愛知県東海市に誕生した”働きながら暮らす“がコンセプトの賃貸物件
2020年5月、愛知県東海市に誕生した店舗兼住宅の賃貸物件が話題になっている。
場所は、名鉄常滑線と河和線の乗換駅「太田川」駅からほど近い再開発エリア。近年では新しい商業施設や文化施設、大学キャンパスなども充実し、駅周辺は穏やかかつ整然とした街並みが広がっている。そんな街なかの住宅地にある公園を目前に立つのが、60m2のメゾネット7戸で構成される「classwork おおたがわ」だ。
1階はテナントで2階が住居のプレハブ建築…といった店舗付き賃貸住宅は昔からあったが、それとは一線を画す佇まい。スタイリッシュなデザインの建物には、美容室やエステ・ネイルサロンなど洒落た店舗が入店し、さながら優雅なモールのような印象を抱く。
“サロン併用住宅”と呼ぶ方がしっくりくるような同物件に入居できるのは「女性起業家」のみ。
不動産管理会社・建築士事務所・デザイン事務所・経理会社の4者がタッグを組んで、“働きながら暮らす”という女性の新しいライフワークスタイルを提案するプロジェクトの第一弾物件として誕生した。
不動産管理会社・建築士事務所・デザイン事務所・会計事務所で起ち上げた「classwork PROJECT」
同プロジェクトの発端は、株式会社マキシドットベース代表取締役・畑原亘さんの思い。
賃貸物件管理を30年続ける中で、根強い“新築至上”から「築年数に影響されない賃貸物件」の必要性を感じていたという。
「新築は入居者もすぐ決まりますが、古くなった物件は選ばれにくい。賃貸業にありがちな現状をどうにかしたい想いがありました。
そして、もう一つは『働く女性の応援』です。
以前私は街のサッカースクールもやっていて、たくさんの子どもたちと関わってきましたが、その中には、お母さんが毎日仕事で忙しく、家では一人、もしくは子どもだけで過ごすことが多い子も少なくありません。
それがどこまで影響しているかはわかりませんが、彼等は得てして他の大人たちと会話することが得意ではなかったり、人見知りの傾向がある気がするので何か力になりたくて…。
賃貸業では、母子家庭の借主さんに仲介手数料を援助するなどはこれまでも行ってきましたが、もっと何かできないかと考えていて、例えば、手に職を持つお母さんが、自宅の1階が職場・2階が住居ならば子どもと過ごす時間が長くなって母子が安心して暮らせるのでは?と。
それを、仕事で関わりのあった人たちに話したところ賛同してくれて、コラボでやろう!ということになったんです」(畑原さん)
こうして4者が各々の分野を生かすプロジェクトが発足し、意見を出し合いブラッシュアップを重ねた結果、事業を起ち上げた女性のための“新しい拠点づくり”かつ“女性の新しい暮らし方”を提案していくことになったそうだ。
入居開始1ヶ月前にインスタグラム発信だけで募集。あっという間に満室!
女性オーナーの家であり職場でもある「classwork おおたがわ」は、入居者の職種を「美容系」に限って建物に一種の統一感をもたせていることも特徴の一つ。
また、募集方法も特徴的。新築賃貸住宅の場合、建築確認が下りたあと早い段階で依頼を受けた募集業者が広告を出すことが多いが、同物件は募集もすべてプロジェクトが行った。
それも、入居開始の1ヶ月前から始めたインスタグラム発信のみ。そんな短期間かつ限定的な募集であったにも関わらず、たった1週間で満室になったという。
プロジェクト第一弾の物件がこれだけウケたのは、コンセプトはもちろんのこと、美容系の仕事をしている女性オーナーが、客が来やすい場所の・デザイン性の高い建物で・サロネーゼのような暮らし方ができることに強く惹かれるからかもしれない。そして「賃料」も大きな理由だろう。
「classwork おおたがわ」の家賃は、約60m2の2LDKメゾネット・駐車場1台込みで10万円。
畑原さんによると、太田川エリアの同条件での家賃相場は8万5,000円とのことで高めの設定になるが、これを「住居」ではなく「テナント」でみると15万円が相場。つまり、洒落た店舗を相場より5万円もお値打ちに借りられる。
例えば、専業主婦だった女性が起業する場合、実績がないため銀行からの借入が難しいことも珍しくないが、入居時に掛かる費用も、前家賃1ヶ月分と保証金2ヶ月分の30万円で仲介手数料などはナシ。プロジェクトの一員である経理会社による起業サポートも受けられる。加えて、入居後は「classwork PROJECT」のPRで自身や店も紹介されるため、店の宣伝にもなり広告費削減にもつながっている。
