全国の公立中学校の数に迫る9,132ケ所に拡大した「子ども食堂」
「子ども食堂」という社会活動が全国へ広がりはじめたのは2010年代のこと。
当初は貧困家庭の親子をサポートするために、無料または低価格で食事を提供する“食育の場”というイメージが強かったが、近年は子どもから単身世帯の高齢者まで「多世代の孤食」を解決しつつ「地域コミュニティを広げる場所」として拡大。2023年の食堂設置数は、全国の公立中学校の数に迫る9132ケ所(※)まで増えた。
※認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ調べ。
いまや子ども食堂の活動支援は、農林水産省を筆頭に地方自治体や地域団体、大手食品メーカー、教育機関、地元飲食店など多くの組織によってサポートされているが、ここ北海道・道南エリアの北斗市では、“お寺”が中心になって独自の取り組みを行っていた。
北斗市にある曹洞宗の寺院・広徳寺で《地域食堂まんまる》を運営する高橋佑実さんに、活動の経緯について話を聞いた。
青年海外協力隊での経験がきっかけで「地域に根差した活動」を目指すように
「広徳寺で地域食堂の活動をはじめたのは2019年の秋頃からです。きっかけはいろいろありましたが、“私の嫁ぎ先がお寺だった”ということがいちばん大きなきっかけでした(笑)」(以下「」内は高橋さん談)
独身時代、青年海外協力隊としてバングラデシュで2年間ボランティアを行っていたという高橋さん。その経験から、活動を終えて帰国したあとも「日本の中で地域に根差した活動を続けたい」という想いを持っていたという。
「バングラデシュでは食べ物や物資の不足、災害に対する弱さなど様々な課題を抱えていましたが、私が出会った現地の子どもたちはみんな目がキラキラと輝いていて、とても心が豊かでした。
しかし、日本へ帰国したら、子どもたちの様子がなんだかバングラデシュとは違う・・・日本はこのままで大丈夫なのかな?と心配になってしまい、子どもたちが“明日が楽しみ、未来が楽しみ”と思えるような地域づくりをしたいと考えるようになったんです」
そのタイミングで再会したのが、広徳寺の住職であるご主人だった。
「主人は協力隊のメンバーではなく昔からの知り合いでしたが、ちょうど同じように海外での視察を経て日本に戻ってきたところで、お互いの思想を共感し合えるタイミングでした。その後、私が広徳寺へ嫁ぎ、“お寺だからできること”を二人で模索するようになりました。
実は地域食堂をはじめる前は、年に一度、お寺の中で修行体験ができるような寺子屋イベントを行っていたのですが、参加してくれた子どもたちの中に、お昼になっても家に帰らない子がいることに気付いたんですね。“あれ?お昼ごはん食べに帰らなくてもいいの?”と聞くと、“お昼は食べない”とか“いつもお菓子を食べてるから要らない”と言う・・・この地域にちゃんとお昼ご飯を食べられない子どもたちがいるんだと気づいて衝撃を受けました。
そこで、誰でも気軽にお寺に立ち寄ってもらって、みんなで一緒にご飯を食べる空間ができたらいいなと考えるようになり、《地域食堂まんまる》をスタートさせたんです」
みんなで丸くなってご飯を食べることで“何気ない顔見知り”をつくる
▲2024年7月に開催された《地域食堂まんまる》の様子。その噂を聞きつけ、車で約30分かけて近隣の市町からはるばる広徳寺を訪れる親子も多いという。「地のモノ・旬のモノを大切にした食事を提供することにもこだわっています」高橋さんが「子ども食堂」ではなく「地域食堂」と名付けたのには理由がある。子どもたちだけでなく、学生も、大人も、お年寄りも、様々な世代の人たちに参加してもらうことに活動の意義があると考えたからだ。
「北斗市は子育て世帯の流入が多いまちと言われていますが、共働きのご家庭が多く、放課後や休日に一人で過ごしている子どもが多いんです。
また、お父さん・お母さんはクルマで移動するので、道端で近所の人にばったり会って、挨拶やおしゃべりを交わすといった昔ながらのご近所づきあいが希薄になっているように感じます。
地域の中に“何気ない顔見知り”がほとんどいない状態なんですよね。
だからこそ、もっと地域の中の人と人とのつながりを広げたい!みんなで一緒に丸くなってご飯を食べようよ!という想いを込めて《地域食堂まんまる》と名付けました」
