遺産相続や離婚が絡み合った、複雑な相談が多い

住まいや不動産にまつわる相談のほか、起業や借金、解雇、パワハラなど多種多様な相談に応じている住まいや不動産にまつわる相談のほか、起業や借金、解雇、パワハラなど多種多様な相談に応じている

東京都大田区の「一般社団法人おおた助っ人」が開催する「出口の見える無料相談会」のレポート2回目。前回記事では、この無料相談会の立ち上げの経緯や概要、そして、おおた助っ人が相談者へのアンケート調査を実施していて「満足している」と答えた人が平均して92%と高い満足度になっているとお伝えした。そこで今回は、寄せられる相談や、どのような専門家達が対応しているのかを中心に、「満足度92%」の理由をレポートしてみたい。

まずは気になるのが相談内容。この相談会には20代から80代まで幅広い年齢層の人が訪れるというが、どのような相談が寄せられているのだろう? 

「さまざまな相談が寄せられています。購入した新築一戸建てが欠陥住宅だった、注文住宅の設計を依頼した建築会社とのトラブル、敷金が戻ってこない、マンションの隣室に住む人の生活音に悩まされている、建物の老朽化による建て替えを理由にアパートの大家さんから突然立ち退きを要求されて困っている、などなど。でも圧倒的に多いのは、遺産相続や離婚による財産分与の問題が絡み合った相談です」と、おおた助っ人の理事長、小林彰さん(司法書士)。

遺産相続、離婚。相談者の事情はそれぞれで異なっているだろうが、ほとんどのケースで論点となるのは土地や建物など相続不動産をどう分けるか、また離婚ならこれまで住んでいた家をどう分与するのか。遺産相続でも、「同居していた親が他界して、今の住まいが相続財産の対象になっている」というケースも多く、今後の住まいをどうしたらいいかという要素も加わった、複雑な相談になっているという。相続した土地や建物を売ったらいくらぐらいになるのか? 売却したときの税金は? 相続にあたり売却することになったとき、隣の家がうちの敷地の境界線に飛び出していることがわかったがどうしたらいいのか……など、相談者の悩みは多岐に渡っている。相談者の多くは大田区民だが、ネットなどで情報を見つけて区外から相談に訪れる人も少なくない。

※【大田区の若手専門家達が開く住宅無料相談会①】 前回レポート記事はこちら。
>http://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00132/

重要視しているのは相談者の目線に立ってアドバイスをすること

「出口の見える無料相談会」の相談員は30~40歳代の若手専門家が中心。前回(2014年㋂)実施の相談会には弁護士、税理士、司法書士、行政書士、一級建築士、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、WEBディレクターが参加した 

「出口の見える無料相談会」の相談員は30~40歳代の若手専門家が中心。前回(2014年㋂)実施の相談会には弁護士、税理士、司法書士、行政書士、一級建築士、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー、WEBディレクターが参加した

そうしたさまざまな相談にどう対応しているのだろう? 前回記事でも記述したように、「出口の見える無料相談会」では相談内容に合わせて複数・異業種の専門家がチームで対応し、最善の解決策を探っていく。

基本的なチーム編成は、建築・賃貸住宅の相談は、法律、建物、賃貸借契約などの要素が含まれることから「弁護士・一級建築士・宅地建物取引主任者(宅建主任者)」。遺産相続の相談は、法律、税金、不動産登記などの要素が含まれることから「弁護士・税理士・司法書士」。離婚の相談は、法律、財産分与(不動産登記)の要素が含まれることから「弁護士・行政書士・司法書士」。遺産相続や離婚の相談では、状況に応じて不動産鑑定士や宅建主任者が加わったり、転居が想定される場合などには宅建主任者やマネープランの専門家であるファイナンシャルプランナーなどが加わることもあるという。

「相談時間は1組につき1時間の設定ですが、相談に来てくださった方にとって有効な1時間であってほしいです。状況によっては、あたりのやわらかい女性の専門家を入れて相談者が話しやすい雰囲気を作るよう配慮をします。また、相談内容とはあまり接点のない分野の専門家を意図的に加えるケースもあるんです」と、小林さんは話す。
そういった「接点のない分野の専門家」ではあるが、相談員を任されているのは、おおた助っ人のメンバーのひとり、WEBディレクターの福田文明さん(30)。福田さんはおおた助っ人のホームページの管理や相談会の現場運営などの役割を担っている。相談員としてどんな力を発揮しているのだろう?

