様々な影響を及ぼしつつある所有者不明の土地

土地の所有者がわからないために土地の売買や利活用が進められないなど、「所有者不明の土地」が引き起こす問題が全国で増えている。
"所有者がわからない"という表現には、所有者は判明しているものの居所や生存が確認できず、ただちに連絡がとれない場合も含まれる。
顕著に表面化したのは、東日本大震災の復興事業だ。被災者の集団移転に伴う高台の用地を取得する際に、移転先に所有者不明の土地が含まれていたことで、計画の変更や遅延を余儀なくされるケースが現れたのだ。

土地の所有者がわからないことで起こる問題は被災地だけではない。北海道では、石炭産業施設など日本の近代化に貢献した「明治北海道の産業革命遺産」の保全をする上で、全27ある遺産のうち4つが所有者不明のために維持修繕できない状態だという。また、ある地域では、土砂崩れが起こる可能性の高い土地の補強や堤防を設置しようとする際に、その土地の相続登記がされていないために工事が進められないケースが出てくるなど、人命にも関わる様々な場面で影響が出ている。
国土交通省が平成27年3月に公表した報告書によると、全国4市町村から100地点をサンプリングして登記簿を調査した結果、最後に所有者に関する登記がされた年が「50年以上前」のものが全国の19.8%を占めていた。同省によると、「所有者の所在の把握が難しい土地は、私有地の約2割(※筆単位)が該当すると考えられ、相続登記等が行われないと今後も増加する見込み」としている。(※筆:登記簿上の土地の個数を表す単位のこと)

これらの問題が、震災復興や空き家対策など緊急性の高い課題解決の妨げになっていることを受け、国土交通省は、現行の法制度の範囲内でできる対策を示した「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」を策定。政府と司法書士会、関係団体が協力した検討会を立ち上げた。
2017年3月8日に開催された「地域に広がる所有者不明土地問題を考える」シンポジウムから、所有者不明の土地問題の現状や解決に向けた様々な取組みなど、新たな土地制度のあり方について考えてみたい。

国土交通省のサンプル調査によると、50年以上所有権の登記がされていない土地は、全国の20%近くに上っている</BR>
参照:国土交通省「最後に所有権に関する登記がされた原因年別の登記簿の割合」を元に編集部で作成国土交通省のサンプル調査によると、50年以上所有権の登記がされていない土地は、全国の20%近くに上っている
参照:国土交通省「最後に所有権に関する登記がされた原因年別の登記簿の割合」を元に編集部で作成

所有者がわからなくなる背景とは?

そもそも土地の所有者情報は、不動産登記制度によって管理されているにも関わらず、なぜ所有者不明の土地ができてしまうのか?その主な要因の一つが「相続未登記」だ。
土地の所有者が死亡した場合、一般的には新たに所有者となった相続人が相続登記を行ない登記簿の名義を変更する。しかし、この相続登記は義務ではなく相続人本人の判断に委ねられているのだ。倒壊の危険や防犯上のリスクなど、公益上の損害が表面化しやすい空き家問題とは異なり、その土地を利用しようとする段階で初めて不都合が表面化するため、死亡者の名義のまま登記簿の情報が長期間放置されることも多い。その間にも法定相続人は、子、孫と広がっていくごとにねずみ算式に増加し、登記簿情報との乖離が進んでいくことになる。こうした背景から、そもそも自分が相続人だと自覚していないケースも少なくないという。

相続登記が進まない理由の一つには、土地の資産価値の変化がある。
国土交通省が2017年3月21日に発表した公示地価では、東京圏、大阪圏、名古屋圏の3大都市圏において、住宅地平均が前年比+0.5%、商業地平均が+3.3%と4年連続で上昇しているものの、駅から離れた郊外に地価が落ち込む地点が存在するなど、二極化が進んでいることが示された。今後も続く人口減少によって、その差は更に大きくなっていくと考えられる。土地を所有することは、固定資産税などの継続的なコストが発生するということだ。過疎地などの市場価値の低い土地を相続した場合、土地の所有が「資産」ではなく、負担になってしまう状況も考えられるのだ。