食堂のメニュー考案や調理は、高橋さんを含め約10名のボランティアスタッフが週替わりの当番制で担当している。参加費は大人300円、高校生以下は無料。《地域食堂まんまる》の公式LINEに登録すれば、申し込みフォームから誰でも参加申し込みが可能だ。イベント開催時など多い時には参加者が50人近くになるそうだが、実は食材の多くは檀家さんからの寄付で賄われているという。
「ありがたいことに、ここ北斗市は農業がさかんなまちでもあるので、お檀家さんたちがジャガイモ30kgとか、大根20本とか、地元で獲れた時季の食材をたくさん届けて下さるんです。お寺の中だけでは消費しきれない量なので、以前から“食材を必要としてる人たちにお配りしたい”という想いがあり、その点も食堂をはじめるきっかけのひとつになりました」
どうしても食材が足りない時期は、住職と共に檀家さんのお宅を回り、頭を下げて食材寄付のお願いをしたこともあったそうだ。また、野菜に関しては、最近でこそ協力農家のおかげで不足することはなくなったが、肉や魚などのたんぱく質はどうしても購入することになる。そこで食材費を捻出するために誕生したのが、食堂オリジナルの「手ぬぐい」だ。
「地元のデザイナーさんに協力していただき、食堂のノベルティとして《まんまる手ぬぐい》を作りました。これを地元の飲食店さんやお米屋さんなどの協力店に置いていただいて、その収益を食堂の食材費に充てています。最近は北斗市内だけでなく、お隣の函館市内でも置いて下さるお店が増えてきましたし、購入した皆さんも“手ぬぐいを買うことで地域食堂をサポートしている”という想いで協力して下さっているので本当に助かっています」
コロナ禍を受けシフトしたフードパントリー、協力農家への助成金制度も誕生
▲2024年秋の《まんまるフードパントリー》の様子。大人たちが食材を仕分けしている間に、子どもたちは自分の家にあるおもちゃを持ち寄っておもちゃの物々交換会を実施。紙芝居や絵本の読み聞かせなども行う楽しいイベントとなった地球食堂と並行して高橋さんが取り組んでいるのが《フードパントリー》だ。
地域食堂をはじめて半年で、世の中はコロナ禍へ突入。まさに人と人とのつながりが強制的に断たれる状態となった上に、一斉休校の実施で給食が無くなり、お昼ご飯が食べられない子どもたちが増えているというニュースにも心を痛めた。
「コロナ禍では、みんなで一緒にご飯を食べることはできませんでしたが、子どもたちへの食材提供なら“密”にならずにできると考え、フードパントリーをはじめました。
コロナ禍が終息した今は地域食堂がメインになっているので、フードパントリーは年に4回だけの実施ですが、例えばお米は政府の備蓄米から、食材はフードバンクや、広徳寺のお檀家さん、個人の方からのご寄付によって集められています。
最近は北斗市役所の子育て支援課ともスムーズに連携を取れるようになって、“お米が買えないご家庭があるんですけど、フードパントリーを紹介しても良いですか?”といった連絡をいただくようになったので、これまで食堂のネットワークだけではリーチできなかったご家庭にも食材を届けられるようになりました。また、地域食堂やフードパントリーに協力してくれた農家さんに対して、市から助成金が出る制度が整備されたこともあり、私たちの活動を支援して下さる農家さんとのつながりもどんどん広がっています」
理想は小学校の学区に必ず1か所、地域食堂があること
「実は、この前久しぶりに地域食堂に来てくれた小学5年生の女の子が、“わたしの将来の夢は地域食堂をやることです”と言ってくれて、本当に嬉しかったです。この想いがどんどん地域に浸透して、またその地域に住んでいる子どもたちの居場所づくりにつながって…こういう地道な活動が広がることで、今後の日本がどんどん豊かになっていくと信じたいですね。
理想的には“小学校の校区に必ず1か所は地域食堂がある”ようになったらいいな、と(笑)
私たちがやっている活動は、ものすごく小さな活動ですが、本当の意味で地域から求められる食堂になれるよう、これからも細く長く活動を続けていきます」
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最近では、以前食堂に通っていた高校生や大学生の若者たちがボランティアスタッフとして活動に参加する機会も増えてきたという。広徳寺からはじまった「地域食堂のつながり」が、子どもたちの豊かな未来を育む場所となることを期待したい。
■取材協力/地域食堂まんまる
https://m.facebook.com/chiikimanmal/
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