年間6万円でマイキャンプ場が手に入る!
岐阜県加茂郡東白川村。人口2,000人ほどの小さな村で画期的なサービスが誕生した。その名も森林レンタルサービス「forenta(フォレンタ)」。約300坪の森林を年間6万円で借りられる、キャンパー垂涎のシステムだ。山の遊休地を有効活用するために生まれたアイデアだが、運用開始から応募が殺到しているという。
2020年11月に第1期の募集がスタート。17区画の募集に対して、440件もの応募が殺到したというから、その注目度の高さは目を見張るものがある。
予約なしでいつでも好きなときにキャンプができて、もちろん焚火もできるし、胸の高さで直径がおおむね15cm以下の樹木であれば伐採も可能、キノコや果実の採取もOK。利用期間の1年間はテントも張ったままで帰っても問題ない。1区画が広いため、隣のエリアの音などもさほど気にならない。これはキャンプ好きな人にとってはたまらなくうれしいシステムだ。
小屋を建てるなど長期的キャンププランが実行できる
「forenta」で貸し出すエリアは標高750mほどの場所。比較的平坦で、付近まで車の乗り入れが可能な土地が選ばれている。とはいえ、区画内はほぼ自然のまま。森を自分たちで切り開くワイルドキャンプを楽しみたい人には持ってこいの場所だ。
倍率25倍! 想定以上の反響に驚き
「forenta」を発案したのは、株式会社山共の代表取締役社長・田口房国さん。
「初めてのサービスなので、第1期の募集は50組くらい応募があればありがたいなぁ、という感覚でいたのですが、募集を開始したら1週間で100件も応募がきてびっくりしました」
想定以上の反響に、急遽エントリー期間を短縮したものの、冒頭で書いたように440件の応募が寄せられた。取材時の2021年8月時点では第3期のエントリーが終了し、全57区画すべてが埋まっている状態だという。
東白川村で製材業を営む田口さん。森林をレンタルするというアイデアは2020年の8月ごろから考え始めていたのだとか。
「仲間と飲んでいたとき、山を買う人が増えているという話題になったんです。山自体はそんなに値段が高いわけでもないから、買おうと思えば買える。だけど買った後の管理とかどうするの?と不安になりました。キャンプがしたくて買ったけど、自分が飽きてしまったら、その後山はどうなるのかなぁと。数年後、飽きて放置される山が増えるだけになってしまったら、山側の人間としては困り事を抱えることになってしまいます。
山を買う、山を所有するということには責任が伴うんですね。個人の資産であると同時に社会的な資産として捉えて管理していかなきゃいけない。そういうことを考えると、買うより借りたほうが楽じゃない?と思ったわけです」
山を購入するとなれば、登記などの手続きや固定資産税、森林組合費や伐採など敷地の管理も、もれなく付いてくる。「forenta」の場合は、レンタルなのでそれらは一切不要。1年間の契約期間後も1年単位で継続して借りることが可能だ。
例えば、山を購入する前のお試しとして利用してみるのも有効なのではないだろうか。
森林を開放するだけでなく山の人たちの心の扉も開放する必要がある
「forenta」の理念は
「森林という資源、フィールドを一般の方々に開放する」
「山主、林業関係者、田舎に住む人の意識改革を促す」
「森林が経済の循環の中に取り込まれ、人の生活に取り込まれることでやがて文化として醸成されることを目指す」
という3つに集約される。
「これからの山村地域が生き残るためには、たくさんの人に来てもらう必要がある」と田口さんは言う。そのために、森林を開放するだけでなく「山の人たちの心の扉を開く必要がある」とも話していた。
「山の人たちって自分の山に知らない人が入ってくることに抵抗があるし、まちの人も登山ができるような山には入れるけど、誰の山かわからない所には入っちゃいけないという意識がありますよね。そこの垣根を低くして、この広大なフィールドを活用していかないと山村の未来はないと思うんですよね」。田口さんがこう考えるようになったきっかけは、数年前に視察で訪れたドイツでの体験によるもの。
「ドイツでは、週末になると家族や仲間たちと森に行くんです。森にはベンチとかテーブルが置かれていて、休憩したりバーベキューに使ったりと、みんな自由に利用しているんです。個よりも公益性が重視されるドイツならではの文化だとは思うのですが、日本の山ももっと自由にいろんな人に使ってもらうほうがいいと思うんですよね。
山に不慣れな人が訪れることで山火事や不法な伐採などリスクが増える可能性もあるけれど、森林が活用されなければ山村は生き残っていけない。まずは山に住む僕らが、森林活用のためのルールや仕組み作りをしていく必要があるんです」と田口さん。
「forenta」は、森林を一般の人たちに開放するだけでなく、山主や山村の人たちの意識改革を促すための一石でもあるのだ。
山に人が入るようになって想定外のメリットも生まれた
山側の具体的なメリットを田口さんに聞いた。
「林業はコンスタントに毎年収益を得られるという仕事ではないんです。木材の価格変動もあるし、木が育っていく間は収入になりません。長期的な事業計画に則って進めていくわけですが、今の状態のまま事業を継続していくのは大変です。
現実に、林業は高齢化や過疎化によってだいぶ衰退しています。だから、短期的な収入を得るためにも森林レンタルサービスは有効なんじゃないかなと思っています」
長期・短期で収入を得て、山の経済を回す。それで山の整備を進めることができればいい循環が生まれるということだ。
また、想定外のメリットも生まれているという。
田口さんも驚いているのが、「forenta」で人が入ってくるようになって、山がきれいになっていくこと。
「みんな自分の区画はきれいにしたいし、近くを流れる小川の水もきれいに使いたい。だから、ゴミも残さないしすごく丁寧に使ってくれているんだと思います。ワイルドキャンプに慣れている中上級者のキャンパーが多く、山でのマナーもわきまえている人が多いのかもしれませんね」
利用者のなかには、林道の一角のコンクリートが崩れかけた場所を自主的に修繕してくれる人もいたのだとか。
焚火の仕方、ゴミの処理、排せつの方法など、キャンプのマナー違反などが取り沙汰されることも多いが、マイキャンプ地とすることで自分の区画周辺もきれいにしておこうという意識が働くのかもしれない。
恵まれた森林資源を健全に維持していくために
国土の70%を森林が占める森林大国日本。国内の森林およそ2,500万ヘクタールのうち、約40%にあたる1,000万ヘクタールが人の手で植えられ育てられてきた人工林だ(※)。東白川村の森林も、そのほとんどが人工林だという。戦後の復興期から高度成長期に植えられた人工林だが、林業従事者の高齢化などにより、放置されている地域も多いと聞く。
「先人たちが守り育ててきた森林を、どうにかして活用したい」という、田口さんの想いがこもった「forenta」。今後は、フランチャイズ化を視野に入れているという。全国で流用されれば、森林の在り方やまちに暮らす人たちの意識も変化するかもしれない。
もちろん、森林レンタルという仕組みだけで林業にまつわる課題が解決するわけではないが、森林資源を健全に維持していくための1つの足掛かりとして期待が寄せられる。
価格はすべて税抜き表記
※2017年林野庁のデータによる
【取材協力】
forenta
https://www.forenta.net/
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