地域に存在する縦割りを横に繋ぐ活動

縦割りという言葉がある。自分の担当である、目の前のことしか見ていない仕事ぶり、全体を見ない状況を揶揄する言葉で、暗にお役所を指していることが多いようだが、実際のところ、縦割りはお役所だけだろうか。

たとえば、商店街が主催してお祭りをするとしよう。その場合、商店街には助成が出る。街に複数の商店街があるとして、それらがまとまって同じ日に祭りを行ったら予算が増え、賑やかな祭りができるはずだが、多くの街では商店街は個別に祭りを行い、協働することはない。目黒区自由が丘のように、全体が協力しあって大きな祭りをやるような街は意外に少ないのである。

だが、町や商店街などに境目がある以上、町会、商店街などがその範囲内でしか活動できないのは仕方ないと文京区本郷で活動するNPO法人街ing本郷の代表理事長谷川大さんは言う。「町会と商店街はそれぞれに別ものだし、町会はその町域でしか活動できない。地域の企業が行政と直接組めないように、街の中には水と油のように相容れない存在があるのです。でも、街を愛する気持ち、何とかしていきたいという気持ちはそれぞれにある。そこをつなぐ活動をしているのが私たち、街ing本郷です」。

高齢者と学生が一緒に食事をするイベントで挨拶をする長谷川さん(ホワイトボード左側)高齢者と学生が一緒に食事をするイベントで挨拶をする長谷川さん(ホワイトボード左側)

5つの商店街を百貨店に見立てて振興策を考える

こうした印刷物などを作るデザイナーもNPO法人内にいるのだという。いろいろな人が集まっている強みだこうした印刷物などを作るデザイナーもNPO法人内にいるのだという。いろいろな人が集まっている強みだ

分かりやすいのは本郷百貨店と呼ばれる活動だろう。この地域には5つの商店街がある。少しずつ離れているだけだが、内情はそれぞれ異なり、財政的に豊かなところもあれば、そうでないところもあり、今後をどうしていくかについても考え方は異なる。だが、振興を図っていきたいのはどこも同じ。そこで街ing本郷では街全体を百貨店と捉え、これらの商店街の個性豊かな商店主たちに焦点を充てた媒体を作り、PRをしている。

「商店街は各自独立した存在ですから、その独自性を尊重。合併しようなどという話は一切しません。無理してひとつになろうというのではなく、個は個のままで全体に協力できることはないか、それをやることで全体を良くしていけるのではないかという話をし、商店街が主催、NPOが協力するという形で本郷百貨店を展開しています」。

あるいはこれまで行ってきた町会での公園清掃や夜間の火の用心の見回りをNPOが手伝うような活動。「今はまだ町会内の人員でやっていけているとしても、5年後、10年後には若い人がいなくなり、続けられなくなる可能性がある。だったら、町会を超えたエリアから人が集まってくるNPOが手助けすることで、続けられるようになるのではないかと思うのです。幸い、本郷には東京大学を始め大学が多く、社会に貢献したいという人が集まってくる。その人たちと連携すれば地域の困りごとを解消することができます」。

地域の『ばか者』が核になり、ボランティア『よそ者・若者』の場を作る

月曜日の夜に行われている今後の活動について話し合う集まり。学生から社会人、地元の人、外から来ている人、いろいろな人が集まって話し合う月曜日の夜に行われている今後の活動について話し合う集まり。学生から社会人、地元の人、外から来ている人、いろいろな人が集まって話し合う

当初、地域の長老と言われるような人たちはこのやり方に疑問を呈した。学生はこの地に2~3年しかいない。そんな人たちを頼りにして長く続くことが求められる地域の活動ができるのか。その疑問はもっともだと思う。

だが、街ing本郷が優れているのは核となっている人たちはこの地に古くからいる人たちであり、その人たちが新たにこの地で活動をしたいと言う人たちに場を作っているという点である。代表理事の長谷川さんはこの地で3代目の魚屋さんだし、一緒にNPOを立ち上げた4人も同様に地域で長らく商売をしてきた人たちである。「地域の人間が関わっているのは強みです。いきなり外から来た人が何かやろうとしても物事はなかなか進まない。でも、地域で顔の利く人がいればスピードが違います」。

