前々年に比べて2倍にも増えた騒音問題

コロナ禍で騒音に関する苦情が増えているコロナ禍で騒音に関する苦情が増えている

賃貸では暮らし始めてからも不動産会社とお付き合いするケースは多々想定される。そんなときに気持ちよく対処してもらい、楽しい暮らしを送るためには、不動産会社の仕事や役割、どんなことをしてもらえるのかなどを知っておくと何かと便利。これはさまざまなトラブルに対処してきた不動産会社の裏話に耳を傾け、よりよい暮らしのためのノウハウを学ぶ連載の13回目。今回はコロナ禍で激増した集合住宅の騒音問題について。今住んでいる人も、これから探す人も必見である。

「コロナ禍でこの2年、管理会社への苦情が増えています。そのなかでも目立つのが騒音問題。2021年3月~9月の苦情件数は前年比で約1.3倍、前々年比では約2倍になっており、音問題で悩んでいる人が多くなっていることが分かります」とハウスメイトの伊部尚子さん。

それ以外でもゴミ問題が約1.6倍(前々年比。以下同じ)、私物放置、宅配ボックス問題がそれぞれ約1.5倍、迷惑駐車・迷惑駐輪が約1.2倍となっており、減ったのは鍵関連のみ。鍵関連に関しては前々年比で0.5倍、つまり半減しているが、これは外出しなくなったため、鍵を紛失することもなくなったというのが理由と思われる。

コロナ禍で騒音に関する苦情が増えているお問合せ傾向 ハウスメイト調べ

騒音問題は、これまで以上の時間を家で過ごすことになったがための苦情が大半。典型的な例は昼間会社に行っていた人が自宅で仕事をするようになって周囲の音が気になり、それが苦情になっているというもの。

「小学校が再開されてからは減りましたが、一時期非常に多かった苦情が、社会人からの子どもの声がうるさいというもの。学校に行けなくなり、外で遊ばなくなり、子どもたちは体力があり余っていたのでしょう、駐車場でボール遊びをしている音がうるさい、部屋の中で駆け回っていてうるさいなどなど。また、赤ん坊の声がうるさいなどの苦情もありましたが、小学校低学年以下の子ども、赤ん坊などをおとなしくさせておくのは難しい話です」

コロナ禍で騒音に関する苦情が増えているお問合せ傾向 ハウスメイト調べ

オンラインが騒音源になっていることも

オンライン飲み会の音が響くという苦情も増えている(画像はイメージ)オンライン飲み会の音が響くという苦情も増えている(画像はイメージ)

コロナ禍での生活の変化によって生じた騒音もある。

「オンライン飲み会がうるさいという苦情も多くありました。家で飲んでいるから帰る必要がないし、明日も出勤しなくていい。それに普段人と話す機会が少なくなっているので、オンラインでも飲み会となると盛り上がる。その結果、深夜、明け方まで飲んで騒いでうるさいと周囲から文句を言われることに。

また、運動不足を補おうとオンラインエクササイズや体を動かすゲームに熱中、周りから文句を言われるケースもよく聞きます。オンライン飲み会同様、夜遅くまでゲームやテレビなどに熱中し、それがうるさいという苦情も少なくありません」
コロナ禍で増えたと思われるもの以外にも音に関する苦情は多く、そもそもここ数年、騒音問題が増えて当然と思われる変化が起きていたと伊部氏。それはライフスタイル、住宅の多様化、高齢化などである。

「かつては社宅のように1棟内に同じ年代、家族構成、似た仕事をしている人が住んでいることが多かったのですが、今は同じ間取りにさまざまな人が住む時代。3LDKのような、昔だったら子どものいるファミリーが居住していた部屋に学生が3人で住んだり、同棲カップルが住んだり、高齢者が一人で住んだりしています。逆にワンルームでルームシェア、同棲カップルや母子が住むことなども。

また、いわゆる9時5時で勤務する以外の働き方をする人が増え、同じ社会人でも仕事の内容によって生活時間が異なるのは当たり前になっています。そのため、夜勤明けで寝ているのに隣がうるさい、夜中に帰って来る隣人がうるさいと揉めることになります」

ファミリー向けの間取りなら子どものいる家族が住んでいるだろう、それなら子どもが多少うるさくしてもお互いさま、トラブルにはなりにくいだろうと思っても、今はそこに静かな生活を望む高齢者が1人で住んでいることもあり得るのだ。