空き家特別対策法の施行からわかるように、空き家は景観や防犯、倒壊などの観点から問題視されやすいが、<BR />空き地の場合は相続登記を行わなくても直ちに問題になることが空き家と比べて少ない空き家特別対策法の施行からわかるように、空き家は景観や防犯、倒壊などの観点から問題視されやすいが、
空き地の場合は相続登記を行わなくても直ちに問題になることが空き家と比べて少ない

被災地である岩手県大槌町では、地権者が800人超の事例も

現在、大槌町司法書士相談センターで復興事業に携わっている岩手県司法書士会所属 司法書士 石川陽一氏現在、大槌町司法書士相談センターで復興事業に携わっている岩手県司法書士会所属 司法書士 石川陽一氏

パネルディスカッションでは、法務省や国土交通省をはじめとする各省庁に加えて、地方自治体職員など関係部局の担当者が登壇した。
そのうち、東日本大震災の被災地の一つでもある岩手県大槌町で、相続登記手続きの支援をしている司法書士 石川陽一氏から、被災地における所有者不明の土地問題の現状が語られた。

「津波によって町の約7割の建物が被災した大槌町では、復興事業の一環として公共用地の買取りが進められています。買取り状況は90%近くに達しているものの、残りのうち数%は所有者不明の土地で手の施しようがない状態です。明治から昭和初期にかけて登記したまま登記簿を変更していない土地もあり、相続人が20~30人、行方不明者も複数という案件も少なくありません。中でも、一筆の土地が46人の共有名義になっていたことがありました。調査の結果、大正時代から登記変更されていなく、書類をたどると800人もの地権者が存在していたんです。」

こうした土地所有者の調査は、自治体の担当職員にとって気の遠くなるような作業である。まずは、所有者の親族を中心に相続人を洗い出し、文書などを通じて連絡。さらに相続人が複数いる場合には、合意形成も必要になる。当然、複数の相続人が同じ行政区内に住んでいるとは限らず、例え海外にいる場合も例外なく同様の手続きをとらなくてはならないのだ。

今後の進め方について石川氏は、
「自治体の職員はこうした作業が毎日続きます。どうすれば相続人と接触できるのか、どうしたら印鑑がもらえるのか…。あまりに複雑であるため、一人で抱え込まずチームで解決する体制づくりが大切なのだと思います」と語る。

解決が進みにくい背景には、当事者、関係者の認識不足も?

新潟県長岡市の「市役所なんでも窓口」。葬儀後の手続き一覧の用意やワンフロアに手続きが必要な課を多く設置することで、森林法に基づく届出件数が、一覧表掲載前の平均件数の1.37倍に増加したという新潟県長岡市の「市役所なんでも窓口」。葬儀後の手続き一覧の用意やワンフロアに手続きが必要な課を多く設置することで、森林法に基づく届出件数が、一覧表掲載前の平均件数の1.37倍に増加したという

相続人の調査、接触するために係る"時間とコスト"も見逃せない問題だ。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主任研究員 阿部 剛志氏は、過去の20案件のリサーチから、土地の所有者がわからない場合の調査コストを算出したという。
「登記簿で所有者が判明せず、戸籍などを遡って調査する場合、見えないコストとして1人調査あたり約1万4,000円から2万6,000円がかかっていることがわかりました。この内訳の約9割は人件費で占められており、こうしたコストを、行政や森林組合が負担していることを共通認識としてもっていただきたい。」と語る。
所有者不明の土地が増えることは、固定資産税の徴収額の減収にも直結する。ある自治体では、相続人が特定できずに死亡している人に対して、形式上課税をする"死亡者課税"も起こっているという。
すでに死亡している所有者の調査には、さらに根深い問題がある。過去に遡って所有者を調査する際、故人を辿っていく場合に必要な"住民票の除票の写し"や"戸籍の附票の除票"等の保存期間が、法令上、消除した日から「5年間」となっている。そのため、当該期間を経過している場合、これらの除票の写しの交付ができず、先代に遡ることができない事態が発生するのだ。