現在活動の中心になっているのは『よそ者・若者』で、今まで地域活動に参加していなかった人のほうが圧倒的に多く、社会人と学生は半々。年代で言えば30代、40代で、長谷川さんいわく「『よそ者・若者』それぞれに活躍できる場を求めており、地域で何か、やりたいと思っている。当NPO『ばか者』は、そのための場作りをしています」。

実際の場としては前述の本郷百貨店だけではなく、ゴミの収集や宅配サービスのような地道な作業からこの街にかつて住んだ文人たちの跡を巡るツアーやシンポジウムの開催、ガイドマップの作成、防災イベントその他と幅広く、毎週月曜日に開かれる定例会では次々に新しいアイディアも出される。そのうちでも最近、熱心に取り組んでいるのは「ひとつ屋根の下」という空き室のある、元気な高齢者宅に学生を下宿させるというプロジェクトである。

高齢者宅の空き部屋に学生が同居するプロジェクトを推進

ひとつ屋根の下プロジェクト報告書から。80代シニア男性と大学院生が同居した例ひとつ屋根の下プロジェクト報告書から。80代シニア男性と大学院生が同居した例

本郷周辺は大学の多いエリアだが、都心近くで家賃が高いため、大学近くに住むのは難しく、多くの学生は大学から離れた場所に部屋を借りている。一方で地域には一人暮らしの高齢者が増えており、住宅内には空いた部屋がある。それをマッチングさせることで、シニアには日々の生活に張り合いが生まれ、生活の困りごとを助けてもらったり、夜間の不安の解消などが図れる。学生は手頃な家賃で大学の近くに住めるようになり、一人暮らしの孤独を感じずに済む。うまく行けば互いにメリットがあるわけだ。

街ing本郷では1年間かけて候補者宅、住みたい学生を探し、マッチングを実施。生活ルールを作り、試行期間を経て同居という事業を行い、3組の同居を実現させた。ただ、そのうち、一組は試行期間中に同居を解消してしまっており、実質は2組だった。

これについて長谷川さんは思っていたよりも障害が多かったと語る。「もう少し楽にできると思っていたが、春からスタートして決まったのは冬になってから。高齢者側には空室はあっても片付いておらず、片づけるのが大変、どんな人が来るのか分からないので怖い。せっかく一人暮らしで気楽にやっているのにまた、食事を作ったりするのは面倒などなどの問題があり、家族の反対もあった。また、学生側は介護が必要になるのではないか、朝起きて倒れていたら誰の責任になるのかなどなど。同居の前に細かいルールは作ったものの、それだけでは難しかったようです」。

地道に続く、地域の問題解決への挑戦

ひとつ釜の飯プロジェクト初回の様子。エプロン姿の学生たちの初々しさに高齢者は頑張ったねとうれしそうだったひとつ釜の飯プロジェクト初回の様子。エプロン姿の学生たちの初々しさに高齢者は頑張ったねとうれしそうだった

といって諦めたわけではなく、その経験を踏まえ、今年度は新たにひとつ釜の飯なるプロジェクトを始めている。これは学生とシニアの交流を行い、知り合いになってから同居へと進めようというもの。先日、学生がご飯を作って、それをシニアに振舞うという形で第1回目のイベントがあったのだが、会場は満員御礼という盛況ぶりだった。

日頃、同じエリアの、ごく近いところに暮らしながらも触れ合う機会のない学生と高齢者には互いを知る良い経験になったようで、誰の口からも「楽しかった」という声を聞いた。一方で食後も話を続けようとする学生に、食べ終わった食器をさっさと片付けたがるシニアの姿もあり、異なる年代、生活習慣の人たちが共生する難しさを感じもした。学生が作る形ではないにせよ、今後も1~2カ月に一度、定期的に同じような会を開いていく予定とのことで、交流が深まっていけば同居もスムーズに進められるかもしれない。

単発的なイベント開催に満足するのではなく、地道に地域の問題を解決していこうとする姿勢はやはり、地元の人たちが中心になったものだからだろう。これまでにない、地域を横に繋ぐという街ing本郷のやり方そのものの認知にも1年近くがかかったそうだが、時間をかけて育まれたものは強い。今後のひとつ釜の飯の継続がこれまでの日本になかった新しい共生の形を生み出す可能性に期待したい。

街ing本郷
http://matching-h.jp/

2015年 08月28日 11時05分