「ならわし」や「風水」から考える引越しの作法とは

引越しは期待半分不安半分、幸先が良いように「ならわし」を知って縁起担ぎをしておくのも良いだろう引越しは期待半分不安半分、幸先が良いように「ならわし」を知って縁起担ぎをしておくのも良いだろう

引越しには古くから日本各地にさまざまな「ならわし」が存在する。引越しには不安やトラブルがつきまといがちだ。これまで慣れ親しんだ土地や人々と離れる寂しさ、荷物の片付けや運搬の手間、さまざまな手続き、新しい土地での生活への不安も大きい。

そこで人々は不運を避け、新天地でもこれまで以上に幸運であるよう、さまざまな縁起担ぎを行なってきた。そしてそれが引越しの「ならわし」として定着していったのである。

例えば、引越し蕎麦、地域によりうどん、仏滅や赤口の日の引越しは避ける、荷物を運び出す際には味噌や醤油などから運ぶ、もしくは鏡から運ぶ、引越しの縁起物も存在する。

また引越しは「風水」とも縁が深い。「風水」は、現在の日本の風習に大きな影響を与えた中国の古代思想である「陰陽五行説」を礎にしたもので、もともとは良い住環境を得るための土地選びの学問である。

住環境は自然の摂理に左右され、近隣住民によっても変化させられる。そこで天災や人災から守ってくださいとご先祖様に祈願し、その加護を受けやすい土地を探すために生まれたのが「風水」というわけである。

そこで今回は、日本各地の引越しにまつわる「ならわし」や、住環境を整える英知が詰まった「風水」の両側面から、縁起の良い引越しの作法について考えてみよう。

今回、取り上げるのは以下の4つである。
(1)引越しに縁起の良い日、良くない日の意味と、その見極め方
(2)家族の幸せを願う、縁起の良い引越し荷物の運び方
(3)引越し先で幸運を呼ぶ「ならわし」や縁起物、引越し蕎麦の作法
(4)風水から見る、運気を上げる古いカーテンや家具の再利用法

心の奥底にある根源的な恐怖心から生まれた「ならわし」

江戸市民たちは近親者を埋葬する際、銭貨を一緒に埋めた。三途の川の渡し賃としてであるが、「オアシ(お金)」を持たせれば幽霊になって化けて出ないという洒落の意味もあった。日本の幽霊には足が無いとされていたからである江戸市民たちは近親者を埋葬する際、銭貨を一緒に埋めた。三途の川の渡し賃としてであるが、「オアシ(お金)」を持たせれば幽霊になって化けて出ないという洒落の意味もあった。日本の幽霊には足が無いとされていたからである

まずは「ならわし」の本質について考えてみよう。「ならわし」とは、世俗で一般に行われている風習のことを言う。

中には根拠がはっきりしないものや、何となく安心というふわっとしたものもあるが、その根底には万物に対する信仰心が流れていて、人知の及ばないさまざまな出来事に対し、ご先祖様や氏神様など神仏の加護があるようにとの願いがこめられている。

古くは為政者によって禁止しようと試みられた「ならわし」もある。例えば、明治時代に書かれた江戸幕府の法令や施策を評した「徳川禁令考」には、当時頻繁に行われていた埋葬時の銭貨の土中への埋捨てを禁じたが一向にやむ気配が無かったと記録されている。現代においても葬儀の時に死者の手向けとして、三途の川の渡し賃として、貨幣を棺桶に忍ばせる習慣が残っている地域が存在する。

それをしなければ永遠に成仏できないかもしれないと思えば、入れないなどという非道なことはできなかったであろう。日本の宗教感にある怨霊信仰に見られるように、良いことが起きるようにと願うより、悪いことが起きないようにと考える傾向が強い。

「ならわし」は、人の心の奥底にある根源的な恐怖心から生まれ、行われ続けているものであり、それを政治的に解決しようとしてもなかなか難しいというわけである。

不安やトラブルがつきまとう引越し、「ならわし」の効果

人生の転機にはさまざまな決断が迫られる。その大きなストレスにさらされたとき、人は神仏の前に立つのかもしれない人生の転機にはさまざまな決断が迫られる。その大きなストレスにさらされたとき、人は神仏の前に立つのかもしれない

引越しの「ならわし」が、はっきりと史料中に現れるのは江戸時代中期、引越し蕎麦に関するものである。江戸という町は、火事と喧嘩は江戸の華、宵越しの金は持たないなどと庶民に自嘲させるほど、火災や揉め事による引越しが日常に溢れていた。

