新たなモビリティで私たちの生活はどう変わるのか

人類はより速く・より遠くに・より便利に移動する手段(モビリティ)を求め実現し続けてきた。時代ごとに新たなモビリティが登場することで、私たちの社会や暮らしも大きな影響を受け変化してきた。
古くは1800年代に鉄道が世界中で普及し、産業革命の原動力にもなった。1900年代には自動車の普及により、それまで街を走っていた馬車はいなくなってしまった。さらにモータリゼーションの進展を背景に、鉄道以外に街と街を結ぶための高速道路の整備も行われた。1900年代後半には旅客機が一般化、海外旅行が大衆化したことで世界が身近なものとなり、観光業も大きく進展した。

そして、現在もモビリティはさらなる進化を続けている。近い将来には、ロボットが街を走ったり、あるいは車が空を飛んだりするというSF映画で見たような光景が現実になるかもしれない。
近年みるドローンや電動キックボード、自動配送ロボットなど、ハードの開発に伴って新たな制度や規約も必要となるだろう。こうした新たなモビリティをめぐる制度検討状況はどうなっているのだろうか? 制度検討の状況と今後の動きをみてみる。

新たなモビリティをめぐる制度検討状況

国土交通省は従来想定していなかった新たなモビリティの具体例として、電動キックボード、自動配送ロボット、搭乗型移動支援ロボット、農業用ロボット等を挙げている。
これらの新たなモビリティの車体の安全確保のために必要となる技術基準等の検討を行うため、国土交通省により車両安全対策検討会の下に「新たなモビリティ安全対策ワーキンググループ」が設置された。ワーキンググループの構成メンバーは、大学教授や、業界団体、ジャーナリスト等の名前が連なる。

新たなモビリティ安全対策ワーキンググループは、第1回は2021年10月13日、第2回は2021年12月2日、第3回は2022年2月28日に実施された。ワーキンググループでのディスカッションをふまえて制度と保安基準の骨子案を作成し2022年3月の車両安全対策検討会での報告を予定しているという。検討会の内容は国土交通省のサイト(https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk7_000005.html)に記載される。

出典:国土交通省 新たなモビリティについて
https://www.mlit.go.jp/common/001352346.pdf出典:国土交通省 新たなモビリティについて https://www.mlit.go.jp/common/001352346.pdf

電動キックボードの制度検討状況

では、具体的に電動キックボードをめぐる制度検討状況をみていこう。

電動キックボードは、道路交通法においては原動機付自転車(原付バイク)に分類される。そのため、運転免許証所持、ヘルメット着用、車道のみの走行など原動機付き自転車を運転する際と同じ義務が生じている。

出典:国土交通省 新たなモビリティについて
https://www.mlit.go.jp/common/001352346.pdf出典:国土交通省 新たなモビリティについて https://www.mlit.go.jp/common/001352346.pdf

2021年12月に警察庁が発表した「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会報告書概要」(https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/saisyugaiyou.pdf)では、電動キックボードの新たな交通ルールは以下のように検討されている。
・「小型低速車」という新たなカテゴリーを定める
・最高速度15~20km/h以下の場合は車道に加えて自転車レーン等の走行も可能
・一定の年齢制限を設けることで運転免許を不要とする
・ヘルメット着用に法的義務は課さない

今後の検討事項として、運転免許を不要とするが、基本的な交通ルールに関する理解を担保するため、シェアリング事業者・販売事業者による利用者に対する交通安全教育の実施を求めるとしている。

2021年には上記の新たな交通ルールをほぼ適用した形で実証実験が行われた。(株)EXx・(株)mobby ride・(株)Luup・長谷川工業(株)の4社が「事業特例制度」を用いた電動キックボードの公道での実証実験に認定され、各社シェアリングサービスを実施。街を歩いていてこれらの会社が提供する電動キックボードを目にしたことがある人もいるのではないだろうか。

自動配送ロボットの制度検討状況

次に自動配送ロボットをめぐる制度検討状況をみてみる。

既に欧米などの海外では公道を走行して自動配送ロボットが配送している例があるが、日本ではまだ認められておらず、大学構内等での実証実験を実施している段階だ。

出典:国土交通省 新たなモビリティについて
https://www.mlit.go.jp/common/001352346.pdf出典:国土交通省 新たなモビリティについて https://www.mlit.go.jp/common/001352346.pdf

警視庁による「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会報告書概要」では、自動配送ロボットの新たな交通ルールは以下のように検討されている。
・最高速度は6km/h
・大きさは電動車椅子相当
・通行場所は歩行者と同じ
・信号や横断歩道など歩行者相当の交通ルールに従う

今後の検討事項としては、走行させる主体を行政機関が把握するための制度の新設、車体の安全性の確保については産業界の自主的な取組みに期待したいとしている。

搭乗型移動支援ロボットの制度検討状況

セグウェイなどの搭乗型移動支援ロボットの制度検討状況もみてみたい。
搭乗型移動支援ロボットについては、日本の交通ルールでは公道を走行することはできない。公道走行が可能なのは実証実験として認可された特定エリアのみとなっている。
公道での実証実験は2011年より茨城県つくば市や愛知県豊田市をはじめ、千葉県柏市、東京都世田谷区など全国各都市で行われてきた。

警察庁による「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会報告書概要」では、モビリティを最高速度に応じて3つに分けて新しい交通ルールを適用することが検討されている。搭乗型移動支援ロボットは電動キックボードと同様に、最高速度が15~20km/h以下の普通自転車相当の大きさのものは自転車レーン等を走行可能になる小型低速車の分類となる予定だ。

近年みるドローンや電動キックボード、自動配送ロボットなど、ハードの開発に伴って新たな制度や規約も必要となる。こうした新たなモビリティをめぐる制度検討状況はどうなっているのだろうか? 制度検討の状況と今後の動きをみてみる。出展:多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会における検討状況 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001444447.pdf

新たなモビリティをめぐる今後の動き

上述したもの以外にも、新たなモビリティは今も開発や制度検討が進められている。2021年6月18日に内閣官房が発表した「成長戦略実行計画」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/ap2021.pdf)30P「ドローン等の制度整備」の項目内には、2022年度中にドローンの有人地帯での目視外飛行を可能とするために制度設計を進めると記載がある。この制度が実装されればドローンが街の上空を飛び交い、配達などのサービスを行うようになるはずだ。

さらに、同項目内では空飛ぶクルマについても言及されており、2023年の事業開始に向けて制度整備を進めると記載されている。空飛ぶクルマはドローンを大きくして乗車可能にしたような作りで、既に有人飛行での公開試験も成功している。
どうやらSF映画で見たような光景がもうすぐ実現されそうだ。

本記事で取り上げた新たなモビリティについては、今後数年間で急速に普及する可能性があり目が離せない状況が続くだろう。かつての鉄道や自動車や旅客機のように我々の生活を大きく変えてくれることを期待しながら、新たなモビリティをめぐる動きを追っていきたい。

本記事は2022年2月末時点での情報を基に作成しております。

公開日: