百年続いた価値を束ねる

新潟県上越市(以前の高田市)に百年以上前にできた映画館がある。高田世界館である。現在も営業中で、ミニシアター系の渋い作品を多く上映している。

高田は城下町であり、かつて新潟大学教育学部があり、その中に芸能科という音楽・美術の教師を育成する学科もあったので、文化的な土壌がある。高田城趾に隣接する県立高田高校は雅子皇后のお父様の出身高校。お父様が在学中はお祖父様が校長を務めていた。そういう文化的な土壌があるので、マイナーでも上質な映画のファンがいるのだ。

また世界館がマンガや映画で舞台となったこともあり、遠方から訪れる人も少なくない。毎日映画館の由来などを解説し、映写室にも入れる案内コースも開催されており、人気である。

高田世界館高田世界館

百年料亭ネットワーク

高田には、まだ百年の歴史を持つものがある。料亭である。
明治以降陸軍ができたことで、高田には花街が栄えた。全盛期には料亭もたくさんあった。そのひとつが「宇喜世」である。創業は大正初期であり、建物の中心部は100年以上前に建設され、その後何度か増築された。一部は3階建てであり、高松宮殿下も戦後すぐに訪問され、芸者衆と混信する写真が残っている。大広間は150畳敷という広さであり、大正から昭和初期にかけて造られたものとしては日本最古の部類に属するはずだという。

だが料亭は全国的に衰退しつつある。20世紀に入り、日露戦争、第一次世界大戦のころに栄えたが、戦争で一端収束。戦後高度経済成長期にまた栄えたが1973年のオイルショックでまた衰退。80年代のバブルで息を吹き返したが、バブル崩壊でダウン。さらに2000年以降は官官接待の禁止などにより、宴会需要が減少。次第に廃業・転業するところが増えた。建て替えてホテルなどにするところも多かった。

宇喜世社長の大島誠氏は、そこで古い料亭を維持・発展させるために、何ができるかを考えた。国に補助金をもらえないか相談したが、税金を投入するには国民全体が納得する公的な意味づけが必要だと言われた。

そこでまずは観光庁の補助金を使って、全国の100年以上の料亭をネットワーク化する活動を始めた。
名付けて「百年料亭ネットワーク」。大島氏自身が全国の料亭を青森県から大分県まで訪ね歩き、18軒の料亭にネットワークに加入してもらい、2017年3月に「百年料亭ネットワーク」設立総会を開催。以後も参加料亭を増やしていった。観光庁からも百年料亭ネットワークの活動は高く評価された。

高松宮様も訪れた桜の間高松宮様も訪れた桜の間

宴会以外の使い方を考える

だが、そこにコロナである。宴会関係がすべて消滅。これでまた廃業に追い込まれた料亭もたくさんある。高田でもそうだった。
幸い宇喜世は持ちこたえているが、築100年の建物は補修費がかかる。そこで2020年10月から宇喜世はクラウドファンディングによって補修費を募った。

結果、目標額を超える金額が集まり、2階や3階にある、ちょっと隠れ家的な感じの小部屋を改修できる見込みだ。2階や3階までは階段が急なので、仲居さんたちも上り下りが大変。客の方も高齢化しているので、2階以上を利用することは少ない。

だが、部屋の内装は素晴らしい。宴会以外でも使う方法を考えたいというのが大島氏の考えだ。時節柄、ワーケーションなどにも使えそうである。料亭なので有料で客を宿泊させることはできないが、同じ町内に町家をリノベーションしたゲストハウスも数軒できている。そうしたところと連携すれば、新しい料亭の使い方ができそうだ。

妙高の間。ワーケーションに使ったら面白そうだ妙高の間。ワーケーションに使ったら面白そうだ

地域に残る歴史で人を集める

もうひとつ百年物がある。高田には先ほど述べたように陸軍があったので、師団長の家が残っているのだ。その家は、2021年春にフレンチレストランとして使われる予定だ。

また、新潟大学教育学部の前身である高田師範学校時代に使われていたスタインウエイのピアノが、長らく放置されていたが、最近修理されることも決まった。これは93年前のものである。

高田城趾公園には数千本の桜の木があり、毎年4月には、日本三大夜桜と言われるほどの花見で賑わう。おそらく桜が植樹されたのも100年以上前であろう。夏にはお城をめぐるお堀に蓮の花が満開となる。
これは戦争中に植えられたらしいが、それでも80年ほどの歴史がある。地元では「東洋一の蓮池」といわれて観光に一役買っている。

高田師団長官舎(上越市ホームページより)高田師団長官舎(上越市ホームページより)

料亭は日本文化を総合的に引き継ぐための重要な舞台装置

東京は、最新のオフィスビルなどの建設により、ますます未来都市になっていく。
その代わり歴史は薄らぎ、古い建物も減っていく。それに対して地方都市は、いたずらにビルやマンションを建てるばかりではなく、東京にはない古いものを活かした街づくりをするべきだろう。
いくらビルを建ててもドバイや中国にはかなわない。これからの日本では、歴史的建築が残っていることが重要なのだ。

特に料亭は、和食はもちろん、お茶、書、陶芸、建築、着物、芸者、踊りなどなど、日本文化を総合的に引き継ぐための重要な舞台装置である。国としても、料亭文化を維持保存、さらに発展させることをもっと真剣に考えたほうがいい。もちろんコロナが終息しないかぎり、宴会に頼ることはできない。
料亭の使い方については、ワーケーションなり何なり、新しい使い方も考えるべきであろう。

高田城趾の桜高田城趾の桜

2021年 01月30日 11時00分