いつ何時、火事によって、近隣との揉め事によって、引越しを迫られるかわからない。だからこそ新しく住む場所では何事も無く、末長く無事に暮らしたいという気持ちから生まれた「ならわし」である。

現代でも、引越しに関するさまざまな「ならわし」を気にする人は少なくない。
引越しの理由はさまざまだが、多いのは人生の転機、大きな決断をしたときであろう。10代では進学、20代では就職・結婚、30代では転勤・出産、40代では家購入、60代を超えると終の棲家を求めて転居をするケースもある。そしてこれらの年代は、古来より厄年とされた年齢と重なる。

引越しの理由の中には、住環境や人間関係など今の住居に何らかの問題があり改善をしたいといったものもある。悪環境から離れたい、新天地で幸せに暮らしたいという思いの中での引越しは期待と共に不安も大きいことだろう。

引越しそのものの負担もある。家1軒分の荷物を移動するのだから、荷物の片付けに掛かる手間はかなりのものだ。どこに何をしまったか分からなくなってしまったり、紛失や破損が起きたりする可能性もある。そして住所変更に伴うさまざまな手続き。

そんな人生の節目となる大切な時期に、精神面でも肉体面でも大きな負担となる引越しをするのだから、トラブルが起きないよう、運気を上げて幸先の良いスタートが切れるよう、縁起担ぎをしたくなるのは道理である。「ならわし」の効果とは、縁起を担ぐことによって不安をやわらげ、精神を安定させることにあるのである。

ちなみに厄年に引越しをしても大丈夫かという点についてだが、古来より引越しや井戸替え、隠居と商売変えは禁忌とされてきた。詳細は「厄年に新築、引っ越しをしても大丈夫?厄除け・厄祓い・厄落としの違いとは」でご紹介しているのご興味のある方はご覧いただければと思う。

引越しに縁起の良い日、良くない日の意味と見極め方、仏滅は整理整頓向き?

鎌倉時代には賭博は神事であったことが史料に残されている。人々は賭博に熱狂し、人生を掛けた勝負を行なった。勝つか負けるか、生きるか死ぬかの局面では縁起担ぎをしたくなるのが人情であろう鎌倉時代には賭博は神事であったことが史料に残されている。人々は賭博に熱狂し、人生を掛けた勝負を行なった。勝つか負けるか、生きるか死ぬかの局面では縁起担ぎをしたくなるのが人情であろう

それでは日本各地に残されている、縁起の良い引越しの「ならわし」をご紹介しよう。まずは(1)引越しに縁起の良い日、良くない日の意味と見極め方である。

日本で引越しに良い日とされているのは、「大安」や「一粒万倍日」など、いわゆる縁起の良い吉日とされている日である。

大安は、中国から輸入された六曜という「時間」を区切る際に使われていた考え方から生まれたものである。1日を「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」の6つの時間帯に分け、それぞれを順番にあてはめた。

その後、明治時代の暦改正により、この6つを日にあてはめ、現代のような「日」の吉凶を占う指標として利用されるようになった。従ってこの吉日の「ならわし」は比較的近年より始まったものとなる。

ちなみに、六曜の「曜」とは星を表した漢字で、星は金色に輝きお金をイメージさせることから、賭け事のタイミングを決める際にも利用されていた。

一粒万倍日は、「報恩経(ほうおんぎょう)」というお経が出典で、「世間求レ利、莫レ先二耕レ田者一、種レ一万倍」と、「少しのものからでも、何万倍の収穫が得られるから、どんな小さなことも大切にせよ」という戒めの意味で使われたものである。そこからこの日に行なうことは、後に万倍にもなって返ってくるという吉日になった。

ちなみに何倍にもなって返ってくる日なので、借金や借財などの借りる行為をなすとその返済が莫大になるとも考えられている。

引越しに悪い日とされているのは、「仏滅」と「赤口」がある。仏滅はいかにも縁起が悪そうだが、赤口がちょっと分かりにくいかもしれない。

赤口とは陰陽道の赤口神のことで、太歳神の住む都の東の門番神のことである。部下に八匹の鬼がいて、門を通過しようとすると鬼が邪魔をするので、引越しには向かないということだろう。

ちなみに仏滅が引越しに向いていないとされるのは日本での話であり、古代中国では仏滅は「物滅」と表記され、古いものは滅っし、新しい物が生まれると言う意味で、実は引越しに向いた日である。これまでを脱ぎ捨てて新しい人生を生きたい、整理整頓をしてスッキリしたいといった人は仏滅を選ぶのもありかもしれない。