こうした状況に対して阿部氏は、問題の解決が進みにくい理由には、自治体をはじめとする関係者の"問題の認識不足"もあると語る。
「空家問題の所有者の調査の際に何が一番困ったか?というアンケートの回答として、『所有者の特定が困難』という回答が最も多いのは予想がつきましたが、次いで多かったのが『関係者の問題に対する認識不足』という回答でした。つまり、問題を解決しようとも、関係者同士であっても話がなかなか伝わらず、協力が得られにくい…というのが担当者の苦労として明確に現れた結果でした。担当者にとっては深刻な問題にも関わらず、周りの人はよくわからないので対応しないという状況が見えてきます。連携するための一体感をどのように構築するかということが、問題解決に向けての大きな論点の一つになると思います。」

問題解決に必要な法整備の見直しと国民の意識

相続人にとってすぐに不都合が表面化しにくく、気づいたときには対応が困難になっているケースが多い特徴をもつ「所有者不明の土地問題」。今回策定されたガイドラインには、こうした土地を今以上に増加させないための取組みとして、主に以下のポイントをあげている。

 □相続登記と所有者届出の促進
 □情報の共有

相続登記を促す対策としては、死亡届提出の手続きと併せて、土地の相続に係る手続きを案内する方法が取られはじめている。死亡に伴う保険や年金などの関連手続で担当窓口を訪れたタイミングで、土地の相続に係る手続きの一覧などを案内することで、漏れなく実施につなげたいとしている。
具体的な事例として、新潟県長岡市では、平成24年4月の新庁舎開設時に「市役所なんでも窓口」を新設。死亡届出後に行う年金受給停止の手続きや介護保険の喪失届けといった諸手続きを行うほか、ワンフロアに一連の手続きに必要な課を集めることで、住民の手続きの負担の軽減や手続き漏れの減少につなげているという。
また、調査の負担軽減につながるものとして、関係各所の所有者情報の共有も挙げられている。
前述した住民票の除票等の保存期間を超える保存と、その写し等の交付をすることで所有者情報の探索の負担軽減が期待されている。
即効性のある解決は難しいとはいえ、今後いかに新たな「所有者不明の土地」を生み出さないか、という未然の防止策には、行政や関係部署の所有者情報の共有など、これまでの縦の分担ではなく、組織横断的な協力が必要不可欠であるといえる。

検討会の委員長を務める早稲田大学大学院法務研究科教授 山野目章夫氏は、
「不動産登記制度は、所有者不明の土地問題の原因の一つと批判があるが、アジア諸国においてここまで精緻な不動産登記制度をもった国はない。諸先輩方が明治初年に作り上げ、今日まで保たれている制度は、人々の信頼が受け継がれてきたという国の宝でもあると思います。これを我々の代で損なうことなく、次の世代まで引き継がねばならないのです。」と語る。

不利益が見えにくく、身近に感じる機会が少ない所有者不明の土地問題も、国民一人ひとりの意識と密接に係る問題である。土地の所有者を全て明らかすることが難しい状況の中、今以上に放置される土地を生み出さないためには、これまでの制度を踏襲しつつも、人口が減少していく時代に即した土地制度の見直しが必要なのではないだろうか。

モデレーターを務める山野目章夫氏を中心に、国土交通省、法務省をはじめとする関係省庁や、土地の所有者不明問題に直面している地方自治体が集まり、それぞれの現状と今後の対策、制度に対する意見などを中心に意見交換されたモデレーターを務める山野目章夫氏を中心に、国土交通省、法務省をはじめとする関係省庁や、土地の所有者不明問題に直面している地方自治体が集まり、それぞれの現状と今後の対策、制度に対する意見などを中心に意見交換された

2017年 05月11日 11時05分