町営住宅のイメージを覆す、国道沿いに建つ真っ白な平屋
愛知県知多郡美浜町は中部国際空港セントレアを擁する知多半島の南にある、人口2万2000人(※)ほどの町。東に三河湾、西に伊勢湾に囲まれた自然豊かな丘陵地だ。
町の中心を走る国道を車で走っていくと、シャープな屋根が目を引く平屋群が見えてくる。
ここは美浜町が運営する河和団地の一角。既存の建物を取り壊し、新しい子育てゾーンの創出として2017年4月に建設された「河和第二団地」だ。
「通りかかった方も外観が気になるようで『この場所は何?』『ここに住みたいんだけど』というお問合せが今でもたまにあります」
と話してくれたのは、美浜町役場産業建設部都市整備課で住宅支援係の主事を務める間瀬美里さん。
一般的に抱く公営団地のイメージとは一線を画すデザイン性や新しい団地のあり方が評価され、2018年度グッドデザイン賞を受賞している「河和第二団地」。その成り立ちについて取材させていただいた。
※平成31年(2019年)2月時点
美浜町重点プロジェクトのひとつとして建て替えがスタート
真っ白な外観、大きな窓、シャープな片流れの屋根。一見するとペンションにも見える平屋が10戸並んだエリアは、道行く人の目を引く。
完成から2年が経ち、周囲の住宅ともだいぶなじんでいるように見えるが完成当初はこの真っ白な外観はさぞインパクトが大きかっただろうと想像する。
もともとここに建っていたのは昭和44~46年(1969~1971)年に建築されたPC造(プレキャストコンクリート造)2階建ての積層団地。耐用年数の経過を踏まえ、町営住宅プロジェクトとして2011年から建て替え案が検討されてきたのだという。
建て替えに関しては「温かみが感じられ、自然環境に恵まれた美浜らしい住まいを提案し、若者の定住を促進したいという思いがありました」と間瀬さん。
〇平屋であること 〇若者が入居したくなるデザインであること 〇美浜町在住の建築職人が活躍できる建物であることを条件にプロポーザル方式で案を募集したそう。
完成は2017年。内覧会を実施した際には町内外から延べ100人が来場したという。すぐに入居者は決まり、現在もすべて入居済みだ。
戸数を減らし、縁側、芝生庭でコミュニケーションを創出
【写真上】家の周囲をL字に囲む縁側は、「建物、人、それぞれの境界をゆるやかにつなぐ役割を担っているのだと思います」と間瀬さん。芝生の共有庭は小さな公園のような役割となり、ご近所どうしの交流もここから生まれているのだという。【写真下】杉で統一された明るい雰囲気の室内
団地にしては珍しい平屋。平屋は小さな子どもをもつ世帯、高齢者、障がい者の安全に配慮した造りでもあると同時に、積層団地では生まれにくかったコミュニケーションが実現する造りでもある。
「戸数を減らして平屋にしたことで子育てしやすい環境が生まれています。敷地内には芝生が敷かれていて団地内のお子さんが自由に行き来して遊んでいるようです。一番特徴的なのは縁側ですね」と間瀬さん。
10戸すべてに設けられたL字型の縁側。
団地デザインのプロポーザルにおいても、縁側が決め手のひとつとなったようだ。
「縁側があることで隣家の人とのコミュニケーションも取りやすくなりますよね。敷地の中と外をうまくつなぐ役割として機能しているのだと思います」(間瀬さん)
室内は広々とした1LDK(床面積49.7m2)。床、壁、天井に杉板が使用された明るい室内が印象的だ。4方向に窓を設置、玄関から掃き出し窓、寝室からダイニングキッチンへ風が抜けるように設計されている。玄関、寝室、ダイニングキッチンには大きな高窓が作られているのも特徴的だ。もちろん隣り合う住戸同士の窓は重ならないように配置設計されているからプライバシーも守られている。
「若者世帯に人気のあるデザインにこだわって建てられた団地です。戸建て感覚で住みながら美浜町の良さを実感していただいて、子どもが大きくなって手狭になったら町内で家を建てたりして定住してもらえたらいいなぁと思っています」(間瀬さん)。
雑誌感覚のフリーペーパーを制作。移住促進につなげたい
