外出禁止令の段階的解除に向け動きだしたフランス

フランスでは3月16日の外出禁止令の発令以降、食料品店やスーパーマーケットなどの一部の店舗を除き休業している(写真はイメージ)フランスでは3月16日の外出禁止令の発令以降、食料品店やスーパーマーケットなどの一部の店舗を除き休業している(写真はイメージ)

欧州でも猛威を振るう新型コロナウイルス。2020年3月16日に外出禁止令が発令されたフランスの感染者数は4月29日時点で12万9,859人(外務省)。欧州ではスペイン、イタリア、英国、ドイツに次いで多くなっている。冷え込む経済を下支えするためにさまざまな支援策が実施されているが、経済の停滞が長期化するにつれて、企業、一般家庭を問わず家賃を巡る問題も表面化。コロナ禍を一つの契機として、田舎に家を探す動きも出始めている。(4月29日執筆)

外出禁止令により、現在フランス国内で営業をしているのはキオスク、銀行、食料品店・スーパーマーケット、自動車部品、農業関連、パソコン関連、携帯電話販売・修理店、コインランドリー、葬儀社のみ。多くの人がテレワークで仕事をしている状況だ。当初外出禁止令の期限は3月31日までの2週間だったが、その後延長され、現在のところ5月11日から段階的に解除されることになっている。

手厚い中小企業への支援措置。家賃対策では軋轢も

フランスの中小企業向け支援策、家賃対策は?(写真はイメージ)フランスの中小企業向け支援策、家賃対策は?(写真はイメージ)

コロナ禍に対して政府が最初に発表したのは、中小企業への支援措置。企業に対して従業員を解雇せずに「一時帰休制度」を利用するように要請した。この制度は、働けない従業員に企業が約80%の給与を払い、その分を政府が企業に支給するという仕組みだ。同制度のための予算は、当初2ヶ月で約85億ユーロ(約9,860億円)だったが、4月15日には240億ユーロ(約2兆7,868億円)に引き上げられた。4月22日現在5分の3の企業が一時帰休を実施し、対象の従業員は1,020万人に達している。

さらに、従業員が10人以下、年間売上高100万ユーロ(約1億1,611万円)未満、年間の課税対象利益6万ユーロ(約696万円)未満の零細企業に対しては、倒産を避けるために設立した「連帯基金」という基金から最大1,500ユーロ(約17万円)の支援金を即時支給。これに加えて、経営が極めて厳しい企業には2,000ユーロ(約23万円)から5,000ユーロ(約58万円)を上限に追加支援することも発表した。このほか、税、社会保険料、水道・ガス・電気代についても支払いが猶予されることになった。滞納分は事業を再開してから分割で支払うことになるが、利息や追徴金の加算はない。このように経営基盤が極めて脆弱な中小・零細企業に対しては、家賃に関しても優遇措置が設けられたが、その措置が企業間の軋轢を生む結果にもなってしまった。

当初、中小・零細企業に対しては、3ヶ月分の家賃について支払いを猶予するということだった。しかし、4月17日にブリュノ・ル・メール経済財務相が「3ヶ月間の家賃は帳消しにするように」と家主に要請。この要請に対して、対象にならない企業が激怒した。早速、翌日には日本でも有名な老舗化粧品ブランド「イヴ・ロシェ」や、子ども用肌着メーカー「プチバトー」などを含む16の商店連盟が「(家賃帳消しの)対象になるのは全体のわずか10%に過ぎない。規模にかかわらず、すべての商店について3ヶ月分の家賃を帳消しにすべき」とする嘆願書を政府に突きつけた。その結果、政府は多くの商店に店舗を賃貸するショッピングセンターなどと、商店の間の軋轢を仲裁する調停者の任命を発表する事態にまで発展した。

学生寮費の免除はあるが、家賃に関する優遇措置がない一般家庭

一般家庭については、家賃の支払い猶予といった優遇措置はない。住居手当をもらっている家庭のうち、積極的連帯手当(職場復帰を促進するための手当)を受け取っていない人に限り、子ども一人あたり100ユーロ(約1万1,000円)の特別支給があるだけである。あとは、いくつかの低収入者用福祉住宅の賃貸会社や個人の家主が自発的に支払い延期措置を申し出ているのみだ。収入激減でどうにもならない状態の人は住居連帯基金 (Fonds de solidarité pour logement)への援助依頼を勧告している。

ただ、学生寮に暮らす学生は、外出禁止令下で実家に戻った場合、その間の寮の家賃は免除になる。家賃滞納が続き、裁判所から退去命令が出ている人々については、例年、冬の間(11月1日~3月31日)しか家にとどまることができないが、退去を命じられた人々が路頭でウイルスに感染するのを防ぐために、今年は、例外的に5月31日まで居ることができるようになった。参考までに、慈善団体Fondation Abbé Pierreによると、フランスでは裁判所から退去命令により、2017年は約1万5,000家族、約3万人が退去させられている。

外出禁止により多くの人は引越しができない

不動産関連では、さまざまな段階で動きに支障が出ている。まず「引越し」。引越しを予定していた人は、現在住んでいる家の家主に連絡し、外出禁止令解禁までという条件付きで「家屋賃貸臨時協定」を結んで延期することになっている。もちろん家賃を払いながらである。しかしこの禁止令には例外があり、不衛生な住居から引越す予定だった人、パートナーのDVから逃れる場合は引越しが可能。外出禁止令によりフランスでもDVが増えており「通常より35%程度増加している」(マルレーヌ・シアパ男女平等副大臣)との状況。

不動産売買契約については、通常、契約の際に公証人と売主、買主の3者(および不動産会社)が必ず同席しなければならないため、3月中はすべての契約が延期になっていた。しかし、4月4日から当事者がテレワークで契約書にサインすることができるようになった。政府は、外出禁止令は「5月11日から24日までの間に徐々に解禁」と発表しているので、その1ヶ月後、つまり6月24日までテレワークで契約することが可能だ。

コロナ禍が拍車をかけた「田舎の家探し」

リモートワークの普及もあり田舎の物件の需要が増している(写真はイメージ)リモートワークの普及もあり田舎の物件の需要が増している(写真はイメージ)

このように欧州各国同様、新型コロナウイルスにより不動産分野でも対応が迫られているフランス。さまざまな不安材料があるものの、不動産価格は今後も手堅く推移していくとの見方が少なくない。これまで、フランスでは不動産価格が下降することはあまりなく、不動産の購入は確かな投資と考えられてきた。不動産価格の査定専門会社によると、2003年、アジアでSARS感染者が急増した際、フランスでは不動産売買は70%減少したが価格は1.3%下降しただけだったことを例に挙げ「価格は下がるが急下降はしない。パリで5%から10%に過ぎないだろう」と話している。

外出禁止令以降、フランスでは「田舎に家を購入したい」という人が増加している。田舎のお城や歴史ある大邸宅といった、通常なら「売りにくい物件」を専門に扱っている不動産会社「パトリス・べス」によると、「田舎の物件を探す電話が外出禁止令発令以前の2倍以上になっている」とのこと。

不動産購入サイト「Bien’ici(https://www.bienici.com/)」でも、地方の家探しがコロナ禍前に比べ5%増え、反対にパリでは20%減少している。背景には、2018年末から反政府運動の高まりで、交通ストなどが長期化、都市での生活が難しくなったことや、年々夏の暑さがひどくなっていることもあるが、今回のコロナ禍で管理職の50%がリモートワークになるなど、ライフスタイルの急激な変化も大きな要因と見られている。

2020年 05月10日 11時00分