2023年の干支「癸卯」は、寒気が緩み、萌芽を促す年

2023年は卯年。ウサギは寂しがり屋で繊細な性格をしているという。静かで落ち着ける環境が大事な年であることの暗示だろうか2023年は卯年。ウサギは寂しがり屋で繊細な性格をしているという。静かで落ち着ける環境が大事な年であることの暗示だろうか

2023年の干支は「癸卯(みずのと・う)」である。干支は古来、未来を探るための手段として使われてきた。

干支は中国の古い思想である「陰陽五行思想」を礎にした60年周期で循環する暦で、それぞれに意味を持っている。

それによると「癸卯」は、「寒気が緩み、萌芽を促す年」になるようだ。コロナ禍以降、停滞し続けていた世の中に、そろそろ希望が芽吹く春がやってきそうなのである。

ただし今まで培ってきた自身の力が試される年であることも示唆しているため、最後まで諦めずに希望を持ち続けながら、でも無理をしすぎないことが道を開く鍵になりそうである。

それでは、2023年の干支「癸卯」が何を指し示しているのか、どういった行動をすれば干支を味方につけることができるのか、まずは干支の基本の仕組みと、その考え方のベースになっている「陰陽五行思想」について簡単にご紹介しよう。

陰陽五行思想や風水、干支は天意を探るために生まれた

干支は、十干(じっかん)と十二支の組み合わせでできている。十干は「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の10種類あり、太陽を象徴とした生命の循環を表している。

十二支は「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の12種類あり、月を象徴とした生命の循環を表している。干支はこの2つを組み合わせて60種類あり、60年をかけて一巡する。

干支の礎である「陰陽五行思想」とは、世の中のすべては独自の性質を持つ5種類の元素「木・火・土・金・水(もっかどごんすい)」に分類され、それぞれが「陰」と「陽」に分かれるという思想である。

干支の十干、十二支も5種類の元素「木・火・土・金・水」、そして「陰」と「陽」に分類され、組み合わせによってまた意味が変わる。

世の中は自然の中で循環をしている。昼と夜が繰り返され、雄と雌で子孫を残し、水を飲み、火で暖をとり、古木の虚(うろ)で雨風をしのぎ、金の斧で獲物を獲り、土を耕し作物を育てる。しかしそんな中でも予期せぬ災いは起こり、突然の死が訪れる。

古代の人たちは、それらを前もって知る方法はないかと必死に考えた。日の巡りに何かヒントはないか、月の満ち欠けに印はないか、季節の変化に、星の瞬きに何か予兆はないか。

人は知恵を持って生まれた瞬間から死を知り、己が生きることの意味を探してきた。そして天意を知ることこそが人の道であると考え、生まれたのが「陰陽五行思想」であり、風水であり、干支である。これらは世の中の森羅万象を解き明かし、人知を超えた天意を探るための学問、自然哲学なのである。

それでは2023年の干支「癸卯」が何を指し示しているのか、読み解いていこう。

十二支は子年から始まる。1年は五行の春を表す寅から始まる十二支は子年から始まる。1年は五行の春を表す寅から始まる

癸卯は厳冬が去り、春の兆しが訪れたことを表す

「癸卯」は、十干が「癸(みずのと)」、十二支が「卯(う)」である。これらが何を意味しているのか、2つの視点から考察する。

1つ目は、「陰陽五行思想」から見た「十干(太陽を象徴とした生命循環)」と「十二支(月を象徴とした生命循環)」がそれぞれ何を指し示しているか、そしてそれらが組み合わさることでどんな意味になるのかをご紹介しよう。

「癸」は十干の10番目、生命の循環でいえば最後に位置し、次の生命を育む準備が完了した状態を表している。

「癸」は「みずのと」、「陰陽五行思想」では「水の弟」と表記し、これは「水の陰」を意味する。五行の「水」は静寂、堅守、停滞、冬の象徴である。「陰」は控えめや小さいといった意味である。つまり「癸」は、小寒、閑静、渋滞といったことを表している。要は、まだ固いが少し動きが出てきた状態といったところである。

「卯」は十二支の4番目で、草木が地面をおおうようになった状態を表している。萌え出る春のイメージである。

「卯」は「陰陽五行思想」では「木の陰」に分類される。五行の「木」は成長、発育、誕生、春の象徴である。つまり「卯」は、控えめに成長することを表している。

これらが十干と十二支、それぞれ意味するところだが、問題は組み合わせである。五行では関係性によって、お互いを打ち消し合ったり、強め合ったりといったことが起きる。

「癸」と「卯」の関係は、「水生木」の「相生」と呼ばれる組み合わせである。これは水が木を育み、水がなければ木は枯れる。つまり「癸」が「卯」を補完し生かす関係である。

このように2023年の干支「癸卯」を「陰陽五行思想」で読み解くと、「寒気が緩み、萌芽を促す」、厳冬が去り春の兆しが訪れたことを表していることが分かる。

吉野ヶ里歴史公園の北内郭。弥生時代の町並みを98棟復元して造られた公園である。日本でもこの時代には既に占いが盛んに行われていた吉野ヶ里歴史公園の北内郭。弥生時代の町並みを98棟復元して造られた公園である。日本でもこの時代には既に占いが盛んに行われていた

言葉には天意が宿るとする東洋思想。「癸卯」が意味すること

2つ目の視点は「癸卯」という言葉そのものが意味するものである。東洋思想では、古くより言葉には天意が宿ると考えられてきた。

十二支に当てはめられた文字の形と音韻にはそれぞれ意味がある。言葉を形にしたのが文字であり、口から発するのが音韻である。

そこで、2023年の干支が示唆していることをより明確にするために、「癸卯」の「文字の形(象形)」と「文字の音韻(納音)」を読み解いてみよう。

「癸」という漢字は会意兼形声文字で、「並び生えた草」の象形と、「2本の木を十字に組み合わせた、日の出や日の入り、東西南北を測る器具」の象形から、「測る」や「あおい(四方に向けて花びらが開く花)」を意味する「葵」という漢字が成り立った。

また「生命のない残物を清算して地ならしを行い、新たな生長を行う待機の状態」を示しているともされる。

「卯」という漢字は、同じ発音のものを後から当てはめたものである。「卯」は象形文字で、「同形のものを左右対称に置いた」象形から「同じ価値の物を交換する」の意味を表し、「貿」の原字となった。

また「左右に開いた門」の象形とも考えられ、すべてのものが冬の門から飛び出す「陰暦の2月」の意味や、祭祀において「生贄の肉を両分する形」でもあることから、「公平や等分」という意味が派生した。

口から発する音韻は、「納音(なっちん)」で分類される。納音とは、干支や風水と同じく「陰陽五行思想」を礎にしたもので、中国語の音韻理論で干支を整理したものである。干支は60種類で納音は30種類のため、干支2つに納音1つが割り振られている。

「癸卯」の納音は、2022年の干支「壬寅(みずのえ・とら)」と同様、「金箔金(きんぱくきん)」である。

これは金箔に使われる微量の金を意味し、他者を引き立てるがそのままでは自身は薄いまま。しかし本来は金であり、素晴らしい資質を持っているのだから、実力を養うべく己を磨くことが成功につながるという意味である。

つまり「癸卯」という言葉は、既に春の兆しは始まっていて、これからは今まで培われた実力が試される局面に入ったことを指し示している。

卑弥呼の時代、祭司は国家の命運を左右する大事な儀式だった。鬼道と呼ばれる占いを行い、政の方針を決めていた卑弥呼の時代、祭司は国家の命運を左右する大事な儀式だった。鬼道と呼ばれる占いを行い、政の方針を決めていた

陰陽+五行で陰陽五行思想

さて干支や風水、そして易経など多くの思想の礎となった「陰陽五行思想」は、そもそも「陰陽」と「五行」という2つの思想の複合体である。

「陰陽思想」は、宇宙の森羅万象を、互いに対立する属性を持った2つの気である「陽(よう)」と「陰(いん)」に分類。万物の生成・消滅などの変化は、この2つの気によって引き起こされるとする考え方である。

この思想は、古代中国においてさまざまな卜筮(ぼくぜい)に利用されてきた。特に盛んだったのが殷代(紀元前17世紀ごろから紀元前11世紀ごろまで)で、殷墟から大量に出土した甲骨文字でその隆盛が知れる。

「卜(ぼく)」は動物の甲羅や肩甲骨を焼いて入ったヒビの形から占うもので、「筮(ぜい)」は植物である蓍(めどぎ)の茎の本数を用いた占いである。そしてこの占いの記録である「卜辞(ぼくじ)」を集大成して生まれたのが、中国五経のひとつ易経である。

易経の根本的な思想は、混沌の状態である太極を原初と考え、この太極が「陰」「陽」の2つに分かれて両義が生まれ、両義がまた「陰」「陽」に分かれて四象を生し、その四象がさらに「陰」「陽」の2局に分かれて「八卦」を生成したとする。そしてその八卦を重ねて六十四卦で、天地人の森羅万象を占う。

易経の内容が固まったのは紀元前8世紀ごろといわれているが、その成り立ちには諸説ある。例えば「日月説」は、太陽や月、星の運行から運命を読みとる占星術に由来するとした学説であり、その根拠のひとつとして「易」の字は「日」と「月」から構成されているとしている。いずれにしても易経とは「陰陽思想」そのものといってもいい存在である。

このように「陰陽思想」とは、中国をはじめとした東洋思想の根幹を成すものなのである。

易の基本である八卦を表した図。化学の授業で習った核分裂の図式に似ている気がする。原子核も陽子と中性子という2つからなっている易の基本である八卦を表した図。化学の授業で習った核分裂の図式に似ている気がする。原子核も陽子と中性子という2つからなっている