全10戸のうち9世帯が子育て世帯。なかには町外からの移住者もいるそうだ。
そこで町の移住促進についても聞いてみた。
シティプロモーション等を担当する美浜町総務部企画課の主幹兼企画政策係長・近藤淳広さんによると
「町の人口は2万2000人。減ってはいるものの日本福祉大学があるおかげで若者が多い町なんです。しかし、大学ですので卒業と同時に学生さんは地元に帰ったり都会へ就職するなど、町にとどまってくれる人が少ないのが現状ですね。でも、なかには4年の大学生活の中で美浜のいいところを知って、そのまま町に住み続けてくれる学生さんもいます。
そうした若者の定住を増やす取り組みとして、大学の学生さんも交えて町の魅力を伝えるフリーペーパーを作り始めたのが4年前です」
美浜町は愛知県の町村地区として唯一大学を有する町。
「みはまデイズ」と名付けられたフリーペーパーは、日本福祉大学グループで運営する株式会社エヌ・エフ・ユーに制作を依頼。素朴な町の魅力を写真で伝えつつ、先輩移住者へのインタビューや町内での仕事、家賃など、移住する際に必要な内容を具体的に記事にしている。
「一般的な広報紙とは違って学生さんの若い感性も交えてお洒落な雑誌のように仕上げてくれています。記事を読んでもらうとわかりますが、観光スポットの羅列ではなくそこに住んでいる人の魅力に焦点を当てた人間味のある読み物になっています。
HP内にある町のプロモーション動画ではドローンを使って撮影をしていて、私たちでも知らなかった町の魅力がつまっていて驚いてしまうくらいです」(近藤さん)
未婚率が県下トップクラス!? 婚活事業で人口減対策
今回お話を伺った美浜町役場の近藤さん(左)、間瀬さん(右)。間瀬さんは名古屋から美浜町に移り住んだ移住者のひとり。「山と海があって食べ物が美味しいです。便利さはないかもしれないけれど、時間の流れがゆっくりで、職場をはじめ町の人たちと顔の見える付き合いができるのが私には合っているなぁと感じています」と美浜町の魅力を語ってくれた
ほかにも行政としては珍しく独身者の婚活支援を行っている。
「実は美浜町は、のんびりした風土だからなのか未婚率が高いんです。平成22年(2010年)の国勢調査では愛知県内男性未婚率3位、また女性については1位との結果が出ています。地域活性化と人口減少を考えると何か手を打たなければという思いがあって、平成25年(2013年)4月に『みはま婚活推進室』を設置しました」。
推進室が中心となり、美浜の特産物を介した出会いの場を創るイベントや婚活セミナーの開催、縁むすびコーディネーターの紹介など、独身者婚活支援事業を行っている。そのかいあってか平成27(2015)年には愛知県内男性未婚率8位、女性2位と少し明るい兆しが。
「未婚率が高いということは出生率も当然低くなります。人口減少に向けてどのような対策ができるのか、特効薬はないですが地道に探っていきたい」と近藤さんは言う。
さらに公営団地に関しても
「人口がどんどん増加していた昭和の時代は、できるだけたくさんの人が住めるようにと、高層団地が造られてきました。でもこれからは減っていく人口に適応した団地の在り方を行政として考えていかなくてはいけないのだと思います」
と話してくれた。
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子育て世帯を呼び込むことに成功した「河和第二団地」は、人口が減ったからこそできる新しい団地のモデルケースだと感じた。昭和40年代の第二次ベビーブームの頃に建てられた団地は老朽化を迎え、次々と建て替えを迫られていくことだろう。若者層の心を捉えるその町にしかできないデザインの公営団地が増えていったら面白いと期待している。
【取材協力・写真提供】
美浜町
http://www.town.aichi-mihama.lg.jp/
「みはまデイズ」
https://mihamadays.com/
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