岐阜県東濃の美濃焼の産地

ここ数年、まちづくり・まちおこし・地域活性化・地域おこし・地域ブランドといった言葉をひんぱんに耳にする。筆者もここ数年、地域活性化関連の取材をさせていただく機会が増えたという実感があり、つい先ごろも、有識者の方に「地域活性化の取り組みが活発になったのはここ数年のことだが、そのきっかけになったのは1989年の『ふるさと創生事業』だろう」という話を聞いたばかりだ。

思い返せば、ふるさと創生事業というのは、全国約3,300の市町村に対して使い方を限定せずに1億円ずつ配るという、バブル期ならではの何とも気前のいい政策だった。使い道に困って不可思議なモニュメントを造ってしまった自治体もあったようだが、この交付金を堅実に活用し、独自の制度へと発展させ、現在のまちづくり活動につなげた自治体もある。今回取材させていただいた岐阜県多治見市だ。

多治見市は岐阜県の東濃地域に位置する、美濃焼の産地として発展してきたまちである。おそらく地名を聞いてもわからない方が多いと思うが、2007年8月16日に国内最高気温40.9度を記録して「日本一暑いまち」とニュースになった多治見市といえば、ああ、あそこか! と思い出していただけるかもしれない。

実は多治見市は2014年に消滅可能性都市と発表されたのだが、何かの間違いでは?! と思うくらい、過去最高気温同様にアツいまちづくり活動を展開している。多治見市役所くらし人権課の犬塚さんに話を伺った。

(※)消滅可能性都市…2040年までに20~39歳の女性が半減して人口が減少し、行政機能を維持することが困難になると予想される自治体。

2015年1月にオープンした駅北庁舎には窓口担当部署、保健センター、子育て支援に関わる窓口が集約されている。<br />JR多治見駅のすぐ北側にあり、わかりやすくて利用しやすい。<br />本庁舎は多治見駅から南へ1.5kmほど離れた日ノ出町にある2015年1月にオープンした駅北庁舎には窓口担当部署、保健センター、子育て支援に関わる窓口が集約されている。
JR多治見駅のすぐ北側にあり、わかりやすくて利用しやすい。
本庁舎は多治見駅から南へ1.5kmほど離れた日ノ出町にある

ふるさと創生事業交付金を原資に「まちづくり基金」

くらし人権課の皆さん。多治見市のマスコットキャラクター「うながっぱ」も同課の一員として活躍中?!くらし人権課の皆さん。多治見市のマスコットキャラクター「うながっぱ」も同課の一員として活躍中?!

多治見市のまちづくり活動には大きな特長がある。それは“市民協働”という概念が古くから根付いていることだ。

「多治見市には行政への市民参加という考え方が昔から当たり前にあったんです。行政が何かするときには、まず地区懇談会やワークショップなどを実施します。『行政がこういうことをしますから集まってください』ではなく、私たちのほうから地域に出向いて直接住民の方とお話しをさせていただき、その場で質問にお答えしたり、意見を持ち返って後日お返事をしたりすることで交流も生まれました。市の職員の間では“市民の皆さんの声をきちんと聞こう”という考え方が代々受け継がれているんです」

その伝統は、まちづくり活動補助事業にも反映されている。同事業は「市民のまちづくり活動が活発になることを目的とし、新たな多治見文化の確立を目指す」ために設けられたもので、毎年、まちづくり活動を行いたいという市民団体からの申請を受けて審査を行い、採択した団体に補助金を交付する。この事業の起源になったのが、ふるさと創生事業だ。

「多治見市は、ふるさと創生事業の交付金をまちづくりに活用したいということで、それを原資に“まちづくり基金”という補助金制度を立ち上げ、その後も独自の制度に発展させながら継続してきました。1999年には、まちづくり活動を希望する団体に、より柔軟に対応できるよう制度を改定し、公開審査方式によるまちづくり活動補助事業をスタートしました。そして2008年からは、ハード事業には、より多くの補助を出せるよう見直しました」

その公開審査方式というのが、ちょっと面白い。

活動団体が集まって審査員の前でプレゼン

まちづくり活動補助金の公開審査は、次のような方法で行われる。

まず、まちづくり活動をしたい団体が、多治見市まちづくり活動補助金応募要項に沿って申請書を提出する。
     ↓
審査当日、申請した団体が審査会場に集まり、団体ごとに審査員の前で活動内容をプレゼンする。
     ↓
審査員が付けた点数に応じ、補助を受けられるかどうか、いくら補助金を受けられるかが決定する。

という流れである。
「審査員は市の職員ではなく、公募で選ばれた市民委員さんが務めています。審査員がその場で点数をはじき、平均点で補助率が変わるので、点数が届かないと残念ながら補助率ゼロになってしまうこともあるんですよ。皆さんがいいと思う活動に対して補助金を出す、公平性のある審査方法だと思います」

さらに、この公開審査方式には、ほかの団体のプレゼンを見ることができ、団体同士で交流できるという利点もある。

「申請書を窓口に持って来ていただいて、私たちが書類を受けとって審査員に審査してもらい、結果を出して発表しておしまい、という方法は多治見にはそぐわないんです。活動団体の皆さんが審査員の審査のやり取りを聞き、会場からも質問を受け付けて互いに情報交換していただく、という双方向性のある審査をするのが多治見らしいやり方なんです」

そうした公開審査を経て、2014年度はソフト事業7団体・ハード事業1団体、2015年度はソフト事業3団体・ハード事業1団体が採択され、まちづくり活動を実施している。