六曜や一粒万倍日は、暦に記載されているので気になる諸兄姉は確認し、自分にとって縁起の良い引越し日を選んでいただければと思う。

鎌倉時代には賭博は神事であったことが史料に残されている。人々は賭博に熱狂し、人生を掛けた勝負を行なった。勝つか負けるか、生きるか死ぬかの局面では縁起担ぎをしたくなるのが人情であろう比較的近年より始まった吉日の「ならわし」。引越し予定日の参考にするのもよいかもしれない

家族の幸せを願う、縁起の良い引越し荷物の運び方、神棚や仏壇の扱い

次に(2)家族の幸せを願う、縁起の良い引越し荷物の運び方を見てみよう。引越し荷物の運搬法の「ならわし」として有名なところを列挙すると、

1. 神棚や仏壇の搬出は最後、移動中は上に物を載せることなどないよう丁重に運び、新居へは最初に運び込み設置を行なう
2. 新居には鏡から運び入れる(近畿地方など)
3. 結婚の引越しの車がバックをするのは縁起が悪い(名古屋など)
4. 味噌、醤油、塩から家に運び入れる(沖縄など)
5. 引越しの際は新居に直接向かわず、まずは吉方位に向かって出発する

などがある。
これらはそれぞれに家族の幸せを願う意味が込められた「ならわし」である。食べ物に関しては飢えることが無いようという意味が含まれていて、釜から運ぶとする場合もある。ようは自分にとって一番大事なものから運び出し、運び入れるということである。

神棚や仏壇の取り扱いについては、日本特有の信仰心が如実に現れている。つまりは古家に最後まで残って運び出しの無事を見守り、失礼が無いようにていねいに運び、新居に最初に入って搬入がつつがなく完了するまで見届けてくださいというわけだ。

そうは言っても、いかに丁寧に運ぼうが、所詮は家財道具と同じ車で運ぶことに変わりはなく、ようは気持ちの問題ということになる。また移動の際に氏神様に参拝をしたり、神棚・仏壇の魂抜きや魂入れなどを行なったりする地域もある。

江戸の地口に「寺の引越し」というものがある。仏像は運べるが「墓は行かない」ところから、仕事がはかどらないことを揶揄する意味で使われた。同じご先祖さまのご座所でも仏壇は引越しできる。しかし箪笥や食器棚と違い、目の詰まった銘木で作られているので重量があり、やはりハカがいかないのであった江戸の地口に「寺の引越し」というものがある。仏像は運べるが「墓は行かない」ところから、仕事がはかどらないことを揶揄する意味で使われた。同じご先祖さまのご座所でも仏壇は引越しできる。しかし箪笥や食器棚と違い、目の詰まった銘木で作られているので重量があり、やはりハカがいかないのであった

引越し荷物を運び出す際は、吉方位に向かって出発する「ならわし」もある。新居が悪方位にある場合は、いったん吉方位に向かって進んだあと、ぐるりと回って目的地に着く「方違え(かたたがえ)」という風習で、これはもともとは陰陽道に基づいた俗習である。

方位に興味がある人は、まずは自分にとっての吉方位を知ることから始めると良いだろう。吉方位の見極め方は人によって異なり、暦などから知ることができる。暦は毎年新しいものが全国の書店で販売されている。吉方位が分かったら、インターネットの地図で引越しのルートを吟味するのも楽しいかもしれない。

ちなみに土地選びは風水の真骨頂である。その方法のひとつを「不動産選びの秘術、安倍晴明の「五龍の相」を使った幸運な住み処の見極め方」でご紹介しているので、ご興味のある方はご覧いただければと思う。

引越し先で幸運を呼ぶ「ならわし」や縁起物、引越し蕎麦の作法

引越しの当日は、運送会社や手伝いに来てくれた友人たちなど多くの人でごった返す。食事をとる暇もないほどせわしない日なのだから、引越し蕎麦は重宝することだろう引越しの当日は、運送会社や手伝いに来てくれた友人たちなど多くの人でごった返す。食事をとる暇もないほどせわしない日なのだから、引越し蕎麦は重宝することだろう

引越しの縁起物もある。中でも珍重されるのが「オモト」「釜」「ほうき」である。

オモトは「万年青」と書く常緑草で、新居に置くと縁起が良いとされている。引越しに縁起が悪いとされる「赤口」の赤の反対色でもあることから、引越し日が赤口の場合の対策品として重宝された。

「ほうき」は穢れを祓う縁起物として使われ、新居での福を集めるとの意味も併せ持つ。「釜」は転居先でも食うに困らないようにという洒落である。これらを贈答品として誰かに贈ったりすることで、幸運を呼び込み穢れを祓うとされている。

