフィールド」の開所が進められている。
「ロボット産業の拠点施設として、『ロボットテストフィールド』を、南相馬市原町区の復興工業団地内に設置することが決まりました。『ロボットテストフィールド』では、ドローンの飛行実験などができる"無人航空機エリア"、大型水槽での性能試験ができる"水中水上ロボットエリア"や、"インフラ点検・災害対応エリア"などの機能を備える予定です。インフラ点検・災害対応エリアでは、災害現場を再現したトンネルや市街地を準備し、ロボットで人を探す実験やガレキを撤去する実験などの実施を想定しています。『ロボットテストフィールド』内には、国内外の研究者や技術者・企業向けに『国際産学官共同利用施設』が建設されます。これらのロボットの一大実証拠点が、平成30年度から順次開所予定です。」と、寺島さん。

復興工業団地の70ヘクタールのうち、50ヘクタールに整備が予定される「ロボットテストフィールド」。災害が起きた現場を想定した実証実験ができるなど、これまで日本にはなかった大規模な施設があと数年で開設となると、急ピッチでの進行が必要となるのではないか。

「現在、復興工業団地の土地整備工事を第1期工区と第2期工区に分けて進めており、第1期工区の盛り土整備はほぼ完了しました。同時に福島県では施設について議論と設計を進めています。南相馬市では、復興工業団地の70ヘクタールのうち西側の20ヘクタール部分を工業団地として整備し、工場の誘致を推進してきたいです。これだけの施設をつくっても、使ってもらわないと意味がありません。多くの企業に活用してもらいたいです。」

土地の整備が着々と進む南相馬市の復興工業団地。平成28年度、平成29年度の2年間の予算は155億円で国の補助金を利用し福島県により整備が進められる。南相馬市はロボットテストフィールドをロボットの国内開発拠点になる得るものと認識。積極的な誘致活動の結果、設置が決定した。(画像は南相馬市資料を参照)土地の整備が着々と進む南相馬市の復興工業団地。平成28年度、平成29年度の2年間の予算は155億円で国の補助金を利用し福島県により整備が進められる。南相馬市はロボットテストフィールドをロボットの国内開発拠点になる得るものと認識。積極的な誘致活動の結果、設置が決定した。(画像は南相馬市資料を参照)

実証実験や開発プロジェクト、さまざまなプロジェクトが同時進行する

また福島県は、ロボットテストフィールドの準備と併せロボットの実証実験と操縦訓練の場として、「福島浜通りロボット実証区域」を広く提供している。

「災害対応ロボットやインフラ点検用ロボットの実証実験、操縦訓練の場として、相馬市や南相馬市、楢葉町などのトンネルやダム、河川などを提供しています。南相馬市ではこれまで2年間で19事業者、48日間の実験の実績があり、要望に合わせて実証区域を案内し、カスタマイズの相談も受けています。」
先の世界初のドローン実験も、このロボット実証区域で実施されたものだ。

「イノベーション・コースト構想」では、ほかにも経済産業省が支援する実用化開発プロジェクトが進行している。医療介護やリハビリ、物流・農業などで導入が加速するマッスルスーツの高機能化や、スマート農業による野菜生産システムの開発、車いすの乗り降りの介助を軽減する介護ロボ(車いす)の開発などなど、多岐にわたる。これらの事業の推進により、福島県の雇用創出や新しい産業を生み出すことが期待されている。

平成30年に順次開所予定のロボットテストフィールド。国際産学官共同利用施設では、製品の改良や研究ができる設備に加えて、地元企業の技術支援、セミナーや研修などの人材育成の機能を持たせることが検討されている平成30年に順次開所予定のロボットテストフィールド。国際産学官共同利用施設では、製品の改良や研究ができる設備に加えて、地元企業の技術支援、セミナーや研修などの人材育成の機能を持たせることが検討されている

ロボット産業の都市、南相馬を目指して

2016年6月12日に開催された「ロボットテストフィールドシンポジウム」での、ロボットデモンストレーションの様子。ロボットの展示やデモンストレーション、パネルディスカッションが行われ、約300名が来場した2016年6月12日に開催された「ロボットテストフィールドシンポジウム」での、ロボットデモンストレーションの様子。ロボットの展示やデモンストレーション、パネルディスカッションが行われ、約300名が来場した

2020年にロボット産業の集積地を目指す福島県。この「イノベーション・コースト構想」の核となる「ロボットテストフィールド」が整備される南相馬市は、今後「ロボットのまち福島県、南相馬」を目指すという。
南相馬市では2016年6月12日に福島県浪江町と共催で「ロボットテストフィールドシンポジウム」を開催、また同年10月12日には東京都において「ロボット産業セミナー」を開催するなど、PRも積極的に行っている。

「シンポジウムやイベントに加えて、地元小学校や中学校でのロボット教育にも取り組んでいます。ドローンレースは子供からも好評ですね。意外にも、市内のイベントで行ったドローンレースでは、お年寄りの方も喜んでいました。子供たちによりロボットを身近なものに感じてもらい、これから進むロボット産業にも興味を持ってもらいたいです。」

2017年3月には、ロボット実証区域で次の実験が控えているという。今後、ドローンの活用が進めば、複数台のドローンが同時に飛行することになる。懸念されるドローンの衝突事故を防ぐため、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のシステムを利用し位置情報を把握するというものだ。この大規模実証実験の結果は、国が目指すドローンの飛行管理システムの構築に役立てられるという。
また、平成30年に開催されるロボット国際大会「World Robot Summit」では、インフラ・災害対応分野の一部競技が南相馬市のロボットテストフィールドで実施されることが決定しており、まさにロボットのまちとして動き出しているようだ。

日本は少子高齢化や人口減少、インフラの老朽化、自然災害など多くのリスクや課題を抱える国である。今後進められるロボット産業の推進が、日本のものづくりや農業の推進、介護の負担軽減やインフラ・災害対応の効率化に役立てられることが求められている。

2017年 03月08日 11時05分