今後、築年数が経過したマンションの増加が見込まれることで、マンションの管理・維持に注目が集まっています。マンションの管理においては、管理組合の役割が重要になりますが、その役割や実情はあまり知られていません。
今回は約400戸の大型マンションの管理組合の理事長を務め、著書「タワマン理事長ーある電通マンの記録-」が2025年1月に発売されたばかりの竹中信勝氏に、マンション管理組合の理事長としての仕事や苦労について話を聞きました。
『タワマン理事長 - ある電通マンの記録 -』
発売日:2025/1/28
首都圏で念願のタワーマンションを購入した電通マン(著者)が、ある日突然マンション管理組合の理事長になってしまった――。理事長にならないと経験できない、だけどタワマンの住民なら誰もが経験する可能性があるエピソード(すべて実話)が満載。
あみだくじの結果、タワマンの理事長に
ーまず管理組合の理事長になった経緯を教えてください。
私は、元々電通に勤務するサラリーマンなので、朝出勤したら夜まで家に帰ってこないという生活をしていました。つまり、ほとんどマンションにいない、何も知らない人間だったんです。
そんな私に、ある日突然、理事の順番が回ってきました。「理事といっても名前だけだろう」という気持ちで理事会に出席したところ、「理事長を決める抽選をしましょう」という話になり、あみだくじの結果、理事長に選出されてしまったのです。
それでもマンションの受付には管理人がいますから、私がやることは理事会の司会進行ぐらいだろうと思って、本当に軽い気持ちで引き受けました。ただ、実際には本にも書かせていただいた通り、マンションの中では日々様々なトラブルが起こり、その対応に追われることになりました。
無報酬でそうした業務に対応できたのは、私が会社員として勤務する傍ら、様々なボランティアに参加して、団体の代表などを務めた経験があったことが影響していると思います。また、電通で労働組合の委員長をした経験も生きたと思います。
ー 理事長としての任期中にこれまでの3倍という修繕積立金の大幅な値上げを実現したとのことですが。
修繕積立金の値上げには管理組合員(区分所有者)の過半数の賛成が必要です。私の場合は特別決議だったので3/4の賛成が必要でした。
マンションによって異なりますが、大規模修繕はおおよそ10〜15年に1度のペースで行われます。私が理事長になったのは大規模修繕実施の翌年で、修繕積立金が大きく減少した後でした。
そのタイミングで、コンサルに今後30年の長期修繕計画のシミュレーションをしてもらったところ、6年後には収支が赤字に転落することが明らかになったのです。
一般的に新築マンションの販売時において修繕積立金は低く設定されています。これは販売しやすくするためですが、適切な管理を継続して行うためには定期的に修繕積立金の額を見直す必要があります。そして、実はこれまでも見直すように奨励されていたのですが、歴代の理事長が先送りしていたのです。
「修繕ができなければマンションの資産価値は落ちていく一方だ」とコンサルに指摘された私は、臨時総会を開いて修繕積立金の値上げを提案することにしました。
コロナ禍での説明会、理事会、そして僅差での成立
ー住人にとっては日々のコストが増えることになるので反対も多かったと思いますが?
確かに肉体的にも精神的にも大変でした。
当時は新型コロナに伴う緊急事態宣言が発令されたばかりで、マンションの住民に対して説明会を実施するにしても密を避けなければなりません。本来であれば大きな会場を借りて一度に済ますところを、細かくグループに分けて5回、予備日として1回、合計6回の説明会を二日間かけて実施しました。さらに総会についても、密を回避するために管理組合のポストへの事前投票を奨励しました。
また、実際に住んでいない投資目的の所有者に対しては、郵送での投票をお願いしました。彼らにとって修繕積立金の値上げは利回りを低下させるものですが、適切な管理維持ができなければ資産価値が下がることを手紙で丁寧に説明しました。
ー歴代の理事長同様に先送りするという選択肢もあったと思いますが、何がモチベーションになったのでしょうか?
そこはやはり「みんなのため」という思いが大きかったと思います。
また、コンサルから「別に値上げを後回しにしても良いですが、来年以降になれば値上げ幅はさらに大きくなります。早く値上げした方がその分負担は小さくなりますよ」と言われたので、自身の任期中にやっておこうと考えた部分もあります。
総会で賛成を得られるかどうかは、それほど確信は持てませんでした。事前投票の時点で3/4ギリギリだったので総会の場で反対票が多ければ否決される可能性もあるという状況でした。しかし、実際はコロナ禍だったこともあって総会の会場にきた方は10数人程度で反対者もいませんでした。
議事進行もスムーズに進み、紛糾することもなかったのでホッとしましたね。一度、否決されてしまえば私の次の代の理事長も値上げがしにくかったと思います。
ー 一般的に高齢者の管理組合員の中には、値上げに反対する人も多いという話を聞くこともありますが。
私の場合、一気に修繕積立金を3倍にしたので、「流石に酷い。せめて2倍にならないのか」「老い先短いのだから値上げしないでくれ」といった反対意見も確かにありました。ただ、やはり全体のことを考えると、このタイミングで値上げが必要だったので心を鬼にしてお願いしました。
説明会を6回も開催するのも大変でしたし、コロナ禍の影響で理事会に出席したくないという理事に対してリモートでの開催を提案したら、別の理事から「パソコンを持っていないので参加できない」と言われるということもありました。
投資目的の区分所有者に手紙を書くなどの作業も一人でやったので、臨時総会後にはマンション管理士と契約してサポートを受けることにしたのですが、それに対しても「すでに管理人がいるのに何故マンション管理士を雇うんだ」といった反対意見がでるなど予想できないことばかりでした。
多くの場合、理事会のメンバーは素人なので管理会社から修繕の見積もりが出てきても、その妥当性を判断できません。そのため、マンション管理士という専門家に見てもらうことで、見積もりの妥当性を判断し、結果的に修繕費を抑えることができるのです。
マンション管理士に報酬を払うことで長期的にはプラスが多いのですよ、という説明をして何とか理解してもらうことができました。
ー反対の意見を持つ方を説得するのは非常に難しいと思うのですが、心がけていたことや説得できた秘訣はありますか?
とにかく納得してもらえるまで説明するということを時間をかけてやりました。これに関しては電通の労働組合の委員長をしていた経験が生きたと思います。
数百人の意志をまとめて、正しい方向に導いていくのは大変なことですが、マンションに住んでいる人は誰しもが同じ状況になる可能性があるわけです。実際、同じような悩みを抱えている方も多いと思います。例えば、2018年に国土交通省が行った調査において、長期修繕計画に必要な積立金が「不足している」というマンションの割合は34.8%となっています。
そうした中で私の住んでいるタワマンと同じように修繕積立金を値上げしたいけど、やり方がわからないという方も多いのではないでしょうか。そういう方々に、この本を参考にしてもらいたいと思っています。
何より、修繕計画の正常化ができないと資産価値が落ちていく可能性が高いのです。「自分は老い先短いから」と言っても相続する人間、つまり自分の子どもたちが困ることになってしまう。投資家の人にとっても売却価格が下がって損をしてしまったら本末転倒です。
そういった状況を考えれば、誰かが旗振り役になる必要があるので、私の場合は自分がそうなったということです。
ー逆に「これをやっておけばもっと楽だったのに」というポイントはありますか?
タワマンが一つのコミュニティだとすると、そこで起きるトラブルの多くはコミュニケーション不足が原因だと考えられます。
例えば、共有部で会った際に挨拶を交わしたり、「お子さん、大きくなりましたね」といったコミュニケーションが成立していれば、ちょっとした騒音も「お互いさま」ということで我慢できると思うのです。
私はマンションの問題の多くはコミュニケーションで解決できると思っているので、管理組合として定期的にイベントなどを企画して、住人同士の懇親の場を設けると良いのではないでしょうか。
たとえば、餅つき大会やハロウィン・クリスマスパーティーなどを企画して、相互に顔を合わせてコミュニケーションを取っておけば総会で何らかの決議を行う場合でもスムーズに進みやすくなると思います。私の場合は、コロナの時期だったのでなかなか難しかったですが。
自ら屋上の草むしりも‥タワマン理事長の業務は多種多様

ー 書籍の中では、修繕積立金の値上げ以外にも日常のさまざまなトラブルへの対応で苦労される様子が書かれていますね。
トラブルやクレームというのは日常茶飯事でしたね。「上の階の目覚まし時計の音がうるさい」といったレベルのクレームまで理事会に持ち込まれることがありますから。
たとえばある日、管理人が「大変です、理事長。屋上に草が生えています!」と言ってきたことがあります。こうした雑草を放置しておくと、根が広がってひび割れや漏水の原因になってしまうのです。
なので、管理人に「抜いておいてください」と言ったところ、契約外だからできないというんですね。管理会社との契約内容の中に草むしりが入っていなかったので、対応してもらえないわけです。結局、自分で抜いたのですが次の年からは管理会社に対応してもらえるようにしました。
他にも「公開空地の木で信号機が見づらいから対応してくれ」「航空障害灯がつかない」「落雷でマンションの壁に穴が空いてしまった」などなど様々なトラブルがありました。
マンションに住んでいる人は、自分たちの知らないところで管理組合が様々な苦労をしているということを少しでも知ってもらえると嬉しいですね。
ー最後に、今後マンションを購入したり、理事になる可能性のある読者の方にアドバイスをお願いします。
やはりマンションを購入する前に管理についても調べたほうが良いと思います。特にタワマンの理事会や管理についてはインターネットにはあまり出ていない情報も多いので今回私が書いた本なども参考にしていただけると嬉しいですね。
また、先ほども言ったようにマンションでは住人同士のコミュニケーションが非常に重要です。 普段から、挨拶をしたり、声をかけ合ったりすることで、トラブルを減らすことができますし、 何かあったときにも、助け合える関係を築くことができます。
ぜひ、マンションの中で積極的にコミュニケーションを取るように心がけてください。それが管理組合の円滑な運営や、ひいては資産価値の維持などにもつながってくるのではないでしょうか。
プロフィール
竹中 信勝(たけなか のぶかつ)
合同会社エルエルシー代表・プロデューサー。大学新卒で電通に入社。TVメディア、地方博、地方自治体、電力会社、住宅、食品、自動車、流通、通信、金融、ホテル、運輸、出版社等多数の業種を担当した。新規顧客開拓で多数の実績を持つ。2020年、電通を早期退職。人生100年時代における個人の多様な価値発揮を支援する仕組み=『ライフシフトプラットフォーム(LSP)』を設立し、活躍中。2022年3月社会構想大学院大学実務家教員養成課程修了。
blog:タワマン理事長日記
instagram:tawamannrijicyou
記事執筆
LIFULL HOME'S 不動産売却査定 編集部
日本最大級の不動産・住宅情報サイト 「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」の不動産売却査定サービスでは、不動産売却に関する疑問や悩みに答える「よくわかる!不動産売却」をお届けしています。記事は宅地建物取引士、マンション管理士、不動産鑑定士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を持つ専門家による監修や校閲チェックを行う体制を構築しています。