「私の場合は相談員というより、相談者のフォローです。複数の専門家がチームで対応するので各方面からアドバイスができるわけですが、専門家同士で法律用語が飛び交ってしまうこともあるんです。そうなると相談者は専門家の話を理解できず、置き去りにされてしまう。例えば、遺産分割協議書という言葉も法律の専門家は日常的に使っているのでしょうけれど、一般の人にはあまりなじみがないと思うんです。私自身もそうですから。そんなときに、“それ、どういうことですか?”とか“つまり、こういうことですか?”と、私が相談者に代わって質問したり、確認をする。それで相談者が専門家のアドバイスを理解できるようになるし、専門家の側も“もっとわかりやすく話さなければ”と話し方を改めるきっかけにもなるようです」(福田さん)

ボランティアの専門家達が相談会を支えている

相談会終了後の振り返りの時間。この日は相談会の広報チラシや、当日の受付対応についての改善点を話し合った相談会終了後の振り返りの時間。この日は相談会の広報チラシや、当日の受付対応についての改善点を話し合った

相談員を務める専門家達は、おおた助っ人のメンバーはもちろん、協力してくれる専門家達も全員がボランティアであることは前回記事でもお伝えした。

「若手専門家達の新たな仕事の掘り起しを狙っているのでは、と思われるかもしれませんが、それは違います。僕らの活動はあくまでも地域や社会のためのものです。どこに相談していいかわからないお困りごとに対し、ご自身で手続きを行う方法を手順を追ってお伝えしたり、専門家に依頼する必要があるケースでは依頼額の相場感や選び方をお伝えすることで、相談者さんに解決の糸口を見つけていただくことを目的としています。ですので、相談者さんに対して名刺を渡すなどといった営業的なことはしていません。ただ、“専門家の連絡先を知りたい”とお願いされたときには、その日相談員を務めた専門家のリストをお渡ししていて、その結果として、相談者さんが仕事として依頼するというケースはあります」と、小林さんは話す。

それにしても通常であれば1時間1万円ほどの相談料が発生する専門家達だ。にもかかわらず、この相談会がスタートした当初から継続して参加している外部の専門家も少なくないという。なぜボランティアとして続けてきているのか? 

そこで3人の専門家に話を聞いてみた。3人とも、おおた助っ人が定期的に開催する勉強会への参加がきっかけで、この相談会の相談員として声がかかったという。

まず、弁護士の水村元晴さん(39)。千代田区の法律事務所を拠点に活動し、不動産や賃貸トラブルについての著書もあるエキスパートである。
「3年前にこの相談会が始まった当時、こうした複数・異業種の専門家による無料相談会はまだ珍しく、新しい試みだったのではないかと思います。ですから相談員として声をかけていただいたときは面白そうだし、ぜひやってみたいと。実際にやってみて、この相談会は複数の専門家がそれぞれの専門性を生かして応えることができるので、相談者の役に立てている手応えがあります。他業種の専門家の考え方や解決のノウハウを知ることもできて、私自身のプラスにもなっています」(水村さん)

税理士の矢口岳史さん(42)も大田区外からの参加で、港区に自身の税理士事務所を構えている。この道約20年のベテランだ。
「出口が見える無料相談会では遺産相続、離婚にまつわる相談が多く、そこから派生する税金についての助言をするのが私の役目です。ただ、相談者の状況はさまざまで、それに対して限られた相談時間内で解決につながるアドバイスが求められます。相談者とはその後のおつきあいはないわけですから、よほどのことがない限り、”調べてみて後日連絡します“というわけにはいきません。専門家としての対応力が磨かれます」(矢口さん)

3人目は行政書士の大松香織さん(43)。大田区に自身の行政書士事務所を構え、活動している。行政書士としての専門性とともに、自身の子育て経験、そしてスクールで学んで身につけたという心理カウンセリングのスキルを生かして相談にあたっている。
「この相談会は相談する側にとっては便利でいいなと思います。私の日ごろの仕事では行政書士として対応できない問題を切り分けて、”税金のことは税理士、登記は司法書士、紛争ごとは弁護士に”と他の専門家をご紹介することになります。ここでなら一度に複数の専門家に悩みを聞いてもらえて、一気に解決の手がかりがつかめると思います。私はこの相談会では遺言書や離婚協議書作成といった手続き関係のアドバイスをしたり、離婚して幼い子供を抱えて新たな住まい探しをしているというシングルマザーの悩みを聞く機会も多いです。離婚による精神的なダメージも大きいと思いますので、心のケアも考えながら相談者と接しています」(大松さん)

この無料相談会は相談者にとっては解決の道筋が見えやすくなる場であり、相談員である若手専門家にとってはスキルを磨く貴重な場になっているようだ。

相談会終了後には毎回、振り返りの時間を設け、相談員同士で意見交換を行なっていることも特徴だろう。受けた相談で気づいたことや、相談者への対応に関する改善点を話し合ったり、相談者アンケートに綴られていた感想や感謝のメッセージを共有するという。

「僕らおおた助っ人のメンバーだけではなく、参加した専門家全員で相談会を作っている。そんな一体感が生まれているんです。これがこの無料相談会が続いている理由のひとつかなと思います」と、小林さん。他の区の専門家からも「自分達も無料相談会を開いてみたいので、ノウハウを教えてもらえないか」といった問い合わせが増えているというから、全国各地でこうした複数・異業種連携の無料相談会が開催されるようになることを期待したい。

さて、このおおた助っ人の無料相談会、多くの人達の役に立っている存在であることがわかった。では、大田区という地域社会全体にとってはどのような意味があるのだろう?
次回、このシリーズの最終回で探ってみたい。

2014年 05月19日 10時56分