サ高住などの整備で実現する「スマートウェルネス住宅」
高齢者、障がい者、子育て世帯などの多様な世帯が、健康で安心して暮らすことができる住環境や住まいのことを「スマートウェルネス住宅」という。国土交通省では、その普及のために「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の整備事業」「セーフティネット住宅改修事業」「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」の各事業を行っている。2021年度も当初予算として230億円を設定し、それらの取組みに対して支援を行うこととなり、このほど事業者向けの説明会が動画配信の形式で開催された。説明会の内容に沿って、事業の背景や現状、2021年度からの変更点を解説するとともに、補助事業の意義を考えたい。
まず、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の整備事業」について。サービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)は、2011年の「高齢者住まい法」の一部改正に伴って誕生したもので、安否確認・生活相談のサービスがある高齢者向けの住宅だ。設置・運営にあたっては都道府県に登録する必要があり、床面積が原則25m2以上、バリアフリー構造であることも登録の基準となっている。2020年12月末現在の登録戸数は約26万戸。設置・運営にあたっている事業者では、介護系事業者がもっとも多く、約70%を占めている。入居費用は、家賃、共益費、生活相談や見守りなどのサービス費の合計で、全国平均は月額約10.7万円。大都市圏で12.5万円。サ高住の供給促進に向けては、予算、税制、融資において支援措置が用意されている。
既存ストック活用や新たな日常への対応に向け、補助内容を変更
2021年度の事業では、既存ストックを改修する場合の補助限度額が、1戸あたり180万円から195万円に引き上げられた。反対に新築(25m2未満の住宅)の補助限度額は1戸あたり90万円が70万円に引き下げられた。既存ストックを改修したサ高住は、2020年3月末までの累計で6%弱にとどまっており、空き家などの遊休不動産の増加を背景に、今回の変更で既存ストックの活用を促進するねらいだ。
いわゆる「新たな日常」に対応する改修工事への補助も新たに設けられた。新型コロナウイルス感染症予防対策のために、IoT技術を用いて非接触でのサービスを可能とする改修事業に対して費用を補助するもので、補助限度額は1戸あたり10万円、補助率は3分の1となる。具体的には、人感センサーや緊急通報・健康相談システムなどの設置が想定されている。
また、サ高住の災害時利用を推進するために、サ高住の要件に「新築のサ高住の立地が、土砂災害特別警戒区域に該当しないこと」が加わった。補助要件に、「地方公共団体からサ高住に対して、応急仮設住宅または福祉避難所としての利用について要請があったときは、協定締結等の協議に応じること。また、運営上支障があるなどの特段の事情がある場合を除き、地方公共団体と協議の上、要配慮者(原則としてサ高住入居資格を有する者)を受け入れること」も、新たにつけ加えられた。
さらに、補助対象となるサ高住の家賃限度額を、これまでの一律月額30万円から、所在市区町村に応じた額(全国平均約15万円)に引き下げることになっており、高額なサ高住への支援を見直す。
住宅確保要配慮者と空き家・空き室の課題を解決するために
続いて、2017年に創設された「新たな住宅セーフティネット制度」について。創設の背景には、高齢単身者、障がい者、ひとり親世帯、外国人などの住宅確保要配慮者が賃貸住宅に入居しにくいという課題と、全国的な空き家・空き室の増加がある。制度は空き家・空き室などを活用して、住宅確保要配慮者の住まいを確保しようというものだ。
この制度に基づいて行われている「セーフティネット住宅改修事業」は、既存の住宅を、住宅確保要配慮者専用の住宅に改修する場合に、改修費に対して補助を行うというものだ。国からの補助限度額は1戸当たり50万円だが、補助対象となる工事の中で、共同居住用住居に用途変更するための改修、バリアフリー改修、防火・消火対策工事、子育て世帯対応改修、耐震改修については、合せて1戸あたり50万円が加算される。
2021年度からの変更点としては、サ高住同様「新たな日常」に対応する改修工事への補助が新設。宅配ボックスや非対面式インターホンの設置などの工事が補助対象に加わった。また、バリアフリー改修としてエレベーター改修工事を実施する場合は15万円が加算。子育て世帯対応改修工事で、子育て支援施設を併設する場合は、1施設あたり1,000万円が加算され、住宅確保要配慮者と、空き家・空き室増加の課題の双方の解決を図る。
住まいと地域の新しいあり方を提案するモデル事業を支援
最後に、「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」について。これは、高齢者、障がい者、子育て世帯など誰もが安心して暮らせる住環境の整備を促進するために、先導的なモデル事業を公募し、採択された事業の費用の一部を支援するというもの。公募する事業には、課題設定型と事業者提案型がある。前者は国が設定した事業テーマに基づくもの。後者は事業者が独自の事業テーマを設けて行うものだ。これとは別に、事業育成型として、こうした事業の事前調査やニーズ調査なども支援の対象となっている。補助の上限額は、課題設定型や事業者提案型で、1案件につき3億円となっている。2021年度は、課題設定型として国が設定する事業テーマに、子育て世帯向け住宅の整備が追加された。課題に対してどのような事業が生まれてくるだろうか。
これまでに採択されたモデル事業には、2018年の西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市真備町のアパートを、防災備蓄倉庫などを備えた共同住宅として再整備するというものもある。災害弱者の住まいとなるとともに、地域の防災拠点、災害時の一時避難場所として機能することが期待されている。特に事業者提案型は、既存制度だけでは十分対応できない住まいの課題に対する解決策を探る提案が多く見られ、モデル事業を審査した有識者会議のコメントでは「関連する制度のあり方を考える材料につなげることも視野に入れたい」と明かしている。この事業を通して、次世代の住文化が生まれる可能性もある。
大きな願いや期待を背負う支援事業
「今後求められる住まい方」を聞いた調査では、世代を問わずもっとも多かった回答が、「介護が必要になっても安心して暮らし続けられる住まいの整備」だったそうだ。そうした背景を踏まえると、「スマートウェルネス住宅等推進事業」は、大きな願いや期待を背負った事業といえるだろう。誰もが安心して暮らせる住環境をつくろうとする挑戦をサポートする補助事業。事業者がこれらの補助を有効に活用することで、より多くの人に、健康で安心できる「スマートウェルネス」な暮らしが届くことを願う。
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