ヒュッゲな暮らしを実現しようとつくられたシェアハウス
最近よく耳にするようになった“ヒュッゲ(Hygge)”というワード。北欧ブームの流れで日本でも広く知られるようになったが、“ヒュッゲ”とは、デンマーク語で居心地の良い雰囲気という意味をもち、さらにはそのライフスタイルのことを指す。
そんな憧れのヒュッゲな暮らしを実現しようとつくられたシェアハウスが横浜にある。東急東横線菊名駅から徒歩10分ほどの場所にある「ヒュッゲ菊名」だ。アウトドアと旅行好きな夫婦が運営するこの物件は、ヒュッゲな暮らしとアウトドアがコンセプトとなっていて、2018年3月の完成以降満室で(取材時2019年8月時点)、空室予定が出るとすぐに問合せが入る状態なのだそう。
アウトドアブームが再燃しているなか、注目の「ヒュッゲ菊名」とはどんな住まいなのだろうか。
コンセプトに共感する人たちが集まって自然なコミュニケーションが生まれる
駅から坂をどんどん上っていった先にあるのが「ヒュッゲ菊名」。企業の社員寮として使われていた物件をリノベーションしたシェアハウスだ。オーナー夫妻に案内していただいた。
まず印象的だったのは柿の木と栗の木が木陰を作る広々とした庭。
「天気がいい日には庭にテントを張ってキャンプを楽しむことができます。ハンモックを下げて読書をしたり、入居者さん同士が集まってバーベキューをしたりと、みなさんアウトドアを楽しんでいるようです。屋外のコンセントやWi-Fi環境も整っているので、気分転換に外で仕事もできます」と、オーナー。
テントやハンモックなどアウトドア用品は庭に設置された倉庫に用意されていて、入居者は自由に使うことができる。さらに、庭の片隅にはシェアガーデンもあり、入居者がハーブや野菜を植えて収穫を楽しんでいるという。
「万人に受けるものより、自分たちが大切にしたいコンセプトを打ち出すことが大事だと思っています。うちの場合は、コンセプトに共感してくれた人がおのずと集まるから、共通の話題も多いですし、コミュニケーションがとれていい関係を築いていられるのだと思います」(奥さま)
実は「ヒュッゲ菊名」以外にもアパート経営をしているオーナー夫妻。アパートにも“ヒュッゲ”を冠してみたものの、
「入居してしまえば大家と入居者さんってほぼ接点がありませんよね。そこに物足りなさを感じていました。もともと、人とのコミュニケーションに興味がありましたし、入居者さんたちともっと関わっていきたいなと思って始めたのがこのシェアハウスなんです」(奥さま)
北欧、ヨーロッパのアイテムが揃う共用部
ルイスポールセンの照明がアクセントになっているキッチン(写真上)。バルミューダのオーブンレンジ(写真下)も完備。余計なものはもたず、好きなものや必要なものにはお金を惜しまないデンマークの暮らしがお手本に。自分の好きな紅茶をいれてみる、お気に入りのアート作品や花を飾る、そういったこともヒュッゲな暮らしのひとつ(筆者撮影)
男性専用のA棟と女性専用のB棟からなる「ヒュッゲ菊名」。9~12m2の部屋がそれぞれの棟に4部屋あり男女8人が暮らしている。
各棟の共用部となるキッチンには、バルミューダのオーブンレンジや電気ケトル、ストウヴのココットやフードプロセッサーなど、「こんなのあったらいいな~」というアイテムが揃っている。照明は70年代のヴィンテージもののルイスポールセン、ダイニングテーブルとイスもデンマーク製のものが置かれていて、インテリアにもこだわりがみえる。
「北欧は日照時間が短いから、家で過ごす時間が必然的に長い。だから、家のなかでの生活を重視する文化が根付いているんですよね。私たちもそんな生活に憧れて、好きなものに囲まれて暮らしたいという想いを形にました」(奥さま)
オーナー夫妻は別の場所に住んでいるが、新しい入居者が決まった際には、夫妻の主催でウェルカムパーティを開いて、ほかの入居者たちに紹介する機会を設けているそう。
「オーナーと入居者という立場ではなく、常に同じ目線でいたいと思っています。ですから、ちょっとしたパーティなどを企画して、シェアハウスでの暮らしを一緒に楽しんでいます」(オーナー)
入居者と同じ目線でつくられたヒュッゲな空間が魅力
結婚前からバックパッカーとして世界を旅していたというオーナー夫妻。海外でシェアハウスに泊まることも多かったという。
「ネパール、アイスランド、アルゼンチン、ニュージーランドなど、いろいろな場所に行きました。外国の人と話すことで自分の世界が広がったと感じることが多かったです。それは日本人同士でも同じ。職場の仲間や友達とはまた違った形のコミュニケーションが生まれるところが、シェアハウスの魅力のひとつではないでしょうか。
2011年の震災以降は特に、人とのリアルなコミュニケーションを大切にする人が増え、入居者同士がつながれるシェアハウスという選択をする人も増えてきています。一緒に暮らすうえでの大変さというのはあるかもしれませんが、それを上回るつながりというものが生まれると思っています」(オーナー)
オーナー夫妻が暮らしたいと思うシェアハウスを体現した「ヒュッゲ菊名」。入居者と同じ目線でつくられたシェアハウスは、まさに温かで心地よいヒュッゲな空間をつくりだしていた。
心豊かな生活のお手本として住まいや暮らしを見つめなおしてみては
国連の関連団体が毎年発表する「世界幸福度ランキング」(※)。2019年の調査によると、ヒュッゲな暮らしを大切にするデンマークは、フィンランドに次いで2位(2017年までは長年トップ)。トップ10のうち北欧諸国が半数を占めるという結果となっている。
ちなみに日本は156カ国のうち58位。3年連続で順位を下げるという結果に。
北欧ブームを単なるブームと捉えず、心豊かな生活のお手本として住まいや暮らしを見つめなおしてみるのもいいかもしれない。
人との距離感、暮らしにおいて何を重要視するのかをしっかり見極め、自分らしいヒュッゲな暮らしを見つけてみたいものだ。
※国連の関連団体が毎年発表している幸福度のランキング。2019年3月発表のもの
【取材協力・写真提供】
ヒュッゲ菊名
https://tokyohyggehouse.com/
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