毎年公表される「土地白書」とは?

国民の日常生活、企業の経済活動、その他あらゆる場面において、土地は欠かすことのできない重要なものである。土地の動向を的確に把握すること、さらに土地に関する施策を明らかにすることは、国にとって大きな課題だ。そこで、土地基本法第10条第1項および第2項の規定に基づいて年度ごとに作成されているのが年次報告書、いわゆる「土地白書」だ。

土地基本法第10条第1項では「政府は、毎年、国会に、地価、土地利用、土地取引その他の土地に関する動向及び政府が土地に関して講じた基本的な施策に関する報告を提出しなければならない」と政府の報告義務を定めている。これを実際にまとめるのは国土交通省であり、閣議決定後に国会へ報告するとともに一般へ公表される。

2015年6月に国会へ提出された土地白書は「平成26年度土地に関する動向」および「平成27年度土地に関する基本的施策」から成るが、このうち「土地に関する動向」について少し詳しくみていくことにしたい。土地白書の内容は多岐にわたるため、そのうちいくつかをピックアップしたうえで3回に分けてまとめることとし、今回はその1回目である。

地価の上昇傾向は、やや減速した

地価の動向について、土地白書では主に2015年1月1日時点の地価公示(2015年3月公表)の結果をもとにまとめられている。全国平均では住宅地の地価が0.4%の下落だったものの、下げ幅は5年連続で縮小した。商業地は横ばい(0.0%)に転換し、7年ぶりに下落を脱した。しかし、上昇地点と下落地点の割合は圏域によって大きく異なる。三大都市圏では住宅地の5割弱、商業地の7割弱の地点でそれぞれ上昇しているのに対して、地方圏では住宅地、商業地ともに7割弱の地点で下落している状況だ。

ただし、これを「三大都市圏と地方圏の違い」といった観点で考えると見誤るかもしれない。地方圏の中で「札幌・仙台・広島・福岡」の4都市を抽出した数字では、住宅地の上昇地点が約7割(68.8%)を占めた。これは東京圏の53.9%、大阪圏の28.9%、名古屋圏の55.3%を上回る上昇地点の割合である。その一方で、4都市を除いた「その他の地方圏」では上昇地点が1割強にとどまる。商業地においても、おおむね同じような傾向がみられる。地方圏の中でも「主要都市とそれ以外」で地価の様相は大きく異なるといえるだろう。

また、東京圏の住宅地においては上昇地点の割合が前年より減っていること(その分、横ばいが増加)、前年よりも下落率が拡大または上昇率が縮小する「マイナス方向への推移」が5年ぶりに表れたこと(東京圏・名古屋圏の住宅地、名古屋圏の商業地)、都道府県地価調査(2014年7月1日時点)との共通地点における半年ごとの推移では2014年後半に上昇率の鈍化がみられること(三大都市圏すべての住宅地)などにも注意しなければならない。

2014年4月に実施された消費税率引き上げにより、2014年4-6月期および7-9月期に実質GDPがマイナスに転じ、家計における消費でも前年同期比の減少が続いたため、それが地価に影響を及ぼした面もあるだろう。大都市圏や地方主要都市における土地需要は堅調なため、まだ当分は地価の上昇傾向が続くだろうが、2015年はどのような動きを見せるか注目される。

地価公示の推移「平成26年度土地に関する動向:国土交通省」より引用地価公示の推移「平成26年度土地に関する動向:国土交通省」より引用

土地取引件数は減少、新築住宅は反動減、不動産投資市場は活況

土地白書では、法務省の「法務統計月報」でまとめられた売買による土地の所有権移転登記件数をもとに、土地取引件数の推移が示されている。これによると2014年の全国の土地取引件数は約126万件(前年比1.9%減)で、3年ぶりの減少となった。いずれの圏域においても2014年7-9月期以降にマイナスとなったようだ。

土地取引件数は2011年の約114万件を底に、やや持ち直している状況だが、ピーク時の1973年には約351万件に達しており、その後は増減を繰り返しながら長期的には次第に減少する傾向が続いている。全国的にはほぼ3分の1程度の水準に落ち込んでいるわけだが、圏域別に見ると大きく減少したのは地方圏であり、三大都市圏では過去40数年のうちにそれほど大きな変化はみられない。土地取引件数を一つの経済指標として考えるのであれば、地方圏の衰退が「昭和40年代」から始まっていたとする見方もできるだろう。

また、2014年の新築住宅着工戸数は892,261戸(前年比9.0%減)となり、5年ぶりに減少へ転じた。ただし、これは消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動であり、2年前と比べれば1.1%の増加である。さらに、2009年から2012年のいずれの年をも上回っているのであり、決して新築住宅市場が落ち込んだわけではない。既存住宅重視への市場構造の転換が図られようとしている中では、むしろ「それでも増えている」といった印象だ。ただし、持ち家に関しては2009年と並んで、近年では最低の水準にとどまった。相続税の課税強化の影響で、貸家の着工が伸びたことにも留意しなければならない。

その一方で、Jリートを中心とした不動産投資市場は活況を呈しているようだ。2015年3月末時点で上場銘柄数は過去最多(51銘柄)、時価総額も2015年2月末時点で市場創設以来、過去最高の約10.9兆円に達した。2014年には既存宿泊施設の売買物件数が、過去10年間で最大(96件)となったことも注目される。

土地に関する国民の意識は大きく変わった

土地白書には、国土交通省が2014年度に実施した「土地問題に関する国民の意識調査」の結果もまとめられている。そのうち主な項目を挙げてみるが、まず「土地は預貯金や株式などと比べて有利な資産か」という問いに対して、「そう思う」との回答は30.3%で、調査開始以来、過去最低を記録した。1994年度までは6割を超えていたことを考えれば、国民の土地に関する意識は過去20年で大きく様変わりしたといえるだろう。とくに地方圏は27.2%にとどまり、「そうは思わない」が44.4%に達したのとは対照的だ。

また、住宅の所有に関する意識では「土地・建物については、両方とも所有したい」とする、いわゆる「持ち家志向」が79.2%だった。過去最低だった2013年度調査の77.0%からは少し増えたが、1996年度の88.1%から少しずつ低下している傾向がみられる。「一戸建て志向」についても同様で、1996年度は90.4%だったのが2014年度は69.1%となった。その一方で、新築志向は依然として強いようだ。持ち家志向の人を対象とした設問に対し、所有したいと思う住宅は「新築住宅」とする回答が61.2%に達し、「中古住宅」はわずか1.4%に過ぎなかった。32.9%の人は「新築・中古どちらでもよい」としている。

さらに、身近に感じる土地問題として「空き家・空き地や閉鎖された店舗などが目立つこと」と回答した人が、前年度より5.8ポイント増加し50.2%に達した。その他の土地問題を選択した人はおおむね前年より減少したが、「手入れされていない農地や山林が増えていること」という回答は3.6ポイント増の30.2%だった。空き家、空き地、低・未利用地の問題が、日常生活の中でも意識されるケースが増えているのだろう。

放置された空き家への対策は進みつつあるが、問題は年々大きくなっている放置された空き家への対策は進みつつあるが、問題は年々大きくなっている

被災地の地価は上昇傾向が強まる

東日本大震災による被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の動向について、土地白書には特別に項目を設けてまとめられている。2015年1月1日時点の地価公示において、岩手県は住宅地、商業地とも下落だったものの、宮城県および福島県はいずれも大きな伸びを示している。とくに宮城県の住宅地は79.1%の地点が上昇、福島県の住宅地も66.1%の地点が上昇だった。沿岸部の市町村に限れば、岩手県久慈市および宮城県松島町が小幅な下落だったのを除き、住宅地は23市町が上昇、2町村が横ばいとなっている。仙台市の住宅地は、約95%の地点が上昇した。

被災3県における土地取引件数は、震災後2年を経過した2013年から大幅な増加が見られる。復興需要に伴う土地取引が活発化したのだろう。新築住宅着工戸数も2012年後半から伸びが大きくなっている。また、新築マンションの供給戸数は、宮城県で2012年に大きく増加した後に減少へ転じたが、岩手県と福島県ではわずかながら2014年に増加が見られる。

中古マンション価格については、宮城県が震災直後から大幅な上昇傾向が続いており、移転の障害になることが懸念される。岩手県、福島県においても2013年夏頃から中古マンション価格の上昇が目立ち始めてきたようだ。

住宅地の地価やマンション価格の上昇は、被災者に大きな負担を強いることにもなりかねない。その一方で復興住宅の進捗率は、2015年3月末時点の「完了」が31%にとどまる。計画戸数が29,925戸なのに対して、完了戸数は9,330戸だ。1日も早い整備が望まれる。

2015年 09月21日 11時00分