ちなみに、2015年度に採択された団体と活動内容を簡単に紹介しておこう。

【ソフト事業】
団体名/たじみヒーロープロジェクト
事業名/ヒーロー誕生&ヒーロー体操で多治見を元気に!
事業概要/ゆるキャラとは一線を画したヒーローキャラクターや体操をつくり、キャラクターが優しさや夢を追いかける姿を見せることで子どもの心の育成に貢献する。
実施日/2015年4月1日~12月31日

団体名/おとめの会実行委員会
事業名/おとめの集い
事業概要/多治見在住の女性を盛り上げ、女性目線から多治見を元気にすることを目的に、女性起業家の発掘・発展の機会となる勉強会を実施。
実施日/2015年4月12日

団体名/たじみダイニング実行委員会
事業名/たじみダイニング
事業概要/「若者力」の活性化を目的に、若者が世代間でつながる場、結婚につながる出会いの場、地域で活動している団体・アーティストの紹介の場、など出会いをプロデュースする。
実施日/2015年7月20日

【ハード事業】
団体名/一般財団法人 池田町屋公民館 池田町屋郷土資料館
事業名/池田町屋郷土資料館の一部修繕
事業概要/入母屋の瓦葺和風建築の資料館自体を展示と捉え、建設当時(昭和52年)の外観のまま修繕・維持活用するとともに、来館者の安全確保を図る。
実施日/2014年4月1日~7月31日

平成27年度まちづくり活動補助事業の公開審査の様子平成27年度まちづくり活動補助事業の公開審査の様子

補助事業活用後もまちづくり活動を継続

まなびパークたじみ学習館の6階にある「多治見市市民活動交流支援センター(ぽると多治見)」。職員が常駐していて相談しやすいまなびパークたじみ学習館の6階にある「多治見市市民活動交流支援センター(ぽると多治見)」。職員が常駐していて相談しやすい

「まちづくり活動補助事業は、まちづくりの方策の一つとして行っているものですから、より大きなフレームで多治見のまちづくりを広く進めていけるとありがたいと感じています」

と犬塚さんが言うように、補助が終わればまちづくり活動も終わりではなく、この補助事業をきっかけに長くまちづくり活動を続けていくことが肝心だ。実際に、NPOを立ち上げたり、まちづくりの拠点施設となったりして活動を継続している団体もある。

「まちづくり活動補助事業をきっかけに活動を続けている事例として、子育て支援活動をしているNPO法人まぁーるが挙げられます。まぁーるさんには現在、地域子育て支援拠点として多治見市役所駅北庁舎3階に設けている、親子で遊べる施設『駅北親子ひろば(ぽかぽか広場)』の運営をお願いしています」

補助事業の活用の有無に関わらず、多治見市には市民活動を行っている団体が数多くある。そうした団体の支援をはじめ、「個人でボランティア活動をしてみたい」「自分の思いを形にして団体を立ち上げたい」など、まちづくり活動を希望する人たちの相談に応じたり支援したりして、市民活動をバックアップしているのが「多治見市市民活動交流支援センター(ぽると多治見)」だ。こうした活動支援組織の存在も、継続的なまちづくり活動に大きく貢献している。

まちづくり活動のパワーは上昇中!

統計上、消滅可能性都市とされてしまった多治見市だが、まちづくり活動の勢いは衰え知らずという印象を受ける。今後、市としてどのようなまちづくり活動を展開していく予定なのだろうか。

「現在、2016年度から2023年度までの多治見市の政策などを決める第7次総合計画の策定をスタートしています。消滅可能性都市からどのように脱却していくかという課題に多治見市全体で取り組もうとしているところで、各セクションの市民委員さんも決まり、市民参加の会議や委員会もこれからどんどん開催されます」

多治見市のホームページを見ると“第7次総合計画策定にあたり、市内在学高校生を対象に「未来提言会議」を開催した”との報告がある。大人だけでなく学生の声まで吸い上げようという姿勢が“市民協働が当たり前”という風土を生み出すのかもしれない。

「まちづくりには終わりがないので、市民活動を行う団体と行政がどう連携するかという課題は常にあると思いますし、それを解決するために私たちが新たな仕組みを考えなければとも思っています」

犬塚さんの話を伺っていて、市民の声を聞きたい、市民と一緒に何かしたい、という思いにあふれていることを強く感じた。最後に、多治見市民の方やこれから多治見市に住む予定の方にメッセージをお願いした。

「私たちは市民の方とお話しがしたいので、どんどん話していただきたいです。目安箱やメールもありますが、窓口や電話で直接お話しいただいても私はいいと思っています。市のフェイスブックもあるので、ぜひ活用してください!」

これほどの熱さがあれば、多治見市が消滅可能性都市から脱却する日はそう遠くないかもしれない。

【取材協力】
■多治見市役所(くらし人権課)
http://www.city.tajimi.lg.jp/

【関連リンク】
■多治見市まちづくり活動補助事業
http://www.city.tajimi.lg.jp/kurashi/shiminkatsudo/shien/machizukuri.html

■多治見市市民活動交流支援センター「ぽると多治見」
http://www.tajimi-bunka-porto.com/

■駅北親子ひろば~ぽかぽか広場~(NPO法人まぁーる)
http://maaru.sakura.ne.jp/

未来提言会議の様子。高校生たちが、将来の多治見市やまちづくりに対する考えや意見を述べた未来提言会議の様子。高校生たちが、将来の多治見市やまちづくりに対する考えや意見を述べた

2015年 05月18日 11時07分