陰陽五行思想の肝は、5すくみ状態の関係性にあり

「五行思想」は、春秋戦国時代に陰陽家・鄒衍(すうえん、紀元前305年頃~紀元前240年頃)によって創始された。

万物は「木・火・土・金・水」の5種類の元素からなるという思想で、その元素同士は互いに干渉し合い、その生滅盛衰によって天地万物は変化し、循環しているというものである。

万物の基礎となる元素を5種としたのは、春秋戦国時代の中国で5つの惑星が観測されており、それが水星・金星・火星・土星・木星であったためとも言われている。ちなみに七曜とはこの5元素に太陽と月を足した「日・月・火・水・木・金・土」である。

この「五行思想」の肝は、5元素がそれぞれに干渉し合い、その関係性が3すくみどころか5すくみ状態である点にある。5元素である「木・火・土・金・水」それぞれの間に、「相生(そうしょう)」「相剋(そうこく)」「比和(ひわ)」「相侮(そうぶ)」「相乗(そうじょう)」という5種類の関係性が存在する。

相生とは、順送りに相手を育てる関係性のことで、木生火などと書き、「木は燃えることで火を大きくする」といったことを意味する。ほかには火生土、土生金、金生水、水生木がある。

相剋とは、順送りに相手を滅していく関係性のことで、木剋土などと書き、「木は成長の過程で土中の養分を吸い上げ、土地を痩せさせる」といったことである。順番に土剋水、水剋火、火剋金、金剋木がある。

比和とは、同じ元素が重なることである。重複することで、その元素の持つ気は盛んになる。

相侮とは、相剋関係の逆、すなわち返り討ちに遭ってしまう関係性のことである。木虚土侮は木が弱すぎて土に負けてしまうことで、土侮木は土が強すぎて木を負かすことである。同じように土虚水侮・水侮土、水虚火侮・火侮水、火虚金侮・金侮火、金虚木侮・木侮金がある。

相乗とは、相剋が過剰になって、相手を冒し尽くしてしまう関係性のことである。木乗土は木が強すぎて土が痩せすぎて不足する状態、土虚木乗は土が弱すぎて相対的に木を強くしすぎることを指す。ほかには、土乗水・水虚土乗、水乗火・火虚水乗、火乗金・金虚火乗、金乗木・木虚金乗がある。

この5つの関係性において、「相生」と「相剋」は純粋に5元素間の相性の良しあしなのに対し、比和、相侮、相乗は相性の良しあしにプラスして各々の強弱、つまり「陰」「陽」が関わってくる。これは「五行思想」が創始した時点で、既に「陰陽思想」が確立し一般的になっていたからである。

つまり「五行思想」は「陰陽思想」とは切っても切れない関係の中で形作られたものなのである。

五行の相生と相剋を表した図。自然界はバランスよく循環しているのが最良と考えられた五行の相生と相剋を表した図。自然界はバランスよく循環しているのが最良と考えられた

2023年「癸卯」は無理をしすぎずほどほどに。立春に願掛けも

さてここまで2023年の干支「癸卯」が指し示していることを読み解いてきた。

「癸卯」は停滞した世の中に希望が芽吹き、花開く助走の年である。これまで積み重ねてきた自身の力が試される年でもあるため、最後まで諦めずに希望を持ち続けることが道を開く鍵になる。

ただし、やりすぎは禁物だ。「癸」と「卯」の関係は、「水生木」であるから、適度な水は木を育むが、水のやりすぎは根腐れを起こす。「癸卯」の年は無理をしすぎず、頑張りすぎず、ほどほどであることが肝心だ。今まで尽くしてきた人事を信じ、おおらかな気持ちで天命を待つのも大切だろう。

ここで一点、注意をしておきたいのが、「陰陽五行思想」では1年は立春から始まり、節分で終わるということである。つまり2023年の干支「癸卯」は立春の2月4日からスタートする。

「一年の計は元旦にあり」とはよく言われるが、「陰陽五行思想」では元旦はまだ旧年中である。2023年の萌芽をより大きなものにするために、立春の日にも新しい年が始まる願掛けをしてみるのはいかがだろう。

干支をはじめとして、「陰陽五行思想」や風水、易経などの自然哲学の試みは、人の営みを豊かにすることを目的としている。時には、季節の巡りや星の瞬き、月の満ち欠け、咲く花、旬の食材などを暮らしの中で意識してみる、そんなゆとりが幸せを運んできてくれることだろう。

「癸卯」は「寒気が緩み、萌芽を促す年」である。皆さまに希望が芽吹く春が訪れることを祈りたい。

吉野ヶ里歴史公園内の復元施設。当時の政は鬼道と呼ばれるシャーマニズムによって行われていた。立春の頃に1年の作物の吉凶を占う大事な儀式があったのではないだろうか吉野ヶ里歴史公園内の復元施設。当時の政は鬼道と呼ばれるシャーマニズムによって行われていた。立春の頃に1年の作物の吉凶を占う大事な儀式があったのではないだろうか

公開日: