外国人からも支持され、高稼働率のカプセルホテル

東京の下町、人形町。人形町駅から徒歩2分の地下2階、地上5階の建物を1棟借り上げて運営している「hotel zen tokyo」は2019年にオープンしたカプセルホテルだ。
「hotel zen tokyo」は、各部屋を茶室に見立てた、今までにない新しいタイプのカプセルホテルというユニークな宿である。カプセルホテルという狭い宿泊空間でありながら、外国人観光客からも支持を受け、9割近い高い稼働率を誇っているという(2020年1月末現在)。

この宿を手掛けたのは株式会社SENの代表であり、自ら設計も手掛けた建築家の各務太郎氏。各務氏によると各居室は千利休が16世紀後半に生み出した茶室の傑作「妙喜庵(待庵)」を21世紀型に再解釈し、丁寧につくりあげた和モダンなカプセル空間だという。

約1,000m2ある空間に、全部で78人が泊まれる茶室のような空間が並び、にじり口のような入口から個室にあがり、そこには床の間スペースまである。天井の高さが2.2mと高く、立つことができるのが、従来のカプセルホテルとは違うところだろう。

茶室をイメージした各個室スペースに、にじり口から入る。暖簾でプライバシーを確保茶室をイメージした各個室スペースに、にじり口から入る。暖簾でプライバシーを確保

高価なラグジュアリーなホテル、ビジネス系のシンプルな宿。
日本的でリーズナブルな宿が少ない都内の事情

同ホテルの代表である各務氏によると、このカプセルホテルを着想したきっかけは、都内のホテル事情に対して課題を感じていたからだという。

東京の宿は、高価でラグジュアリーなホテル、ビジネス系のシンプルな宿、あとはドミトリータイプの安宿と大別できる。今まで宿泊費用に値ごろ感のあったビジネスホテルは、最近の需要で料金があがってきて、1泊1万円以上するのも珍しくない。一方、安宿タイプは、1泊3,000円以下のものが多く、クオリティーについて料金相応だ。そこで、利便性の高い立地で、5,000円から1万円でクオリティーにこだわった宿を、と考えたそうだ。

政策金融公庫の調査によると、外国人旅行者の7割が日本の伝統的な宿に泊まってみたいというニーズがあり、一方、実際にそのような宿に泊まれるのはわずか1割とのことだ。実際に需給ギャップが生じている。その理由は、和室などの日本の伝統的な宿である都内の旅館は料金が高く、地方の温泉地に行かないと手軽に泊まることができない。

都内であっても、サービス面や広さを工夫し、伝統的なデザインを入れれば、値ごろ感のある宿が実現できるのではないかと各務氏。
実は彼は、タイニーハウスやゴールデン街の建築や茶室についての研究もする建築家だ。つまり狭い空間であっても、創意工夫で豊かになることを知見としてもっている。海外では、広いことが豊かであるという考え方が一般的だが、それとは真反対の狭さの美学が、日本的であるという。そこでそんな宿を実現するため事業化にむけて知人3人で走り始めることになった。

左:部屋タイプはいくつかのカテゴリーがあり、こちらのsakura3タイプは、やや広めだ/右:こちらのsakura4は、一般的なカテゴリーで、くつろぎたいだけの人にフィット
左:部屋タイプはいくつかのカテゴリーがあり、こちらのsakura3タイプは、やや広めだ/右:こちらのsakura4は、一般的なカテゴリーで、くつろぎたいだけの人にフィット

旅行者と地域にとっての宿から考える人形町のポテンシャル

左:江戸時代から賑わいが続く人形町を今に伝えるからくり時計/右:庶民的な街である人形町では、立ち食いそばであってもレベルが高く、グルメサイトで評価が高い
左:江戸時代から賑わいが続く人形町を今に伝えるからくり時計/右:庶民的な街である人形町では、立ち食いそばであってもレベルが高く、グルメサイトで評価が高い

設計デザインは各務氏が担当し、他に海外在住歴が長いマーケティング担当と事業開発担当の計3人で、2018年1月に事業を始める会社を設立した。

コンセプトを固めていく中で、カプセルホテル業態においてはターゲットを20~30代の一人旅、または友人同士の旅と絞っていった。この世代は、情報は検索して自分で行動ができる。ポーターやコンシェルジュサービスを必要としないし、日中は出かけているので部屋で何かするということもない。どちらかと言えば、就寝前に一人でくつろげる空間を重要視しているという。狭くても豊かな空間を表現できる日本の茶室タイプは、彼らのニーズにフィットしていて、満足度が高いと考えた。

2018年の春から場所探しが始まり、同年夏に人形町駅から徒歩2分に現在の物件を決め、翌年の2019年2月に完成、翌3月に開業に至っている。
もともと東京の西側に比べると家賃が安い東側に物件探しを絞っていた。その中で人形町に決めた理由は、成田空港や羽田空港、さらに東京駅へのアクセスが便利なことがあげられる。なかでも人形町は「街のエネルギーを感じた」という各務氏。昔ながらの庶民的でローカルな店からチェーン店まで飲食店も多く、バラエティーに富んでいて、まちに活気がある。人形町ならば、宿と近隣の飲食店やショップに良い関係性ができると考えた。
近隣にたくさんのお店があることで、外国人旅行者にあまり知られてない街だが旅行者にアクセスがよく、喜んでもらえる。一方こちらの宿の稼働率が高ければ、結果として近隣の飲食店へ案内でき、需要が伸びて、地域にも貢献できる。

海外インフルエンサーからの口コミが宿の魅力を伝える

上:アメニティー関連にも手を抜かず、こだわったことでインルエンサーからも好印象/下:丁寧に染め上げられた館内着は、白と藍のグラデーションが美しい
上:アメニティー関連にも手を抜かず、こだわったことでインルエンサーからも好印象/下:丁寧に染め上げられた館内着は、白と藍のグラデーションが美しい

現在、旅行者からの予約は、自社サイトからのダイレクトとbooking.comやAgodaのようなホテル専門予約サイト経由になっている。

わずか1年にもかかわらず宿は高い稼働率となっているものの、これまであまりPR施策活動を特にはしていないそうだ。それよりもインフルエンサーとなる海外のブロガーやユーチューバーに取り上げられたことが、宿の価値を広く理解してもらえるきっかけになったそう。彼らのページに、宿の詳細が紹介されたことで、宿の魅力が伝わったのだ。

実際に泊まった感想や、部屋の設備が彼らのページで取り上げられている。例えばベッドはシモンズ、シーツは5つ星ホテルで利用する高級なもの、タオルやシャンプーなどのアメニティーもこだわっていることが口コミや感想に書かれている。また館内で羽織るホテルのオリジナル・ルームウェアがおしゃれで、彼らはそれを自撮りする。館内着は丁寧に染め上げられた白×藍のグラデーションで、着物にインスパイアされた美しいシルエットだという。

個室の他、共用スペースにもインフルエンサーたちはふれていて、仕事スペースとして使えるワークラウンジやランドリールーム、飲食が可能なカフェバーなども紹介してくれる。彼らの口コミが宿の魅力を伝えてくれているのだ。

hotel zen tokyoの稼働率は9割。都心ならではのビジネスモデルで次の展開も

都内に一昨年前からホテルが次々と増加しているなかで、hotel zen tokyoの稼働率は9割近くと順調に推移している。それは、冒頭で紹介した各務氏のマーケティングによるところが大きい。和のテイストを体験でき、かつ都心で気軽に泊まれる宿だ。hotel zen tokyoの1泊料金は、平均で5,000円をきるぐらい、シーズナリティや休前日、閑散期などのニーズの変動によって、3,000円から1万5,000円の幅となっている。
オープンしてからの宿泊者の内訳は、人数こそ日本人が一番多いものの、宿泊数では連泊の多い外国人が7割を占める。

外国人の実際のレビューでは「落ち着く空間」という言葉が目立つ。旅行中は旅の疲労も蓄積しているので、ほっとできる空間に好感を持たれるのだろう。

さて、hotel zen tokyoは、この状況に満足することなく、さらなる展開を進めている。この冬、デイユースプランを発表した。日中(11時~15時)の休憩のみの利用も可能になった。どのような反応になるか、いろいろ試行錯誤を続けていくそうだ。

一方、この茶室のような宿に興味を持ち、運用したいという声もあるという。もっとも、各務氏によればこのビジネスモデルは、やはり都心向きだという。土地が高い都心で単価を抑え、狭い空間が活きることで価値があるからだ。機会があればさらに都心で展開したい、と意欲をみせる。今後の宿の広がりが楽しみだ。

上:外観入口は、宿の顔とするべく、和のデザインで、人形町の雰囲気にフィット/下:地下1階のバーカウンターは、朝食利用の他、夜間はバー営業やシェアキッチンとして貸し出しも
上:外観入口は、宿の顔とするべく、和のデザインで、人形町の雰囲気にフィット/下:地下1階のバーカウンターは、朝食利用の他、夜間はバー営業やシェアキッチンとして貸し出しも

2020年 03月19日 11時05分