高齢化は2つの方向に働く。ひとつは耳が遠くなることでテレビの音が大きくなったり、本人の声も大きくなったりというもの。もうひとつは早く寝るようになり、静かに暮らしていることで周囲の音が以前より大きく感じるようになるというもの。本人は気づいていないことが多いのが特徴だ。

まずは管理会社を味方につける

まずは管理会社に相談をまずは管理会社に相談を

では、騒音に悩まされるようになったらどう対処すべきだろう。絶対にやってはいけないのは直接クレームを言うことだ。ポストに匿名の手紙を投函したり、玄関に張り紙を貼ったり、隣戸の壁をどんどん叩いて不満を伝えたりしてもいけない。本当に投函した部屋の人が騒音源かどうかは分からないし、壁を叩いたことで逆恨みされるなど感情的にこじれると、ただでさえ難しい解決がさらに難しくなるからだ。

それよりまずやることは管理会社に相談、味方になってもらうようにすることだ。うるさくて我慢できないと管理会社に文句を言いたくなる気持ちは分かるが、それを言う相手は管理会社ではない。うるさくしているのは管理会社ではないのだ。

相談する際にはいつ、何時くらいにどのような音がするのかを冷静に記録、それを伝えること。可能ならスマホなどで録音、録画してみてもいい。いくらうるさいと伝えても、管理会社はその場におらず、すぐに来てくださいと言ってもそれは無理。だとしたら自分で客観的な材料を用意しよう。


騒音問題が難しいのは音の感じ方は人それぞれであること。そのため、管理会社としては「隣の人がうるさい」という苦情に対し、本当に隣人がうるさいのか、苦情を言ってきている人が神経質なのかの判断がつかない。一般にはうるさい人が悪いように思うが、うるさいと言い続けて何人もの隣人を追い出してしまう神経質な人もいる。そんな状況を知っていれば客観的な証拠を用意する意味がご理解いただけるだろう。

騒音問題に管理会社がやってくれること

チラシの投函や張り紙の掲示など管理会社が何かしらの対応をしてくれることもチラシの投函や張り紙の掲示など管理会社が何かしらの対応をしてくれることも

相談を受けた管理会社がまずやるのは騒音を注意するチラシの配布。それで収まる場合もあるが、当の本人は自分のことだと思わず、関係のない人が気にすることもあるそうだ。

その次の手は、すべての管理会社がやっているわけではないが、入居者への電話だ。「皆さんにお伺いしています」と言いながら、相談者の部屋の周辺の部屋の住民あるいは相談内容から怪しいと思われる人たちに電話、状況を聞く。具体的には「夜中11時過ぎにゲームの音がうるさいと言う入居者がいらっしゃるのですが、あなたも何か、聞いていらっしゃいますか?」などと質問、どこから音がしているかを調べるのである。もちろん、苦情を言っている人の名前は出さない。

チラシより効果は高いので、管理会社がチラシ配布しかしてくれない場合には入居者のほうから「周辺の部屋の方々に音が聞こえないか、聞いてもらえませんか」と要望してみるのも手かもしれない。ちなみに神経質でたびたびクレームを言っている人に対しては、周辺の人は「何も聞こえませんとおっしゃっていますよ」と伝えることでクレームが収まることもあるそうだ。
だが、注意を繰り返してもなかなか改善しないこともある。

「建物全体でピアノ演奏は夜9時まで、洗濯機は夜10時までになどとルールを定められるならいいのですが、多くの騒音問題は程度の問題。大きな声でしゃべらないようにといっても、大きな声がどのくらいかは人によって違います。そのため、騒音問題ではうるさい部屋の人が、周りを追い出す形になることが少なくありません。我慢できなくなって退去されてしまう。非常に残念なのですが、手の打ちようがありません」

また、そもそも相談しても何もしてもらえないケースもある。投資用物件などで、管理が各戸バラバラの虫食い状態になっている場合だ。

「1棟を丸ごと同じ管理会社が管理している場合には全入居者に聞き込みをしたり、注意を呼び掛ける張り紙を掲出したりすることができますが、各戸ごとに管理会社が違っている場合、全体に対しての呼びかけは難しい話。これは音の問題だけでなく、水漏れその他のトラブルでも同様です」

水漏れが起きた場合、すぐに上階居住者に連絡、水を止める、その後に保険を使って修復をするなどの手配が必要だが、管理会社が異なる場合、そもそも上階居住者の連絡先が分からず、水を止めることすらできない。そう考えると、騒音問題も含め、居住中のトラブルを心配するなら管理の状態を知ることは非常に重要なのである。