さて、引越し先で幸運を呼ぶ代表的な「ならわし」と言えば引越し蕎麦である。現代の引越し蕎麦は新居で蕎麦を食べると考える人が増えているようだが、もともとは引越し先のご近所に蕎麦を配るのが作法であった。

引越し蕎麦は主に関東甲信越で広く行われ、江戸中期に始まったとされる。当時の蕎麦は安価で誰にでも喜ばれるちょっとした贈答品の代表格だった。当時の蕎麦は乾麺ではなく生ものだったため、蕎麦切手と呼ばれる商品券が使われることが多かった。

引越し時に蕎麦を配って近隣に挨拶をしておけば、近所付き合いがスムーズになり、新天地のコミュニティにもなじみやすくなる。また「これからおそばに居させてください」とか「細く長くよろしく」といった言葉遊びも、洒落好きの江戸庶民にウケたようである。

近年、引越し蕎麦を自分で食べるという「ならわし」が広まったのは、プライベート重視のコミュニティへと変化したことで、ご近所付き合いが希薄になったためと思われる。

集合住宅では近隣へのあいさつをしないケースもあり、でも縁起は担いで引越し蕎麦はやっておきたい、また挨拶用に買ったけれど留守が多いので自分で食べてしまおうなどといったことから始まったのだろう。

ちなみに蕎麦ではなくうどんを食べる「ならわし」がある地域もある。香川県の一部の地域では健康に長生きできるという願いを込めて、新居の風呂に入りながらうどんを食べる風習があるそうだ。

引越しの当日は、運送会社や手伝いに来てくれた友人たちなど多くの人でごった返す。食事をとる暇もないほどせわしない日なのだから、引越し蕎麦は重宝することだろう引越し蕎麦は主に関東甲信越で行われ、江戸中期に始まったとされている

風水から見る、運気を上げる古いカーテンや家具の再利用法

引越しの時に出る不用品の山、どれを捨てて、どれを持って行こうか迷うところだろう。しかし1年以上手に取らず目にもしなかったものは、処分した方がよいかもしれない。風水では使わない物、役に立たない物は家の中に淀みを作るとされる引越しの時に出る不用品の山、どれを捨てて、どれを持って行こうか迷うところだろう。しかし1年以上手に取らず目にもしなかったものは、処分した方がよいかもしれない。風水では使わない物、役に立たない物は家の中に淀みを作るとされる

縁起の良い引越しの作法、最後は古いカーテンや家具の扱いである。古いカーテンを新居に持っていこうか、家具は買い替えるか、悩んだ人もいるのではないだろうか。

これらに関して風水の観点から言えば、埃をかぶって汚れた物、仕舞い込まれて忘れられた物、ようは使わなくなった不用品を持って行くことは運気を下げるとしている。

風水は淀みを嫌う。風や水は流れ続けていることで清浄さを保つことができ、良い運気を運んでくることにつながる。淀んでしまえば濁って腐る。壊れたもの、使わない物、役に立たない物はごみと同じで、家の中に淀みを作るものとされる。

中でもカーテンは、風水で大切な意味を持つ窓に掛けるものである。風水では家は結界と考え、窓は運気の出入り口とされる。カーテンはその結界の開口部である窓に掛けるものであるから、美しくサイズが合っていることが望ましい。汚れていたり、臭いがついていたり、サイズが合わないカーテンは本来の使用目的を果たせず、淀みを作って結界の穴となる。もちろんキレイに洗濯をして、リメイクをしてサイズが合っているなら問題は無い。

どうしてもサイズが合わないようならテーブルクロスやクッションカバーにするのでも良いだろう。古いから悪いということは無く、ようは清潔で目的に合わせて活用ができていれば良いのである。

家具や衣類、小物類なども同じである。使える物は手入れをして使う。既に着られなくなった服や、一生開くことが無さそうな本、使っていない物は引越しをチャンスに処分しておくことが、風水で言うところの淀みを排除して運気を上げることに繋がる。

引越しは疲れるものである。しかし新しい生活には素晴らしく幸せな毎日が待っているかもしれない。「ならわし」や風水を行なうことで、少しでも引越しの負担や不安を和らげることができるのであれば、試してみる価値はあるだろう。

引越しの時に出る不用品の山、どれを捨てて、どれを持って行こうか迷うところだろう。しかし1年以上手に取らず目にもしなかったものは、処分した方がよいかもしれない。風水では使わない物、役に立たない物は家の中に淀みを作るとされる引越し前にカーテンのサイズは確認しておきたい

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