吉祥寺は賃料が高すぎる!

「スモールノジッケン」は2020年9月吉祥寺にオープンした、小さな店舗群、シェアキッチン、カフェ、ファブルームなどが混在する100坪(約330m2)のスペース。プロジェクトの発起人は、吉祥寺の名所であるハモニカ横丁を再生した株式会社ビデオインフォメーションセンターの代表・手塚一郎氏だ。

今では人気のスポットであるハモニカ横丁にも高齢化が進み、空き店舗が出始めていた時期があった。そこに1990年代後半以降、飲食店を次々に開店して横丁を変えてきた手塚氏は、吉祥寺の家賃高騰に危機感を覚えていた。ハモニカ横丁の場合、1坪、2坪(1坪は3.3m2。以下同)の店舗が10万円、20万円、あるいはそれ以上の賃料ということもある。これでは個人店はやっていけないし、若い人たちが挑戦するのも無理。どうにかして打破できないか。その思いに賛同し、プロジェクトマネージャーに手を挙げたのは、同じく吉祥寺を拠点とする株式会社Studio Tokyo Westの代表・瀬川翠氏だ。

瀬川翠氏が運営するシェアハウス「アンモナイツ」を武蔵境から吉祥寺に移転したのは2016年の秋。その様子は以前、記事で紹介したが、それから4年が経ち、シェアハウスのメンバーの中には結婚などでライフステージが変わった人も。

「結婚してもシェアハウスに住み続けたいという声を受けて、2018年に新たに親子で暮らせる3つ目のシェアハウスを立ち上げました。それで、暮らす場所の近くで働く場所もみんなでシェアしたいね、吉祥寺で借りようか、という話になって。ただ、そうやって吉祥寺で新しいことを始めるとき、いつも直面するのは家賃の高さ。ある程度のスペースを確保しようとすると驚くほど高額になってしまいます」

入り口を入ったところ。右手にキッチン、真ん中はカフェスペース、そして謎の間仕切り、天井には多数のシャンデリア。謎だ入り口を入ったところ。右手にキッチン、真ん中はカフェスペース、そして謎の間仕切り、天井には多数のシャンデリア。謎だ

雑多なモノが並ぶ不思議な店内

瀬川氏は吉祥寺のクリエイターたちを中心に「吉祥寺 de WEDDING」という事業も立ち上げている。住んでいる大好きなまち、吉祥寺には若い人たちに選ばれる結婚式場がなく、そのために都心で結婚式を挙げることになる。そこに可能性を見出した。

「結婚式場がなくてもまちを舞台にすれば結婚式はできます。それに吉祥寺には結婚式を彩るヘアメイク、ドレス、花、カード、写真撮影などができるクリエイターが多く活動しています。であれば、まちを舞台に、まちのクリエイターがつくる地産地消のウェディングをプロデュースできないか。そんな思いで2017年に立ち上げ、結婚式やパーティーを年間数件、まちなかでの撮影は年間20件ほど手掛けています。この事業を通して多くの若手クリエイターたちと出会い、発信の拠点が必要だとより強く感じるようになりました。そんななかで手塚さんの若者への思いを知って、是非一緒にやらせてください、と」

こうして、「スモールノジッケン」構想がスタートすることとなった。手塚氏が思いついたのは、自社で使っていたビルのワンフロアを挑戦の場に作り替えるということ。吉祥寺駅から歩いて6分、築年不詳の古いビルの2階に手塚氏はオフィス、倉庫、雑貨店を構えていた。1フロア100坪のなかに若い人たちがチャレンジできる小さなブースをたくさん用意し、安く貸す仕組みだ。

そこで生まれた空間は実にカオス。知らないで入ってきた人はここは一体、何の店だろうと思うはずだ。入口から見ると中央にはカフェスペースらしい空間があり、左手にはキッチン。それ以外には古いスキー板やレジスターその他雑多なモノが大量にあり、天井には大量の照明器具。ワインが売られている場所もある。

手塚氏と瀬川氏が単なる知り合いから一緒にビジネスを始めるきっかけになった吉祥寺 de WEDDINGの写真手塚氏と瀬川氏が単なる知り合いから一緒にビジネスを始めるきっかけになった吉祥寺 de WEDDINGの写真

廃棄物を利用した間仕切りは隈研吾ゼミデザイン

そして、その合間に白やオレンジの仕切りらしきもの。しかも、その仕切りも四角く空間を区切るのではなく、うねうねと曲がりくねっており、モノはその間にはみ出しまくっている。小さな空間にさまざまなモノを置く商売といえばレンタルボックスがあるが、あれが決められた場所にきちんと商品が収まることをよしとしていることに比べれば自由過ぎる空間なのである。

デザインは今、日本でもっとも知られた建築家である隈研吾ゼミの学生によるもの。隈氏は手塚氏が三鷹に開いたハモニカ横丁ミタカのデザインも手掛けており、どちらも他の作品とは一味違う、奔放というかアバンギャルドな雰囲気がある。他の作品には申し訳ないが、作る本人たちが楽しんでいるようにも感じられる。

あちこちに建てられた柱に巻き付き、空間を緩やかに仕切っているモノの正体は元発泡スチロール。発泡スチロールは廃棄する際に量を減らすため、固めるそうで、それを利用したという。触ってみるとがちがちに固く、でも軽いのだとか。場所によって白、オレンジ、緑と色が違うのは元の発泡スチロールの色が違うため。廃棄物を使えるモノにという動きをアップサイクルというが、そこで生まれた素材で建築家とモノ作りをしている株式会社ナカダイと組んで生まれたものだという。店内のあちこちには、いつか使い道が発見されるかもしれないという同社の品も置かれており、不思議な空間作りに一役買っている。