建物をよく知っている会社から借りよう

自分がうるさいと言われてしまうケースもあるだろう。心当たりがあるなら生活に注意を払い、騒音と言われないようにすればいいが、不当と思うこともあるかもしれない。その場合も大事なのは相手がうるさいときと同様、管理会社を味方につけること。

「何の音が何時頃にうるさいと言われているのか、どの行動が原因なのかを管理会社に質問し、それに対しての対策したことを報告するのが有効です。『椅子の脚にカバーを付けてみました。また、何かあったら言ってください』。そんな形できちんと対処していることを伝えておけば、どちらの言葉が正しいか、おのずと分かってくるはずです」

最後に騒音に悩まされない物件の探し方をご紹介したい。いくつかある。ひとつは不動産会社に質問すること。といっても無音を求めているような質問をしては逆効果。神経質な、文句を言いそうな人と誤解されてしまう懸念があるからだ。それよりはリスクを減らしたいと伝えよう。

個人情報保護法の観点から「隣はどんな人ですか?」といった種類の質問はしても答えてもらえないし、現在のお隣さんが静かな人でも入れ替われば状況は変わる。そのため、人の問題としてではなく、建物の問題として聞いてみるのが現実的。

「この建物では過去に騒音が問題になったことはありますか? といった聞き方がよいと思います。また、それを聞いて答えられる会社から借りるのも大事です」

内見時に確認しておきたい内見時に確認しておきたい

隣の部屋の間取りも確認、音の聞こえにくさを推察する

不動産会社への質問に加えて大事なのは、騒音に悩まされない可能性の高い建物、部屋を選ぶこと。音には空気で伝わる空気伝搬音、振動で物体から伝わる固定伝播音の2種類があり、前者は「重さ」で防ぐことができる。コンサートホールの扉が厚く、重いのは音を遮断するためなのである。それを考えると軽い木造が比較的音が聞こえやすく、重いRC造(鉄筋コンクリート造)が聞こえにくいといわれるのは納得である。だが、空気伝播音以外もあることを考えるとRC造であれば音が聞こえないというわけではない。

また、古い建物ほど音が聞こえる可能性がある。古い住宅では給排水管の遮音がしていなかったり、ドアがゆっくり閉まるドアストッパーがなかったりするなど、今の住宅に比べると配慮が少ないケースがあるからだ。

建物の中での部屋の位置もポイント。エレベーターや受水槽、ポンプ、階段などの近くだと、それらの音で悩まされることもある。これも古い物件ほど音が出やすい傾向があるので築年と合わせてみておきたい。

最も音に悩まされにくいと言われるのは上階のない最上階で隣戸の少ない角部屋。同じ建物内では賃料が最も高くなることが多いが、試してみる価値はある。また、建物がL字形になっているなどで建物全体としては角ではなくても隣戸の少ない住戸もある。1フロア1戸という建物を選ぶ手もある。

1フロアに3戸、階段を挟んで1戸と2戸が配されている平面図。2戸の間には水回りが配されおり、部屋が直接接していない1フロアに3戸、階段を挟んで1戸と2戸が配されている平面図。2戸の間には水回りが配されおり、部屋が直接接していない

最上階角部屋以外で音に悩まされにくい部屋を選びたいと考えるのであれば、自分の住戸だけなく、両隣の間取りも分かる平面図をチェックしたい。多くの人は自分の部屋の間取り図だけを見て満足してしまうが、音は自分の部屋の外から来る。であれば、周囲の部屋との関係が大事なのである。

特に見ておきたいのは寝室など音が気になる部屋。寝室同士が壁一枚で接しているより、それぞれの間に収納がある、水回りがある物件なら、より音は聞こえにくくなる。隣戸との間に何があるか、どこが接しているかなどを考えながら平面図を見よう。

ちなみに音問題が気になり始めるのは、今まで空いていた部屋に新たな入居者が引越しをしてきたなど、建物内に変化があった時が多いという。それは変化が騒音として認識されてしまうためで、少しすれば慣れることもある。逆に新たに入ってきた人がルールを知らないという可能性もある。もし、今、音が気になり始めており、建物内にそうした変化が起きているなら、少し様子を見てみる、記録をつけてみるのが有効。あまり神経質になり過ぎないようにすることも大事である。

1フロアに3戸、階段を挟んで1戸と2戸が配されている平面図。2戸の間には水回りが配されおり、部屋が直接接していないトラブルになる前に、防音用にマットを敷くなどの対策も検討したい

公開日: