観光産業の成長に向けた課題の一つ「宿泊施設の不足」

政府は、2015年の訪日外国人旅行客数が1,974万人に達したことを受け、2020年の訪日外国人旅行客数を2倍にあたる4,000万人に増やす新しい目標を立てている。しかし、日本の観光産業を成長させる際の課題の一つが、宿泊施設の不足である。
観光庁が2016年2月29日に公表した「宿泊旅行統計調査」によると、2015年の外国人延べ宿泊者数は前年と比較して大幅に増加し、6,637万人泊(48.1%増)となっている。注目すべき点としては、地方部が59.9%増と三大都市圏の41.6%増を上回っており、特に静岡県、佐賀県、茨城県、三重県、滋賀県の5県においては、前年比で2倍以上になっている。

この事態に国土交通省は、同じ敷地面積でより多くの客室を確保できるよう、"容積率を最高限度の1.5倍以下、かつ指定容積率の300%を加えたものを上限とする"という規制緩和を各地方自治体に通達する方針である。この規制緩和により、三大都市圏だけでなく、地方都市にも大規模宿泊施設の建設が可能となることで、より多くの受け皿を増やしたい考えである。

訪日外国人旅行客数の増加による宿泊施設の高い稼働率は、宿泊料の高騰や宿泊予約の競争激化など、日本人にも影響を及ぼしている。

観光庁「宿泊旅行統計調査 (平成27年・年間値)」を元に作成観光庁「宿泊旅行統計調査 (平成27年・年間値)」を元に作成

稼働率の高さが際立つ東京、大阪、愛知などの三大都市圏

全国の宿泊施設の稼働率は軒並み上昇しており、全国の宿泊施設タイプ別全体の稼働率は、2015年に60.5%にのぼっている。このうち、シティホテル(79.9%)、ビジネスホテル(75.1%)は調査開始以来、過去最高の稼働率を記録している。
大阪の稼働率は2014年に80%を超えて東京を抜き、2015年には85.2%となり全国で最も高い稼働率となった。また、大阪に続き東京が82.3%、京都が71.4%、愛知が70.9%、千葉が70.7%と三大都市圏(東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、京都、兵庫)におけるホテルの客室数不足が顕著になっていることがわかる。特に大阪においては、リゾートホテルが91.4%、シティホテルが88.1%、ビジネスホテルが87.8%といずれも宿泊形態別において全国首位となっている。

しかし、ビジネスホテル、シティホテルが70%を超える高い稼働率となる中、旅館については全国でも37.8%と決して高くはない。最も高い東京の旅館の稼働率ですら61.5%に留まるなど、他タイプの宿泊施設と比較して、客室に余裕があることがわかる。

(上)2011年~2015年の東京都・大阪府・全国の客室稼働率の推移 (下)宿泊施設タイプ別客室稼働率(2015年)<BR />
観光庁「宿泊旅行統計調査」を元に作成(上)2011年~2015年の東京都・大阪府・全国の客室稼働率の推移 (下)宿泊施設タイプ別客室稼働率(2015年)
観光庁「宿泊旅行統計調査」を元に作成

日本の文化を体験できる旅館が減少する理由とは?

厚生労働省が発表した「平成26年度衛生行政報告」によると、2014年3月末の旅館施設数は、2013年度と比べて1,464軒減の4万1,899軒となり、減少に歯止めがかからない状況である。ピーク時だった1980年、8万3,000軒あった旅館は、30年が経過した現在、その数は半分になってしまったのだ。施設数と連動して、客室数も2014年3月末のホテル客室数が834,588室(前年比+7,377室)と増加しているが、旅館客数は735,271室(前年比▲25,252室)と、その差は2010年以降大きく広がっている。

こうした旅館が減少する背景の一つには、訪日外国人旅行客の国内の訪問先の偏りも考えられる。同報告から全国の旅館客数の分布を都道府県別に比較すると、三大都市圏(東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、京都、兵庫)の旅館客数は164,281室(23.1%)、それ以外の都道県が545,738室(76.9%)と、訪日外国人旅行客が集中する三大都市圏以外に分散していることがわかる。
しかしその一方で、破綻しかけた温泉旅館をその土地に合った宿泊施設として生まれ変わらせ、多くの訪日外国人旅行客で賑わう星野リゾートの存在などからも、旅館の稼働数はPR手法や見せ方によって二極化が進んでいると言えそうだ。

(上)宿泊業(ホテル・旅館)の施設数推移 (下)宿泊業(ホテル・旅館)の客室数推移<BR />
共に厚生労働省 衛生行政報告例より作成(上)宿泊業(ホテル・旅館)の施設数推移 (下)宿泊業(ホテル・旅館)の客室数推移
共に厚生労働省 衛生行政報告例より作成

"民泊"の全面解禁は、宿泊施設不足の対策になるのか

急増する外国人旅行客の宿泊施設の受け皿として普及しつつあるのが、自宅の一室や空きマンションに観光客を宿泊させる「民泊」である。現在、民泊仲介サイトの最大手のアメリカAirbnb(エアービーアンドビー)によると、2015年の日本のAirbnbの登録物件に宿泊したインバウンドゲストの人数は138万3,000人を超え、その経済効果は5,207億円に及ぶとしている。しかし、宿泊料を受けて人を宿泊させる場合、旅館業法の営業許可が必要な日本においては、その許可を得ていない「無許可営業」による事業者が増加し、騒音や治安などの近隣トラブルなどが懸念されている。
その一方で、規制緩和を求める声は強い。経済団体である新経済連盟は、2015年10月にまとめた提言書の中で、日本で民泊が解禁された場合の経済効果は約10兆円、年間で約120万戸の空き家解消となり、約2,500万人の外国人受け入れになると試算している。

政府は、羽田空港のある東京都大田区や大阪府で、旅館業法の特例として許可の基準が緩和される「国家戦略特区法」で民泊を認める条例を制定、2016年1月から施行を始めた。特区においては、民泊営業の制約として、「滞在期間が最低6泊7日以上」、「床面積25m2以上」「住居専用地域を除く」としていた。しかし、2016年6月20日に開催された「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」において観光庁と厚生労働省は、民泊提供者は届け出義務、年間の営業日数の丈典設定(180日以下)、住居専用地域での民泊設置可能の規制緩和など、民泊新法案や旅館業法改正案の年度内国会提出を目指す方向が示した。

事実上、「民泊の全面解禁」ともいえる今回の方針決定によって、日本の宿泊施設のあり方が大きく変わる可能性が出てきた。
周辺住民への十分な考慮や不特定多数のゲストを宿泊させる一定のリスクの検証など、できるだけ多くの人が納得できる法制度の整備が求められている。

統計情報 概要

実施:観光庁観光戦略課調査室
調査時期:四半期毎(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月)
調査対象施設:全国のホテル、旅館、簡易宿所、保養所など
調査方法:調査票の郵送・回収による調査
サンプル数:約20,000

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2016年 06月30日 11時07分