リモートワークによって地方移住を検討

「リモートワークで通勤日数が減ったから」と地方移住を考えても、現実はなかなか難しい「リモートワークで通勤日数が減ったから」と地方移住を考えても、現実はなかなか難しい

まだまだ終息の兆しさえ見えてこないコロナ禍。その中でリモートワーク(テレワーク)という言葉が定着している。そしてリモートワークの普及によって「都心へ通勤する必要がなくなったので地方へ移住したいという人が増えるはずだ」という論調を聞くことも多くなった。確かに都会の喧騒から離れて自然豊かな地方で暮らしたい、という人は少なくないだろう。

ところが実際に行動に移せる人は少数派のようだ。その理由の一つと考えられるのが、ほとんどの企業の勤務体制がフルリモートになっていないということ。独立行政法人 労働政策研究・研修機構が2020年8月に行った調査(対象者:「民間企業の雇用者」4,307 人、「フリーランスで働く者」574 人)によると、2020年7月最終週の時点で週に5日以上リモートワークを行った人の割合は14.0%、1日もリモートワークを行っていない人は49.8%だった。リモートワークを行っている人で、もっとも多い実施日数は1~2日(20.6%)だ。つまり週に3日以上は会社へ出勤している。この勤務体制で地方へ移住するのは難しいだろう。

フルリモートで働く人が増加の兆し

とはいえ、社会は少しずつではあるがフルリモートへ向かっているともいえる。たとえばポータルサイトYahoo! JAPANを運営するヤフー株式会社は、2020年10月1日より契約・嘱託社員を含む全7,104名を対象にリモートワークの回数制限とフレックスタイム勤務のコアタイムを廃止した。月5回を上限としていたリモートワークの制限を解除し、原則在宅勤務を導入したのだ。なお、同社の社内アンケートでは、92.6%の従業員がリモート環境でもパフォーマンスへの影響がなかった、または向上したと回答している。このような成功事例が周知されるようになれば、フルリモートを採用する企業は、どんどん増えていくはずだ。

深刻な「消滅可能性都市」の問題

では、実際に都会の会社に勤めながら、地方へ移住するにはどのようなネックがあるのだろう。そこにはご近所付き合いや子どもの教育など、十人十色の問題が存在するはずだ。だが、もっとも多いのは経済的負担、要するにお金の問題ではないだろうか。そもそも引越しにはお金がかかる。会社都合の転勤なら会社が負担してくれるが、自己都合の地方移住ならすべて自分で負担しなければならない。また、地方移住の場合は、買い物などのために都会生活では不要だった車を購入しなければならない場合もあるだろう。

そこでぜひ利用したいのが、国や自治体が主体となって行っている地方移住支援策だ。このような施策の背景には、日本の「消滅可能性都市」の問題がある。消滅可能性都市とは、20~39歳の若年女性人口が、2010年から2040年にかけて5割以下に減少する市区町村のことだ。若年女性は減れば減るほど人口の再生産力も減少し、地域が消滅する可能性が高まる。国土交通政策研究所の「政策課題勉強会」の資料によると、消滅可能性都市は全国の自治体の49.8%を占めている。なかでも秋田県は深刻で、96%(大潟村を除いたすべて)の自治体が消滅可能性都市だ。その後に青森県(87.5%)、島根県(84.2%)と続いている。一方で首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)や大阪府、愛知県といった大都市圏の数値は、おしなべて低く、すべて50%以下となっている。ここでも地域格差が顕著に表れているのだ。

都道府県別「消滅可能性都市」の比率。全国の自治体の49.8%が消滅可能性都市となっている。ただし、地域格差が激しい(出典:国土交通政策研究所「政策課題勉強会」資料)都道府県別「消滅可能性都市」の比率。全国の自治体の49.8%が消滅可能性都市となっている。ただし、地域格差が激しい(出典:国土交通政策研究所「政策課題勉強会」資料)

「地方に移住したい人」と「移住して来てほしい自治体」のマッチング

「地方に移住したい都会の人たち」、「若い人に移住して来てほしい自治体」。現在、国や自治体によって、この二者のマッチングを図る試みが盛んに行われている。たとえば政府は2024年度まで地方創生移住支援事業・地方創生起業支援事業を実施している。

●地方創生移住支援事業・地方創生起業支援事業
リモートワークで東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の仕事を続けながら、地方へ移住した人に最大100万円を交付する。さらに移住先でIT(情報技術)関連の事業を立ち上げた場合は最大200万円(合計300万円)を交付する。この事業は従来移住先で就業する人を対象としていたが、コロナ禍を受けて2021年度からは東京圏の仕事を続ける人も対象とすることになった。

自治体の施策には、たとえば以下のようなものがある。

●宮崎県七ヶ宿町「子育て世帯向け宅地貸付け及び譲渡制度」
町有地を子育て世帯向け住宅用地として貸付け、一定期間中に住宅を建て居住した後に、土地を無償で譲渡する。また新築費用は300万円を上限に助成する。
・貸付期間:3年(無償)
・保 証 金:10 万円(契約締結時に納付)
・建築条件:貸付けから2年の間で住宅を新築
・対象者
1.概ね20歳未満の夫婦で、義務教育終了までの子どもがいる人
2.七ヶ宿町に住民登録をして定住する人
3.市町村税等を滞納していない人
https://town.shichikashuku.miyagi.jp/its/news/2019/04/post-22.html

●栃木県那珂川町「那珂川町定住促進住宅用地貸付事業」
鮎釣りのメッカとして知られる那珂川沿いの住宅地(1区画150坪以上)を、20年間無償で貸与する。
「募集条件」
・概ね65歳以下の人で1世帯2人以上居住すること
・定住する人で自費で住宅建設をする方
・住宅は建築基準法に従い近隣の景観を損なわない外観であること
・契約後、概ね1年以内に居住すること
・浄化槽を設置すること
・行政区及び地元自治会に加入すること
・地域行事へは積極的に参加するなど、地域とのコミュニケーションを図ること
https://www.sosei-nakagawa.com/takadenosato/

●茨城県境町「第4期境町定住促進戸建住宅」(すでに募集を締め切っているが参考までに)
移住者限定で新築一戸建て住宅を20年住み続けることを条件に土地・建物を無償譲渡する。
「入居者条件」
以下のすべて及び所得基準に該当する世帯。
・町外からの移住者であること(申込時に町外居住者であること)
・世帯主が45歳以下で中学生以下の子どもがいる世帯または妊娠している者がいる世帯
・地域活動に積極的に参加すること(行政区への加入など)
・町の広報活動に協力すること
「所得基準」
入居者および同居者の所得月額を合算した額が15万8,000円以上
https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page002453.html

日本全国の自治体で移住支援策を実施中

このほかにも移住者を支援する制度は北海道から沖縄県まで全国各地で行われている。どこの自治体がどのようなことを行っているのかは、一般社団法人 移住・交流推進機構のサイトなどを確認すると分かりやすいだろう。移住に興味があるがなかなか行動に移せなかった人は、この機会にぜひサイトを覗いてみてはいかがだろうか。

https://www.iju-join.jp/feature_cont/file/019/02.html

現在、日本全国の自治体で移住支援策を実施している。興味がある人はこの機会に自分に合った地域、支援策を探してほしい現在、日本全国の自治体で移住支援策を実施している。興味がある人はこの機会に自分に合った地域、支援策を探してほしい

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