コロナ禍の下、おいしいものを身近で手軽に
大阪府の北摂地域にある豊中市は、40万人の人口を抱え、住宅地として人気のある中核市だ。その豊中市が、市民が暮らす住宅団地や公園などを利用した社会実験を行った。官民連携という形で事業者と連携し、キッチンカーを出し、市民に利用してもらおうというもの。
仕掛けたのは豊中市都市経営部創造改革課。聞きなじみのない部署名だが、普段はどんな仕事を担当する部署なのか。まず、そのあたりから同課主事の上保直人さんに聞いてみた。
「全庁横断的な政策、プロジェクトの総合調整を行っています。また、経営戦略会議の運営や公民連携の総合的な窓口機能を担います」(上保さん:以下同)
建築、土木、教育、住宅といった市役所の各部署を横断的にまとめ、ソフトの面から市域の魅力創出に関わる政策提言を担う部署だ。そのチームが、社会実験の手段として取り上げたのが「キッチンカー」。なぜ、キッチンカーなのか。その背景を聞いた。
「コロナ禍で、住民の皆さんは3密を避けるなどの新しい生活様式が求められ、自宅を中心とした生活を余儀なくされています。交通機関を利用して都心に出かける機会も減る中、ご近所でおいしいものを楽しんでいただくことで、住宅地のにぎわい創出と、魅力アップへつなげることを目的に進めています」(同)
自宅のすぐ近くで、シェフが提供するおいしいものを手軽に味わえる。コロナの感染リスクを避けながら食を楽しむ手段として、キッチンカーは最適だということだ。
「街の魅力の一つとして、キッチンカーを考えています。イベントとしてではなく、永続的に事業者が続けられるように取組んでいます」(同)
今回の社会実験に際しては、マーケティングの参考になるようなデータを市から事業者に提供したほか、事業者が永続的に事業を行える下地づくりとして、市は社会実験の報告書をまとめた。
社会実験から本格実施への移行を進めているが、ウィズコロナの新しい生活様式に合った事業として定着することを上保さんは願う。
官民連携の社会実験で、きっかけづくりを
キッチンカーの導入は、官民連携の形で株式会社Mellowが行った。2020年8月から9月にかけての3週間、市内のUR団地の集会所前スペースと市内の公園の、計3ヶ所で展開。提供されたキッチンカーは2社。イタリアンと京風たこ焼きを提供する事業者で、どちらもキッチンカーとしても実績のある店舗である。
株式会社Mellowは、「必要なサービス」を「必要な時に」に「必要な場所」へ届けることをコンセプトに、フードトラックの運営から、ノウハウの提供、開業支援、イベントの運営まで手掛けるモビリティーサービス会社だ。豊中市とは2020年に「地域の活性化」「災害・緊急時の支援」「市民サービスの向上など」を目的に、包括連携協定を結んでいる。
豊中市は今回の社会実験に際して、webメディア、SNS、新聞、TVなどを通じて告知に力を入れた。その結果、3会場3週間にわたる実施期間で1,000人近い集客実績を残した。
どの会場も17時以降の時間帯には、並ぶ人の列が絶えることがなかったというほど、盛況を博したという。
アンケートで明らかになった満足度と課題
豊中市の報告書には、利用者のアンケート結果がまとめられている。
まず、豊中市のこの取組みに関して、大変良いと答えた人が48.28%。良いと答えた人が48.90%。合わせて約97%の人が評価している(n=773人)。
キッチンカーをまた利用したいですかという問いには、利用したいと答えた人が98.19%(n=774人)。今後もこの取組みが必要だと思いますかという問いには、必要と答えた人が95.73%(n=773人)。という結果を得た。
その他、利用者の意見としてまとめられた主なものを紹介しよう。
◇提供されたメニューについて
・高齢者向けメニューがほしい
・子どもが買いやすいメニューがあるといい
・デザート系のメニューがほしい 等
◇社会実験について
・高齢者には便利でいい
・おいしいものが手軽に食べられて子育て世帯には助かる
・共働き世帯には助かる
・買い物が不便なところでは助かる
・近くでシェフの手料理が食べられてうれしい
・コロナ禍では、必要な取組みである
・新しい生活スタイルとして大変良い
・コロナ後の社会においても大切だと思う 等
◇今後について
・継続的にやってほしい
・他の場所でもやってほしい
・住んでいる近くでやってほしい
・豊中の事業者がやって、地域に愛されるといい 等
◇お店について
・おいしかったのでまた来た
・おいしくてリーズナブル 等
◇そのほかの要望
・HPでメニューや値段の紹介をしてほしい
・わかりやすく周知をしてほしい
・実施回数を多く、時間も長くやってほしい
・クーポンなどがあればいい
・値段が安ければうれしい
・早く売り切れて残念。食数を準備してほしい 等
アフターコロナを見据えて
報告書で、豊中市は今回の社会実験を総括している。利用者の年齢層は、30代から70代以上まで、幅広い年齢層の利用者があった。未就学児を持った母親や高齢者など、普段から外出して食事をしづらい層にとっても、徒歩圏で気軽に本格的な料理が食べられることが評価されるなど、コロナ禍の新しい生活様式のもと、にぎわいを創出するひとつの手法にもなるとしている。
一方課題として、売り切れがないようにしてほしいという声や、料理のジャンルを増やしてほしいなどの意見もあり、実施場所の拡大に加え、参加する事業者を増やす必要があるとしている。加えて豊中市としては、もっと多くの市内事業者の参入を目指したいという。
コロナ禍はもちろん飲食事業者にも大きなダメージをもたらしている。しかしキッチンカーでお店のブランドや料理の浸透を図ることができれば、コロナ後も、リアル店舗での利用促進につながるかもしれない。
飲食事業者を支援し、市域でサプライから消費まで循環する経済を盛り上げる意味でも、市域の参加事業者を増やすことが今後の課題といえるだろう。
コロナ禍で、ともすれば生活に潤いをなくす現状。街のにぎわいを創出し、経済を活性化させるために行政はどんな役割を担うことができるのか。
ただ、短期的イベントのように消費を喚起するのではなく、アフターコロナを見据えつつ、街の魅力づくりにつなげていく。そのためには、官民連携など、今までの枠にとらわれない多様な手法をもって、施策を講じていくことが重要になってくるのではないだろうか。
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