言ってみれば“ハード&ソフトの起業サポート付き賃貸物件”でもあるため、できるだけお金をかけずに事業を始められることは女性起業家にとって大きな魅力だろう。
また、物件オーナーからしても、あくまで「住居用」物件の所有なので相場よりも高い賃料で貸せることになる。募集会社を使わず入居者を集められた上、テナントでは受けられない固定資産税の軽減まで受けられる税制面のメリットも。しかも、直接入居者に貸すのではなく、借主は畑原さんの会社でサブリースをしているため入居率を気にしなくても済む。
このように、入居者にとっても物件オーナーにとっても魅力のある店舗兼賃貸住宅となっているようなのだ。
立地や築年数だけで勝負せず、付加価値を高めて魅力ある賃貸物件に
「店舗が並ぶお洒落なアウトレットモールがありますよね?あの『住居版』のイメージです」と畑原さん。ウィンドウショッピングするような感覚で歩けるタイルの通路も、各店舗の窓も鏡のようにキレイに整えられている同物件は再開発で整備された広めの道に接しているが、目の前には陽当たりの良い公園が伸びやかに広がり、この場所を見て即決した入居者もいたという。そして、入居後には、「お客様が増えました」「コロナ禍でもプライベートスタイルでお仕事できて助かります」など満足度の高い声が届いているそうだ。
「プロジェクトを進めるにあたり、一番こだわったのは、やはり『立地』。
でも、一般的な賃貸物件のように、駅からどれだけ近いか?ではなく、車で訪れる女性客が多いですから『女性が車で入りやすいか?駐車しやすいか?』を重視しました。
そして『美しさ』です。
たくさんの人が訪れる公園が目の前にあるので、公園側住戸の1階・店舗フロアには、外からも見える位置に螺旋階段を設けて目を惹くデザインにしています。そして緑化も。一般的な賃貸物件では月に1度ペースで清掃が入ることが多いですが、それを週に1度にして、各店舗前の広い通路はポリッシャーを掛け、窓を磨くなどして『美しいモール』であるように努めています。
駅近立地ありきではなく、『付加価値をつける』という少しのプラスαで物件の魅力を高めて、ニーズに応えられる賃貸物件を提案していきたいですね」(畑原さん)
大きな反響で感じた需要。各地への展開やリフォーム・リノベーションでの提案も
「classwork おおたがわ」は新築物件だが、付加価値をつけた賃貸物件を生み出すために、今後は既存物件のリフォームやリノベーションでも進められたら…と畑原さん。
「プラスαのリフォームで『classwork mini』として提案もしたいですし、狭小地で2戸限定の賃貸物件なども可能かと。
今回は美容系でしたが、もちろん他の業種でも。例えば、さまざまな業種の起業家の方に入居いただいて、企画からデザイン・撮影・ライティング・編集・コンサル・経理…入居者全員で一つの仕事を請け負えるなんてこともできるかもしれません」と今後の展開も広がる。
「賃貸物件は入居率で評価されたりもしますが、極端な話、賃料を下げて入居者を集めれば入居率を上げることは可能です。でも、それでは収支が減って物件オーナーさんの苦しみの解消にはなりません。
物件オーナーさんの財産価値を落とさないようにするには、入居率を上げることではなく、物件をつくった時の事業シミュレーションを守り続けることが大切です。
一番リスクを負う物件オーナーさんが潤うようにしたいですし、借り手が満足できる暮らしを提供できるようにしたい。そのバランスを見てプロジェクトを進めていきたいです。
私は建築家ではないですが、これからの時代に合う賃貸アドバイザーのスタイルで、賃貸物件の新しい路線をつくり出せたら…と思っています」(畑原さん)
先に「インスタだけで1週間で満室」と述べたが、正確には「1週間で満室→コロナの影響で入居見合わせが相次ぎ全室キャンセル→でも即満室」だ。今もキャンセル待ちや、次の物件を求める声、他エリアからの引き合いも複数あるそうで、「想定以上に反響が大きく、需要を感じています」とも話す。
働くと暮らすのワークライフバランスを上手にコントロールできそうな店舗兼住宅。貸し手も借り手も納得できるスタイルは今後どのような広がりを見せるのだろうか。
■classwork PROJECT https://classwork.jp/
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