ブースは24あり、その他に常設のカフェスモールとシェア可能なキッチン、パンや菓子づくりに最適な「パン小屋」があり、人気とか。キッチンは別にすると、モノははみ出しまくっており、どこからどこまで誰の店なのかが分からない場所もある。交わり合い、重なりあうとでも言えばいいだろうか、横丁っぽいのである。

間仕切りの色は使われている発泡スチロールの色そのまま。柱を立てて絡ませて作られている。触ってみると固いが、軽いモノらしい間仕切りの色は使われている発泡スチロールの色そのまま。柱を立てて絡ませて作られている。触ってみると固いが、軽いモノらしい

はみ出し歓迎という意図

「スモールノジッケン」では、はみ出してくれる人を歓迎しているという。

「混ざり合うこと、はみ出すことを積極的に楽しもう、という思想です。うちのシェアハウスもそうですが、決め事を作り過ぎると窮屈になるので、可能な限りノールールがいい。だからこそ、どんな方が入ってくれるかはとても大事です。入居希望者の方からは素直な気持ちやチャレンジへの思いを丁寧に聞きたいと思っています」と瀬川氏。

ブースはオフィス、店舗として利用されているが、出店者は現場にいても、いなくてもよいことになっている。常駐するとなると人件費がかかるからで、そのためにキッチンのうちのひとつを利用してカフェを開き、そこが全体のレジを兼ねる形になっている。だが、時にそこに人がいないこともある。その場合には手の空いている誰かが役割を担うことになっており、現状、それがうまく行っている。取材の日にはレジの担当者は休みだったのだが、来客と見てとった手塚氏のオフィスの人がすっとコーヒーを出してくれた。

ルールがない中で全体の様子を見ながら自然に互いにサポートしあえる人たちが集まっているわけで、言われたことだけしかできない、したくない人が少なくない世の中で、これはすごいことである。そして、そういう人たちが集まっていれば、そこには互いに触発されて新しいものが生まれる可能性もある。

「一人ではできないことにみんなでチャレンジできる、入居者同士が新しい仕事を創発する場所になればよいと思っています。そのためにレーザーカッターや木工、溶接器具などモノを作る機材を揃えたファブスペースや、入居者の定期的な交流会もあり、業種を横断した協働も生まれつつあります」

瀬川氏の話を聞いて思ったのは、ここはシェアハウスの仕事バージョン的な空間なのだということ。共用部で違うジャンルの人が出会い、その場を利用して新しいビジネスを生み出す。一人ずつが利用するスペースは小さいが、実際には無限の可能性のある、広い空間というわけだ。

左上から時計回りに店内中央にあるカフェスモール、レジを兼ねたキッチン、レンタルキッチにパン小屋、そしてオフィス。それ以外に店舗が多数左上から時計回りに店内中央にあるカフェスモール、レジを兼ねたキッチン、レンタルキッチにパン小屋、そしてオフィス。それ以外に店舗が多数

「センスよく散らかす」を見るだけでもぜひ

最後に少し実用的なことを。ブースの利用は3ヶ月からとなっており、利用料金は1万5,000円/月額から。やりながらゆるゆると募集してきたというが、徐々に利用が始まっている。すでにファンのいる店舗の出店も多く、駅からは距離があるにもかかわらず、SNSで告知が行われた日には平日でも多くの人が集まってくるとか。

ちなみにどんな店、オフィスがあるかを列挙すると、シルバーアクセサリー、自転車、アロマに学習塾の先生が開いている絵本の店、グラフィックデザイナーが副業でやっているアパレルショップ、カメラマンがスタイリングで使ったファッションを置いている店、ウェディング小物にウェディングプランナーのオフィス、地元吉祥寺のフリーぺーパーのオフィス、電気屋さんなどなど。実にさまざまで入居する人は広さよりも隣にどんな店があるのかを気にするという。まちで店舗を選ぶ時のようである。また、ショップオーナーがOKなら既存店の中に友人が他の店を開くことも可である。

レンタルキッチンは2ヶ所あり、1ヶ所はパン、製菓専用でパン小屋と呼ばれており、1日4,000円。もうひとつのキッチンは平日が1日1万円、土日祝が1万2,000円。マルシェなどの出店のために仕込みを行うこともできれば、ここを借りて一日カフェ的なイベントをすることもできる。

とはいえ、まだまだ、使える場はある。どうせなら、もっといろんな人に入ってほしいと瀬川氏。出店してみたいと思う人はもちろん、吉祥寺のこれからが気になる人ならぜひ。瀬川氏の言う「きれいにするよりも、センスよく散らかすには才能がいる」という空間を見るだけでも足を運ぶ価値ありだ。



スモール ノ ジッケン
http://hamoyoko.jp/menu/kichijoji_grandkiosque_goods/

シェアハウス アンモナイツ
https://www.ammonite-s.com/

吉祥寺 de WEDDING
https://www.kichijoji-de-wedding.com/

左上から時計周りにカフェスモールのカウンターには書籍やチラシが置かれ、カレーも売られている、シャンデリアはもちろん売り物、衣類、アクセサリーのほか、これから用途を発見されるであろう品も多数左上から時計周りにカフェスモールのカウンターには書籍やチラシが置かれ、カレーも売られている、シャンデリアはもちろん売り物、衣類、アクセサリーのほか、これから用途を発見されるであろう品も多数

2021年 01月13日 11時00分