マンション敷地売却制度とは何か

マンション敷地売却制度を盛り込んだ「マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律案」が2014年6月18日に可決・成立した。この改正法は年内に施行される予定だ。

この改正にあたり、公益社団法人日本不動産学会の主催によるシンポジウム「マンション老朽化への対処−区分所有権解消・敷地売却制度はどう使われるか」が5月24日に開催された。シンポジウムの様子を交えながら、新たなマンション敷地売却制度について考えてみたい。

新しい制度を簡単に説明すると、5分の4(80%)以上の特別多数決議によって老朽化マンションを一括で売却し、区分所有関係を解消できるようにするものである。これまでの法制度でもマンションの一括売却は可能だったが、民法の原則により全員の合意が必要とされ、その合意形成はほとんど困難だった。新制度はこの要件を緩和し、「老朽化マンションの出口戦略」の選択肢に一括売却を加えるものと考えれば分かりやすいだろう。なお、この制度では新たなマンションを建築する場合における容積率の緩和特例も設けられている。

マンション敷地売却制度の背景には建替えが困難なマンションの存在

シンポジウムでは、国土交通省住宅局課長の杉藤崇氏による改正案の説明がされた後、政策研究大学院大学教授の福井秀夫氏を進行役としてパネルディスカッションが行われた。登壇者は伊澤英志氏(株式会社安藤ハザマ建築事業本部営業統括部都市開発部都市開発グループ長)、大木祐悟氏(旭化成不動産レジデンス株式会社開発営業本部マンション建替え研究所主任研究員)、中川雅之氏(日本大学経済学部教授)、村辻義信氏(弁護士)、山田尚之氏(株式会社シティコンサルタンツ取締役)、吉田修平氏(弁護士)(50音順)の6氏である。

杉藤氏の説明によれば、現在のマンションストック総数約590万戸のうち、旧耐震基準に基づいて建設されたものが約106万戸にのぼり、その中でおよそ6割が耐震性不足だという。それに対してマンション建替えの実績は、2013年4月時点の累計で183件(約14,000戸)に過ぎないのだそうだ。割合にすれば耐震性不足マンションの2%あまりといったところだろうか。

大木氏、伊澤氏、山田氏からはそれぞれマンション建替えの現状が報告されたが、都心部では容積率を消化しきっているケースが多いこと、建設後の法改正や条例制定などにより既存不適格となっているマンションが少なくないこと、容積率が余っていても高さ制限などの強化で同規模の建替えが困難なケースがあることなどが阻害要因として指摘された。さらに郊外部のマンションでは、容積率に余裕があっても人口減少の影響などにより、そもそもマンション立地でなくなっているケースもあるようだ。建替えに適した余剰容積があり、かつ好立地の老朽化マンションは全体の1%未満だという。

日本不動産学会シンポジウムでは活発な意見が交わされた日本不動産学会シンポジウムでは活発な意見が交わされた

マンション敷地売却制度の意義とその仕組み

老朽化マンションへの対処方法として、まず考えるべきは大規模改修、リノベーションによる再生だろう。しかし、その前には区分所有者の費用負担の問題が大きな壁として立ちはだかっている。耐震改修工事を伴う場合はなおさらだろう。マンション居住者自身の高齢化も大きな問題だ。容積率が余っていれば建替えによって部屋数を増やし、一部を第三者へ売却することで事業費を捻出することも可能だが、その要件を満たすマンションはごく少数に限られる。

また、これまでの「マンション建替え円滑化法」または「区分所有法」による建替えは、同じ敷地にマンションを建て、以前の区分所有者が再び入居することを前提としたものだ。ところが、すでに老朽化が進んだマンションでは、所有者が自ら居住せずに第三者へ賃貸していたり、空室のままにしていたりする例も多い。相続した後に放置されているケースも少なからずあるだろう。そのような状況下では、再居住を前提とした建替えの合意形成は極めて困難でしかない。

そこで新たにスタートするのがマンション敷地売却制度である。大規模改修も住民による建替えも実現できない場合の、新たな選択肢と考えれば良いだろう。制度が規定するのは買受人にマンションとその敷地を売却するまでの段階であり、その後に買受人がどうするかは限定していない。買受人が新たにマンションを建設すれば旧区分所有者が再入居することもできるが、他の住宅へ住替えることも選択可能になる。

ただし、マンション敷地売却制度の対象となるのは旧耐震基準で建てられたマンションのうち、耐震診断によって実際に耐震性不足が認定されたマンションに限られる。耐震性不足の認定からスタートし、まず都道府県知事または市長により「買受計画」の認定を受けることが必要だ。「買受計画」を申請するのは買受人となるデベロッパーなどである。その認定後に区分所有者側では5分の4以上の多数で「マンション敷地売却決議」を行い、「マンション敷地売却組合」の設立認可を受ける。その後は組合が主体となり、反対区分所有者への売渡し請求、分配金取得計画の決定・認可を経て、組合がマンションの建物と敷地の権利を取得し、買受人へ一括で売却するという流れだ。

HOME'S PRESSにも寄稿いただいている日本大学の中川教授からは、再生投資に関するシミュレーションなどの説明もあったHOME'S PRESSにも寄稿いただいている日本大学の中川教授からは、再生投資に関するシミュレーションなどの説明もあった

まだまだ改善が必要なマンション敷地売却制度

シンポジウムでは、敷地売却による区分所有権の解消が一般化している外国の事例が報告されたほか、今回の改正案を前向きに評価しながらもさまざまな課題が提起された。それらをすべて列記することはできないが、いちばんのポイントは「耐震性不足が認定されたマンション」に限定されていることだろう。

インフラが老朽化したりエレベーターがなかったりして機能的に陳腐化し、今後も継続して居住することが困難なマンションでも、耐震性を満たしていれば制度の対象外である。このようなマンションはUR(旧公団)の壁構造による中層マンションに多いという。また、設計図書を紛失するなどして、確定的な耐震診断をすることが困難なマンションも少なくないようだ。

初めに買受人を決めることの問題点も指摘された。組合が検討を進めていくうちに、より良い条件の相手先が見つかったとしても買受人を変更することはできない。買受人による事業遂行能力とコーディネート能力は別物として考えるべきとの意見も出されている。さまざまな場面で透明性を保ち、争いが起きない制度にすることが重要であり、改正法施行後も市場の動向をみながら改善していくことが欠かせない。

また、マンション敷地売却制度によってすべての老朽化マンションのニーズを満たす出口戦略の選択肢が揃ったわけではない。今後は新耐震基準で建てられたマンションでも老朽化が進行し、社会的ニーズに合わなくなる場合も考えられる。新耐震基準後に建てられたものの、必要な耐震性能を満たしていないマンションも存在するだろう。

さらに、シンポジウムではとくに触れられなかったが、そもそも買い手が付かなければこの制度は成立しない。これからの人口減少社会や都市の縮小といった問題を考えたとき、20年先、30年先には売れない、貸せない、自分では住めない、大規模修繕はできない、建替えもできない、敷地売却の買い手もいない、というマンションが少なからず表れてくることだろう。やがて居住者がいなくなり廃墟化が進んでも、区分所有権は残り固定資産税は課税され続ける。社会的な寿命を終えたマンションをどうするのかも、これから取り組まなければならない大きな課題だ。

2014年 06月23日 10時30分